- 中小企業の課題解決に役立つ枠組み思考とは
- 稼ぐ仕組み作りに役立つ枠組み思考
- 組織力強化を促進させる枠組み思考
1.中小企業の課題解決に役立つ枠組み思考とは
中小企業が抱えている事業に関する課題
ここ数年、政府の景気刺激策が大胆に打たれていますが、景気が好転している実感を持つことができない状況が続いています。
政府は2%のインフレターゲットを定めているものの、新聞、雑誌から見られる傾向としても、消費マインドはなかなか向上しないのが実態です。
外食産業における低価格メニューの価格競争、通信業界においても格安スマホの大競争が見られるなど、市場の低価格志向、デフレ傾向に歯止めが効かない状況です。
中小企業においても、大手企業との取引では受注単価の引き下げ要請が強まっていたり、顧客との契約金額、販売価格の低下傾向が続いています。
中小企業が抱えている人材・組織に関する課題
人材・組織に関する悩みも根深いものがあります。
バブル崩壊、リーマンショック後の採用抑制の反動で、ここ数年採用競争が激しくなっており、人材の確保が難しくなっています。
また、人口減少という経営環境下で、過去の成功体験の延長線上で事業を拡大してくことが難しいという状況もあります。
このような経営環境下では、経営者一人の知恵だけで縮小してく既存事業の反転攻勢をかけるには限界があり、幹部や現場社員が一体となった事業創出が必要です。
しかしながら、そのような人材育成が進んでおらず、企業家精神やイノベーション意欲を持った社員が少ないという悩みが多く聞かれます。
中小企業の経営者が抱えている典型的な悩みを整理すると以下のようにまとめられます。
これらの問題を解決するために有効なものとして、枠組み思考を活用するという方法があります。
ビジネスで枠組み思考を活用すると、事業開発や組織開発を合理的に行うことが可能になります。
中小企業が抱えている課題は多岐に渡りますが、本レポートでは、より活用する場面の多い、稼ぐ仕組みづくり(戦略立案)、および組織力強化の2つのテーマに絞って、それぞれの場面で活用できる枠組み思考を紹介します。
枠組み思考とは
枠組み思考とは、ものごとを考える基礎理論のことです。
例えると、スポーツの「フォーム」、囲碁や将棋の「定石」のようなものです。
枠組み思考は、経営学者やコンサルタントなどが思考ツールとして開発してきたもので、古典的なものから近年に開発されたものまで数多く存在します。
枠組み思考ごとに手法やフォーマットが異なるため、解決したい課題に応じて、どの枠組み思考を使用するのかが重要となります。
今回紹介する2つのテーマ別の枠組み思考において整理すると、下表の通りとなります。
それぞれの枠組み思考の作成ポイントや活用法については、次章以降で解説します。
稼ぐ仕組み作りに役立つ枠組み思考
中小企業が抱える事業面の経営課題を克服していくためには、既存事業の強みを活かして、市場を開拓したり、商品開発をしたりという工夫が必要になってきます。
「どうせウチは中小企業で取り柄がないから。」という声も多く聞きますが、意外と自社の取り柄を理解していない中小企業があります。
下記の事例は典型的な中小企業の成功事例です。
このように、中小企業であっても自社の強みを活かして事業開発を行っていくことが可能です。
稼ぐ仕組み(経営戦略)を立案する場面では、まずは、自社が置かれている状況を的確に把握し、経営課題を整理することが必要となります。
経営課題を把握すると、自社が取るべき戦略を立案することが可能となります。
その際に役立つ枠組み思考として、代表的な3つの枠組み思考を紹介します。
3C分析
3Cとは、市場・顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)のことで、ビジネスの利害関係者をこの3つに分けて分析し、戦略を立案します。
市場・顧客分析では、自社のサービスや商品を提供する市場・顧客を把握します。
競合分析では、競合企業を調査し、市場や顧客を競合企業からどのように奪い、守るのかを検討します。
自社分析では、自社の経営資源や企業活動について把握します。
SWOT分析
SWOT分析は、外部環境(機会・脅威)と内部環境(強み・弱み)を組み合わせて限られた経営資源を最適活用するための戦略を策定する枠組み思考です。
SWOTとは、強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) の4つの頭文字のことです。
外部環境は、マクロ環境とミクロ環境に分けられ、マクロ環境は間接的に、ミクロ環境は直接自社に影響を及ぼす要因で、自社の状況をもとに機会と脅威に分けて分析します。
内部環境は、社内の経営資源ごとに強みと弱みに分けて分析します。
4つのカテゴリーで分析された内容について、製造業を例に挙げると、次の表のようになります。
次に、4つのカテゴリーで上げられた内容を掛け合わせて自社が取るべき方策を検討します。
この手法は、外部環境(機会・脅威)と内部環境(機会・脅威)を掛け合わせて行うことからクロスSWOTと呼ばれています。
機会・脅威・機会・脅威の掛け合わせによって、次の4つの方策が導かれます。
前項のSWOT分析(製造業の例)をもとにクロスSWOTを行うと、下表のようになります。
積極攻勢、弱点強化、差別化、防衛/撤退の4つのカテゴリーで上げられた方策案から、自社の戦略に基づいて実施すべき方策を選定し、計画を策定します。
VRIO分析
VRIO分析の目的は、経営資源を分析して自社の競争優位性を把握するために実施します。
VRIOとは、経済価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Imitability)、組織(Organization)の4つの頭文字のことです。
この4つを区分ごとに分析することで、自社の経営資源が持っている競争優位性が明確になります。
組織(Organization)については、自社の経営資源を有効に活用できる組織体制になっているのかを分析します。
経営資源に価値があり、希少性があり、模倣困難であっても、それを上手く活用できる組織になっていなければ、永続的な競争優位性を発揮することが出来ないということです。
実際にVRIO分析を行う場合は、競争優位性を把握したい経営資源を上げて、4つの区分でチェックして評価します。
組織力強化を促進させる枠組み思考
中小企業のもう一つの課題として、人材育成、組織活性化、すなわち組織力の強化が挙げられます。
「社員が成長しない。組織が沈滞ムードである。改善提案がない。」というのは、多くの中小企業で見られる傾向です。
しかし、嘆いていても状況は変わりません。
下記の企業は典型的な中小企業ですが、いくつもの取り組みを通して人材育成、組織活性化に成功した事例です。
このように、自社の競争力を高めていくためには、社員一人ひとりの能力開発と組織の活性化、すなわち組織力強化が最も重要な取り組みであるといえます。
ここでは、組織力強化につながる3つの枠組み思考を紹介します。
SL理論
SL理論は、部下の成熟度に応じた適切なリーダーシップを発揮するために用いられる理論です。
SLというのは、Situational Leadership(リーダーシップ条件適応)の略です。
部下の成熟度を把握してSL理論を活用することで、効果的な人材育成を実践することができます。
SL理論では、部下の成熟度を指示的行動(仕事志向)と共働的行動(人間志向)の2つの軸で、4象限(教示型・説得型・参加型・委任型)に分類します。
部下の成熟度の判定は、指示的行動を「ティーチングの必要度」、共働的行動を「コーチングの必要度」に置き換えると分かりやすくなります。
部下ひとり一人の成熟度を右記の表を活用して判定し、部下それぞれに対するリーダーシップのスタイルを決めることができます。
ジョハリの窓
ジョハリの窓は、相互理解を深める場面で役立ちます。
自分が理解している自分と他人 が理解している自分を4つの窓に分類し、互いに開放された領域が明らかになります。
こ れをうまく活用すると、相互理解が深まりコミュニケーションが改善されます。
また、未 知の自分を発見することもできるため、自分自身の成長にもつながります。
ジョハリの窓による自己の分析は、次の手順で行います。
GROWモデル
GROWモデルは、対話を通じて部下の目標達成や自己実現を図る場面で活用できます。
GROWとは、目標の設定(Goal)、現状の把握(Reality)、資源の発見(Resource)、選択肢の創出(Options)、目標達成の意思確認(Will)の頭文字のことです。
GROWモデルは、以下の5つのステップが踏みますが、それぞれの段階で、質問を投げかけることによって自身自身で考えさせることが重要です。
GROWモデルで目標や計画を立てた後も、定期的に部下の進捗状況を確認して、必要に応じてフォローしていくことも、部下を育成するためには必要となります。
以上、9つの枠組み思考を紹介しましたが、いずれも自社が抱えているさまざまな課題を解決するためには有効なツールといえます。
それぞれの場面に応じた枠組み思考を活用すれば、その効果を実感できるはずです。
■参考文献
「ビジネス・フレームワーク」堀公俊 著(日本経済新聞出版社)
「戦略フレームワーク25」ボーガン・エバンス著(ダイヤモンド社)
「事業戦略策定ガイドブック」坂本雅明 著(同文舘出版)
「戦略フレームワークの思考法」手塚貞治 著(日本実業出版)
「成功確率を高める意思決定」安藤浩之 著(産業能率大学出版部)