診療所による取り組みの実際 かかりつけ医機能と在宅医療

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診療所による取り組みの実際 かかりつけ医機能と在宅医療

  1. 診療所に求められる「かかりつけ医」と在宅医療
  2. 「かかりつけ医」機能の拡充に向けて
  3. 在宅医療を実施する診療所における今後の課題
  4. 医薬品をめぐる取扱いと「かかりつけ医」の今後


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目次

1.診療所に求められる「かかりつけ医」と在宅医療

1.かかりつけ医機能と在宅医療に関する診療所調査

(1)本調査の目的と活用

2016年度の診療報酬改定においては、「患者自身が納得して主体的に医療を選択できるようにすることや、病気を治すだけでなく、『生活の質』を高める「治し、支える医療」を実現することが重要」という視点から、かかりつけ医機能の評価が見直されました。
また、在宅医療を専門に行う医療機関(以下、「在宅専門診療所」)の開設が認められたほか、地域包括ケアシステムの構築にむけて在宅医療の評価の見直しが行われています。
これを踏まえ日本医師会は、2018年度診療報酬改定等の検討材料とすべく、診療所の「かかりつけ医」機能や在宅医療への取り組みなどの実態を把握するためアンケート調査(「かかりつけ医機能と在宅医療についての診療所調査」、以下「本調査」)を行い、その結果を公表しています。

かかりつけ医機能と在宅医療についての診療所調査(2016年11月実施)

かかりつけ医機能を評価する診療報酬としては、2014年度改定において、地域包括診療料(加算)が創設され、今後も算定拡大に向けた評価アップや他の医療施策による後押しによって、この機能と役割を診療所に担わせる方向性は変わらない見込みです。
一方で、かかりつけ医として在宅医療に取り組む診療所の中には、施設基準取得・維持の負担が大きく、撤退を検討するケースも少なくありません。
本調査結果により、診療所が「かかりつけ医と在宅医療の担い手」としての実態を把握し、取り組みと体制維持に向けた課題を認識することが必要です。

(2)かかりつけ医の担い手は診療所

2014年診療報酬改定で評価が導入された「主治医機能」ですが、かかりつけ医の役割としては、その検討経緯において次のように示されました。
かかりつけ医として地域の医療を支えながら、外来から在宅医療へ移行した高齢患者のケアを担い手として期待されている診療所は、かかりつけ医の役割を果たすことが求められています。

社会保障審議会医療部会の意見書~かかりつけ医等の役割

次期2018年度診療報酬改定は介護報酬改定と同時に実施予定であり、地域包括ケアシステムの推進と地域が支える医療・介護のシームレスな連携を踏まえ、在宅医療におけるかかりつけ医は今後も役割が拡大し、その機能も重要な位置づけになるといえます。
かかりつけ医機能に関する評価アップや要件緩和も想定されるなかで、診療所としては早期にかかりつけ機能の充実に取り組む必要があります。

2.本調査結果の概要とポイント

本調査の結果は、いくつかのキーワードにより設定した回答項目に対して整理されますが、回答者の自由記述欄に記載された具体的な内容を含め、次のようなポイントが挙げられています。

かかりつけ医機能と在宅医療についての診療所調査結果(2016年11月実施)

上記の内容は、次期診療報酬改定に向けた議論の基礎資料として整理されたものでもあり、これらが次期改定における、とりわけ診療所に対する評価の検討に活かされることになります。
次章より、主なポイントについて実態から浮かび上がった課題と、その解決方法を紹介します。

2.「かかりつけ医」機能の拡充に向けて

1.かかりつけ医の実際と現状課題の把握

(1)本調査結果からみる「かかりつけ医」の現状

かかりつけ医の現状について、本調査からは次のような結果が示されました。

本アンケート調査結果の要約<抜粋>

(2)本調査結果から示されたかかりつけ医機能の課題

かかりつけ医である診療所では、その機能を実践するうえで次のような課題が指摘されています。

かかりつけ医機能において指摘された課題~本調査結果より

(3)かかりつけ医として重要だと考える項目

本調査結果によれば、かかりつけ医にとって重要と考えられている項目の上位には、「患者に処方されているすべての医薬品の管理」、次いで「患者が受診しているすべての医療機関の把握」が挙げられています。
一方、重要と考えられている割合が低かったのは「常勤医師2人以上」、「在宅療養支援診療所(であること)」など体制面でした。

かかりつけ医として重要と思う項目~本調査結果より

2.在宅医療に取り組む診療所が負担と考える項目

「在宅患者に対する24時間対応」を実施しているのは、内科、外科で2割強という結果が示されています。
一方、現在かかりつけ医として在宅医療を実施している診療所において、負担が大きいという回答が最も多かったのは、「在宅患者に対する24時間対応」でした。

在宅医療に取り組む診療所に取って負担が大きい項目~本調査結果より

ほとんどの診療所では、常勤医師1人で診療を行っているケースが多く、24時間対応について困難な状況があることはやむを得ない状況と思われます。
前述の「重要ではない項目」のなかの上位に常勤医師2人以上が挙げられていることから、地域包括診療加算などの診療報酬上の評価に関わらず、かかりつけ医や在宅医療に取り組んでいる診療所においては、地域医療機関との連携による体制構築などの方法を通じて、地域における役割と機能を果たしている診療所が少なくないといえます。
尚、「在宅患者に対する24時間対応」を実施していて負担ではないという診療所では、1施設当たり常勤医師数が1.39人、実施していて負担という診療所は1.20人、また、24時間対応を実施していない診療所では1.17人という集計が示されています。
24時間対応を負担としてとらえていない診療所であっても、常勤医師数は2人に満たない現状があることから、診療報酬における評価については、より実態に即したものになることが期待されます。

3.在宅医療を実施する診療所における今後の課題

1.在宅医療に取り組む診療所の現状

(1)本調査からみる在宅医療を実施する診療所の現状

在宅医療を実施する診療所では、本調査により、次のような取り組みの現状が示されました。

在宅療養支援診療所と在宅医療への取り組み状況~本調査結果より

このほかの項目の回答では、新たに在宅医療に取り組む意向のある診療所も含めて、今後在宅医療を行う診療所は全体では約4割となりました。
「その他」と回答した診療所は、未定、わからない、必要に応じて行うなどが挙げられています。
診療科別にみると、内科および外科で今後在宅医療を行う診療所は6割以上を占めています。

(2)本調査結果による在宅医療に取り組む診療所が抱える課題

在宅医療を実施している診療所の現状をみると、次のような課題が指摘されています。

診療所における在宅医療の課題~本調査結果より

訪問診療を実施しているが在支診ではない診療所の中には、今後在宅医療を縮小あるいは在宅医療から撤退するというところが約3割あり、24時間往診体制の負担や、自身の体力の問題をその理由に挙げています。
一方で、現在は訪問診療を実施していないが、今後取り組むというところも18.8%ありました。

取り組みタイプ別にみる診療所の負担感~本調査結果より

2.在宅医療を実施する診療所が特に負担と感じている項目

在宅医療を実施する上で特に大変なことは、「24時間の往診体制をとること」、次いで「医師自身の体力」、「24時間連絡を受けること」という項目が挙げられました。

在宅医療を実施するうえで特に大変だと思うこと~本調査結果より

さらに病床の有無でみると、無床診療所は、有床診療所に比べて24時間対応がより負担を感じており、さらに無床診療所は「緊急時に入院できる病床を確保すること」も負担項目に挙げています。
また、地域で在宅医療を拡大するために重要と考えられていることで最も多かったのは、「受け皿となる入院施設が整備されていること」という回答でした。
地域で在宅医療を拡大するために重要と考えられていることについての回答をみると、在支診では「緊急時に対応可能な訪問看護ステーション」、在支診以外では「受け皿となる入院施設の整備」が求められています。
現在在宅医療を実施している診療所にあっては、自身の不測の事態や患者の容体悪化の際の対応を想定し、後方支援としての病床が確保されることへの期待があります。
今後、在宅医療の拡大には、実際の担い手となる医師や看護師等の人材確保と、後方支援を行う入院施設の整備が重要だといえます。

4.医薬品をめぐる取扱いと「かかりつけ医」の今後

1.処方の現状と在宅医療移行をみすえた体制構築

(1)診療所の処方をめぐる課題

近年、長期処方患者が増えている現状があります。
2016年度の診療報酬改定において、長期投薬(30日超)の取り扱いが明確化されたこともあり、本調査によれば、約1年前と比べて長期処方(30日超)の患者が増えた(かなり増えた、やや増えた)診療所は約3分の1に上り、減った(かなり減った、やや減った)診療所は1割未満という結果が出ています。
また、長期処方を行っている診療所のうち、長期投薬が可能な程度に病状が安定し、患者(家族)が服薬管理を行うことを確認できた場合以外(以下、病状安定・服薬管理可能以外)で、長期処方を行っている診療所が12.7%ありました。
病状が安定していても、高齢化によって外来通院が困難となり、在宅医療に移行する患者は増加しています。処方について、診療に影響する事例(服薬の無断中止、医療費抑制のための受診機会手控えなど)が生じているケースもあることから、患者の処方と服薬状況に関する情報については、在宅医療における処方検討のためにも、薬局とのコミュニケーションと情報交換を密にする必要があります。

診療所の医薬品処方をめぐる課題

(2)在宅医療移行に向けた薬局との連携強化の必要性

長期処方の増加に伴い、在宅医療に移行した患者については、症状が安定していた状況であっても服薬管理と患者家族の協力が重要だといえます。
本調査では、薬局からの残薬の疑義照会や情報提供が多い診療所ほど、処方内容の変更頻度が高く、「かかりつけの患者に処方されているすべての医薬品の管理」を実施している割合がやや高いという結果が示されました。
在宅医療移行を見据えた高齢患者については、薬局との連携強化が重要になっています。

2.かかりつけ医が行う在宅医療への転換

(1)在宅医療専門診療所との連携

2016年度診療報酬改定において、在宅療養支援診療所のうち、一定の要件を満たしている診療所については、在宅医療専門診療所としての新たな評価が設けられています。
そのため、今後はかかりつけ医の普及に従い、在宅医療専門診療所とかかりつけ医の連携により、在宅支援を行う体制構築も期待されています。
よって、現在かかりつけ医であって在宅医療を実施していない診療所は、在宅医療専門診療所との連携強化、密接な情報交換の推進と併せて、自院が在宅医療への取り組みを推進することが求められます。

(2)かかりつけ医による外来と在宅のシームレスケア

かかりつけ医の普及により、外来と在宅を一体化させようという動きも見られます。
そのため、かかりつけ医としては在宅医療への取り組みが必須となり、さらに在宅医療専門診療所との連携も進めていく必要があります。

かかりつけ医機能と在宅医療の関わり

3.かかりつけ医としての在宅医療への取り組み

(1)在宅医療移行をみすえたかかりつけ医への期待

かかりつけ医は今後、在宅医療までをフォローする役割が期待されており、その入り口としては、地域におけるかかりつけ医として信頼を得ることが必要です。
国が目指す地域包括ケアシステムの推進において、診療所はかかりつけ医と在宅医療の担い手としての機能を維持し、拡大することで、地域におけるポジショニングを強固にすることができるといえます。

(2)「かかりつけ医」機能充実への対応策

かかりつけ医機能は地域医療連携によって充実し、精度を向上させるものだといえます。
診療所が、地域包括ケアシステムの中心として位置づけられるかかりつけ医機能を維持し、拡大するためには、在宅医療の拡充とともに、相手先に薬局や歯科診療所を含んだ連携強化等に取り組むことが求められています。

「かかりつけ医」機能充実への対応策

 

■参考文献
日医総研ワーキングペーパー №378 2017年2月28日
「かかりつけ医機能と在宅医療についての診療所調査結果(2016年11月実施)」
日本医師会総合政策研究機構、(公社)日本医師会保険医療部

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