歯科医院競合時代を乗り切る自由診療患者の増加策

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歯科医院競合時代を乗り切る自由診療患者の増加策

  1. 歯科医院の環境変化と自由診療の重要性
  2. 自由診療である予防歯科への取り組み
  3. 補綴物やインプラント等の取り組み強化策
  4. 自由診療メニューと料金表の作成

 


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1.歯科医院の環境変化と自由診療の重要性

歯科医院の環境は年々厳しくなっています。歯科医院の開設による増加もありますが、患者の口腔内疾患の減少により、来院数も減少しています。
歯科医院が収入を確保し、安定した経営を行うには、予防歯科を含む自由診療への取り組みが不可欠です。

1.歯科医院御増加と歯科疾患患者の減少

(1)歯科医院の新規開設の増加

厚生労働省の医療施設動態調査によると、歯科医院の増加が続いています。
日本フランチャイズチェーン協会によると、2018年のコンビニエンスストアの店舗数は58,340店となっており、歯科医院の件数はコンビニよりも多くなっています。
そのため競合が激化し、患者の確保も通常の広報活動では難しくなっています。
環境変化に対応した歯科医院になるには、競合医院との差別化を図る必要があります。

歯科診療所数推移

(2)歯科医院の外来患者の変化

厚生労働省による患者調査では、歯科外来患者数が平成26年までは年間136万人で増加していましたが、それ以降年々減少し、平成29年では134万人となっています。
患者の小児のう蝕が年々減少しているほか、2025年以降の外来患者数は、団塊の世代が80歳以上になることにより減少するといわれています。

う歯を持つ者の割合の年次推移(乳歯+永久歯:5~14歳)、患者数の予想

2.自由診療獲得の重要性

将来において増加するのは予防歯科、インプラント、高齢者歯科の患者数であり、小児歯科、保存、補綴の患者数は減少するといわれています。
もともと予防に関しては、患者意識の向上により既に取り組みが進んでおり、患者数も増加しています。
インプラント治療に関しても、一時は器具の使いまわし等の報道から停滞していたものの、認知度の向上や、価格が下がってきたことから患者数も再度伸びているようです。
問題は、保存や補綴の患者数の減少です。

自由診療獲得の重要性

(1)保険から自由診療へ

患者数減による収入減少は自由診療への移行によって解消されます。
保険診療の患者単価平均は1日1名で約5千円程度といわれていますが、自由診療だと1名3万円から50万円以上あり、平均でも10倍以上見込めるといわれています。
また、自由診療は歯科医院の収入増加だけが目的ではなく、補綴物の維持方法の簡素化、食事時の感覚の向上、保存期間の長期化、見た目の美しさ等、患者にとってのメリットの多さが自由診療を患者に勧める最大の目的です。

(2)予防歯科

自由診療にはインプラントや補綴物等のほか、予防歯科への取り組みがあります。
歯科疾病になってから受診するのではなく、疾病にかかる前に定期的に検診を行い、ブラッシング指導や歯石除去等の予防措置を行うことが重要です。
歯科医院としては、患者に予防歯科の重要性を広く認知してもらうことも重要な役割だと思われます。
また歯周病予防等は、糖尿病や心疾患、認知症の予防の効果が期待できることから、予防歯科は患者にとっても大きなメリットがあるものです。

2.自由診療である予防歯科への取り組み

できるだけ歯を削らず、自然な再生を行うと自分の歯で長く生活できることから、政府や歯科医師会では、80歳で20本以上自分の歯を保てるよう「8020運動」に取り組んでいます。
歯の予防は、糖尿病や心疾患、早産、認知症といった病気の予防にもつながるということも判ってきており、現在では、予防歯科を診療のメインとして、次いで疾病にかかってしまった患者に対して治療を行うという考え方をする院長も増加しています。

1.う蝕患者の減少と高齢患者の増加

(1)小児のう蝕患者の減少

厚生労働省の調査では、小児のう蝕有病率は年々減少しています。
平成元年と平成27年の1人平均う蝕歯数を比較すると、3歳児が2.9本から0.6本、12歳児が4.3本から0.9本に減少しており、3歳児、12歳児ともに、う蝕有病率は年々減少しています。

(2)高齢患者の増加

厚生労働省の患者調査では、推計患者数の年齢階級別の推移は、64歳以下で減少傾向にある一方で、65歳以上(特に75歳以上)で患者の増加が著しく、平成26年で4割に達しています。
この傾向は、今後も増加すると予測されています。

推計患者数の年齢階級別割合(厚生労働省 患者調査)

2.予防歯科による利益の比較

予防歯科は、歯科衛生士の領域であり、レセプト1枚当たりの単価は低くても、治療よりも高い粗利益を確保できます。
また、既存患者の一定数を定期予防による来院患者として囲い込めると、再初診患者が増え、医業利益も確保でき、経営が安定します。

予防と治療の利益比較(レセプト1枚当たり)

3.予防歯科の患者への提案時期と提案方法

(1)予防歯科を患者へ働きかける時期

患者に口腔内の病状から痛みが発生している状況では、予防の話をしても聞いてもらえません。
治療に数回の通院を行い、また痛みや完治までの日数や時間にマイナスの感情を持っている瞬間があります。
この診療終了の直前、または「これで治療は終了です」と伝える時期が予防歯科を勧める一番のタイミングです。

予防歯科を患者へ働きかける時期

(2)予防歯科の説明ツールによる提案

予防歯科を患者に提案するには、口頭での説明だけではなく、見える化するという準備が必要です。
パンフレットや予防歯科アルバム等のツールを作成し、目と耳による予防歯科の重要性を認識してもらいます。
また説明に際しても、歯科医師と歯科衛生士双方から行うようにします。

患者に対する予防歯科の説明の工夫

(3)予防歯科のアポイントシステムの体制づくり

予防歯科のアポイントを確実に取るためのシステムをつくることが重要です。

アポイントを取るシステム

3.補綴物やインプラント等の取り組み強化策

保険対象外の診療には、補綴物等の材料によるものやインプラント等の保険外診療行為そのもの、ホワイトニング等の審美歯科、矯正歯科等と様々な形態があります。
患者に自由診療を推進する手法としては、「口腔内の健康を維持するための考え方」を前面に出すようなものに変化してきており、もはや「高いものが良いもの」というだけでは受け入れてもらえません。
身体の健康には口腔内の健康が関連するということが患者側に認識され、そのメリットが伝わってはじめて、自由診療を検討してもらえるのです。
近年では自由診療の情報が多く共有されていることから、口腔内の健康に対する歯科医院の取り組みが注目されています。

1.自由診療の理解を深める

(1)マニュアルの整備とデータ管理

自由診療獲得には、患者が内容の理解を深め、納得してもらうことが必要です。
カウンセリングや検査から患者の状況を詳細に把握し、その状況にあった治療計画を策定した上で、判りやすい説明を行うことです。
一方的に説明するだけでは、患者は納得しません。
コミュニケーションを取り、患者からも質問されるようなやり取りが必要です。
効率的にカウンセリングを行うために、スタッフにはマニュアルを、患者にはビジュアル化されたデータを使います。

説明ツールの整備ポイント

(2)カウンセリングの実施

カウンセリング時には、患者には「診療行為」だけではなく、「健康維持」という意識を持ってもらい、自由診療はその一環であると認識してもらうことが重要です。
また、心理的不安を取り除くために同じ視線の高さで話すことが求められるため、チェアサイドで行うのではなく、カウンセリングコーナーを設け、患者の注意と興味を引く場面を作る必要があります。

保険診療と自由診療の比較ポイント

2.患者啓もうとイメージアップ

診療に関する情報提供では、様々な手法があります。
一般的にハガキやメール、ホームページは多くの歯科診療所で実施されていますが、患者啓もうという目的で研修会を開催し、一方的な情報提供ではなく、相互理解を深めるためにも顔を合わせて説明と質疑応答を行える機会を設けることが必要です。

自由診療の啓もう活動・広報活動

3.健康志向に対応した自由診療

今までは、保険診療の限界と診療後の口腔内の状態の比較により自由診療を勧めていましたが、近年は患者の健康への意識が高まり、積極的に自由診療を選択するというケースも増加しています。

(1)アンチエイジング志向

歯科医療においてもアンチエイジング(抗老化)は浸透してきています。
患者には、生涯を通じて自身の歯で好きなものを食べることで満足のいく食生活を送り、日常生活での満足感、幸福感、安心感などのQOL(Quality of life;生活の質)の向上を目指してもらうことにより、アンチエイジング歯科治療という言葉も出てきています。
アンチエイジングの原点である生活の質の向上は、「究極の予防医学」だと考え、様々な取り組みが始まっています。

歯科治療のアンチエイジング

(2)アンチエイジングを取り入れた治療メニュー

アンチエイジングは、口腔内の環境を包括的に若返らせることを重視します。
口腔内の健康を手に入れ、患者自身の歯でおいしいものを食べ、快適に生活するという「QOLの向上」がアンチエイジングの歯科治療です。

アンチエイジングメニュー

4.自由診療メニューと料金表の作成

患者ニーズの変化と歯科業界の環境変化に伴い、虫歯や歯周病等の口腔内の疾患が発症してから通院するのではなく、ヘルスケアという健康志向やアンチエイジングの意識のもと、口腔内の健康維持のために通院するケースも増えています。
これらの患者ニーズに対応した自由診療メニューが提供されています。

1.アンチエイジング治療メニュー

外面だけではなく、内面からの健康・予防・美容には歯科の役割はとても大きく、アンチエイジング歯科治療という考え方が広がってきています。
その考え方にあった治療メニューも準備する必要があります。

(1)メタルフリー治療

老化や健康に影響すると考えられる金属類を一切使用しない治療方法で、身体にやさしく、見た目にも自然で白く美しいセラミック系の材質等での人工の歯を装着します。

(2)審美歯科・矯正歯科

前歯の色や形(審美歯科)、歯並び(矯正歯科)の治療は、その部位を治すだけではなく、外見の印象や美しさも大きく変わり、患者の外面や内面の意識まで変化します。

(3)インプラント治療

インプラント治療は、歯根を失った時に取られる処置で、「入れ歯」や「ブリッジ」等を採用せず、人工歯根を埋め込み、噛みあわせを回復します。
見た目の美しさや硬い物を食べられ、美味しさを感じられるということがあります。

アンチエイジングとしてのインプラント治療

(4)ホワイトニング

歯や口元をもっときれいにしたいと考えている患者は多く、俳優やスポーツ選手によってホワイトニングへの意識は一般人へ広がりました。
加齢や食物中の色素の影響、飲み物等により変色した歯は、歯を削るのではなく、「ホワイトニング」によって本来の若々しい白い歯を取り戻すことができます。

ホワイトニング方法

2.ヘルスケアによる予防歯科メニュー

ヘルスケアとは、健康の維持や増進のための行為や健康管理のことを意味します。
歯科ヘルスケアへの取り組みはまずは予防、そしてもし発症してしまったら、再発防止を目的とするより高度な診療(自由診療)を選択することが重要と考え、メニューを作成します。

(1)PMTC治療

口腔内にある細菌(400種類以上)がバイオフィルムを形成し、虫歯や歯周病の原因となりますが、バイオフィルムは歯ブラシでの歯磨きでは簡単に取れません。
PMTCは歯のクリーニングで、虫歯や歯周病の予防や血液への病原菌の進入を予防し、老化の予防を促進します。
実際にPMTCを行うのは歯科衛生士の業務であり、歯科衛生士の技術向上がPMTCの効果に反映されます。

(2)レーザー治療

レーザー治療は痛みが少なく、麻酔を少量若しくは使わず、また、治療部位をピンポイントで治療できます。
さらに出血がほとんど抑えられるため、正確な治療が期待でき、身体への影響が少ないためヘルスケア治療として考えられています。

レーザー治療の自由診療

3.料金表の作成

自由診療において、良くも悪くも患者の興味は費用です。
判りやすく、依頼しやすい料金、他の競合診療所の金額とも比較した料金設定が必要です。

矯正歯科の料金表事例

 

■参考資料
日本ビズアップ株式会社 歯科経営コンサルタント40時間養成講座:「歯科医院を取り巻く環境変化と、今後の経営方向 予防歯科の導入対策講座2018」
講師)株式会社M&D医療経営研究所 代表取締役 木村 泰久 氏
厚生労働省ホームページ:医療施設実態調査、患者調査

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