自律した社員を育て、自社の収益を向上!キャリア開発の実践ポイント

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自律した社員を育て、自社の収益を向上!キャリア開発の実践ポイント

  1. キャリア開発が求められる背景
  2. 組織と社員の方向性を一致させる体系整備
  3. これからの研修体系と具体的対応策
  4. キャリア開発に成功している企業の実践事例

 


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1.キャリア開発が求められる背景

現在の企業を取り巻く外部環境は、変化が激しく、将来の予測が立てにくい時代になっています。
このような時代において、企業が求める人材も変化しています。
環境変化を的確に捉え、既成概念に捉われない発想を持った人材が求められています。
そのために、自律した社員を育てるための「キャリア開発」が注目されています。
本情報レポートでは、高いモチベーションを保ち、自社の収益向上にも貢献できる社員を育てるための「キャリア開発」に焦点を当て、その具体的な進め方について解説します。

キャリア開発の必要性

業績回復基調にある企業は、一層の業績拡大を図るために人材の確保を急いでいます。
人材の確保にあたっては、自社の生産性を上げるために、新卒採用でなく、即戦力を求める企業が増えています。
社員を即戦力として活用するために、あらゆる環境変化にも対応できる人材を育てる必要性が高くなっており、そのためにもキャリア開発の必要性は高まっています。
自社が社員のキャリア開発を支援することは、以下のような大きなメリットがあります。

キャリア開発を支援するメリット

ライバル企業との競争が激化している中で、顧客から要求されるニーズに対応するためには、常に、新商品・サービスの開発や既存商品・サービスを見直していく事が求められます。
高まっている顧客ニーズや環境変化に対応するためにも、社員のキャリア開発を進めておく必要があります。
社員一人ひとりのキャリア開発は、自社の発展につながるため、これを支援するための取り組みが必要です。

2.まだまだ少ないキャリア開発研修の実施状況

キャリア開発研修は通常、社員自身のキャリア開発のために行われるものです。
社員自身がこれまでを振り返り、自身のキャリアアップや次のステージへ進むために必要とされる新テーマを習得することを目的としています。
労務行政研究所が行った調査結果によると、研修の導入状況として、キャリア研修より階層別研修の導入企業が多いことが明らかになりました。
この結果から、キャリア開発研修についての必要性をまだあまり感じていない経営者が多いと推察されます。
しかし、前述したとおり、社員の能力を最大限引き出すためにも、企業側も積極的に社員のキャリア開発を支援していく必要があるといえます。

キャリア研修の導入状況

3.社員の可能性を伸ばすキャリア開発体系

多くの企業にて実施されている社員研修は、社員一人ひとりが与えられた役割を遂行するために、実務に直結したテーマについての研修の機会を与えているケースが多いと思います。
これからの社員育成は、個々の能力を引き出し、その可能性を伸ばすことを目的としたキャリア開発研修が必要といえます。
キャリア開発研修による社員の成長に従い、以下の図に示すような、職務権限の拡大、インセンティブの付与、そして新たなキャリア開発を継続的に進めていくべきです。

社員の可能性を伸ばす自律型のキャリア開発体系

社員のキャリア開発にあたっては、企業側のサポートも必要ですが、重要なことは、社員自身が自らのキャリア開発プランを描く機会をつくることです。
今後は、社員自身の自律的な関わりから自分自身の成長を目指した取り組みができるような仕掛けが求められています。

キャリア開発の推進ポイント

2.組織と社員の方向性を一致させる体系整備

1.組織ビジョンと個人のビジョンを一致させる

多くの企業では、組織の進むべき方向性を示すためにビジョンを掲げています。
ビジョンは、人や組織の成長の原動力となり、組織全体が進むべき方向を共有することができるからです。
強い組織では、組織が掲げるビジョンを社員が十分に理解し、社員一人ひとりの目標とするビジョンと一致しています。
ビジョン達成に向けて各人が発揮したい能力・成果を理解し、組織と社員の進むべき方向性を一致させることに取り組んでいます。
「ビジョン」とは、まだ実現していないものの、将来自社や自社を取り巻く社会がどのようになっていたいのかという「あるべき姿」です。
例えば、5年後のビジョンを描くときに、「○○のプロフェッショナルになりたい」「最高の○○をつくりたい」「○○を通じて人々に貢献したい」など具体的に描くのがポイントです。具体的なイメージが想像できると、それを実現させるための方法を描きやすくなり、その結果、ビジョンを達成できる可能性は高まります。
具体性の無いビジョンでは、変化の原動力にはなりません。逆に、良いビジョンは、社員に共感を与え、行動の原動力となります。
ビジョンを達成するために必要な行動は、必ずしも今できることの範囲とは限りません。
むしろ、原動力となるようなビジョンは、しばしば今の自分の能力を超えるチャレンジ精神を喚起させることができます。

組織ビジョンと個人ビジョンを重ね合わせることが重要

2.キャリア開発支援の方向性

これからのキャリア開発は、組織のビジョンと個人のビジョンを一致させる上で行っていきます。
法人側が一方的にキャリア開発を主導するのではなく、個人の主体的な取り組みが重要です。
ただし、個人主導といっても、単なる個人任せにするということではなく、組織の支援は当然必要となります。

キャリア開発の4類型

(1) は、組織主導のキャリア開発を組織主体で行う類型です。
例えば、新人社員に対して、与えられた研修プログラムに沿って、OJTなどで上司が直接指導する指導方法です。
このケースでは、社員の自主性を重んじることはありません。

(2) は、組織主導のキャリア開発を個人主体で行う類型です。
例えば、ある程度業務を習得した社員に研修体系を提示し、社員一人ひとりが、自分の望む研修を選択し、研修を受けるような方法です。
社員が研修方法を選択することができますが、習得できる範囲は、自社が決めた研修体系の範囲内とどまります。

(3) は、キャリア開発を個人主導で行う類型です。
このケースは、成果主義的な人事施策のもと、「自立」「自律」「自己責任」を重んじ、社員自らが成果を上げるためのキャリア開発方法を選択します。
したがって、結果が重視され、自社が目指すビジョン達成とは必ずしも一致はしません。

(4) は、個人主導のキャリア開発を組織主体で行う類型です。
個人を重視した(3) の方法では、必ずしも自社の業績向上につながらないという反省から、組織が目指すビジョンを共有した上で、組織が主導し社員個人が開発したいテーマを自ら設定して、これを習得するために組織が支援するキャリア開発の方法です。
顧客ニーズの多様化に対応していくことの重要性が高まっている今日では、この類型によるキャリア開発の方法が最も望まれます。

3.組織が構築するべきキャリア開発体系

キャリア開発は個人が開発したテーマの習得に向けて、組織主体で取り組むための体系の整備が必要です。
重視すべきなのは、組織ビジョンを中心に据えることです。
環境変化に臨機応変に対応するためのキャリア開発の実現には、組織ビジョンを社員全体で共有し、これを達成するための体系を整備することが求められます。
そのためにも、ビジョンの共有を図った上で、社員一人ひとりのキャリア開発支援を行うことが必要です。

組織側の視点に立ったキャリア開発体系

(1) 組織のビジョン、(2) 組織風土、(3) 人事制度、(4) 現場での実践、(5) バックアップ体制、⑥総合評価の6つの切り口となっています。
社員の自律を促すキャリア開発を組織内で展開していく上で重要なことは、ビジョンを方針化し、それに基づくキャリア開発や支援の仕組みを構築し、それを組織内の多様な現場活動で実践し、その活動を支える組織風土の定着を図るための活動を積極的に推進していくことです。
さらに、組織の支援・展開度合いを指標化し、個人の行動や達成度も指標化して測定する仕組みを作った上で、一連の活動を実行に移し、継続していくことが大切です。

3.これからの研修体系と具体的対応策

1.キャリア開発の運用サイクル

社員のキャリア開発支援を行うための仕組みを構築するには、従来のような人事評価、処遇への反映だけでなく、キャリア開発目標の設定やその達成を支援するための研修機会の提供が求められます。
社員のキャリア開発を進めることは、社員のやる気を高め、新たな能力を引き出し、自社の発展につながることも期待できます。
キャリア開発がうまく機能するポイントは、社員一人ひとりが次のステージ(キャリア開発目標)を描き、そこへ進むための研修機会の提供すること、そして達成状況について上司や人事との面談の場を設定し継続的な取り組みとして実施することです。
その結果、組織と個人を方向性を一致させ、法人が目指すビジョンの達成に近づけることが可能となります。

キャリア開発の運用サイクル

2.キャリア開発を促進する研修体系

社員研修は、大きくは(1) 階層別研修と、(2) キャリア開発研修に分かれます。
多くの企業では、それぞれの役割に応じた専門スキル、やビジネススキルを習得するための「階層別研修」を実施しています。
さらに今後は、社員のさらなる成長の機会を与えるための「キャリア開発研修」の実施も求められます。

これからの研修体系、40代社員のキャリア開発研修プログラム例(計360分)

3.キャリア開発を効果的に行うための具体的対応策

今後は、労働力の確保の視点でも、社員のキャリア開発だけでなくモチベーション喚起への対応策が必要となります。
そのために、社員自らがチャレンジ意欲を持てる人事制度の構築や、働きやすい環境整備を積極的に行うことがポイントとなります。
具体的な取り組みとしては、以下の通りです。

社員のキャリア開発および定着につながる効果的な具体策

4.キャリア開発に成功している企業の実践事例

1.サントリーHD社のキャリア開発制度

(1)社員の自律を促すキャリア開発体系

社員のキャリア開発を体系化し、効果的に運用されている事例として、サントリーホールディングス株式会社で行われているキャリア開発制度を紹介します。
同社では、以下のようなキャリア開発体系をまとめており、社員の内定時から退職するまでのキャリア開発体系を明示しています。
特徴的なのは、入社時から社員に対して「自律的なキャリア開発の支援」ができるように【SUNTRY Self Development Program(自己啓発支援プログラム)】制度を設けていることです。
更にキャリアビジョン制度を設けることで、様々な社員の可能性を広げる取り組みをしています。

サントリーHD社のキャリア開発体系(サントリーHD ホームページより抜粋)

(2)キャリア開発を促す研修制度

同社では、研修と位置付けるキャリアワークショップを、社員の年齢や年次に応じたプログラムを用意しています。
キャリアワークショップでは、主に社員の年齢や年次の節目節目に行っています。
例えば、入社4年目では入社してから3年間の新人育成期間が終わり、様々な部署に配属された同期のメンバーと将来の展望を話し合い、刺激し合いながらモチベーションを高めるためのキャリアワークショップを行っています。
節目の年齢でキャリアワークショップを行うことで、社員を自律させ、迷いを解消し、モチベーションを高く保ちながら、仕事に臨めるように工夫をしています。
合わせて、3種類の個別面談を行っており、社員のフォローアップにも配慮しています。

サントリーHD社 キャリアワークショップと個別面談(出展:労政時報3869号)

2.グローリー社のキャリア開発制度

通貨処理機製造などを行っているグローリー株式会社では、人材データベースによる人材の可視化とキャリア面談の実施により成果を挙げています。
同社のキャリア形成支援について、以下の方針を掲げており、その実現に向けた取り組みを行っています。

キャリア形成支援方針、キャリア形成支援の目的、具体的進め方と活用

以上のとおり、社員のキャリア開発は、人材発掘、活用につながるものであり、その結果、自社の業績向上にもつながることが期待されます。
これらの取り組み事例を参考に、自社のキャリア開発制度構築の参考にしていただければ幸いです。

 

■参考文献
「これからのキャリア開発支援」労務行政研究所編(労務行政研究所)
「キャリア開発支援事例集」日本経団連出版編(日本経団連出版)

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