マイナンバー制度を効率的に活用 医療等分野IDによる情報連携

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マイナンバー制度を効率的に活用 医療等分野IDによる情報連携

  1. 医療分野における番号制度活用に向けた検討
  2. 医療等個人情報の情報連携のあり方
  3. マイナンバーによるオンライン資格確認の導入
  4. 今後の施策動向と医療機関に予測される影響

 


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目次

1.医療分野における番号制度活用に向けた検討

1.医療等分野IDで課題解消

政府は2015年5月に、医療等(医療・健康・介護)分野の情報に個人番号を付与する、いわゆる「医療等ID」に関する方針を決定しました。
「医療連携や研究に利用可能な番号」として2018年度から段階的に運用を始め、2020年の本格運用を目指しています。
また運用に当たっては、マイナンバー(社会保障・税番号制度)のインフラが活用される見込みです。
「医療等ID」導入の背景には、次のような課題が挙げられます。

医療機関が抱える課題と将来イメージ

医療機関の窓口で患者が個人番号カードを提示することにより、患者の医療保険資格を医療機関がオンラインで確認できる仕組みを構築します。
これは、医療保険者や自治体間のマイナンバーによる情報連携が2017年7月に始まることを受けたもので、医療機関の事務効率改善につながると期待されています。
また、医療連携に利用可能な番号に(医療などID)ついては、2018年度から段階的な運用を開始するとし、病院や診療所、薬局間の患者情報の共有などに利用できます。
これにより、医療機関において、患者データの共有や追跡を効率的に行えるようになります。

2.マイナンバー制度導入で動き出す医療等分野IDの活用

2015年10月に導入された個人番号制度(マイナンバー制度)と併せて、国は、医療等分野(健康・医療・介護分野)の安全かつ効率的な情報連携の基盤の整備には、最優先で取り組むとしています。
これらは急速な高齢化と厳しい保険財政の中で、質の高い医療・介護サービスの提供や、国民自らの健康管理等のための情報の取得、公的保険制度の運営体制の効率化等の推進を目的とするものです。
厚生労働省は、日本再興戦略改訂2014(平成26年6月閣議決定)を受けて「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会(以下、「本研究会」)」を創設し、医療分野における番号の必要性や具体的な利活用場面に関する検討を行い、「中間まとめ」(平成26年12月10日)を取りまとめました。

本研究会「中間まとめ」

上記に基づき、既にスタートしたマイナンバー制度においては、情報連携の端緒として予防接種歴・健診情報の管理等に将来的に活用する計画が進められています。

3.マイナンバー活用による医療保険システムの基盤整備へ

本研究会「中間まとめ」を受けて、政府は以降の法整備等の状況等を踏まえ、とりわけ社会保険におけるオンライン資格確認のシステム構築に向けた基盤整備に着手することとしました。
安倍首相からも、マイナンバー制度の活用として、医療分野において「2020年までの5ヵ年集中取組み期間」を設定するとともに、個人番号カードの提示により健康保険の資格確認や書類記入の効率化を図るなど、一貫した医療・介護サービスの提供に向けた施策推進への取り組みに関する発言がなされました(平成27年5月29日産業競争力会議課題別会合)。

日本再興戦略 改訂2015

医療機関においては、マイナンバー制度運用開始にあたり、マイナンバーそのものを取り扱う事務は一般の事業者と同様の範囲(例:職員の雇用保険、社会保険事務等)に限られるため、患者個人のマイナンバーを利用する場は想定されていませんでした。
しかし今後、健康保険等のオンライン資格確認など、マイナンバーに関連する医療機関独自の事務が生じることになります。
こうした医療等IDは、2018年度から段階的な運用が開始され、2020年からの本格運用を目指すという方向性が示されていることから、早い時期から対応の準備を進めておくことが賢明です。

2.医療等分野個人情報の情報連携のあり方

1.医療等分野の個人情報の特性

(1)機微性が高い医療分野の個人情報

患者と医療・介護従事者が信頼関係に基づき共有する医療等分野の個人情報は、病歴や服薬の履歴、健診の結果など、本人にとって機微性が高く、第三者には知られたくない情報も含まれています。
さらに病気の内容や罹患時期によっては、それが公になった場合、個人の社会生活に大きな影響を与える可能性があったり、本人がその受診歴を把握できる状態にすることを望んでいなかったりする情報もあるはずです。
また、患者の診療情報を研究分野等で活用する場合は、基本的には患者自身への必要な医療の提供に用いるものではありません。
このことから、個人情報の取得・利用に当たっては、本人の同意を得るとともに、患者個人の特定や目的外で使用されることのないように必要な個人情報保護の措置を講じる必要があります。

医療現場で活用が期待される場面

このほか、個人が治療を受け、自分の健康状態を向上させることで得るメリットの積み重ねが、医学および医療の質の向上という社会全体への有益性やデータの蓄積につながり、また地域の実情に応じた効率的な医療提供体制の整備や効果的な保健事業の実施などの行政分野や医療保険事業での活用が期待されています。
こうした点を鑑み、医療等分野個人情報については、格別な保護措置と併せて円滑な活用方法を実現する情報連携基盤の構築が求められています。

(2)医療等分野個人情報保護と活用のバランス

前述のように、医療・介護分野に関連する個人情報は、高度な機微性を持っていることで十分な保護措置を講じるとともに、その取得・利用には本人の同意を得ることが原則とすべきであるとされています。
一方、医療・介護の現場では必要な個人情報を活用することで、患者・利用者本人にとってより有効で効果的な治療・ケアの実施につながることも期待されています。

(3)医療現場で活用が期待される場面

医療現場においては、救急医療や薬や予防接種歴の管理、医学の向上や研究など、様々な場面での活用が期待されています。

2.医療等分野個人情報連携システム構築の留意点

医療等分野の個人情報の特性を踏まえ、その情報連携のあり方については、中間まとめまでの議論では、本人同意のあり方と併せて、次のような意見が示されました。
今後の医療等分野個人情報連携システムの構築にあたっては、これら意見を盛り込み、保護と活用のバランスを実現させるとしています。

(1)個人情報連携システム構築に向けて重視すべきポイント

個人情報連携システムの構築に向けて、「中間まとめ」ではさまざまなケースに対応して、重視するポイントを整理しています。今後の主な検討事項は以下のとおりです。

個人情報連携システム構築に向けて重視すべきポイント

(2)改正個人情報保護法との関連

このほか、本研究会「中間まとめ」公表後に行われた個人情報保護法改正では、「病歴」 が「要配慮個人情報」(本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害 を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその 取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報)に位置づ けられ、予め本人の同意を得ないで取得してはならないこととされました。
ただし、改正個人情報保護法の運用については、患者への適切な医療を提供するために 必要であることに関し本人や家族に対して理解を得て、医療現場が萎縮して必要な医療が 提供できなくなることのないような配慮も必要です。

3.マイナンバーによるオンライン資格確認の導入

1.医療情報にかかるマイナンバー制度インフラの活用

(1)情報漏えいの可能性と対応策の検討

情報インフラ構築において懸念されるのは、マイナンバーで芋づる式に情報が漏えいすることです。
情報漏えいを防止するために、番号制度のインフラでは、番号の利用機関同士の情報連携(情報照会と情報提供)を行う場合、マイナンバーを直接用いず、機関ごとにマイナンバーに対応して振り出された機関別符号を利用することとしました。
各利用機関は、住基ネットに接続し、利用する各マイナンバーに対応した利用機関ごとに異なる符号を取得することにより情報漏えいを防止します。
ただし、保険医療機関・保険薬局(約23.3万施設)がそれぞれ住基ネットに接続して機関別符号を取得し、情報提供ネットワークに接続するのは、各医療機関の負担や制度全体でも大きなコストがかかり、実務上の課題も指摘されています。

(2)マイナンバー制度の情報インフラの仕組み

マイナンバー制度は、行政機関等が効率的な情報管理と迅速な情報の授受にマイナンバーを用いることで、行政運営の効率化や国民の利便性の向上を図ることを目的としており、マイナンバーの利用範囲と利用機関を法律に明記するとともに、医療機関等が医療情報の連携にマイナンバーを用いる仕組みとはしていません。
一方で、マイナンバー制度では、住民票コードと対応した一意的な識別子(機関別符号:ID)を用いた情報連携の仕組みがあることや、高度なセキュリティを備えた高機能なICチップの個人番号カードによる公的個人認証の仕組みを活用して、行政機関が保有する個人情報を含め、国民自らが様々な本人の個人情報に安全で効率的にアクセスできる情報インフラの構築を進めており、医療等分野でも、広く社会で利用されるマイナンバー制度の情報インフラを最大限に活用していくことが合理的だとしています。

(3)マイナンバー制度における医療保険の資格管理の仕組み

本研究会の検討により、個人番号カードにはマイナンバーが記載されているため、医療情報とマイナンバーが結びつく可能性があるので、マイナンバーが記載された個人番号カードに被保険者証の機能を付加することは問題があると指摘されています。
そのため、被保険者証や診療券など他の媒体を用いる方法についても検討が求められます。
社会で利用される情報インフラを安全かつ効率的に活用する観点から、個人番号カードのICチップを用いる仕組みが合理的だとしています。
こうした背景から、マイナンバー制度においては、社会保障分野の金銭情報である医療保険の資格確認システムをオンラインで構築することを医療等分野での活用基盤とし、これを普及させて展開に結び付ける方向で法整備等を含む準備が進められています。

医療保険のオンライン資格確認のメリット

2.オンライン資格確認における個人番号カード運用の流れ

医療機関においては個人番号カードを預からず、マイナンバーを見ずにオンラインで資格確認するシステムとすることによって、診療情報がマイナンバーと紐づけて管理されることはありません。
そのため、医療情報が個人番号カードICチップに集積されている情報から取得される懸念はないものの、医療保険の資格確認については、個人番号カードを運用したシステムとなるため、医療機関において電子情報を読み取るカードリーダー導入等の準備が必要となります。
今後、本研究事業においては、下記の項目についての検討が行われます。

オンライン資格確認における個人番号カード運用の流れ

また、本研究事業の下に医療保険者や医療機関等の関係者からなる実務者ワーキングループを設置し、実務者の意見を踏まえた検討が進められます。

医療保険のオンライン資格確認でのカード運用イメージ

《1》被保険者
保険医療機関等に受診する際、個人番号カードを提示

《2》~《4》保険医療機関等
個人番号カードの顔写真と名前により本人の確認をして、職員等がICチップから電子証明書をカードリーダーで読み取り(=個人番号カードを預からない)、支払基金・国保中央会に対し、資格情報を要求

保険医療機関等

《5》資格確認サービス:支払基金・国保中央会
地方公共団体システム機構に対し、電子証明書に対応する機関別符号を照会
⇒予め取得している機関別符号の中から、回答された機関別符号と一致するものを引き当て、この電子証明書と対応する機関別符号と資格情報を一対一の関係で管理
⇒保険医療機関等から照会された電子証明書に対応する資格情報を保険医療機関等に通知

4.今後の施策動向と医療機関に予想される影響

1.今後の施策動向への影響と医療費抑制に対する期待

(1)医療等ID導入による今後施策の方向性

医療等IDの導入によって、患者情報を管理することで、医療・介護等多職種の情報共有を円滑に行うことが可能になります。
その結果として、医療の質向上や、2025年をめどとする地域包括ケアシステムの実現に向けた各政策に対しても、大きな弾みをもたらすものになるはずです。
また、医療等IDを用いたデータ分析が可能になることから、地域医療連携ネットワーク整備も含め、今後の医療政策についてもその立案や運営に活用することが予定されています。

医療データを医療政策に活用するイメージ

こうしたデータ分析からは、例えば、診療報酬改定等における評価の検討に活用されると考えられます。
また、医療等IDの活用前提となる医療保険のオンライン資格確認システム導入に向けて、「電子カルテ+レセプト電子化」普及を強化する政策が実施されるとみられます。

診療報酬改定

(2)医療費適正化への期待

マイナンバー制度の大きな目的のひとつは「行政の効率化」ですが、医療等IDは医療・介護を主とする社会保障制度について、その維持と充実を図ることを目的とするものといえます。
そのうち医療保険のオンライン資格確認システムについては、返戻を減少させて請求支払事務を支援し、効率化を図るうえで有効ですが、特定健診を実施する保険者間で健診データを活用すること等から、次のような効果も期待されます。

健診データ活用による医療費適正化のイメージ

国は、医療等ID導入により、上記のように異なる保険者の健診データと複数のデータベースを突合すること等がより円滑に行われるようになり、必要な医療資源を適正な量・地域等に配分することを通じて、近年最大の課題である医療費の適正化という政策目標の実現につながるとしています。
また、患者にとっては、医療データの情報連携によりCT撮影等の高額な検査を何度も受ける必要がなくなったり、遠隔治療などでの利用も可能となったりすることから、利便性の向上ばかりではなく、医療費全体の抑制につながるものと期待されています。

2.医療機関に求められる情報連携体系対応のポイント

(1)医療保険のオンライン資格確認システム

現行のマイナンバー制度の枠組みの中で、2020年度までの本格導入を目指して準備が進められていることから、電子カルテ導入のさらなる推進が促されている病院だけではなくかかりつけ医としての役割を有する診療所にも早期の対応が求められます。

医療機関が準備すべき対応項目~現在想定される内容

(2)医療等ID(地域医療連携用ID<仮称>)

医療機関におけるマイナンバー制度活用としては、情報連携で次のような目的が掲げられており、その実現に向けて、地域医療連携ネットワーク間での利用が可能な「地域医療連携用ID」の導入が予定されています。

医療等ID

マイナンバー制度運用開始と併せて、急速な高齢化と厳しい保険財政において、効率性を確保しながらも膨大な医療情報の活用が求められており、これを飛躍的に進めるため、医療等分野のIDを活用した安全かつ効率的な情報連携の基盤整備が加速化します。
地震による住民基本台帳システムへの影響が懸念されるところではありますが、医療機関としては、制度整備の方向性や必要な取り組みに関する情報提供を適時行い、対応準備を進めていくことが必要です。

■参考文献

厚生労働省
「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会報告書」中間まとめ(平成26年12月10日)
「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会報告書」(平成27年12月10日)
「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会報告書」(概要)

日本医師会(平成27年7月)
「医療分野等ID導入に関する検討委員会 中間とりまとめ」

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