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- 2021年 経営実績とその傾向
- 2021年 収入上位診療所の経営実績
- 2021年 収入ランク別経営実績
- 2021年 医療法人経営指標分析結果
- 新型コロナ感染症を踏まえた新たな診療指針
1.2021年 経営実績とその傾向
1.2021年経営実績の概要
本調査は2021年の決算書に基づいて、実数値から経営状況を把握することを目的としています。
その上で、連続して調査を実施している2020年との比較を通して、改善または悪化の状況を分析しています。
抽出したデータは、2021年に決算を終えた歯科診療所323件(医療法人96件、個人開業227件)の数値を抽出し、平均値を算出しています。
なお、本分析では、人件費から役員報酬と専従者給与は除いています。
2.全体動向と利益の傾向
(1)全体動向
2021年における歯科診療所の経営実績は、2020年と比較して増収増益となりました。
保険診療収入は5.2%、自由診療収入は15.5%増加しています。
新型コロナ感染対策も進み、憶測だった感染の知識も情報が整理され事実が社会に浸透してきた結果、通院抑制されていた患者も戻ってきたと考えられます。
(2)利益状況
限界利益、医業利益ともに増加し、限界利益が前年対比7.1%、医業利益は同1.9%増加という結果となりました。
3.医業収入の傾向
医業収入の実績は、下記のとおりです。
医業収入合計では、対前年比6.7%、保険診療収入が5.2%、自由診療収入が15.5%の増加、その他の収入が7.3%の減少となっています。
4.医業費用の傾向
(1)医業費用対前年比較
医業費用の実績は、次のとおりです。
変動費は5.0%、人件費は7.5%、その他固定費は10.4%増加しました。
なお、人件費には、役員報酬及び専従者給与は含まれておりません。
それぞれ個別に集計し、参考データとして掲載しました。役員報酬の母数は96件、専従者給与の母数は227件です。
(2)医業費用の傾向
2.2021年 収入上位診療所の経営実績
1.収入上位診療所の経営実績の概要
第1章で分析した歯科診療所323件(医療法人96件、個人開業227件)の決算書より、医業収入上位20%を抽出し、経営データを集計しました。
対象は65件で、内訳は医療法人41件、個人開業24件となっています。
なお本分析では人件費から役員報酬と専従者給与は除いています。
2.収入上位診療所の動向と利益の傾向
(1)経営動向と利益状況
2021年歯科診療所全体の経営実績は、収入上位診療所では増収増益となりました。
保険診療収入、自由診療収入も増加しています。
(2)利益動向
限界利益が11,384千円の増加で、医業利益が3,233千円の増加となりました。
限界利益が対前年比112.4%、医業利益は同10.7%増加という結果となりました。
3.医業収入の傾向
収入上位診療所の医業収入の実績は下記のとおりです。
医業収入合計では、対前年比111.7%となっています。
保険診療収入、自由診療収入とも伸びを示しています。
(1)医業収入 対前年比較
(2)医業収入分析結果
4.医業費用の傾向
(1)医業費用対前年比較
医業費用では、変動費は8.9%増加し、人件費12.4%、その他医業費用は13.3%、それぞれ増加しています。
なお、人件費の取り扱いは前述の通りで、役員報酬の母数は41件、専従者給与の母数は24件となります。
(2)医業費用分析結果
3.2021年 収入ランク別経営実績
1.収入ランク別経営実績の概要
本分析で抽出したデータは、2021年に決算を終えた歯科診療所323件(医療法人96件、個人開業227件)から、医業収入が年間5千万円未満、5千万円以上1億円未満、1億円以上に分けて、分析しました。
第2章のデータ同様、個人開業に統合したため、人件費から役員報酬と専従者給与は除いています。
医業収入別の個別データは、次ページ以降に掲載しました。
収入ランク別に集計した主要データは、下記のとおりです。
2.収入ランク別診療所経営実績分析結果
(1)医業収入5千万円未満の診療所の平均データ
医業収入5千万円未満診療所の歯科診療所は、増収増益となりました。
医業収入は508千円(対前年比1.7%)、医業利益は1,077千円(同14.1%)の増加となりました。
医業収入は微増ですが、その他の経費以外の医業費用を節約し、利益確保に努めています。
(2)医業収入5千万円~1億円の診療所の平均データ
医業収入5千万円~1億円の歯科診療所は増収減益となりました。
医業収入は3,327千円(対前年比4.9%)の増加でしたが、医業利益は、718千円(同△3.3%)の減少となりました。
これは、医業費用の内、接待交際費以外の経費が増加したためによる結果です。
新型コロナ感染症の予防対策の費用も含まれるようです。
(3)医業収入1億円以上の診療所の平均データ
医業収入1億円以上の歯科診療所は、増収増益の結果となりました。
医業収入は、17,586千円(対前年比13.8%)、医業利益は8,266千円(同25.6%)の増加となりました。
4.2021年 医療法人経営指標分析結果
1.医療法人経営指標分析結果
本章では、医療法人歯科診療所96件の貸借対照表の数値から経営指標を算出し、収益性、生産性、安全性、成長性の4つの視点で分析を行いました。
第3章までの分析は、医療法人・個人開業のデータを合算しましたが、経営指標分析においては医療法人歯科診療所を対象としています。
■2021年 比較損益計算書 医療法人無床診療所平均
経営分析に必要となる主要損益数値は、次のとおりです。
役員及び職員数についてはその平均値から、役員3名および、職員数7名の計10名で計算しています。
2.収益性分析結果
3.生産性分析結果
4.安全性分析結果
5.成長性分析結果
5.新型コロナ感染症を踏まえた新たな診療指針
新型コロナ感染症が広がってから、日本歯科医師会では令和2年8月に「新たな感染症を踏まえた歯科診療の指針」を出していました。
その後も新型コロナ感染症は変異株も数度発生し、また新たな変異株も出てきていますし、感染拡大も第6波が十分収まっていないまま、第7波の兆候も出ているようです。
日本歯科医師会では、自粛による在宅生活や自宅療養する感染者の増加といった状況に対し、口腔健康管理の重要性を示して徹底を促すことが必要ということで、歯科診療の指針を改訂し、発行しています。
1.感染症の基本知識と基本予防策
感染症とは、微生物が宿主の生体内に侵入・定着して、その後に増殖することにより、寄生状態が成立した場合を「感染」と呼びます。
口腔内の感染症のほとんどが、健康時にすでに持っている微生物によって起こる内因感染と呼ばれている物です。
(1)病原体と感染方法について
病原体はその大きさや構造により、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫等に分類されています。
この新型コロナ感染症は、ウイルスと分類され、細胞の構造ではなく、遺伝子の本体の核酸をタンパク質の殻で覆われただけの単純構造となっています。
大きさは直径約0.05から0.2μmで、生きた細胞に寄生することで増殖ができるようになっています。
感染方法も、接触感染、飛沫感染、空気感染、血液媒介感染等があります。
(2)口腔との関連
口腔は新型コロナウイルスの重要な侵入口です。
炎症を起こす気管支や肺など下気道への入口でもあるため、口腔の健康管理は予防の第一歩です。
新型コロナ感染症の症状は、口腔内、特に舌背、歯肉、及び唾液腺に発症していることが多いため、口腔内でウイルスが増殖している可能性があるとされています。
また、唾液中には多くの新型コロナウイルスが見られますが、そのウイルスが感染性を有しているため飛沫感染やエアロゾル感染の原因となっています。
(3)歯科医院における感染予防策
基本的な感染対策は、標準予防策(スタンダード・プリコーション)と感染経路別予防策です。
基本的な予防策を徹底することが重要です。
2.スタッフへの予防と健康管理
(1)体調管理
歯科医院を含む医療従事者が感染源とならないために、スタッフの健康管理が大切です。
新たな変異株の拡大もあり、感染経路が不明のため、市中感染から家庭内感染も増加しています。
知らず知らずのうちに感染し、無症状の方も多くいるようです。
家族を含め、近くに感染者や濃厚接触者が居ないか、という観察や注意をして本人が感染しないための予防と管理が必要です。
(2)医局(スタッフルーム等)内での注意事項
診療には歯科医師とスタッフ間でのコミュニケーションが重要ですが、新型コロナ感染症対策のため、常時マスク着用と密とならない距離を保つことが重要です。
3.新型コロナ感染症に対する行動フローチャート
新型コロナウイルス感染症の症状が出た場合の対策を口頭での注意ではなく、紙面等によってスタッフへ通知し各家庭でも共有してもらい、実際に出た場合には、当人と家族、医院で協力し合って対応します。
※本文中、各表の金額は表示単位未満を四捨五入しており、端数処理の関係上合計が一致
しない場合があります。
■参考資料
日本歯科医師会:新たな感染症を踏まえた歯科診療の指針 第2版