- 2022年度診療報酬改定 4つの視点
- 歯科医療機関の役割やあるべき歯科医師像が議論
- 日本歯科医師会からの要望事項
- 次期診療報酬改定に向けた議論
1.2022年度診療報酬改定 4つの視点
2022年度の診療報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会総会(以下、中医協総会)において令和3年7月より議論が進められています。
2022年度の診療報酬改定は、これまで進めてきた医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進、医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進などを踏襲しつつ、コロナ・感染症対応を意識した改定内容となる見通しです。
また、日本歯科医師会では、歯科診療報酬関係で厚生労働省に対して「歯科診療報酬の充実と財源確保」という要望を出しています
1.2022年度診療報酬改定の基本的4つの視点
厚生労働省では、これまでの改定の流れを継承しながら、今般の新型コロナウイルス感染症等への対応や、感染拡大により明らかになった課題を踏まえた地域全体での医療機能の分化・強化、連携など、効率的・効果的で質の高い医療提供体制を構築することと、医師等の働き方改革等を推進することが重要であることから、視点1及び視点2を重点に、患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現と、効率化・適正化を通じた制度の安定性と持続可能性の向上という4つの視点で議論を進めています。
2.新型コロナウイルス感染症等にも対応できる医療体制の構築
新型コロナウイルス感染症の感染拡大においては、局所的な病床・人材不足の発生、医療機関間の役割分担・連携体制の構築等の地域医療の様々な課題が出て、その中で各病院が機能に応じた役割を果たし、かかりつけ医を中心とした外来医療や在宅医療において、適切な役割分担から必要な医療を提供することの重要性も再認識されました。
今後は新型コロナウイルス感染症の対応は、平時でも感染拡大時でもその取り組み等について、地域の行政・医療関係者の間で議論・準備がなされていくことが必要です。
コロナ対応の経験やその影響も踏まえ、診療報酬改定においても、外来・入院・在宅を含めた地域全体での医療機能の分化・強化、連携を引き続き着実に進めることが必要です。
3.安心・安全で質の高い医療実現のための医師等の働き方改革の推進
地域医療構想の実現に向けた取り組み、実効性のある医師偏在対策、医師等の働き方改革等を推進し、総合的な医療提供体制改革を実施していくことが求められています。
時間外労働の上限規制の適用が開始される2024年4月に向けての準備期間も考慮すると、今回の改定が最後の機会になると思われ、今後の総合的な医療提供体制改革の進展の状況、医療の安全や地域医療の確保、患者や保険者の視点等を踏まえながら、実効性ある取り組みについて検討する必要があります。
4.患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現
患者の安心・安全を確保して、医療技術の進展や病状の構造変化等を踏まえて、第三者評価やアウトカム評価など客観的な評価を進めながら、デジタル化への対応、イノベーションの推進、不妊治療の保険適用等のような新たなニーズ等に対応できる医療の実現につながる取り組みの評価を進める必要があります。
また、患者自身が納得して医療を受けられるよう、患者にとって身近で分かりやすく、安全・安心で質の高い医療を実現していくことが重要です。
5.効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上
高齢化や技術進歩、高額な医薬品開発等により医療費が増大していくことが見込まれる中、国民皆保険を維持するため、制度の安定性・持続可能性を高める取り組みが必要です。
医療関係者が共同して、医療サービスの維持・向上を図るとともに、効率化・適正化を図ることが求められます。
2.歯科医療機関の役割やあるべき歯科医師像が議論
2022年度診療報酬改定で歯科医療体制の検討会では、歯科保健医療ビジョンの概要として、地域包括ケアシステムにおける歯科医療機関等の役割やあるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能や役割、具体的な医科歯科連携方策と歯科疾患予防策が議論されています。
1.地域包括ケアシステムにおける歯科医療機関等の役割
歯科医療体制の検討会では、高齢化の進展や歯科保健医療の需要の変化を踏まえた、これからの歯科保健医療の提供体制の目指すべき姿について、国や地方自治体、関係団体、歯科治療を行う病院や歯科診療所は、歯科医療従事者、医師等を含めた医療従事者、そして国民全体に向けて、目指すビジョンを発信する必要があると考えられています。
2.あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割
かかりつけ歯科医の3つの機能として、「住民・患者ニーズへのきめ細やかな対応」「切れ目のない提供体制の確保」「多職種との連携」とされています。
「かかりつけ歯科医機能評価の充実」として2018年度診療報酬改定(一部改変)が掲げられましたが、再度、確認されています。
3.具体的な医科歯科連携方策と歯科疾患予防策
医科歯科連携等の多職種連携を推進するには、医科や介護分野等からの歯科保健医療に対するニーズの把握が必要です。
現状の医科歯科連携等の状況を評価するための方法や、歯科診療情報等の活用方法から連携を進めることの検討も重要です。
病院での連携は、周術期口腔機能管理センター等の連携部門の設置や、入院患者のADLやQOLの向上のために、リハビリ部門等の機能回復部門への歯科保険医療の関与、ガンや脳卒中等の患者に対する口腔機能管理等の推進等が考えられます。
4.ICTを活用した医科歯科連携の検証事業
医師の負担軽減のために、歯科医師がいない病院等において、ICTを活用した歯科医師介入による口腔機能管理を推進することの検証事業が検討されています。
3.日本歯科医師会からの要望事項
日本歯科医師会では、2022年度の制度・予算に関して、厚生労働省、文部科学省、内閣官房、内閣府、歯科医療提供や歯科口腔保健、歯科診療報酬、医療安全、歯科医療機器・医薬品、医療情報、災害対策等の関係において、様々な視点から要望を出しています。
1.2022年度診療報酬改定への要望事項
国民の健康増進、健康寿命の延伸を目的として、かかりつけ歯科医を中心とした健診や治療、重症化予防等の管理の流れを確立し、切れ目のない長期的視野に立った口腔健康管理は不可欠です。
さらに、介護予防や脳血管疾患等による摂食・咀嚼・嚥下機能の低下、認知症患者等の口腔機能低下への対応は重要であることから、日本歯科医師会では、2022年度診療報酬改定において、口腔機能管理をはじめとした歯科医療充実のため、これまで以上の十分な財源の確保を要望しています。
また、新たな感染症を踏まえたさらなる感染防止対策や診療体制についての適正な評価、医科歯科による多職種連携で、要介護者、周術期等患者、糖尿病患者、妊産婦等への対応について、医療情報の共有をはじめ、きめ細やかな配慮や連携ができるよう制度のさらなる充実を要望しています。
2.歯科医療機器・医薬品関係への要望事項
歯科における医療機器は、医科と異なり多品目少量生産となっています。
このため、研究開発投資に対する回収率が低いことや、規制(薬事承認)対応コストが高いこと等から新製品の開発が進みにくく、医療機器メーカーでは採算性が優先され、なかには必要な医療機器の生産供給が中止されることもあり、外国製品のみ提供される状況が起こっています。
国民に安心・安全な医療を提供するためには、確かな医薬品、医療機器が必要であり、日本歯科医師会では、上記のような現状を踏まえ、日本再興戦略や未来投資戦略等、国の方針から、下記に示す環境整備を要望しています。
3.安心・安全な歯科器材の提供と薬剤耐性対策に掛かる予算措置要望
日本歯科医師会では、国民へ安心・安全で良質な歯科医療を提供するためには、歯科器材の薬事承認や新規開発は必要不可欠としています。
特に薬事承認に関しては、承認審査の基準として用いられるJISの基となる国際規格との整合性を図ることが、国際化の一環として国策として進められており、ISO/TC106(国際標準化機構、歯科器材の規格作成を担当する技術委員会)における活動が重要となります。
自国の規格を国際規格に取り入れることは、国民に対して安心・安全な歯科医療の提供だけでなく、自国の産業発展のために極めて重要であり、予算措置を要望しています。
また、薬剤耐性菌が世界的に問題となっており、日本での薬剤耐性菌の状況、抗菌薬の適正使用等、薬剤耐性菌に対する感染対策などを踏まえ、歯科医療従事者に薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)対策の周知を行っています。
この問題を喫緊の重要事項と捉え、これまで以上に周知及び啓発に取り組むことが重要であると考え、講習会等の取り組みに係る予算措置を要望しています。
4.医療情報関係への要望事項
医科・歯科連携をはじめとする多職種連携による医療情報連携の推進は、国民の健康の回復と、その保持・増進に極めて有効と考えられます。
日本再興戦略、未来投資戦略等において、ビッグデータ活用によるイノベーション促進、医療現場や政策への活用を明記し、患者データの長期追跡や、民間利活用の拡大等、これら膨大なデータを活用して、医療現場にエビデンスに基づく診療支援等、医療関係者や患者がメリットを感じられる仕組みの構築を目指すとしている中、データヘルス集中改革プラン等において、歯科医療機関が様々な分野で活躍する意義は大きいと考えます。
4.次期診療報酬改定に向けた議論
中医協の総会において、2021年7月より2022年度診療報酬改定について、各項目の論点等に対して議論を行っています。
1.在宅歯科医療についての論点と主な意見
歯科訪問診療を行っている歯科診療所と連携機能を強化している在宅療養支援歯科診療所は増加傾向にあります。
在宅歯科医療を推進する観点から、歯科訪問診療料の見直しや外来受診していた患者について、かかりつけ歯科医が継続的に歯科訪問診療を実施した場合の評価など、評価の充実を行ってきています。
また、歯科訪問診療料を算定した患者における、口腔機能の評価に基づく継続的な歯科疾患の管理についても評価の充実を行っています。
このような状況から中医協総会では在宅歯科医療についての論点と、論点に基づく歯科訪問診療推進に向けた意見が示されました。
2.地域包括ケアシステムの推進についての論点と主な意見
地域包括ケアシステムを推進する観点での現状と課題では、専門分野に応じた歯科診療所間の役割分担等により、機能分化を図ることとされています。
また、かかりつけ歯科医に求められる役割として、歯科疾患の予防・重症化予防や口腔機能等のきめ細やかなニーズに対する対応や、訪問歯科診療を含めた切れ目ない提供体制の確保、医科歯科連携等を含めた他職種との連携などが掲げられています。
3.安心・安全で質の高い歯科医療の推進についての論点と主な意見
前回、前々回の診療報酬改定において、院内感染防止対策を推進する観点から、歯科初診料及び歯科再診料の見直しを行いました。歯科初・再診料の院内感染防止対策に係る届出医療機関数は、2019年7月1日現在、65,200施設(約95%)でした。
4.生活の質に配慮した歯科医療の推進等についての論点と主な意見
歯科疾患の重症化予防を推進する観点から、2020年度診療報酬改定において、6か月以上の歯科疾患の管理及び療養上必要な指導を行った場合の評価を新設しました。
小児及び高齢者に対する口腔機能管理について、歯科疾患の継続管理を行っている患者に対する診療実態と合わせて、評価の見直しを行っています。
歯科固有の技術について、今までの診療報酬改定では、口腔疾患の重症化予防や口腔機能低下、生活の質に配慮した歯科医療を推進する観点から新規技術の導入を行っています。
■参考資料
厚生労働省:中医協 審議会 令和4年度診療報酬改定に向けた議論の概要
次期診療報酬改定に向けた基本認識、視点、方向性等について
中医協 審議会 令和3年8月4日 総会資料
公益社団法人:日本歯科医師会 令和4年度制度・予算要望書