- 令和2年度診療報酬改定の基本方針
- 院内感染防止対策の推進
- 口腔機能低下への対応と口腔管理の充実
- 口腔疾患の重症化予防の推進
1.令和2年度診療報酬改定の基本方針
年号が令和になって初めての診療報酬改定が行われます。
令和元年12月13日に令和2年度の診療報酬本体の改定率は、昨年4月に施行した働き方改革をあわせてプラス0.55%とすることとなりました。
本体は0.4%増、医師等の働き方改革分として0.08%増、薬価等は1.0%引き下げで最終調整を進めています。
1.令和2年度診療報酬改定率
令和2年度診療報酬の改定率は診療報酬本体では0.55%引き上げとなり、各科の改定率はそれぞれ、医科が0.53%、歯科が0.59%、調剤が0.16%引き上げとし、うち救急病院における勤務医の働き方改革への特例的な対応にプラス0.08%となっており、歯科の改定率が一番高くなっています。
一方で薬価は0.99%、材料価格は0.02%引き下げとする改定となりました。
2.診療報酬改定の基本方針
厚生労働省は、令和元年12月9日に社会保障審議会医療部会医療保険部会を開催して「2020年度診療報酬改定の基本方針」を確認し、同年12月10日に公表されました。
その中で、《1》健康寿命の延伸、人生100年時代に向けた「全世代型社会保障制度」の実現、《2》患者・国民に身近な医療の実現、《3》どこに住んでいても適切な医療を安心して受けられる社会の実現、医師等の働き方改革の推進、④社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和、の4つの方針を明示しました。
また、改定の基本的視点と具体的方向性も示されています。
3.診療報酬改定のスケジュール
診療報酬の改定は、内閣や社会保障審議会、医療保険部会、医療部会、中央社会保険医療協議会、厚生労働大臣等の議論・検討によって決定されます。
スケジュール的には、1月以降は厚生労働大臣から諮問され、中央社会保険医療協議会で調査や審議が行われて(公聴会、パブリックコメントの実施等)、2月上旬頃には厚生労働大臣に答申の後に、3月上旬頃に厚生労働大臣より診療報酬改定にかかる告示や通知が発出されます。
併せて、新設点数や変更点にかかる疑義解釈(改定Q&A)が公表されます。
2.院内感染防止対策の推進
令和2年度診療報酬改定の基本的視点と具体的方向性で示されているように、「感染症対策、薬剤対策の推進」に対しては、厚労省は様々な観点から取り組んでいます。
この基本的視点は平成30年度診療報酬改定時から継続して掲げられている具体的項目です。
1.歯科外来診療における院内感染防止対策の論点
(1)院内感染対策の現状と課題
平成30年度の診療報酬改定において、院内感染防止対策を推進する観点から、歯科初診料及び歯科再診料の見直しを行い、新たに歯科外来診療環境体制加算が新設されました。
この施設基準の届出件数は、65,294施設(令和1.10.1現在)で全体の約95%に上っています。
また、歯科医院における院内感染防止対策に対する関心の高まり等をうけ、平成31年3月に「一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版)」(日本歯科医学会)がとりまとめられました。
(2)院内感染対策の基本的フロー
院内感染対策に向けては、日本歯科医学学会の指針をもとにした資料から厚生労働省医療課で作成した院内感染対策マニュアルがあります。
歯科外来診療においては、日常的に唾液もしくは血液に触れる環境の下で多くの器具や器械を使用しています。
その器具や器械は患者ごとに交換と滅菌が必要なものが多々あり、歯科治療の基本セットやハンドピース、スケーラー、口腔内バキューム、印象用トレー等のほかに患者用エプロンやうがい用のコップ等もそのなかに含まれます。
(3)歯科衛生士の配置不足による影響
歯科衛生士の求人倍率は20倍以上となっており、雇用が困難になっています。
また、歯科医院に勤務する歯科衛生士数は「0人~1人」となっており、歯科衛生士の退職により歯科外来環境体制加算の施設基準を満たさなくなる可能性があります。
2.院内感染防止対策の改正案
(1)院内感染防止対策の具体的内容
院内感染防止対策に係る要件に関しては、歯科初診料や歯科再診料の施設基準を、具体的な点数はまだ検討中ながら、見直す方針が示されています。
また、歯科初診料と歯科再診料の評価も充実することになりました。
(2)院内感染防止に必要な対応策
院内感染防止には、滅菌や消毒といった具体的対策もありますが、次期改定では、教育や研修、体制構築といったスタッフ等への意識付けや知識習得への取り組みを診療報酬上の評価に反映させることが検討されています。
3.口腔機能低下への対応と口腔管理の充実
次期診療報酬改定で示された基本的視点の「患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現」には、口腔機能低下への対応の充実と生活の質に配慮した歯科医療の推進があります。
具体的には、ライフステージに応じた口腔機能管理の推進や、歯科固有の技術の評価の見直し等が検討されています。
1.ライフステージに応じた口腔機能管理の評価新設
(1)口腔機能管理科の新設
歯科疾患管理料の口腔機能管理加算及び小児口腔機能管理加算について、歯科疾患の継続管理を行っている患者に対する診療実態に合わせて要件等を見直すことになりました。
特に小児口腔機能管理加算及び口腔機能管理加算の扱いを見直し、口腔機能の発達不全を有する小児及び口腔機能が低下している患者に対して、口腔機能管理を実施した場合の評価を新設するとしています。
(2)非経口摂取患者に対する口腔管理の評価新設
経口摂取が困難な口腔の自浄作用の低下した療養中の患者に対する痂皮(かひ)の除去等を評価することになりました。
2.歯科固有の技術の評価の見直し等
歯科固有の技術について、実態に合わせた見直しを行うとともに、歯科医療の推進に資する技術については、診療報酬調査専門組織医療技術評価分科会等の検討を踏まえつつ、口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応及び生活の質に配慮した歯科医療の推進の観点から適切な評価を行うことになりました。
具体的には、区分C2(新機能・新技術)で保険適用された新規医療技術について、それぞれ技術料の新設等を行うことになりました。
このほか、医療技術評価分科会における検討結果を踏まえ、医療技術の評価及び再評価を行い、優先的に保険導入すべきとされた新規技術の保険導入及び既存技術の診療報酬上の評価を行うことと、口腔疾患の重症化予防や口腔機能低下への対応、生活の質に配慮した歯科医療の推進及び臨床の実態等を踏まえ、既存技術の評価の見直しを行うことになっています。
3.機械的歯面清掃処置とCAD/CAM冠の改正
(1)機械的歯面清掃処置の改正
糖尿病患者に対する口腔管理を充実する観点から、機械的歯面清掃処置の対象を拡大することになりました。
具体的には、医科の保険医療機関との連携に基づいた糖尿病患者に対する機械的歯面清掃処置の算定要件を見直すことになりました。
(2)CAD/CAM冠の対象拡大
コンピュータ支援設計・製造ユニット(歯科用CAD/CAM装置)を用いて製作する歯冠修復物の対象の拡大が予定されています。
具体的には、CAD/CAM冠の適応を上顎第一大臼歯にも拡大されます。
4.口腔疾患の重症化予防の推進
次期診療報酬改定の基本方針である「患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現」において、「重症化予防の取組の推進」を掲げ、歯科口腔疾患の重症化予防の観点から、様々な見直しに取り組むとしています。
1.口腔疾患の重症化予防治療の新設
(1)口腔疾患の重症化予防等に関する論点
初診時に歯科疾患管理料を算定して、その3か月後までに再診がないケースがある一方で、歯科治療終了後に長期的な継続管理を行うと喪失歯数が減少する等、良好な口腔状態を維持できることが認められています。
そのため、口腔機能管理加算および小児口腔機能管理加算については歯科疾患管理料の加算として位置づけられているので、検査・診察等を同一日に実施する必要があるとされています。
(2)歯科疾患管理料の見直しと歯周病重症化予防治療の新設
初診月に歯科疾患管理料の評価の見直しや、歯科疾患に対する管理及び療養上必要な指導について、継続的な長期管理を実施した場合の評価を新設することになりました。
また、歯周病安定期治療の対象となっていない、歯肉に限局する炎症症状を認める患者に対する歯周病重症化予防治療を実施した場合の評価が新設することになりました。
2.歯科疾患管理料の評価見直し
(1)歯科疾患管理料の改定
歯科疾患管理料について、長期的な継続管理等の評価をさらに充実させる観点から、初診時に係る評価を見直すとともに、長期的な継続管理について新たな評価を行うとしています。
(2)歯周病患者に対する継続的な治療に対する評価
歯周病安定期治療の対象となっていない歯周病を有する患者に対する継続的な治療について新たな評価を行うとしています。
■参考資料
厚生労働省ホームページ:中医協 審議会 令和2.1.29 会議資料
中医協 審議会 令和1.12.13 会議資料
令和2年度診療報酬改定の基本方針(概要)