怒りを上手にコントロールする! アンガーマネジメント実践法

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怒りを上手にコントロールする! アンガーマネジメント実践法

  1. アンガーマネジメントとは
  2. 「怒り」の本質を知る
  3. 「怒り」への上手な対処法
  4. 自分の感情を上手に伝える方法

 


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目次

1.アンガーマネジメントとは

職場や日常生活において、誰しも怒りの感情を抱く瞬間はあるものですが、この怒りの感情を自分の思うがままに相手にぶつけると、周囲との関係は悪化します。
職場において、怒られた部下が上司に対してパワハラだと感じた割合は、怒った側の上司がパワハラだと感じた割合の3倍以上あり、認識の違いが大きいというデータもあります。
今回は、怒る際の感情コントロールを可能にするアンガーマネジメントのポイントについて解説します。

1.アンガーマネジメントが注目されてきた背景

(1)怒る人が増えた理由

社会が複雑化し競争も激化している中で、多様な価値観を持つ人が集まったビジネスの場面では、考え方の違いや世代間のギャップなどから上司と部下に考え方の食い違いが生じやすく、そのギャップにストレスを感じると、怒りが生まれやすくなります。
また、社会生活が便利になりすぎているため、不便や不快なことに対する忍耐力が低下し、些細なことに対してもイライラしやすい人が増えたのも、その要因のひとつでしょう。

(2)アンガーマネジメントが広まった背景

アンガーマネジメントは、怒り(anger)の感情と上手に付き合うための技術であり、怒りをなくすことではありません。
怒る必要があるときに、上手に怒ることも含みます。
すなわち、怒りを知り、対処できるようになるための技術です。
アンガーマネジメントは、1970年代にアメリカで開発された怒りの感情をマネジメントするための「感情理解教育プログラム」です。
このプログラムは、身近な人へのDVや犯罪者への矯正プログラムとしてカリフォルニア州を中心に実施され、その取り組みは大きな成果がみられており、全米の教育機関や企業でも広く導入されてきました。
最近は日本でも、教育の現場や企業の研修などで広がりをみせています。

2.アンガーマネジメントは「怒り」の技術である

(1)上司が叱らない理由

上司が感情的な言葉を発すると、その後の上司と部下の関係がぎこちなくなったり、行き過ぎた指導になると、部下からパワハラであると訴えられるケースも増えています。
それを恐れて上司が部下を叱らなくなると、上司の発言力は低下し、部下は好き勝手な行動をして、統制のきかない組織になってしまうかもしれません。
よって、ビジネスの場面では、部下に対して叱ること、怒ることは、上司の考え方を指導する上では必要です。感情を上手にコントロールした叱り方を身に付けることができれば、部下は成長し、生産性も向上することが期待できます。

上司が叱らない理由

(2)怒りで後悔しないことがアンガーマネジメントである

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会では、アンガーマネジメントを「怒りで後悔しないこと」と定義づけています。
決して、怒ってはいけないということではなく、怒る必要がある場合には、適切な怒り方を身に付けることと、怒らなくとも良い場面では怒らずに済むようになることを目指しています。

アンガーマネジメントは

3.「叱る」は相手へのリクエストであると捉える

人間には誰でも人から認められたいという承認欲求を持っていると言われています。
そのために、上司から叱られると、自分の行動を否定されたと感じてしまい落ち込んだり、反発したりします。
一方、上司側に立つと、「部下に気づかせたい」や、「やる気にさせたい」という気持ちで相手を叱っても、その気持ちが伝わらないことはよくあることです。
そもそも「叱る」とは、「部下の言動や行動の良くない点を指摘して、強くとがめること」とされており、その理由がはっきりしていれば、「叱る」ことは必要といえます。
「叱る」ことを相手の改善を促すための言動とすれば、自分の感情をぶつけるような叱り方ではなく、相手へのリクエストであり、自分の気持ちを伝える手段として活用することが望ましいでしょう。
「叱る」ことが上手な上司は、リクエスト上手といえます。

リクエストを意識した「叱る」例

4.怒りたいときに注意する点

上司には、怒れば「部下は思うように行動してくれる」という発想を持っている人がいます。
しかし実際には、怒りでなんとかしようとすればするほど、状況はかえって悪化するケースのほうが多いのです。
怒られた側は、「とりあえず言うことを聞いておけば良い」と、納得して行動を変えているわけでないことも多く、長期的にみれば信頼関係は築きにくくなります。

怒りたいときに注意する点

2.「怒り」の本質を知る

1.怒りの感情が沸いてくる構造

(1)怒りは自分の身を守るための感情

怒りは、自分の身を守る防衛のための感情ともいわれます。
動物が敵に襲われそうになったときには、恐怖を抑えて敵と対峙しますが、人間にも同じような反応があります。
このとき脳内にアドレナリンが分泌され、心拍数が上がり戦闘態勢になります。感情的になって部下を攻撃してしまうのは、上司自身、無意識に自分が傷つかないようにしている場合があるかもしれません。

(2)怒りに隠れた感情を探る

怒りは、二次感情ともいわれています。
怒りはとても強い感情のため、その裏側にどんな感情が潜んでいるのか、私たちはなかなか気づけないのです。
怒りの裏側には、本来分かって欲しい感情である「一次感情」があります。

怒りに隠れた感情を探る

怒ってカッとなると、怒りの感情だけが表に出てしまいがちです。
そうなると、相手に本来分かってほしかった本当の気持ち(一次感情)を理解してもらえないままになってしまうのです。
心の状態をコップと水に例えて考えてみます。心配、焦り、不安などの感情を水とし、その感情の許容量をコップとします。
コップに入っている水の量が少なければ、さらに注ぎ足しても溢れませんが、水が沢山入っている状態では、すぐに溢れてしまいます。
この溢れてしまった水が「怒り」です。
例えば、部下がしょっちゅうミスや失敗を繰り返すような場合、イライラしやすくなっているかもしれません。
人によって、持っているコップの大きさは違いますし、状況によって、コップに満たされている水の量も違います。
この心のコップが溢れないように、水が溜まってきたら時々コップの外にこぼして、気持ちをリセットするような方法を持っておくと良いでしょう。
また、心のコップを大きくして、水が溜まっても溢れにくい、すなわち怒りにくい思考パターンをつくることで、気持ちに余裕が生まれます。

心のコップ

2.怒りの原因

(1)怒りの原因はその人の「ゆずれない価値観」「べき」

誰でも「◯◯であるべき」「◯◯するべき」と考えていることがあると思います。
育った家庭のしつけなどからできた「べき」から、人生経験を通してできた「べき」など、人が生きていく中で、様々な「べき」が構築されていきます。
それが誰にでも通じる「常識」「当たり前」と思ってしまうことはありませんか?
これが落とし穴で、人それぞれの「べき」があるため、そのとおりにならず裏切られたと感じてしまうため、「えっ!?なんで!?◯◯であるべきなのに…」と怒りが生じるのです。

相手に自分の価値観を押し付けてしまいがちな「べき」

(2)「べき」は、人それぞれ違う

自分にとっては頭にくることでも、相手にとってはそうでもないということはよくあります。
自分にとっての「べき」が裏切られたとき、「普通は◯◯するよね!?」「これって当たり前だよね!?」と言って怒る人がいますが、自分にとっての「当たり前」と相手にとっての「当たり前」は違います。
「べき」に正解、不正解はありません。
長年信じてきた自分の「べき」は自分にとっては真実なので、信じていていいのです。ただし、全ての人にとっての真実ではないことを知っておきましょう。
イライラすることが多いときには、ぜひあなたにとっての「べき」を洗い出してみましょう。
自分の内側に潜む「べき」が分かれば、怒りと上手に付き合えるようになります。

3.「怒り」が生み出す弊害

怒りは、上から下へ、強い人から弱い人へ向けられます。
その内容や状況によってはパワーハラスメントにあたる場合もあります。
もし上司が気分によって叱責したら、部下の立場ではどんなことが起こるでしょうか。
その叱責が理不尽だと思っても上司には言い返せず、ムシャクシャした気分で仕事に戻り、つい業務が粗雑になったり、自分が受けた怒りをさらに弱い立場の人へぶつけてしまったりすることがあります。
また、職場に不機嫌な上司が一人いるだけで、その場が険悪な雰囲気に包まれます。
これを情動伝染といい、怒りに限らずさまざまな感情は周囲に伝染するのですが、怒りはポジティブな感情よりも伝染力が強く、伝染するスピードも速いといわれています。
しかし、当の本人は自分が不機嫌でいることが周囲に影響を及ぼしていることに気づいていないことが多いのです。
怒ったときに感情的に表情や態度で表すのではなく、感情を適切に伝えることが重要です。

3.「怒り」への上手な対処法

1.怒りが鎮まるのは6秒

勢いで怒りを爆発させてしまった後に、「言い過ぎた」「どうしてあんな対応をしてしまったのだろう」と後悔してしまうケースがあります。
カチンときたときに「反射的な行動をとらない」ことが重要です。
例えば、部下の言動に対して「売り言葉に買い言葉」というように反射的に反応すると、感情にまかせた不適切な対応になってしまう危険性があります。
怒りのピークは、ほんの数秒間、一般的には約6秒間といわれています。
怒りが消失しなくても、この数秒間をやり過ごすことができれば、大きな失敗は回避できます。
怒りをクールダウンさせる方法がいくつかあります。
そこで、怒りに対する反応を数秒間遅らせるためのテクニックを紹介します。
状況に応じて試してみましょう。

6秒ルール

2.怒りを鎮める5つのポイント

怒りを鎮める5つのポイント

(1)深呼吸をする

怒りやストレスを感じる時は、自然と呼吸が浅くなり、緊張が高まります。
落ち着いた場所で呼吸を整える時間をとることができると、リラクゼーション効果によって怒りを軽減する効果が得られます。
呼吸に意識を集中することで、反射的な言動を防ぐこともできます。
その方法は、静かにゆっくりと口から息を吐き、吐ききったら自然に鼻から吸い込みます。
ゆっくりと数をかぞえ、吐くほうを長くするように意識して繰り返します。
深呼吸は、誰でも簡単に取り組むことができるうえ、静かに呼吸を整えることで冷静な自分を取り戻すことができます。

(2)その場を離れる

イライラして冷静に対応できない時は、その場を離れるという選択もあります。
その場を離れることで冷静な感情を取り戻すことができます。

(3)思考をストップする

嫌な出来事が頭から離れずにいると、イライラが収まりません。
イライラした感情が収まらないときは、心の中で「ストップ!」と叫んで、思考を止めましょう。
「終わり!」「よし!次に進もう」など、思考に区切りをつけるような自分自身の掛け声(声に出さなくともよい)を準備しておくとよいです。

(4)目の前の物に集中する

イライラした感情をリセットするために、目の前に集中する方法も有効です。
これは意識を「今」「この場所」に集中させるテクニックです。
時計、ボールペン、服の縫い目…、目の前にある物だったら何でも構いません。
目の間にある「何か」をじっと観察しましょう。
ボールペンを見てみます。
色は?
ブランドは?
ロゴは?
キズは?
グリップの弾力は?
「こんなところにキズが付いている」「黒のインクが減っている」など、観察して感じたことを、つぶやいてみても良いでしょう。
こうすると、意識が「今、ここ」にくぎ付けされた状態になり、あれこれと怒りの考えが巡るのを止められます。
一度集中しても、また思い出して怒りが湧いてくるかもしれませんが、練習すれば怒りから離れられるようになります。

(5)感情をリセットする

1日の終わりに嫌な出来事をリセットするルールを決めておきましょう。
毎晩眠る前にストレッチをする、ゆっくりと呼吸を整えて身体をリセットするなど、簡単にできることです。
嫌な出来事があっても1日を過ごせたことに感謝の気持ちを持つという人もいます。
仕事中にイライラしたら、今までで一番気持ちのよかった場面を思い出して、そのときの感覚を呼び起こすという方法も有効です。
それは、いつ、どこで、誰がいて、どんな場面でしたか?
イライラしたときに、その感覚を思い出すことで、感情をリセットして、次の仕事に取り掛かるという方法もあります。

3.怒りの耐性をつくる

(1)気分転換のメニューを増やす

イライラが長引く人は、あらかじめ気分転換のメニューを増やしておくことや、毎日の生活のなかに感情をリセットする時間をつくることも効果的です。
ストレスやイライラへの対処として、実践している気分転換のメニューがあると思います。
それを普段は意識しないことも多いのではないでしょうか。あらためて思い返してください。

(2)パターンを崩す

人が怒るパターンはだいたい決まっていて、同じようなことに対して同じように怒る傾向があります。
自分がどのようなときにイライラするのか、怒りのパターンを知ることができれば、そのパターンを崩すことで怒りを回避できる場合があります。
例えば、使った物品は使った人が片付けるものと思っているのに、置きっぱなしになっている状況をみたときにイラッとしてしまうというような場合です。
自分がイライラするパターンに気づいたら、そのパターンを崩す方法を考えてみましょう。

(3)楽しいことに注目する

イライラしやすい人は、つい不満に意識が向きがちです。
反対に、感情のコントロールができる人は「快(こころよい)」の感覚を上手に捉えられています。
不満がなくなることを期待するよりも、「快」の感覚を大きくするように意識することで、イライラする状況から抜け出しやすくなります。

楽しい気分になれる感情例

4.自分の感情を上手に伝える方法

1.怒ったときのNGワード

(1)いつも・必ず・絶対

いつも・必ず・絶対

「いつも」「必ず」「絶対」という言葉が口ぐせになっている人は要注意です。
これらは、一方的に相手を決めつけてしまうので、怒っているときには使わないほうが良いでしょう。
言われた相手も「いつも失敗するわけじゃない」「忘れないときもある」と反論したくなり、素直に注意を聞き入れられないかもしれません。
たまたま今回起こった出来事が、「いつも」起こるとは限りません。
「何事にも例外がある」「違う場合もあるかもしれない」ということを念頭において、決めつけにならないように注意しましょう。
また、「いつも」「必ず」とひとまとめにせず、今回の出来事だけに焦点をあてて話すように心がけましょう。

(2)なんで?

なんで?

「なんで?」という言葉は、相手を責めてしまうことがあります。
「なんで?」と聞かれても答えようがないと、とりあえず謝るか、言い訳するか、反論するか、不毛なやりとりになるだけです。
しかし、ビジネスの現場でミスや事故が起きた時は、その事実を振り返り、対策を講じ、安全性を高めていくことが求められます。
出来事を振り返る際、理由を探り分析する作業は不可欠です。
その上で、「なんでできないの?」を「どうしたらできるかな?」に言い換えてみてください。
否定でなく、一緒に考えようとする姿勢が伝わると思います。

(3)前から思っていたけど

前から思っていたけど

怒った時に、「前から思っていた」と過去を持ち出すのもNGです。
話の論点が逸れて、本来伝えたいことが定まらなくなります。
本当に前から思っていたとしたら、その都度、伝えなかったことで怒りが溜まって、今の出来事をきっかけに爆発してしまう危険性もあります。
言われた方も、「前から思っていたならその時に言って」と思うのではないでしょうか。
その時の怒りに連動して何かを思い出したり、便乗して言いたくなったりしても、過去を持ち出すことは控えて、今の出来事だけをみるようにしましょう。

2.言い換えのヒント

(1)「私メッセージ」を使う

紹介したNGワードは、「君はいつも失敗する」「君は何でできないの?」「あなたは◯◯だ」という、相手を主語にした伝え方です。
それが、相手を決めつけてしまうことにつながります。
改善策の一つに、「あなた」を主語にした言い方を、「私」を主語にした言葉に言い換える方法があります。
これを「私メッセージ」「I(アイ)メッセージ」といいます。
「(私は)ミスが繰り返されることが心配です」「(私は)伝達漏れがなくなるように改善策を考えたい」などのように、「私」を主語にして、気持ちや考えを伝えます。

(2)共感の言葉を使う

相手への共感を示して、そのうえで具体的な提案をするという方法もあります。
形式どおりにいかなくても、「なるほどね」「たしかに」「そのとおり」「そうですね」など、一言添えるだけでも変わります。

(3)リクエストに変える

相手に改善して欲しいことは、具体的に提案しましょう。
その際、命令するのではなく、相手にお願いする・リクエストするという言い方で伝えてみてはどうでしょうか。
「全くもう、いい加減にして!」と言われても、何をどう改善したらよいのか分かりません。
具体的で小さな行動変容を提案します。
「メモを取るようにしてみたら」や「やることを思い出せるように時間を決めてメモを確認するようにしてみたら」など、小さな行動をリクエストしてみましょう。
言い方や伝え方は、練習すれば身につけることができます。いろいろ試して、コツをつかんでいきましょう。

3.アサーティブ・コミュニケーションを活用する

アサーティブ・コミュニケーションとは、自分の気持ちや考えを相手に伝えると同時に、相手のことも配慮するやり方で、言い換えると自分も相手も大切にするやり方です。
アサーティブな自己表現では、攻撃的自己表現でも非主張的自己表現でもなく、自分の気持ち、考え、信念に対して正直・率直に、また、その場にふさわしい方法で表現します。
アサーティブ・コミュニケーションの導入によって大きな改善が期待できるものの一つに、「上司と部下の関係」があります。
上司がアサーティブ・コミュニケーションを身に付けると、部下に自分の考えを素直に伝えることができるとともに、上司と部下の関係が良好になります。

アサーティブ・コミュニケーションの特徴

社員一人ひとりの主体性が求められ、上司には部下の主体性や自立性を高めるようなマネジメントが求められている今のビジネス社会では、アサーティブ・コミュニケーションの重要性がより一層増しています。
自分の怒り感情を上手くコントロールできると、部下の成長につながったり、社内コミュニケーションが良好になることが理解いただけたと思います。
今回の内容を参考にしていただき、叱り上手になっていただければ幸いです。

 

■参考資料
『アンガーマネジメント 叱り方の教科書』(安藤俊介著 文昇堂)
『アンガーマネジメント 怒らない伝え方』(戸田久実著 かんき出版)
『怒りが溶ける! 優しくなれる! アンガーマネジメント』
(大正谷成晴、西村智宏、箱田高樹共著 コミックス出版)

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