自社独自の「価値」を生み出す中小企業の ブランディング戦略

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自社独自の「価値」を生み出す中小企業の ブランディング戦略

  1. 中小企業におけるブランディングの必要性
  2. 現状分析とターゲット選定方法
  3. 企業価値を高めるブランディング活動の進め方
  4. ブランディングに成功した3つの事例

 


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目次

1.中小企業におけるブランディングの必要性

高度成長期からインターネットが普及する前までは、「大量生産・大量消費」の時代であり、メーカーは「作れば売れる」、小売りは「出せば売れる」、営業マンは「行けば売れる」時代でした。
しかし、インターネットが普及し、情報が簡単に手に入るようになっている昨今は、消費者の「見る目」が向上し、ニーズも多様化してきています。
そのため「高品質」というだけでは競争に勝てず、いかに顧客のニーズを引き出すことが出来るかが重要となっています。
今回は、企業価値を向上させる「ブランディング」に着目し、自社の業績向上につながる「ブランド化」のポイントについて解説します。

1.「ブランド」とは

(1)ブランドが持つ3つの役割

ブランドというと、ファッションの世界では「ファッションブランド」として使われることがあります。
食の世界では〇〇牛などと、産地が限定された牛肉を指すときに使われることもあります。
このブランドという言葉は、もともと家畜やワインの酒樽などに産地等を区別するときに入れたマークのことを指しています。
このブランドという言葉から「ロゴマーク」を思い浮かべることがあるかも知れませんが、そのイメージはある一面に過ぎないものです。
本来のブランドが持つ役割は、次の3つがあると言われいます。

ブランドが持つ3つの役割
①は、顧客の意思決定(購買や契約時)の時間短縮、ストレス軽減、コスト節減などが目的とするものです。
②は、リスク回避、不安の除去、問題への確実な対応などを期待し、安心感・信頼感を得ることができます。
③は、自己イメージ、価値観、ライフスタイルなどを表現する手段になり、それを手にすることで、一種のステータスにもなります。

(2)ブランド力をつけるメリット

そもそも「ブランド」とは、企業と消費者との接点を通して、消費者に評価され、消費者の心の中にイメージとして蓄積されていく価値のことです。
ブランドは目に見えず、金銭や数値では表すのが難しい模倣不可なもので、消費者の五感によって体験されて初めて、その認識価値を上げるのです。
そのため企業は、自社商品の特徴や企業イメージ、付加価値価などに一貫性を持たせて提供し、消費者が「ブランド」という心理的な企業価値を構築するよう働きかけます。
このように、消費者の認識価値を上げ、確固たる評価を得ていく役割をブランディングと呼びます。

ブランド力をつけるメリット

2.ブランド力を高める「ブランディング」戦略

企業にとってのブランディングとは、企業イメージを高める戦略であり、その目的は、市場でのライバルとの差別化であり、競争優位性を得るための戦略です。
つまり、「ブランド」は、「(有形・無形の)価値」そのものであり、「ブランディング」は、その「価値」を追求するための活動といえます。

ブランディングとは、

よって、競合他社の商品やサービスを模倣するだけでは「ブランディング」にはなりません。
競合他社および市場・マーケットを意識していきながら、「ブランディング」を行う上での方向性やビジョンを固め、そして自社が目指すべきポジションを見つけます。
企業価値と企業業績を考えた場合、まずは高品質、高価格を目指すべきです。

ポジショニングを確立し、自社ブランドを確立する

3.自社の製品、サービスの強みを知る

ブランディング化に向けて検討するべきことは、自社の強みを活かすということです。
自社の強みがあってもそれが消費者に訴求出来ていなければ、ブランドイメージは定着しません。
まずは、自社の強みを書き出し、外部から高い評価を得ている点や自社の社員が自社製品やサービスについて誇りを持っている点を強みとして取り上げ、それをブランディングでどのように活かすのかを検討します。

自社の強みの例

2.現状分析とターゲット選定方法

1.中小企業がブランディングで目指す領域

ブランディング活動のステップ1として、ブランドの現状分析を行います。
具体的には、「課題は何か」、「どうすればそれを克服し、ブランドの価値を高めることができるのか」を分析します。
そして課題を整理し、解決策を立ててから実行していくことが重要となります。
まず、「現実の姿」を正確に把握するため、3C分析が有効となります。
3C分析とは、Company(自社)、Customer(顧客)、Competitor(競合)の3つの頭文字をとったもので、マーケティング環境を漏れなく把握するためのフレームワークです。
自社の強みと課題点、競合他社の強みと課題点、顧客のニーズ・ウォンツについては3C分析を用いることで整理し、「見える化」できます。
3C分析によって自社の強みと顧客のニーズが一致している領域が下図の③と④になります。
しかし、③は「レッドオーシャン(競争の激しい領域)」と言い、競合他社の強みも合致している領域、つまり差別化されていない領域となります。
そのため、価格競争となってしまい、中小企業は大企業に勝ち目はなくなってしまいます。

(1)中小企業が目指す領域は「ブルーオーシャン」

ブランド力のある大企業の特徴

そこで中小企業は競合他社と重複しない、差別化された強みと顧客のニーズが一致した④を目指すことになります。
この領域は「ブルーオーシャン(競合相手のいない領域)」と呼ばれ、競合のない新しい市場に高付加価値な商品を低コストで提供することで、利益の最大化を実現する領域と言えます。
この領域を探し、価値プレミアムを生むことがブランド戦略の勝利の要因となります。

3C分析の各領域の解説

(2)自社の「強み」の見つけ方

自社でいくら議論しても強みや良さに気づけないという場合もあります。
そのような場合は、外部から情報を得るということも必要となります。
例えば、消費者から「何故自社の商品を買ってくれるのか」「自社のどこに魅力を感じているのか」をアンケート等の方法で調査を行うことも有効です。
また、自分自身が「売る側」ではなく「買う側」として商品を見るということも必要になります。
「買う側」として他社商品と比較することで、自社では当たり前だと思っていたことが、見方を変えると実は最大の強みだったということもあります。

自社の「強み」の見つけ方

2.ターゲット顧客の選定方法

ターゲット顧客の選定は、売りたい消費者を明確にするため、出来る限り絞り込むことが大切となります。
ターゲットを絞ることで、それぞれのニーズに応える事ができ、より消費者の心に刺さるブランドを作ることができます。

(1)ターゲット顧客の絞り込み

BtoC(一般消費者向けビジネス)の場合、性別、年齢層、趣味、生活スタイルなど、人物像がイメージできるレベルまでターゲットを絞り込みます。
BtoB(企業向けビジネス)の場合は、企業の業種、規模、地域までターゲットを明確にします。

(2)メインターゲットとサブターゲットに区分する

ターゲットの絞り込みにおいて、メインターゲットとサブターゲットに分ける方法があります。
その目的は、ブランド効果を高めながらも、売上の確保を行うことにあります。
メインターゲットとは、最も重要な、メインとなる顧客層です。サブターゲットはメインターゲット以外で重要な顧客層であり、「メインターゲットの次に重要な顧客層」または、「メイン向けにアピールすることで自然と取り込める顧客層」をイメージし設定します。

ターゲット顧客選定のポイント

3.ターゲットを明確にするシンボリックターゲット

ブランドのターゲットは狭めれば狭めるほど、より特徴のあるブランドとなり、よりこだわりの強い消費者に支持されますが、狭めすぎるとビジネスとして成り立たなくなる可能性があります。
一方、ターゲットを広げると対象となる消費者は増えますが、広げるにつれてブランドの尖り(他社を圧倒する強み)が無くなってしまいます。
また、競合ブランドと戦う領域へ入ってしまう可能性もあります。
そこで、どこまで絞るかを調節するときには、シンボリックターゲットを設定することが有効となります。
シンボリックターゲットとは、ターゲットが理想とする象徴的な人のことで、例えば「すべてに妥協しない人」としてイチロー氏を連想するようなことです。
ブランドのターゲットを絞りすぎたと感じた場合は、シンボリックターゲットを設定することで、距離感を調整しながら議論を行うことができます。

3.企業価値を高めるブランディング活動の進め方

1.目指す姿の明確化

ブランドづくりを実際に進めるにあたって、ブランドの中心となる考え方である「目指す姿」を明確にすることが重要となります。
「目指す姿」とは、「将来こうなっていたいという理想像」「ターゲットの消費者にこう思われたいという姿」のことです。
ブランディングのゴールは、消費者のブランドのイメージ=「目指す姿」となることです。
受け手に見え方や考え方の「ズレ」が生じないよう、「目指す姿」の明確化が重要となります。

2.「価値」を作り出すためのポイント

「目指す姿」を作るためには、現状の課題に対して、ブランドでどう解決したいのか戦略を考え、ブランドの提供価値を明確にする必要があります。

「目指す姿」を作り出すときのポイント

3.差別化するための3つの「価値」

消費者が商品を購入したり、使用したりすることで得られる利益=ブランドを構成する価値は、以下の3つから成り立っています。

差別化のための3つの「価値」

①機能的価値は、同等レベルの競合であれば比較的容易にマネすることができてしまうため、よほど機能的に優れた技術やサービスでないと、優位性を保つことができず、差別化を図ることができません。
しかし、そこに②情緒的価値や③自己表現的価値が付加されることで、機能的価値としては同等の商品があったとしても差別化を図ることができ、優位性を得ることができます。
そのため、まずは機能的価値の中で、自社の強みを整理し、その機能的価値を踏まえて情緒的価値や自己表現的価値を付加し、競合との差別化を図ります。

4.ブランドの「らしさ」を作る

ブランドの「らしさ」を作るためには、まずブランド要素を具現化することになります。
ブランド要素とは、ほかの商品(サービス)との差異を明確にするものです。
ブランド要素には、ロゴやデザインなどの視覚的な要素や、ブランド名やブランドステートメントなどの言語的な要素、音や匂いなど五感に訴えたブランド要素などがあります。
ブランドは、五感を通じてブランドを体験することによって消費者の頭の中に築かれていくため、ブランド要素の構築に注力する必要があります。
それぞれのブランド要素がブランドの「らしさ」を表現することで、統一感のあるブランドイメージが構築されていきます。
注意しなければならない点として、受け手である消費者が「らしさ」を感じ取ってはじめてブランドの「らしさ」が作られるという点です。
発信側の一方通行ではブランドは作られません。

ブランド「らしさ」の例

5.ブランドの「らしさ」を守る

ブランドを運営する上では、ブランドが「らしさ」から逸脱しないよう、徹底した管理が必要となります。

(1)世界観を崩さないためのポイント

ブランディングを行う際、商品パッケージや広告物、Webサイトなど、消費者にブランドを伝えるための制作物を作ることとなります。
その際に大切なのが、ルールを決めてガイドラインを作成し、ブランドを管理することです。これは、ブランドの世界観と異なるものや、ガイドラインから外れたものが世に出てしまうと、ブランドの「らしさ」が消費者に伝わりにくくなってしまうためです。
また、「らしさ」が伝わらないだけでなく、偽物と判断されてしまう危険性もあります。
「らしさ」を守るため、「人」ではなく「ルール」で管理することが重要です。

(2)従業員へのブランド教育

ブランドの「らしさ」を守るためには、インナーブランディングも重要となります。
インナーブランディングとは、従業員へのブランド教育を意味します。
なぜインナーブランディングが重要となるのかというと、従業員が自社のブランドを理解し、愛着を持って行動しなければ、消費者にはブランドの「らしさ」は絶対に伝わらないためです。
強いブランドを作るためにはブランドの内面を磨くことが必要です。
この「内面」に当たるのが従業員一人一人の行動となるのです。

インナーブランディングの施策例

6.ブランドづくりでやってはいけないこと

ブランドづくりにおけるNGは、「他社の商品のマネ」です。
もしマネをしたわけではなく、自然と似てしまった場合は、「目指す姿」が確固たるものとなっていないか、差別化が不十分であった場合が考えられます。
二番煎じでも利益が出れば良いという考え方もありますが、長期的にみるとブランド価値を築くことは難しくなります。
また、他社商品と間違って購入した消費者が「騙された」などのネガティブな感情を持ってしまい、ブランドイメージの低下にもつながってしまいます。

4.ブランディングに成功した3つの事例

1.タオルのイメージを変えた今治タオル

(1)ブランディングを行った経緯

四国タオル工業組合の組合員企業によって製造されている地域ブランド「今治タオル」は、海外からの安価なタオルの輸入が増えるにつれて、経営状況が悪化し、海外製品の輸入制限を申請するほどに状況はどん底となっていました。
そんな中、外部の意見を取り入れつつ、自分たちの強みである「安心、安全、高品質」を見つめ直し、それを徹底的に訴求していくため、ブランディングを行いました。

(2)ブランディングの成果

ブランドイメージの定着を狙って、職人の高度な技術によって作られた柄物のタオルをやめ、あえて無地のまっ白なタオルに変えました。
これが功を奏し、「今治タオル」=「白いタオル」というイメージを世の中に広められました。
また、顧客ターゲットについても、多少価格が高くても「安心、安全、高品質」な商品を求める消費者はどこにいるのかを模索し、東京のアンテナショップやヨーロッパの展示会へ出展を行うなど、自社製品をどのような人たちが購入するのか、ターゲット設定に基づきブランド化を進めていきました。
こうした取り組みにより、「いいタオルといえば今治タオル」、「白いタオルといえば今治タオル」といったブランドの作成に成功しています。

四国タオル工業組合のブランディング戦略のポイント

2.コアな顧客にターゲットを絞ったマツダ

次に、上場企業の事例ですが、中小企業のブランド戦略に参考となるマツダの事例を紹介します。

(1)ブランディングを行った経緯

自動車メーカーであるマツダは、90年代にはバブル崩壊による販売不振から経営状況が悪化していました。
不景気を打開するために他社に対抗して大幅な値下げを敢行しましたが、結果としてはマツダ車の価格の低下を招いてしまい、買取価格が大幅な値崩れを起こすという状況でした。
一度新車でマツダ車を購入してしまうとマツダ車しか買えない負の連鎖に陥る状況は、「マツダ地獄」と揶揄されたほどです。
そのような状況を打開するきっかけは、顧客がマツダに求めているニーズを見つめ直したことにあります。
大衆受けしなくてもいいから、マツダ車を愛するコアなユーザーをターゲットとし、その人々の要望に応える車づくりに着手しました。

(2)ブランディングの成果

マツダの世界シェアは約2%ほどであり、その2%のみをターゲットとしたことから、「2%戦略」と呼ばれることもあります。
また、新商品開発時のアンケート調査を熱狂的なファン5名のみに行いました。多くの人数に「広く、浅く」調査を行うのでは無く、熱狂的なファンであるからこその熱意のある意見・感想を提供してくれる、という目論見からこのような戦略を行いました。
ターゲットを徹底的に絞った戦略を行うことで、「マツダは2%のファンのためだけに車を作った」、「世界から5人だけの熱狂的なファンの意見を参考にした」という開発ストーリーが生まれ、ロイヤルティーの高いファンが心をつかまれ、自らも熱心なマツダファンとなり、伝道師としてファンの輪を広げていく、という行動につながりました。
このようなブランディング戦略によりブランド価値を向上させることに成功し、販売台数の増加につながっています。

マツダのブランディング戦略のポイント

3.インナーブランディングに力を入れたスターバックス

最後に、インナーブランディングに力を入れてブランドイメージを確固たる地位に押し上げたスターバックスの事例を紹介します。

(1)スターバックスにおける差別化戦略

スターバックスは、ブランドアイデンティティとして「人々の心を豊かで活力のあるものにするために~一人の消費者、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」を掲げています。
このブランドアイデンティティからわかる通り、スターバックスの主役は「人」であり、コーヒーは心の豊かさを実現するための脇役に過ぎないと考えています。
これを体現するためにスターバックスはロゴから「Coffee」の文字を削除し、「人々が集まるコミュニティを提供する」ということを明確にしました。
競合他社が安さや庶民的な印象を重視していた中、スターバックスは高級感や居心地の良さなどの潜在的なニーズを拾い出すなど、多くの差別化を行うことで独自のポジションに位置することができ、圧倒的な支持を得ることができました。

(2)インナーブランディングによるスタッフ育成

重要な顧客接点であるスタッフの育成としてインナーブランディングにも力を入れており、80時間を超える研修期間の中で、コーヒーの知識や淹れ方、掃除の仕方だけでなく、ブランドアイデンティティについての教育が行われています。
スターバックスはスタッフの満足度を重要視しており、行動指針の一つ目には「お互いに尊厳と威厳をもって接し、働きやすい環境を作る」と掲げています。
このようなインナーブランディングの結果、顧客は店内の居心地の良さに癒され、お店のスタッフに心からの笑顔で迎えられる。
そのような経験が積み重なり、顧客はスターバックスに徐々に感情移入し特別な存在となっていくことになります。

スターバックスのブランディング戦略のポイント

ブランディング戦略は、今後、中小企業が生き残る上で重要な戦略といえます。
「自社独自のブランド」の構築を行う際に、本レポートが参考になれば幸いです。

 

■参考文献
『ブランディングが9割』(乙幡満男著 青春出版社)
『ブランディングの教科書』(寺嶋直史著 日本実業出版社)
『ブランディング・ファースト』(宮村岳志著 株式会社クロスメディア・パブリッシング)
『今治タオル奇跡の復活』(佐藤可士和著 朝日新聞出版)

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