優秀なスタッフを採用し、定着させる 福利厚生の充実による雇用条件改善ポイント

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優秀なスタッフを採用し、定着させる 福利厚生の充実による雇用条件改善ポイント

  1. 雇用条件に関する基礎知識
  2. 働き方改革関連法遵守と見直しの視点
  3. 福利厚生制度を充実させる視点
  4. 医院独自の福利厚生制度事例

 


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1.雇用条件に関する基礎知識

近頃、院長から「求人広告を出しても応募が少ない」という話をよく聞きます。
歯科衛生士は以前から不足していましたが、受付兼歯科医療事務、歯科助手の応募も少なくなっているようです。
特に歯科医院では、土日診療や夜間診療等の勤務体制が特殊であり、特に若い方は、福利厚生制度の充実が働く条件の上位にあるようです。
歯科医院は、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士といった有資格者が多く働く職場です。
今、有能な人材確保のためにも雇用条件の改善が求められています。

1.歯科医院の雇用条件

(1)勤務時間

歯科医院の多くは夜間診療を行っており、中には平日休みで土日診療を実施している医院もあります。
医科の診療所では、平日1日と土曜日を午前診療としている先がありますが、歯科医院では平日は午前から午後の診療を行い、土曜日1日だけ午前診療という勤務時間になっている先もあります。
これらのケースでは「1か月単位の変形労働時間制」を採用しているケースがあります。
1か月単位の変形労働時間制は、週の平均労働時間がスタッフ10名未満の診療所では44時間まで認められているため、これを採用している歯科医院も多く見られます。

変形労働時間制

(2)交代制

10名未満の歯科医院が前述の変形労働時間制を採用していても、夜間診療を20時や21時まで実施している場合、フルタイムで勤務すると44時間でもオーバーしてしまいます。
そのため、正職員、パート職員を合わせて交代制(シフト制)を採用している歯科医院も多くあります。

2.業務兼任の実情

(1)受付兼歯科医療事務と歯科助手

歯科医院の多くでは、受付兼歯科医療事務の担当と歯科助手を兼任しているため、歯科助手業務を行っている時には受付は不在となり、呼び鈴等で受付対応を行っていることもあります。
また、レセプト業務を院長が行っている歯科医院の場合、業務量が少なくなるため受付・会計の他に歯科助手業務を兼任させている医院も見られます。

(2)放射線技師業務

歯科医院に放射線技師が在籍していることはほとんどありません。
スタッフがX線撮影の準備・設置を行い、歯科医師が曝射することになります。

(3)清掃と洗濯

新型コロナ感染症対策でのアルコール消毒(清拭)、ユニフォームやリネン等の洗濯を外注するのではなく、スタッフが行っている歯科医院も見られます。
外注費・委託費の節約が目的ですが、スタッフの通常業務後に行うため、時間外勤務になってしまい、清掃と洗濯業務に1.25倍の給与を支払うケースもあるようです。

(4)歯科衛生士業務

歯科衛生士不足のなか、本来歯科衛生士が行う業務も歯科医師が行っているため、患者一人に対する診療時間が長くなることがあります。

3.健康保険、年金の加入

法人もしくは個人事業の歯科医院で、スタッフが正職員及び正職員並みのパート職員(週所定労働時間と月の所定労働時間が正職員の4分の3以上)が5名以上の場合、協会けんぽと厚生年金は強制加入になります。
5名未満の場合は歯科医師国保(都道府県の歯科医師会に加入が条件)に加入し、年金はスタッフ各人が国民年金に加入するということを選択する場合が多いです。

法定福利厚生の種類と内容

4.休暇の取得

法律で定められた休暇には、様々な規定や条件がある場合もあり、法定休日の他、年次有給休暇、産前産後休業、育児休業、子の看護休暇、介護休業、介護休暇等があります。
他に慶弔休暇、夏季休暇、年末年始休暇、リフレッシュ休暇等の特別休暇や、祝日を休日とする等の医院独自による休暇があります。
特に働き方改革関連法案により、年次有給休暇10日以上の付与者には、年間5日以上の有給休暇の取得を義務化しており、違反した場合は雇用者側に罰則規定があります。

休暇の種類

2.働き方改革関連法遵守と見直しの視点

厚生労働省は、働く人々が、それぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する「働き方改革」を総合的に推進しています。
長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のために、2019年4月より労働への関係法律の整備に関する法律(いわゆる「働き方改革関連法」)により、労働基準法が改正され、順次施行されています。

1.働き方改革の目指すもの

働き方改革の目指すものとは、日本が直面する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」、「働く人々のニーズの多様化」などの課題に対応するため、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくることです。
働く人々の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を構築し、働く人一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指す、という目標を掲げています。

労働基準法改正の概要

2.年次有給休暇取得の義務化

2019年4月から、すべての企業が年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員(管理監督者を含む)に対し、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。
年次有給休暇は、基本的にはスタッフが請求する時季に与えることになりますが、有給休暇を取得できていないスタッフには、院長が取得させなければなりません。

(1)院長からの時季指定による有給休暇取得

有給休暇年5日の確実な取得のため、院長は、スタッフごとに年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に、5日の取得時季を指定して年次有給休暇を取得させることが出来ます。

時季指定のイメージ、有給休暇発生と時季指定の基準日

(2)計画付与の活用

年次有給休暇の計画付与は、スタッフが自由に取得できる有給休暇日数5日を残し、それ以外の日数を院長が時季を指定し、有給休暇を計画的に付与する制度です。

有給休暇の計画付与制度の注意点

3.時間外労働の上限規制への実務上のポイント

労働時間は労働基準法によって上限が定められており、労使の合意に基づく所定の手続きをとらなければ延長することはできません。
また、時間外労働・休日労働をさせるためには36協定の締結が必要となります。
医療機関が認められている変形労働時間制を選択する場合も、協定の締結もしくは就業規則に記載し、労働基準監督署への提出が必要です。

法改正のポイント

上限規制に適応した36協定を締結・届出を行った場合、次の段階として36協定に定めた内容を遵守するよう日々の労働時間を管理する必要があります。
上記の労働時間の管理におけるポイントを守り、適正な労働時間となるよう心掛けることが必要です。

3.福利厚生制度を充実させる視点

雇用条件といえば、給与や賞与、勤務時間、年間休日数といった目に見える条件の他に、働きやすい職場環境を整え、スタッフに仕事のやりがいや目標を与え、その目標達成へのサポートやプライベートの充実まで考えた福利厚生制度と合わせた雇用条件の改善が必要です。

1.法定の福利厚生制度

法定の福利厚生制度の完備は当然ながら、健康保険や年金に関しては事業主が選択することになります。
歯科医院での健康保険に関しては、「協会けんぽ」「国民健康保険」「歯科医師国保」が主になり、年金に関しては「国民年金」「厚生年金」の公的年金の他、国民年金基金や企業年金、iDeCo(イデコ)といった私的年金があります。
また、国民年金に比べると厚生年金の受給金額が多いという差があるため、厚生年金に加入している歯科医院だけを探している求職者も多くいます。

健康保険の種類、年金の種類

2.法定外福利厚生制度

法定外福利厚生は、事業者側が任意で構築する制度です。
この制度の充実により、スタッフの満足度向上につながれば、人を集めやすく、有能な人材が長く働ける職場環境を提供できることになります。

法定外福利厚生制度の例

法定外福利厚生制度の充実は、仕事のみならず、生活や家族への援助も含めて対応することで、「歯科医院のために」だけではなく、「スタッフの人生のために」と考えている院長の気持ちも伝わり、スタッフの仕事へのモチベーションアップにもつながります。
注意点としては、業務後の飲み会や休日等を利用したイベントを強制しないことです。
スタッフの意向や了解の元であれば良いのですが、近年ではプライベート時間への干渉は喜ばれずに、逆に嫌われる要因にもなっています。

4.医院独自の福利厚生制度事例

最近は、独自の福利厚生制度や、より働きやすい雇用条件を提供している歯科医院が増加しています。
歯科医院は女性中心の職場です。
若い世代や小さな子どもを抱えた主婦等が「この職場なら無理なく働ける」という意識を持ってもらえるような雇用条件、職場環境を整備することが、より有能な人材を長く雇用することが出来ます。

1.週休2日制の導入

歯科医院が夜間診療や土日診療を行っている場合、1週間の診療時間にスタッフ一人当たりの1日8時間、週40時間の勤務時間の設定では到底収まりません。
そこでシフト制を導入することになりますが、完全週休2日制を導入している歯科医院は多くはなく、1週間で数日勤務のパートスタッフとフルタイムの正職員という体系が多いのが実態です。
パートスタッフとフルタイムの正職員いずれかに時間外勤務が偏ることなど無いよう、長い診療時間の勤務を無理なくやり繰りするには、パートスタッフ、正職員ともに増員を図り、週休2日制や完全週休2日制を導入することが考えられます。
職場環境の改善は、働く意欲が生まれることにつながります。

週休2日制と完全週休2日制の違い

ある歯科医院では、完全週休2日制のシフトを前月に組むのですが、そのうち1日の休日だけは希望を出し合って、スタッフ間での協議の上で決めることにしています。
日曜日との連休だけでなく、都合に合わせて平日を選ぶこともでき、スタッフに喜ばれています。

2.代表的な特別休暇制度の例

厚生労働省では、「労働時間等見直しガイドライン」を発行し、「特に配慮を必要とするスタッフ」に対して付与される休暇として、「病気休暇」「ボランティア休暇」「リフレッシュ休暇」「裁判員休暇」「犯罪被害者等の被害回復のための休暇」等があります。
特別な休暇制度は、休暇の目的や取得形態を労使による話し合いにより任意で設定でき、法定の内容を上回る休暇ですので、上記の目的に限る必要はありません。

特別休暇制度

3.福利厚生制度の先進事例

(1)院内に託児ルームを完備

結婚・出産等で引退した歯科衛生士や歯科助手が、子育て中に社会復帰したいと思っても、保育園や幼稚園が少なかったり、預かりの時間が短かったりなどで復帰を断念しているという話はよく聞きます。
A歯科医院では、子育て中のスタッフのために院内に託児ルームを完備し、保育士を雇用して福利厚生を行っています。
さらに、託児ルームを患者にも活用したため、子供が小さいために歯科医院に通えなかった母親たちがA歯科医院の患者になり、増収につながった事例です。

(2)ミーティングルームに酸素カプセルやマッサージチェアを設置

B歯科医院では、スタッフのミーティングルームに酸素カプセルやマッサージチェアを設置し、休憩時間や診療後、休診日に院長含めスタッフ全員が利用できるようにしました。
院長の「まずは医療従事者が健康であるべきだ。」という考えからのもので、スタッフは喜んで利用しています。

(3)記念日休暇

C歯科医院では、スタッフの結婚記念日や誕生日、家族の還暦等の記念日に、院長の手紙を添えて記念品を贈っています。
スタッフが気持ちよく働けているのは家族の協力があるから、という院長の気持ちから始まりました。

(4)昼食の提供

D歯科医院では、日替わり弁当を提供している近隣のレストランと提携して、お昼にお弁当を届けてもらっています。
前日に希望者を募る予約制とし、費用は50%を医院が負担しています。
スタッフは次の日のスケジュールを確認して予約するため、無駄になることはありません。
また、昼休みを利用した院内勉強会の時には、昼食代全額を医院が負担しており、スタッフはお弁当を作ったり、買いに行ったりする時間が省けると喜んでいます。

(5)アウトドア用品の貸し出し

E歯科医院の院長は、アウトドア派でキャンプ用品多数所有していました。
スタッフから「キャンプに行きたいが、道具をそろえるのが大変だ」という話を聞いて貸し出したところ、他のスタッフからも貸して欲しいという要望が多く、福利厚生としてスタッフへの「キャンプ用品貸し出し」をすることにしました。
今では院長含めスタッフとキャンプをするなど、コミュニケーションもより良くなりました。
また、貸出制度にしたため、キャンプ用品の整備を含めた管理も院長とスタッフ間で行っているため、良好な状態で保管されています。

 

■参考資料
厚生労働省:働き方改革 一億総活躍社会の実現に向けて
働き方・休み方改善ポータルサイト
健康保険の種類
      働き方改革関連法のあらまし

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