働きやすい職場環境をつくる 中小企業が取り組むべきハラスメント防止策

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働きやすい職場環境をつくる 中小企業が取り組むべきハラスメント防止策

  1. 調査結果からわかるハラスメントの傾向
  2. 法規制の対象となる各ハラスメントの定義
  3. 企業に求められるハラスメント対策
  4. 中小企業のハラスメント対策事例

 


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目次

1.調査結果からわかるハラスメントの傾向

職場におけるハラスメントの問題は、社員の採用や定着を図る上でも非常に重要であり、問題が起きた場合の影響力は深刻です。
一方では、企業としてハラスメント防止の対策を講じることで、働きやすい職場環境づくりにプラスの効果があるという調査結果も出ています。
中小企業における人材不足の環境において、社員の定着を図るためには、ハラスメントを起こさない職場づくりが重要といえます。今回は、中小企業が取り組むべきハラスメント防止策について解説します。

1.職場環境におけるハラスメントの傾向

令和2年度の厚労省による『職場のハラスメントに関する実態調査』によると、職場環境におけるハラスメントの実態について、次のような傾向があることがわかります。

(1)過去3年間のハラスメント該当件数の増減の傾向(ハラスメントの種類別)

過去3年間に受けた各ハラスメントに関する相談のうち、ハラスメントに該当すると判断した事例の件数の傾向をみると、「件数の増減は分からない」「該当すると判断した事例はない」を除くと、パワハラ、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント、顧客等からの著しい迷惑行為については「件数は変わらない」の割合が最も高く、セクハラ、就活等セクハラについては「減少している」の割合が最も高いという結果になっています。

過去3年間のハラスメント該当件数の増減の傾向

(2)ハラスメント該当事案の内容

各種ハラスメントにおける最多の該当事案は、それぞれ下表の通りです。

各ハラスメントにおける最も多い該当事案とその割合

2.就活の場面におけるハラスメント

近年の調査では、就活の場面でセクハラを受けたという回答の割合は約25%にものぼります。
現在の人材採用難の状況において、インターンシップや採用面接の場面で企業の信頼を損なうことは極力避けなければなりません。
受けた就活等セクハラの内容としては、「性的な冗談やからかい」の割合が最も高く、「食事やデートへの執拗な誘い」、「性的な事実関係に関する質問」が続いています。
男女別では、「性的な冗談やからかい」、「食事やデートへの執拗な誘い」は女性の方が高く、「性的な内容の情報の流布」、「性的な言動に対して拒否・抵抗したことによる不利益な取扱い(採用差別、内定取消し等)」は男性の方が高いという結果になっています。

受けた就活等セクハラの内容(男女別)

3.ハラスメントへの取り組みとその副次的効果

(1)企業がハラスメントの予防・解決のために実施している取り組み

企業の取り組み内容としては、対応方針の明確化や周知・啓発や相談窓口の設置については回答企業の約8割が実施していると回答しています。
一方で、相談窓口の適切な対応については、約4割程度にとどまっています。

企業がハラスメントの予防・解決のために実施している取り組み

(2)ハラスメントの予防・解決のための取り組みを進めたことによる副次的効果

取り組みを進めたことによる副次的効果としては、「職場のコミュニケーションの活性化」の割合が最も高く、次いで「会社への信頼感」や「管理職の意識変化による職場環境の変化」が高いという結果になっています。

ハラスメントの予防・解決のための取り組みを進めたことによる副次的効果

2.法規制の対象となる各ハラスメントの定義

1.法改正の背景

パワーハラスメント関係及びセクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント関係の法改正については、2020年(令和2年)6月1日に施行され、これにより、職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました。
中小事業主においては、2022年4月1日から義務化となり、それまでの間は努力義務となります。
2019年の第198回通常国会において「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、これにより「労働施策総合推進法」が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止対策が事業主に義務付けられました。
併せて、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法においても、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに係る規定が一部改正され、今までの職場でのハラスメント防止対策の措置に加えて、相談したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止や、国・事業主及び労働者の責務が明確化されるなど、防止対策の強化が図られました。

2.法律上の規制対象とその指針

ハラスメントには様々な種類がありますが、法律で規制されているのは下記の4つです。

法規制の対象となる4つのハラスメント

また、各法律上の規制において、事業主および役員や労働者の責務については、下記のように定められています。

事業主の責務、役員や労働者の責務

3.各ハラスメントの定義

(1)パワーハラスメント

職場におけるパワーハラスメントは、改正労働施策総合推進法で定義づけており、以下の3つの要素すべてを満たすものと定めています。

パワーハラスメントを構成する3つの要素

「職場内の優位性」は、上司と部下の関係に留まらず、先輩・後輩間、専門知識や経験等様々な優位性が考えられます。
また、近年では、「職場の優位性」を逆手にとって、部下から上司へのパワーハラスメントも横行しています。
なお、勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当しますが、その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意かといったことを考慮して個別に行う必要があります。

パワーハラスメントの6類型と代表的な行動例

(2)セクシュアルハラスメント

職場におけるセクシュアルハラスメントについては、男女雇用機会均等法で定義されており、事業主に防止措置を講じることを義務付けています。

セクシュアルハラスメントの定義

また、職場におけるセクシュアルハラスメントには「対価型」と「環境型」があります。

対価型と環境型

(3)職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント

職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ・ケアハラ)については、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法第で定義されています。

職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの定義

3.企業に求められるハラスメント対策

1.事業主が講じなければならない措置

厚生労働大臣の指針では、「事業主が雇用管理上講ずべき措置」として、下記のような項目が定められています。
事業主は、これらの措置について必ず講じなければならず、派遣労働者に対しては、派遣元のみならず、派遣先事業主も措置を講じなければなりません。

事業主が雇用管理上講ずべき措置(各ハラスメント共通)

2.ハラスメント防止のための具体的な取り組み

(1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

①ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発

就業規則等の規程に方針を規定するとともに、社内報やパンフレット、ホームページ等の広報媒体を通じて、ハラスメントの内容や発生の原因・背景等を労働者に周知・啓発します。
なお、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントへの対応については、事業主の方針と併せて制度等が利用できる旨を周知・啓発することとされています。

②行為者への厳正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発

就業規則等に懲戒規定を定め労働者に周知・徹底します。
ハラスメントに係る言動を行った者がいた場合は、懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し周知・啓発します。

(2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

①相談窓口の設置

相談窓口とその制度や担当者を定め、労働者に周知します。
できれば外部機関への相談窓口の委託もできたほうが望ましいでしょう。

相談窓口の設置

②相談に対する適切な対応

相談窓口の担当者が相談を受けた場合、内容や状況に応じて担当者と人事部門とが連携を図れる仕組みとします。
窓口担当者への研修も必要です。

(3)職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

①事実関係の迅速かつ適切な対応

相談窓口の担当者や人事部門、専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認します。
その際には勿論、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮することが必要です。
また、相談者と行為者の間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできない場合は、第三者からも事実関係を聴取する等の対応が必要になります。

②被害者に対する適正な配慮の措置の実施

事案の内容や状況に応じて適正な配慮が必要になります。

③行為者に対する適正な措置の実施

事実が確認できた場合は、就業規則の規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講じます。
併せて事案の内容や状況に応じ、次のような措置も必要です。

被害者および行為者に対する措置の例

④再発防止措置の実施

事案が発生した後には、労働者に対して職場におけるハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施しなければなりません。

再発防止措置において重要な観点

(4)上記(1)~(3)と併せて講ずべき措置

①当事者などのプライバシー保護のための措置の実施と周知

相談者だけでなく行為者等のプライバシーの保護のために必要な事項をマニュアル等で定め、相談窓口の担当者にも研修を実施します。
また、それらの措置について社内報等の広報媒体を通じて周知・徹底します。

②相談、協力等を理由に不利益な取扱いをされない旨の定めと周知・啓発

今般改正された各法律において、労働者がハラスメントについて相談を行ったこと又は事業主による相談対応に協力したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは、法律上も禁止をされることとなりました。
これは中小事業主の場合でも同様であり、また、派遣労働者も対象に含まれます。

③業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者等の実情に応じた必要な措置

妊娠等した労働者の周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう、適切に業務分担の見直しを行います。
また、業務の点検を行い、業務の効率化などを行います。

4.中小企業のハラスメント対策事例

1.定期的な階層別研修とルールづくりで相談件数が減少したA社の事例

定期的な階層別研修とルールづくりで相談件数が減少したA社の事例

(1)管理職および一般社員それぞれに研修を実施

A社では管理職約120名を対象に、ハラスメント防止研修をほぼ1年おきに実施しています。
1回で浸透するものではないという考えに立ち、内容を工夫しながら継続的に行っています。
また、一般社員向けの研修も実施しています。
ハラスメントには該当しないような人間関係やコミュニケーション上の問題と思われるものも相談窓口に寄せられるケースが多々見受けられたことから、若い社員達にも、どのような言動がハラスメントになるのかを知ってもらうことを目的としています。

(2)ルールづくりと小冊子配布等による周知

就業規則の改定などによりルールを徹底しています。
元々就業規則にはセクハラやパワハラ禁止の規定が載っていましたが、より詳しく防止規程を作成し、具体的な言動の定義や、申し立てがあった場合に委員会を立ち上げて解決するまでの流れを明確化しました。
また、社員向けの行動基準の中にもハラスメント予防の文言を盛り込み、あわせて相談窓口の連絡先を掲載しています。
さらに、社員一人ひとりの意識を高めるためハラスメント防止に関する小冊子を全社員に配布しています。
小冊子にはチェックリストを載せており、各部門でチェックリストの読み合わせや人事部門への報告を実施しています。

(3)定期的な委員会開催でハラスメントのない職場づくりへ

6カ月に一度ハラスメント委員会を開催し、直近の相談内容の分析をして次の対策を検討しています。

取り組みの成果

2.女性社員の活躍を推進し職場環境改善につながったB社の事例

女性社員の活躍を推進し職場環境改善につながったB社の事例

(1)経営トップからの強いメッセージとして女性活躍を推進するため会議を招集

B社では、全国に十数カ所ある比較的小規模な営業所から数少ない女性社員を何度も招集し、「業績を回復するにはどうしたら良いか?」、「働きやすい職場とは?」などについて意見を吸い上げるプロジェクト会議を持ちました。
男性社会だった運輸業界の殻を破り女性社員に活躍してもらいたい、という社長の熱意に動かされ、会議では職場環境の改善や新しいサービス、接客のあり方などで今までにないヒントやアイデアが出されました。

(2)各事業所の現場で女性社員による業務改革を推進

会議の内容を受けて職場に帰った女性社員が改革の先鋒となることで、徐々に職場の風土や働き方が明らかに変わりました。
業績はⅤ字回復し、その後深刻なハラスメント事案の発生はゼロ件を維持しています。

(3)職場環境改善において女性社員の関わりを重要視

営業所長など幹部社員や現場のキーとなる係長には、年に1回は労働環境改善のための研修を行っています。
外部講師を招聘してロールプレイやグループ発表をしながら、自分の仕事のやり方の棚卸しを進めています。
参加した社員からは「他人の考え方や経験を聞けるのが一番ためになる」という感想が見受けられます。
また、月1回の営業所長会議では、うち年に1回は女性社員のプロジェクトのメンバーに参加してもらい、成果発表や提案、参加した感想の発表などをしてもらっており、大きな刺激になっているようです。
労働安全面で重要視している点は「適材適所」「傾聴」「積み重ね」とし、社員一人一人に向き合って話をし、適材適所で納得性のある処遇の実現に向けて取り組んでいます。

取り組みの成果

3.ルールの明文化が小規模事業所の活性化につながったC社の事例

ルールの明文化が小規模事業所の活性化につながったC社の事例

(1)小規模組織の持つメリットと課題

C社は元々少人数の組織であり、自由闊達にものを言い合う風土がありましたが、経営環境の変化に伴う人の入れ替わりや事業構造の変化の中で、一部の上位者のパワーが際立ちすぎたことで自由闊達さが衰え、打合せであまり意見が出されなくなっていました。
また、社員規模30人程度の規模を維持していますが、創業者である代表の判断や意思決定を直感的に理解できる古参社員と、そうではない社員の間に溝が生まれ、パワハラやいじめ・嫌がらせが急増していました。

(2)原点回帰と新しい取り組み

経営トップからは「会社はパワハラを問題視し、放置しない」という明確なメッセージとともに研修の実施や就業規則の改正に取り組みました。
研修費用は会社がまとまり、より良いパフォーマンスを上げていくための必要な投資である、という考えで、外部の専門機関に依頼して全社員を対象に研修を実施しました。
就業規則の改正は、社会保険労務士の監修のもとに行い、育介法・均等法改正の見直しに合わせて明確にハラスメント防止の文言を入れました。
これらのルール改正のプロセスや、さらに罰則規定の制定やパワハラを取扱う委員会の設置も今後検討していることなどを社員に公表し、リスクを下げる抑止力になっています。

(3)小規模組織だからこそ必要なルールの「明文化」

小さな組織故に「言わずもがな」であったことが多かったようですが、明確に決意を文章などにして示したことで、社員に安心感を与えられたものと思われます。

取り組みの成果

これらの事例が示すように、アプローチの仕方は様々ですが、経営トップから管理職、一般社員まで一丸となって職場環境改善へ取り組むことで、ハラスメントの防止とともに働きやすい職場環境づくりの実現に繋がっています。
自社のハラスメント防止につながれば幸いです。

 

■参考資料
厚生労働省:
令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査
パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)
職場のパワーハラスメント対策ハンドブック
「人事・総務担当者のためのハラスメント研修設計・実践ハンドブック」
(加藤 貴之著、日本法令)
「パワハラとメンタルヘルス対策の法律知識」(デイリー法学選書編修委員会編、三省堂)

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