- ハラスメントの概要と経営に与える影響
- パワハラ・セクハラの理解と防止対策
- 患者から受けるハラスメント対策
- 院長が講じるべき具体的防止策
1.ハラスメントの概要と経営に与える影響
近年、様々なハラスメントが話題になっています。
ハラスメントとは、他者に対する発言・行動等が本人の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つける、不利益を与える、脅威を与えたりすることを意味します。
歯科医院には、院長はじめ直接の上司や同僚以外に、歯科技工士などの他職種、金融機関等外部の第三者、患者やその家族と多くの接点があります。
よって、多岐にわたるハラスメントが発生する可能性があります。
今回は、ハラスメントの概要とその対応策について解説します。
1.ハラスメントとは
(1)ハラスメントの定義と概要
1990年代にはセクシャルハラスメントに対する関心が高まり、1997年に男女雇用機会均等法の改正により「セクシャルハラスメント防止規程」が設けられ、言葉の定義が確立されました。
現在では、セクシャルハラスメント以外でも、多くのハラスメントが指摘されています。
2.パワーハラスメントが経営に与える影響
歯科診療所では、パワーハラスメント(以下、「パワハラ」)による退職などの人的損失の発生、職場環境の悪化、歯科診療所イメージの悪化、直接的損失等が予想され、その損失は大きいといわれます。
パワハラ対策は被害者を減少させるだけでなく、歯科診療所のさまざまな損失も防ぎます。
3.厚生労働省が推進するハラスメント対策
平成11年に男女雇用機会均等法において、職場におけるセクシャルハラスメント(以下、「セクハラ」)の防止措置が講じられ、その後、同法と育児・介護休業法が平成29年に改正され、新たに妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについても防止措置が義務付けられました。
厚生労働省では、このような改正を行いながら、ハラスメントの防止措置を講じてきましたが、依然として、都道府県労働局には、多数のハラスメントに関する相談が寄せられています。
そこで、昨年9月に「職場におけるハラスメント対策マニュアル」を公表し、また、パワハラ対策についての総合情報サイト「明るい職場応援団」というポータルサイトを運用するなど、防止対策を強化しています。
2.パワハラ・セクハラの理解と防止対策
1.パワハラとセクハラの違い
パワハラとは、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為をいいます。
セクハラとは、被害者側の視点による絶対的な規制といわれています。
セクハラは受けた相手に「不快な思い」をさせるものであり、形式的・機械的に規制されるものです。
2.医療機関におけるパワハラ
医療機関においては、パワハラとみなされることを恐れ、部下を注意できない上司がいると、何度も部下が同様のミスを起こす可能性があり、結果として患者に様々な負担を強いることになりかねません。
また、日常業務は診療行為に直結していることから、そのミスが命に関わるということも考えられます。
3.パワハラ防止対策
パワハラをどう防ぐかは、その認識をスタッフ全員で共有することが重要です。
院長は、パワハラは自院にとってマイナスであり、絶対に防止するという姿勢を全スタッフに示す必要があります。
加害者がパワハラと認識していない事例が多くありますが、これは啓発活動を行うことで防止できます。
4.医療機関におけるセクハラ
セクハラは、対価型セクハラと環境型セクハラに分類されます。
対価型セクハラとは、スタッフの意識や気持ちに反する性的な言動や行動に対するスタッフの対応(拒否や抵抗)により、そのスタッフが解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外など、客観的に見て不利益な配置転換等の不利益を受けることを意味します。
一方、環境型セクハラは、セクハラによりスタッフの就業環境が不快なものと感じ、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、そのスタッフが就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。
4.セクハラ対応法
院長は、セクハラに係る相談があった場合は、その事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認し、適正に対処する措置を講じなければなりません。
3.患者から受けるハラスメント対策
1.患者からスタッフに対するハラスメント
歯科医院では、患者からハラスメントを受けるケースも想定されます。
スタッフに対するセクハラや、診療に対するクレームを発端とした暴言や暴力行為など様々なケースがあります。
院内での対応だけではなく、弁護士や警察の介入も視野に入れ、スタッフを守るという姿勢が必要です。
(1)患者から受けるセクハラ
女性が多い歯科医院では、患者からのセクハラ事案が多くみられます。
診療中、どうしても患者との距離が近くなり、接触の機会も増加します。
その際に、患者からの不要な接触や性的言動を受けることは少なくありません。
また、接遇サービスの向上、患者満足度の向上への行動が、患者の勘違いを引き起こし、ストーカー行為にまで発展する事案も発生しています。
(2)患者からの暴言や暴力によるパワハラ
診療や接遇に関することでクレームをつけ、大きな声で騒いだり、暴言を吐いたりするケースのほか、クレーム内容によっては、慰謝料などの損害賠償を主張し、金員を要求したりする事案も見受けられます。
2.患者からのハラスメント対策
(1)患者からのハラスメント対策
クレームに対しては、誠意ある対応も求められることを前提としながら、過大なクレームやいわれのないクレームに対しては、毅然とした態度で否認することも重要です。
事実確認や相手方の気持ち等を汲むことは求められるものの、事実と異なる点を否定する勇気も必要です。
対策としては、対応マニュアルの作成や警察・弁護士への相談窓口の設立、防犯システムや警備の充実も行います。
(2)院内暴力への対応
院内暴力で多いのは、暴言や脅迫等の言葉による暴力ですが、身体や壁や家具等へ殴る蹴るなどの直接的暴力もあります。
院内暴力への対応策も決めておく必要があります。
3.患者が感じるセクシャルハラスメント
スタッフへのセクハラの他に、患者へのセクハラも問題になっています。
治療行為中で、スタッフにその意図がなくても患者がセクハラと感じる事例も含まれています。
4.院長が講じるべき具体的防止策
1.就業規則等によるハラスメントの防止
ハラスメント防止対策のため、就業規則もしくは服務規定にハラスメントの禁止を記載し、懲戒規定により罰する旨を掲載する必要があります。
2.ハラスメント防止ガイドラインの活用
ハラスメント防止及び問題解決のために、ハラスメント対策ガイドラインを作成します。
ガイドラインによって、どのような行動や言動がハラスメントに当たるかを具体的に明示します。
特に、グレーゾーンと言われる事案に対しても対応できるように規定することが望まれます。
3.院長が講ずべき対応策
職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するために、院長が雇用管理上講ずべき措置として、厚生労働大臣の指針により10項目が定められています。
院長はこれらの実施を検討しなければなりません。
また、職場におけるハラスメントの防止効果を高めるためには、発生の原因や背景についてスタッフの理解を深めることが重要です。
院長は、日頃からスタッフの意識啓もうや周知徹底を図るとともに、相談窓口が機能しているかを点検するなど、普段から職場環境に関心を持ち、未然の防止対策を十分講じるようにしましょう。