自立支援・重度化防止の取組を推進 2021年度介護報酬改定の方向性

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自立支援・重度化防止の取組を推進 2021年度介護報酬改定の方向性

  1. 2021年度介護報酬改定に向けた基本的な視点
  2. 自立支援を促す通所・訪問系サービス
  3. 看取り機能を強化する入所系サービス
  4. その他事業所の方向性と今後の経営戦略


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目次

1.2021年度介護報酬改定に向けた基本的な視点

1.新型コロナウイルス感染症が介護事業所に与えた影響

昨今の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、各事業所においては、感染症対策を講じながら必要なサービス提供の確保に取り組んでいます。
高齢者には基礎疾患を抱える者も多く、重症化するリスクが高い特性がある中で、介護事業所におけるクラスターも発生しています。
今後は感染症への対応力を強化し、感染症対策を徹底しながら必要なサービスを継続的に提供していく体制を確保していくことが課題となります。
一般社団法人全国介護事業者連盟が公表している「新型コロナウイルス感染症に係る経営状況への影響について『緊急調査』第二次分 集計結果」では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたと回答した介護事業所は55.7%で、半数以上の介護事業所が経営に影響があるという結果となっています。

2020年4月の介護事業所の状況、新型コロナウイルス感染症が介護事業所の経営に影響を与えた割合

2.介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)概要

こうしたコロナウイルス感染症の影響を踏まえて、2021年介護報酬改定に当たっての基本認識は感染症や災害への対応力強化を含めた内容となりました。

改定に当たっての基本認識

上記の基本認識を踏まえ、今回の介護報酬改定の基本的な視点を整理すると、概ね次の5点に集約されます。

介護報酬改定に向けた基本的な視点

介護報酬改定に向けたこれまでの議論として、新型コロナウイルス感染症や災害を踏まえた今後の対応では、新型コロナウイルス感染症対策で、加算要件等の研修や会議のオンライン化等が認められていますが、研修は引き続きICTの活用ができるようにしてはどうかという点や、加算要件等となる会議等でもオンラインを認めることを前提に見直しを行うべきという意見が出ています。
地域包括ケアシステムの推進では、看取りへの対応の評価見直しや、在宅での生活を継続するためリハビリの推進や、老健施設での認知症患者へのリハビリの実施や、認知症患者の家族のレスパイト的な対応を進めていくことが必要と考えられています。
自立支援・重度化防止の推進では、今後、自立支援を進める観点から、要介護度が改善することに対するインセンティブを考える必要があるとし、サービスの質が可視化できるような指標の開発と、それにともなう報酬体系が必要であり検討すべきと考えられています。
また、通所介護等では、歯科医療専門職種の人材の有効な活用による質の高いサービスの提供のために、個別機能訓練計画書の作成に、歯科医師が関与する仕組みづくりも検討されています。
介護人材の確保・介護現場の革新に向けては、専門性の高い人材は、事業所や施設を超えて、相互連携し合うような報酬体系が必要と考えられています。
また、介護ロボット等の導入、活用に向けて介護報酬での評価や人員基準の緩和も検討されています。

2.自立支援を促す通所・訪問系サービス

1.自立支援に向けた取組を評価

(1)生活機能向上連携加算の要件緩和について

通所介護・認知症対応型通所介護・短期入所生活介護における生活機能向上連携加算算定率が4パーセント未満と低い状況です。
その一つの要因として、算定にかかるコスト・手間に比べて単位数が割にあわないことが挙げられます。
そこで、外部のリハビリテーション専門職との連携を促進するため、訪問介護等における算定要件と同様に、ICT活用を認めることと、連携先を見つけやすくするための方策も検討されています。

生活機能向上連携加算の算定要件等

(2)入浴介助加算の見直し

通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護・通所リハビリテーションにおける入浴介助加算について、事業所の中には、単に利用者の心身の状況に応じた入浴介助を行うのみならず、利用者が自立して入浴を行うことができるよう、自宅での入浴回数の把握や、個別機能訓練計画への位置付け等を行っているところもあります。
こうした状況を踏まえ、入浴介助加算の見直しが検討されています。
具体的には、報酬を2段階に設定する案が検討されています。

入浴介助加算の算定要件等

(3)通所リハビリテーションは報酬体系そのものが改定される可能性

現行の通所リハビリテーションの報酬体系は「規模別」「時間区分別」を基本とし、加算においてリハビリテーションの機能を評価しています。
通所リハビリテーションはその目的を「利用者の心身機能の維持回復を図ること」としており、自立支援及び活動・参加を促す機能を促進する観点から、リハビリテーションの機能、事業所の体制、活動・参加に対する取組、利用者のADLの維持改善等の状態等の評価を進めるよう検討する方向です。
下図の基本報酬の見直しと共に、リハビリテーションマネジメント加算、社会参加支援加算、生活行為向上リハビリテーション加算の要件見直しが予定されています。

現在の通所リハビリテーションの報酬区分の例(見直しの検討対象)

2.訪問系サービスは各種算定要件が緩和される可能性

(1)訪問介護は各種加算要件の緩和と看取りにおける評価検討

訪問介護の特定事業所加算について、区分支給限度基準額を超える利用者が出るとの理由から、要件を満たしているにも関わらず、加算を算定できていない事業所が一定数存在します。
一方で、類似の加算であるサービス提供体制強化加算は、区分支給限度基準額に含まれない加算となっており、特定事業所加算も同様の扱いが検討されています。
生活機能向上連携加算については、要件を緩和し、利用者・家族も参加するサービス担当者会議によることを可能とすることが検討されています。
通院等乗降介助については、居宅要介護者の目的地(病院等)が複数ある場合であって、出発地及び到着地が居宅以外である目的地間の移送(例えば、病院間の移送や通所系・短期入所系サービス事業所から直接病院等に行った場合)については、算定できないこととされています。
これを利用者の身体的・経済的負担の軽減や利便向上の観点から、居宅が始点又は終点になる場合には、病院等から病院等への移送や、通所系・短期入所系サービス事業所から病院等への移送についても、介護報酬の算定を認める方向性で議論されています。
また、訪問介護、訪問入浴については、看取り期における医療との連携に着目した介護報酬上の評価がない状況ですが、看取り期における対応の充実を図る観点から評価新設を検討するとしています。

(2)訪問入浴介護は清拭又は部分浴の減算見直し

清拭又は部分浴を実施した場合の減算について、人件費やサービス提供時間を考慮し、経営の安定化を図る観点からも、減算幅を少なくすることが検討されています。
また、新規利用者への対応について、他の訪問系サービスは加算制度が置かれていることを踏まえ新たに評価することも検討されています。

(3)訪問看護は加算要件見直しとメリハリのある報酬体系へ

退院当日の訪問看護については、特別管理加算の対象に該当する者に限って算定可能としていますが、この要件の緩和が検討されています。
看護体制強化加算については、ターミナルケアの件数を医療保険分も合算できるようにしたり、特別管理加算の算定者割合を引き下げる等の要件緩和が検討されています。
医療ニーズを有する高齢者の増加が見込まれる中で、理学療法士等による訪問割合が増加する傾向が続くと、訪問看護の役割を十分に果たせるか懸念が生じます。
看護職員の割合や看護職員による訪問割合に応じて、メリハリのある報酬体系へと変えてはどうかという議論が進められています。

(4)訪問リハビリテーションは算定上限回数の見直し

通所リハビリテーションと同様に、リハビリテーションマネジメント加算、社会参加支援加算の要件が見直される予定です。
その他には、訪問リハビリテーションの週6回の算定上限回数の見直しに加え、介護予防訪問リハビリテーションの長期間利用に対するサービス提供への評価について見直しを検討するとしています。

3.看取り機能を強化する入所系サービス

1.短期入所サービスは基本報酬や人員配置要件などが論点

(1)併設型かつ定員20人以上の事業所の人員配置基準を緩和

(介護予防)短期入所生活介護における看護職員の配置基準は、原則介護職員又は看護職員について常勤換算方法で3:1で配置することとされており、必ずしも看護職員を配置する必要はないとしています。
一方、併設型かつ定員20人以上の事業所のみ、看護職員を常勤で1人以上配置する要件があり、その要件を見直し、他の類型と同様の配置要件とする方向です。

(介護予防)短期入所生活介護 人員配置基準の概要

また、介護予防短期入所生活介護においても短期入所生活介護と同様に、基本報酬において初期加算相当分が評価されていることを踏まえ、自費利用を挟み同一事業所を連続30日以上利用している者に対して長期利用減算を適用することが検討されています。

(2)短期入所療養介護は基本報酬等が再整備

介護老人保健施設が提供する短期入所療養介護について、短期入所生活介護との利用目的及び提供サービスの類似性の観点から、基本サービス費を見直すこと、また、医師が診療計画に基づき必要な診療、検査等を行い、退所時にかかりつけ医に情報提供を行う総合的な医学的管理を評価することが考えられています。
緊急短期入所受入加算の算定については、現在7日を限度としていますが、家族の疾病等やむを得ない事情がある場合には14日を限度に見直すことが検討されています。

2.認知症対応型共同生活介護と特定施設入居者生活介護は各種要件緩和へ

(1)認知症対応型共同生活介護改定の検討事項・論点

認知症対応型共同生活介護の検討事項は以下の通りです。
認知症対応型共同生活介護の改定に関する論点は多く、主に人材の有効活用についての内容が多く盛り込まれています。

認知症対応型共同生活介護の検討事項

(2)特定施設入居者生活介護は中重度者の受入れや看取り体制を手厚く評価

介護付きホームは、中重度者や看取りへの対応として、基準以上に看護職員を配置する事業所を評価することが検討されています。
また、看護体制加算の充実や訪問リハビリテーションサービス等の併算を認めるかどうか、入居継続支援加算の要件である「たんの吸引等を必要とする割合が利用者の15%以上」という要件緩和等が議論されています。

3.施設サービスは看取り、リハビリ強化へ

(1)介護老人福祉施設は看取り強化が論点

介護老人福祉施設の論点は以下のことが見込まれていますが、中でも看取りに関する評価が改定される可能性が考えられます。
具体的には、看取り実績が高い事業所がより高い加算が取れる仕組みへと変わることです。

介護老人福祉施設の論点

(2)介護老人保健施設は施設機能強化が議論

介護老人保健施設については、在宅復帰、在宅療養支援のための地域拠点となる施設機能の強化がポイントとなりそうです。
具体的な意見として以下のことが挙げられています。

介護老人保健施設改定に向けた意見

(3)介護療養型医療施設は、移行定着支援加算の延長が検討

介護療養型医療施設等からの円滑な移行を一層促進する観点から、介護医療院へ転換促進するため移行定着支援加算の延長が検討されています。

4.その他事業所の方向性と今後の経営戦略

1.看護小規模多機能型居宅介護と小規模多機能型居宅介護は自立支援評価

(1)看護小規模多機能型居宅介護は自立支援・重症化防止の取組評価

看護小規模多機能型居宅介護においても、特養における自立支援・重症化防止の取組への評価である「褥瘡マネジメント加算」「排せつ支援加算」「栄養マネジメント加算」などを評価できるような方向性で議論が進められています。

 

特養における自立支援・重症化防止の取組への評価について

また、看護小規模多機能型居宅介護の登録者以外の短期利用について、登録者の緊急時を含めた宿泊サービス提供に支障がないことを条件に、宿泊室の空きを登録者以外の短期利用者に活用できるようにすることや、通所困難な利用者の入浴機会の確保を目的に訪問入浴介護を併算定できるような仕組みにすることが考えられています。
訪問入浴については、小規模多機能型居宅介護も同様の扱いが見込まれています。

(2)小規模多機能型居宅介護は報酬設定の見直しへ

小規模多機能型居宅介護は基本報酬を含めて見直しが検討されています。検討内容は以下の通りです。

小規模多機能型居宅介護改定に向けた検討事項

2.定期巡回・随時対応型訪問介護看護と夜間対応型訪問介護の論点

(1)定期巡回・随時対応型訪問介護看護は人員配置要件を明確化

定期巡回・随時対応型訪問介護看護の人員配置要件については、指定権者(市町村)によって独自の制度・ルールが設けられているケースがあるので、人員配置を明確化して統一させる考えです。

人員配置要件明確化の案

(2)夜間対応型訪問介護は報酬体系の見直し

夜間対応型訪問介護改定については、基本報酬等が見直される可能性があります。
具体的には以下の事項が検討されています。

夜間対応型訪問介護の改定に向けた検討事項

3.居宅介護支援と介護予防支援改定は連携強化がポイント

居宅介護支援と介護予防支援については、以下の観点から議論が進められていくことが考えられます。

居宅介護支援と介護予防支援改定の論点

4.介護サービス事業所における今後の経営戦略

各種加算は国が事業所別に行ってほしい取組を評価しています。
期待された役割を果たすことで介護報酬として評価され、加算を取りに行くことが生き残りの対応策となり、一方、加算を算定しないという選択をすると、別の方法で生き残りを考えなければなりません。
全職員が同じ方向を向いて、協力して事業に取組むことが経営上重要といえます。

経営戦略上重要な事項

 

■参考資料
医療経営セミナー「改正介護保険法の概要と介護報酬改定の事前対応策」レジュメ
※2020年10月23日(金)、㈱吉岡経営センター主催
(講師:株式会社リンクアップラボ 酒井 麻由美 氏)の講演要旨および
配布レジュメをベースとし、一部を再構成して作成したものです。
掲載の図表については、出典を明記したものを除き、全て本セミナーレジュメに使用、または一部加工しています。
厚生労働省:社会保障審議会(介護給付費分科会)

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