増大する介護需要に対応 平成30年度介護報酬改定の方向性

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増大する介護需要に対応 平成30年度介護報酬改定の方向性

  1. 介護報酬と診療報酬の同時改定に向けて
  2. 居宅系サービスの報酬改定は機能特化がカギ
  3. 施設・居住系サービスは看取りと在宅復帰を強化
  4. 介護人材不足への対応と今後の展開


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目次

1.介護報酬と診療報酬の同時改定に向けて

1.2025年以降 超高齢化社会突入

急速に少子高齢化が進む中、我が国では2025年(平成37年)にいわゆる「団塊の世代」が全75歳以上となる超高齢社会を迎えます。
一方でその支え手は減少が見込まれています。
2025年(平成37年)に向けた医療・介護需要の増大に対応するため、平成30年度の診療報酬及び介護報酬の同時改定は、大きく舵を切ることができる最後の機会であるといわれています。
さらに、2025年以降を見据えると、人口の減少や少子高齢化に伴い、医療・介護需要の更なる変動が見込まれるため、2025年以降の中長期的な展望を踏まえた極めて難しい対応が迫られています。

日本の人口推移

2.各介護サービスの収支差率にみる厳しい経営実態

今年の10月26日の社会保障審議会介護給付費分科会において、「平成29年度介護事業経営実態調査結果」についての報告があり、各サービス種別の収支差率が公開されています。
全体の平均収支差率は3.3%で、対前年比は▲0.5%となっています。
収支差率の計算式は、(介護サービスの収益額-介護サービスの費用額)/介護サービスの収益額です。
収支差率低下の主な要因は、平成27年度に介護報酬が2.27%引き下げられたことに加え、人材確保のため人件費が増加したためです。
この事態に対し、次年度の改定は介護職員処遇改善加算の区分等を見直し、加算率を増加させることが考えられます。

介護サービスごとの収支差率

3.次期介護報酬改定の方向性

(1)大方の予想を覆し、微増の報酬改定への兆し

財務省は10月25日の財政制度等審議会の分科会で、平成30年度の改定について、保険料負担を抑える必要から一定の引き下げを提案していましたが、11月5日、政府は平成30年度の介護報酬について引き上げる方向で検討に入りました。
引き上げの理由としては、人手不足による人件費増などで介護保険サービス事業所の経営が悪化していることに対応したものです。
ただし、保険料負担の増加を抑えるために報酬の引き上げ幅は小幅とし、サービス内容ごとの重点化・効率化を徹底する方針です。
サービスの重点化・効率化の一例として、通所介護は、他職種と連携し、質の高い機能訓練を行っているような事業所は評価され、そうではない事業所と報酬上のメリハリがつけられます。

(2)介護報酬改定の今後のスケジュール

平成30年度介護報酬改定の流れは下記のようになっています。
具体的な改定内容は来年の2月以降に決定される予定です。

介護報酬改定のスケジュール

2.居宅系サービスの報酬改定は機能特化がカギ

1.通所系サービスの方向

(1)通所介護は基本報酬を見直し

他のサービス事業所と比べ、収支差率が高めの通所介護は、介護報酬にメリハリがつけられる可能性があります。
詳しくは以下のとおりです。

通所介護に係る改定の内容

(2)通所リハビリテーションは機能強化へ

通所リハビリテーションは医療との連携が強く求められており、報酬改定のポイントとなります。

通所リハビリテーションに係る改定の内容

2.訪問系サービスの方向性

(1)訪問介護は基本報酬にメリハリ

訪問介護については、基本報酬と、同一建物等居住者におけるサービス(同一建物減算)が見直されています。

訪問介護に係る改定の内容、訪問介護の現在の報酬体系

(2)訪問看護はターミナルケアの需要増加に対応

今後、看取り期の需要が高まることが予想される訪問看護について、どのように評価されるのか検討が必要とされています。

訪問看護に係る改定の内容

3.その他のサービス改定

(1)居宅介護支援はケアマネジメントの見直し

居宅介護支援については、医療機関や他事業所との情報共有や連携が求められています。

居宅介護支援に係る改定の内容

(2)その他、報酬改定が検討される居宅サービス

定期巡回・随時対応型サービスでは、日中の人員配置要件が簡素化されることと、集合住宅減算の適用の強化などが検討されています。
短期入所生活介護は、従来型個室と多床室の報酬逆転現象を解消するため、多床室の基本報酬を引き下げる方向性を示しています。
また、要介護3以上の高齢者の受け入れに積極的な事業所を新たに評価することや、外部のリハビリテーション専門職と連携して、質の高い機能訓練を行うことを評価する加算(生活機能向上連携加算)を創設します。
この加算は、通所介護や特別養護老人ホームにも適用する方針です。
認知症対応型通所介護は、通所介護と同様の見直しをしています。具体的には、外部のリハビリ専門職と連携して機能訓練マネジメントを行えば、個別機能訓練加算が算定出来るようになることと、基本利用時間を現在の2時間単位から1時間単位に変更することです。

3.施設・居住系サービスは看取りと在宅復帰を強化

1.既存施設・居住系サービスの方向性

(1)介護老人福祉施設は看取り体制の充実へ

入所者の要介護度年々が上がってきている中、今後、施設内での看取りや、看取り期の医療的ケアが増加することが考えられ、対応が検討されています。

介護老人福祉施設に係る改定の内容

(2)介護老人保健施設は在宅復帰機能強化へ

介護老人保健施設では在宅復帰・在宅療養支援の役割機能の強化が求められています。

介護老人保健施設に係る改定の内容

(3)報酬改定が検討される居住系サービス

特定施設入居者生活介護については、医療機関を退院した者を受け入れる場合の医療機関との連携などを評価する、退院時連携加算の創設や、特定施設のショートステイ利用率を現在の「入居定員の10%まで」から「一人または定員の10%まで」に変更する方針です。
認知症対応型共同生活介護は、介護老人福祉施設と同様に、3か月以内の入院後、再入居が見込まれる利用者に、一定程度の基本報酬を算定できるようにすることと、初期加算算定要件の緩和や、短期利用認知症対応型共同生活介護の定員要件の緩和を行う方針です。

2.新施設 介護医療院の改定見通し

今後増加が見込まれる慢性期の医療・介護ニーズへの対応のため、「日常的な医学管理が必要な重介護者の受入れ」や「看取り・ターミナル」等の機能と、「生活施設」としての機能を兼ね備えた、新たな介護保険施設が来年4月から創設されます。
介護療養病床からの転換を促進するため、転換した日から1年間だけ算定できる加算を2021年3月末までの期限付きで設ける方針を示しています。

介護医療院に係る改定の内容

介護医療院の有する機能について(Ⅰ)型(介護療養型病床相当)と(Ⅱ)型(介護老人保健施設相当)に分けられ、人員配置や介護報酬について異なります。
サービス提供単位は、原則療養棟単位とし、規模の小さい場合は療養室単位となります。
医師の当直は(Ⅰ)型では義務ですが、「併設する医療機関の宿直医師が兼任できる」とされています。
医療機関を併設しない単独型の(Ⅱ)型については医師の当直は不要です。

介護医療院の人員基準案

一方、施設や構造の基準は統一され、介護療養病床や介護老人保健施設よりも充実させます。
また、転換に伴う床面積や廊下幅などの基準の緩和を行い、設備等についても「サービスに支障のない範囲で配慮を行う」としています。

介護医療院の施設基準案

基本報酬については、(Ⅰ)型は介護療養病床の療養機能強化型、(Ⅱ)型は介護老人保健施設を参考にして決定されます。
加算も上記の基本報酬と同様に決定されます。
また、介護療養病床からの転換を進めるため、既存施設を活用した「特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム)と医療機関の併設型」への転換にあたっては、生活相談員、機能訓練指導員、計画作成担当者の兼任を認めることや、浴室、食堂、機能訓練室の兼用を認めるなどの要件緩和が検討されています。
介護医療院での居宅サービスについては、短期入所療養介護、通所リハビリテーション、訪問リハビリテーション、訪問看護を提供できる仕組みにするようです。
介護療養型老人保健施設については、介護医療院との機能を整理して報酬体系を簡素化し、基本報酬を一元化とします。
また、療養体制維持特別加算の期限を無期限に延長します。

4.介護人材不足への対応と今後の展開

1.共生型サービスの創設

(1)限りある人的資源の活用と利用者の利便性を考慮

人口の減少など地域の実情に応じて、制度の『縦割り』を超えて柔軟に必要な支援を確保することが容易になるよう、新たに「共生型サービス」を創設します。
具体的には、介護保険又は障がい福祉のいずれかの指定を受けている事業所が、もう一方の制度における指定も受けやすくなる仕組みです。

共生型サービスの目的

(2)共生型サービスの課題

介護保険又は障がい福祉のいずれかの指定を受けている事業所が、もう一方の制度における基準を満たしているとは限らず、介護給費分科会では、障がい福祉事業所が介護保険事業所としての指定を受ける場合の基準と、この事業所を高齢者が利用した場合の介護報酬を検討しています。
逆のケースで、介護保険事業所が障がい福祉事業所としての指定を受ける場合の基準と、この事業所を障がい児者が利用した場合の障がい報酬は、社会保障審議会障がい者部会等で検討するとされています。
また、地域共生社会の実現に向けて、相談支援専門員とケアマネージャーの連携に向けた取組について議論されています。

2.介護人材確保対策

介護人材の確保にあたっては、介護職員処遇改善加算の上乗せや、介護ロボットの活用促進について検討されています。

(1)介護職員処遇改善加算の方向性

平成29年度、介護職員処遇改善加算の報酬が改定され、一定の要件を満たすと上乗せ評価(月額平均1万円相当)を行う区分(加算(Ⅰ))を創設しています。
介護職員処遇改善加算については、平成29年度介護報酬改定に関する審議報告を踏まえ、介護従事者処遇状況等調査により、月額1万円相当の処遇改善による実際の賃金改善効果を適切に把握した上で、引き続き検討していくこととなっています。
なお、処遇改善による実際の賃金改善効果を把握するため、本年10月に臨時に「介護従事者処遇状況等調査」を実施し、来年3月に結果を公表する予定となっています。
また、要件の一部を満たさない事業者に対し、減算された単位数での加算の取得を認めている介護職員処遇改善加算(Ⅳ)及び(Ⅴ)については次年度以降の存続又は、廃止を論点に、介護給付費会で議論されています。
今後の方向性としては、人件費の高騰で、各事業所の収支差率が低下している事態を踏まえると、介護職員処遇改善加算の報酬評価が上がることが十分に考えられます。

現在の介護職員処遇改善加算の区分

(2)介護ロボットの報酬上での評価

ロボット技術が応用され利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器を介護ロボットといい、介護報酬上の加算や人員要件の緩和について検討されています。
厚生労働省は、「見守り機器」を導入した介護老人福祉施設で、「夜勤を行う介護職員または看護職員の数が最低基準を1人以上、上回っていること」という【夜勤職員配置加算】の算定要件を、「0.9人以上」に緩和する案を示しています。
この要件緩和の対象は、「見守り機器」を入所者の15%以上に設置していることに加え、施設内に見守り機器を安全かつ有効に活用するための委員会を設置し、必要な検討等を行うことを満たす施設です(短期入所生活介護についても同様に緩和。

介護ロボットの種類

3.介護報酬改定に向けての今後の対応

平成30年度の報酬改定の議論では、『機能特化』『リハビリの強化』『看取りへの対応』『介護人材確保対策』『事業所連携』『報酬上のメリハリ』が主な論点となっていました。
特に、リハビリに関してはどのサービスでも話題にあがり、今後、介護報酬上リハビリに力を入れていくサービス事業所は評価されていくと考えられます。
また、2025年に向けた人材確保対策については、政府は報酬を上げて対応する方針です。
しかし、財源確保のため、極端に収支差率の高いサービス事業所や機能特化されていない事業所は報酬が減額される可能性があります。
今後は、報酬改定の動向を探りつつ、サービスの機能特化や人材の効率的な活用を考えていく必要がありそうです。

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