組織全体で取り組む業務効率化 生産性向上のためのマネジメント術

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組織全体で取り組む業務効率化 生産性向上のためのマネジメント術

  1. 重要視される生産性向上への取り組み
  2. 個人のスキルアップによる生産性向上のポイント
  3. テレワークの利活用による組織としての取り組み
  4. 成果に結びつけた具体的取り組み事例

 


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目次

1.重要視される生産性向上への取り組み

労働人口が減少し続けていく日本において、労働者一人当たりの生産性向上は国全体の課題と言えます。
「働き方改革」が掲げる「生産性向上」は労働環境を悪化させることのないよう、国民一人ひとりの健康やライフサイクルを守ることが前提条件であるべきです。
本題では、チーム(組織)としての生産性を向上させるためにリーダーが備えるべきマネジメント術や個人のスキルアップに繋がる行動評価の方法、適切な目標設定・管理の手法などを紹介します。
また、ICTやRPAの利活用についても触れながら、人材を確保するための「魅力ある企業」となる職場環境の作り方についても考えていきます。

1.企業が生産性向上に取り組む意義

昨年6月に成立し、本年4月から一部施行が開始された「働き方改革関連法案」は、厚生労働省が中心となり、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、育児や介護の両立など、多様な働き方を実現することを目指して進められているものです。
このような環境の下で、企業には生産性の向上や自社の将来を担う人材の確保など、労働環境の整備とも切り離せない重要な課題があります。
ここでは、企業が生産性向上に取り組まなければならない背景、そしてその意義について考えてみましょう。

労働人口の減少(単位:万人)※総務省平成28年度情報通信白書を元に作成

《1》労働人口の減少

出生率の低下による人口減少と超高齢化社会の到来により、日本の労働人口は減少の一途を辿っています。
2010年には約8,000万人であった労働人口が、20年後の2030年には16.3%減の約6,700万人にまで減少すると予測されています。
単純計算で、これまで6人で分担していた仕事を5人でこなさなければならないことになります。
労働時間を増やさないという前提であれば、一人ひとりのパフォーマンス(生産性)を向上させることが必須条件となります。

《2》健康経営への取り組み

労働人口が減少していく一方で、経済産業省と厚生労働省が「働き方改革」とともに推進している「健康経営」に関する取り組みがあります。
これは、社員が抱える健康リスクが与える労働生産性の損失を避け、生産性を上げられる健康な社員を作ろう、という考え方です。
特に、病気や体調不良による「欠勤」よりも、「出勤していても体調不調が原因で労働生産性が低下すること(プレゼンティーズム)」による損失の大きさについて、昨今は注目が集まっています。

《3》これからの「人への投資」の仕方

特にサービス業である第三次産業においては、企業の競争力は機械などの設備ではなく「人材」によって決まってきます。社員の健康やワークライフバランスを尊重しつつ、労働生産性をあげる職場環境を実現することは、人材採用の面でも非常に有効です。
社員が高いパフォーマンスを上げられる環境を整えることこそが、これからの「人材」への投資の在り方と言えるでしょう。

以上により、企業が生産性向上に取り組む意義をまとめると、下記のようになります。

企業が生産性向上に取り組む意義

2.生産性向上を妨げる要因

では次に、生産性向上を図るため、「限られた時間」で「高い成果」を上げる方法を考えるとき、「限られた時間」を実現するためには「残業(時間外労働)を極力減らす」ことが前提となります。
下の図は、労働環境に関する研究機関である労働政策研究・研修機構がまとめた内容で、「仕事の特性や要素が労働時間へ与える影響」を整理したものです。

仕事の特性や要素が労働時間へ与える影響

上記から労働時間を減らすことができない要因は、次のようにまとめることができます。

残業を減らすことができない要因

企画・計画を主業務とする脳の使い方としては、下記の順序が望ましいとされています。

企画・計画を主業務とする脳の使い方

このうち、労働時間を増加させないためには、Bの時間を短縮し、Cの時間のパフォーマンスを最大化させることが最善と考えられます。
結果的に、個人の集中力を高めることが、チーム全体、ひいては会社組織全体としてのパフォーマンスの向上に繋がります。

2.個人のスキルアップによる生産性向上のポイント

各個人の集中力を高め、それをリーダーがまとめて効果的にマネジメントすることが、チーム全体の生産性を向上さることに繋がります。

1.各個人の行動を評価し、課題を解決する

《1》部下の行動に着目した課題解決の進め方

各個人のスキルアップを図るために、チームのリーダーが考えるべきことは、部下の「性格」ではなく「行動」に着目し、改善の方法を具体的な行動として導き出すことです。
具体的には、経営指標達成につながる「行動」を見定め、さらにそれを具体的な行動に落とし込んで、成果を生むために必要な「行動」を増やすための仕組みづくりを考えるのがリーダーの役目です。

部下の行動に着目した課題解決の進め方

《2》具体的な行動分析例~営業部門における契約獲得に必要な行動

経営目標達成につながる「行動」の例として、営業部門における「顧客からの契約獲得」を実現させるための具体的な方法を考えてみましょう。

具体的な行動分析例~営業部門における契約獲得に必要な行動

上記の例では、部下の行動が成果に結びつかなかった要因として、どの段階のどんな具体的行動が必要であったかを洗い出します。
具体的な行動・スキルを定型化できれば、「成果に結びつく行動」の機会や回数を組織全体で増やしていけば良いのです。

2.適切な目標設定の考え方~OKR

各個人のスキルアップやパフォーマンスの向上を図るため、会社組織においては、各個人への適切な目標設定と、定期的なフィードバックが重要になってきます。
ここでは、目標管理ツールとしてのOKRの考え方や運用、メリットなどについてご紹介します。

《1》OKR(Objectives and Key Results)とは

OKRとは(目標と主要な結果)の略であり、目標設定・管理方法のひとつです。
アメリカのインテル社で考案され、GoogleやFacebookなど、シリコンバレーの有名企業が取り入れており、近年注目を集めています。
OとKRに持たせるべき構成要素(特徴)を整理すると、下表のようになります。

O(目標)とKR(主要な結果)を構成要素

OKRは、短い期間で達成できる目標を細かく積み上げていく手法で、MBOやKPIなどのといった従来の目標設定・管理手法と比べ、設定・追跡・再評価の頻度の高さが特徴と言えます。
また、OKRのゴールは、「すべての社員が同じ方向を向き、明確な優先順位をもって、一定のペースで計画を進行すること」とされています。

《2》OKR導入のメリット

OKR導入のメリットをまとめると、下記のようになります。

OKR導入のメリット

《3》OKRにおける目標と報酬の分離

OKRは、その結果や評価を社員の評価や報酬に反映させないことも特徴です。
目標を報酬制度と結びつけてしまうと、管理職を含む社員が達成率を上げるために目標を低く設定してしまう可能性が出てきます。
報酬のために低い目標しか設定できないという状況が定着し、企業の業績が低迷してしまう可能性が高まります。
これを避けるため、OKRを運用する際には、企業・組織の業績を伸ばすため、大きな目標を達成することにその主眼を置き、報酬制度とは分離させるようにします。

3.チームの生産性を上げるリーダーのマネジメント術

会社組織においては、各個人のパフォーマンスをチームとしてまとめあげ、全体で成果をあげていく役割がリーダーには求められます。
ここでは、組織として成果を引き出すためのリーダーの在り方、考え方について有用なテクニックについてご説明します。

チームの生産性を上げるためのリーダーとしての心構え

《1》コンスタントに70%の成果をあげることの意義

課題や新しい企画に対しては、100%の解答ができ上がるまで時間をかけるより、70%でも一定期間内にコンスタントに回答を出せるサイクルの構築が重要です。
7割でき上がっているのであれば、残りの30%はチームの他のメンバーが協力して補完することも可能です。
重要なポイントを先に洗い出し、スピーディな回答を求めることに重点をおきます。

《2》仕事の優先順位の付け方

原則、先着順であるべきです。社内の上下関係などが仕事の優先順位に影響を及ぼすことは極力さけなければなりません。

《3》お客様ファーストの徹底

顧客への対応に際して、社内の事情や都合を優先しないことが大切です。
例えば朝礼や会議の最中であっても、顧客からの電話や問合せには即刻取り次ぎ、対応するようにします。
これは個人単位の意識を変えることも大事ですが、それ以前に組織の風土そのものを変える取り組みが必要な場合もあります。

3.テレワークの利活用による組織としての取り組み

働き方改革においては、ICT(情報通信技術)の利活用による労働生産性の向上についても注目が集まっています。
ここでは、テレワーク、ICT端末機器、そしてRPAツールの活用による業務効率化について紹介します。

1.テレワークの推進による労働参加の拡がり

《1》企業におけるテレワーク導入への取り組み状況

テレワークとは、ICTを活用して、時間と場所を有効に活用できる柔軟な働き方のことです。
近年の女性活躍等を念頭に置いたダイバーシティ経営の考え方や働き方改革の気運の高まり等の要因により、テレワークに対する評価が高まりつつあります。
総務省の通信利用動向調査(約2,000社を対象に調査)によると、2016年9月末時点でテレワークを導入している企業は全体の13.3%であり、企業のテレワークへの取り組みは従業員規模の大きい企業ほど進んでいる傾向があるようです。

《2》テレワーク導入企業の実績

テレワークを導入している企業は、未導入の企業に比べ、直近3年間での業績が増加傾向にある企業の比率が高く、また減少傾向にある企業の比率が低くなっています。
また、導入状況による業績の違いは、売上高よりも経常利益においてより顕著です(図3-1)。
テレワーク導入済みの企業のうち、労働生産性向上を目的としてテレワークを導入した企業はおよそ6割であり、その内のおよそ8割以上が導入に効果を得たと回答しています(図3-2)。

テレワーク導入状況と直近3年間の売上高・経常利益の増加企業の比率、テレワーク導入目的とその効果についての実感

2.ICT端末、システム、サービスの利活用

テレワークの導入以外のICT利活用についても、労働生産性を高める効果がある事が示されています。
ここでは、企業におけるICT利活用の現状について見てみましょう(図3-3)。
企業におけるICT端末の導入は進んでおり、パソコンは87.1%、スマートフォンは56.9%、業務における情報システムは74.1%の企業が導入しています。
具体的には、「経理・会計」、「給与・人事」といった間接系の業務での導入率が高くなっています。
直接業務系では、「営業、販売、顧客管理」、「商品管理、在庫管理」、「仕入、発注、調達」に情報システムを導入している企業が4割を超えています。
情報発信や取引におけるICT利活用では、ホームページの開設率が59.6%と高くなっています。ソーシャルメディア、インターネット取引(販売、受注、予約受付)の実施率は2~3割程度でした。
ビッグデータ解析、自動取得したセンサーデータの分析、AI(人工知能)の何れかについて導入している企業は2.9%にとどまっており、今後の普及が期待されるところです。

ICT端末、システム、サービスの導入状況、ICT利活用による労働生産性 向上

ICTを利活用している企業としていない企業との間には、労働生産性にも明確な差があります(図3-4)。
2012年から2016年におけるICTの利活用(無線通信技術システムやツールの導入、クラウドサービスの利用)を行っている企業と行っていない企業の労働生産性について比較すると、ICTを利活用している企業は利活用していない企業の1.2~1.3倍となる労働生産性を実現しており、ICTの利活用が労働生産性につながることがわかります。

3.RPAの導入と活用

《1》RPA(Robotic Process Automation)とは

RPAとは、「ロボティック・プロセス・オートメーション」の略で、デスクワーク(主に定型作業)を、パソコンの中にあるソフトウェア型のロボットが代行・自動化する概念で、日本国内でも2016年頃から取り入れられ始め、AIやIoTと並んで注目が集まっています。

《2》RPAが活用される場面

RPAの考え方を実現するツールはRPAツールと呼ばれており、RPAが活用される場面(位置づけ)を整理すると下記のようになります。

RPAが活用される場面

具体的な実務で例を挙げれば、Excelの顧客情報一覧から特定の条件に合致する顧客を抽出し、更にリストの住所録からWebの地図から顧客の住所地の地図情報を検索して画像をWord文書に貼り付ける、といった定型的な作業を行うことができます。

《3》RPA導入の効果

処理速度はおよそ人間の3倍と言われており、また人間であれば作業時間が8時間であるところを、24時間連続して稼働できると考えると、単純計算で人間の労働力の9倍の生産性があることになります。

人間とRPAによる生産性の単純比較

RPAは、事務作業として行うパソコン操作をロボットに記録(模倣)させることでオフィスにおけるデスクワークを効率化・自動化する仕組みと言えます。
RPAツールに作業手順(シナリオ)を覚えさせるのにはプログラミングの知識も不要で、画面上で作成・指示ができる(可視化されている)ことから、理解のしやすさと中身の共有のしやすさが、RPAにツールの使い勝手の良さに繋がっているようです。

4.成果に結びつけた具体的取り組み事例

1.A社:定期的なOKR会議の実施によるモチベーションアップ

A社は、Webデザインやコンテンツ制作の業務を手掛ける業容拡大中の企業であり、OKRを導入することで社員間の情報共有やモチベーションアップを図る取り組みをしています。
3ヵ月ごとのフィードバックを行い、運用そのものも随時見直しを図っています。

定期的なOKR会議の実施によるモチベーションアップ

《1》全社メンバーによる定期的なOKR会議の実施

全社メンバーで定期的に集まってOKR会議を実施することで、目標設定時から社員全員が関わり、互いの進捗状況を確認し合うことによって、上記の各課題を徐々にクリアにしていくことができました。

《2》ボトムアップ方式のアイデア募集

A社では各社員の関わりを明確化するために、目標設定時においても、社員からのボトムアップ方式を採用しました。
これにより、社員の責任感や当事者感が増したことが社員アンケートでも判明しました。

《3》目標のフレキシブルな見直し

3ヵ月程度の短い期間で目標を見直すことができるので、目標の項目数や難易度も、都度社員の意見を取り入れながら見直しています。
回を重ねるごとに、達成度の進捗確認の際にモチベーションが下がる事象が減ってくるようになりました。

2.B社:女性活躍のためのICT利活用と業務改革

B社は、システム開発を担当するメーカーの関連会社から独立した従業員20人程度の会社です。
システム受託開発、Web制作、クラウドサービス等のICT活用支援等の業務を手掛け、社長をはじめとする社員の半数が女性です。

女性活躍のためのICT利活用と業務改革

《1》個人・グループ別の業務の見える化

どういう業務にどれだけの時間をかけたか、個人・グループ別の状況がリアルタイムに分かるようにしました。
また、クラウド上でプロジェクトを管理するようにして在宅勤務可能な環境を整えるとともに、社内SNSをはじめとするICTツールを活用してコミュニケーションを図り、情報共有することとしました。

《2》就業制度の整備や在宅勤務を可能とした社内制度改革

フレックスタイムや半日休暇、傷病積立休暇といった就業制度を次々に整えていきました。
在宅勤務が可能な環境は整っていたので、傷病や家の都合などの場合には臨機応変に在宅勤務をすることが認められるようになりました。

《3》経営の評価制度を導入した組織改革

マネジメント強化プログラムの「実効力ある経営」の評価制度を導入しました。
10のアクションプランごとに従業員のリーダーをおいて、Webからの集客強化や、顧客対応のスピード化で受注効率を上げるといった課題解決に取り組みました。

《4》取り組みの成果

成果は様々な形で現れており、女性にとって働きやすい環境を整えることで、結婚や出産を理由とした退職を減らせただけでなく、残業時間を大幅に削減することができました。
「女性が輝く先進企業表彰」内閣府特命担当大臣賞も受賞し、受賞を機にメディアへの露出も増え、昨年の採用面接での応募者数は100人を超えました。

3.C社:RPAの導入による社員の作業負荷軽減とコスト削減

C社は、建築資材の卸売業者です。
注文情報の入力作業にかかる負荷軽減のためRPAツールを導入したことで、作業時間の圧縮、ミスの減少、更には間接的に仕入れコストの削減にも繋がる取り組みができました。

RPAの導入による社員の作業負荷軽減とコスト削減

《1》入力作業の負荷軽減

従前は、注文情報の転記入力処理は、入力作業に長時間を要し、転記ミスも多発していました。
また、既存のシステムのレスポンスも遅かったことから作業中にも多くの待機時間が発生し、入力担当者へのストレスも大きかったようです。
RPAツールの導入により入力作業を自動化したところ、これまで130時間かかっていた作業時間が30時間で完了できるようになり、転記ミスも激減しました。
入力内容の点検やミスの修正に要する時間まで含めると、作業効率は5倍以上に上がったといえます。

《2》仕入れコストの削減

さらに、作業時間が減ったことで創出した時間を使って、これまで時間が作れずなかなか取り掛かれなかった発注ルートの整理・精査を行いました。
これにより、仕入れコストは取り組み前の約8%圧縮することができました。

生産性向上への取り組みを通じて、人材採用の面でプラスの成果につながった事例もご紹介しました。
社員一人ひとりが働きやすい環境を整え、将来を見据えた魅力ある企業を実現することが、今後はより一層求められることになるでしょう。

 

■参考資料
「人生100年時代の新しい働き方」小暮真久
「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」井上一鷹
「仕事が速くなる!生産性が上がる!最強の働き方」出口治明
「最新科学で解き明かす最強の仕事術」洋泉社

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