歯科医院の収益力向上策 マーケティング戦略策定のポイント

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歯科医院の収益力向上策 マーケティング戦略策定のポイント

  1. 歯科医院におけるマーケティングとは
  2. 本質機能と表層機能強化の重要性
  3. チャネル戦略策定に必要な調査分析
  4. 価格・関係性マーケティング戦略の策定ポイント

 


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1.歯科医院におけるマーケティングとは

歯科医院を取り巻く環境は刻々と変化しています。
開院当時に行った広報活動・認知活動も常態化してしまっている可能性もあり、患者獲得の取組みも改善する必要があります。
そのためには、歯科医院のマーケティング方法を理解し、自院の経営戦略を策定する必要があります。
また、その経営戦略は自院のその地域での位置づけを理解し、地域に合った戦略策定が重要です。

1.歯科医院に必要なマーケティングとは

マーケティングには「売上の公式」があります。
「売上は掛け算」なので、総合的に増収を考える必要があります。

歯科医院の「売上の公式」、「売上の公式」への基本的な考え方

マーケティングという言葉には、様々な解釈、定義があります。
百科事典マイペディアの解説では、「商品やサービスが,生産者から消費者・使用者に至る間の流通過程を方向づけるための企業活動。
消費者の欲求に応じた製品の大量生産により大量販売を促進することを目的とする。
マーケティング・リサーチ,製品計画,広告その他の販売促進など広範な活動を含む」となっています。
米国や日本のマーケティング協会、P・ドラッガーは次のように説明しています。

マーケティングとは

2.マーケティング戦略の位置づけ

経営戦略は「経営理念・診療方針」を基本として策定されます。ここで重要なのは、外部と内部の環境変化に対応した戦略立案であることです。
戦略も機能別にあり、「財務」「人事」「マーケティング」「診療・技術」と区分すると、マーケティング戦略は最も重視すべきものです。

マーケティング戦略の位置づけ

3.医療サービス向上の必要性

売上の公式のとおり、歯科医院では新規患者を獲得し、患者離れを防止する必要があります。
新患が増えない、既存患者も減少していく要因を検証し、医療サービスの向上を図る必要があります。

歯科医院における患者離れの原因

スタッフによる患者とのコミュニケーション能力のアップは、サービスの向上に比例します。
職員が定着すると、患者との関係だけでなく職員間の意思疎通がスムーズになり、人間関係が円滑になります。
それがスタッフの満足度向上につながり、医療サービスの向上・患者満足度の向上に結びつくのです。

医療サービス向上の図式

2.本質機能と表層機能強化の重要性

歯科医院のマーケティング活動には様々なものがありますが、広報活動・認知活動によって患者を集めても、診療技術だけでなく、直接患者と接する際の患者対応力が高くなければ患者をつなぎとめておくことはできません。
医療サービスの向上のため、本質機能と言われる重要な機能の整備を行う必要があります。
また、より高いサービス提供につながる表層機能の工夫も必要です。

1.歯科医院の本質機能と表層機能とは

本質機能とは、「確かな診療技術」「痛くない治療」「適切な説明」「高度な清潔管理」です。
患者は「痛み」を伴った病状を治してもらうことを目的として来院します。
この目的を達成するため、必要な本来の機能を本質機能と言います。
また、本質機能に付随した提供サービスが表層機能です。
期待していなかったサービスであり、あれば満足度がより高くなりますが、なくても不満足にはならない機能です。

本質機能と表層機能

患者満足を満たすには、本質機能だけでなく、表層機能を他院が真似できないレベルまで高めることが重要です。
一方で、本質機能に不満があるとすべてが不満に感じ、台無しになります。

2.本質機能の高度化とアピール

(1)本質機能を高度化する

本質機能は医療サービスの中核です。
常に高める努力とそれを伝える工夫が重要です。

本質機能の高度化

(2)本質機能を伝える工夫

いくら本質機能を高度化しても、患者に伝わらないと意味がありません。
治療自体は結果で分かってもらえると考えることが多いのですが、実際には、患者は当たり前としか理解していないかも知れません。
治療そのものも、原因と治療計画の説明があり、整備している医療機器や習得した治療技術までを患者に理解してもらうことで満足度が高まります。

本質機能を伝える手法

3.表層機能の工夫

表層機能は、他院が思いつかない工夫により、患者を感動させることが重要です。

表層機能の工夫

3.チャネル戦略策定に必要な調査分析

1.チャネル戦略とは

チャネル戦略とは「流通戦略」のことで、マーケティングミックス4Pの一つです。
チャネル戦略には7種類の役割があります。
それは、調査、プロモーション、接触、交渉、適合、物流、金融です。
歯科医院の場合、診療圏を対象とすることから、ある程度限定された中で戦略を練るため、役割が重なる点も生じます。
最も重要なのは調査・分析です。

マーケティングミックスの4P、歯科医院のチャネル戦略の役割

2.院内外における調査

調査項目には様々な分析が必要です。
患者エリアの設定から立地環境や対象患者、患者ニーズおよび競合医院の分析のほか、自院が整備できる体制や設備の分析等。

(1)エリア(立地・環境)分析

エリアによる分析は、過去と現在の変化と競合医院の把握がポイントとなります。
開院後に大きな幹線道路が別な地域に整備された、またエリア内に大きな複合商業施設ができて住民の移動状況が変わったという事態も想定されます。

エリア分析

(2)自院の設備・医療機器の分析

築年数により外観や内装も古くなるため、リニューアルが必要となる時期が訪れます。
院長やスタッフは常時見ているため馴れてしまい、古さや不便さに気づかないという可能性もあります。
また、設備等の古さだけではなく、高齢化社会への対応ができているかもポイントです。

分析項目

(3)競合医院の分析

チャネル戦略では差別化が求められます。競合医院を調査分析することで、差別化を図ります。
設備投資が掛かる場合もありますが、診療体制を変えることで差別化が期待できます。

分析項目

3.分析から策定する増患対策

チャネル戦略策定は、分析から見えてくる課題を克服するための対応を具体化する目的があります。
開業当時からは住民の年齢層も変わり、商業施設等の移転や開業、地域開発(再開発)等の変化もあります。
賃貸住宅が多い地域は住民の入れ替わりも想定されるため、固定患者があるから安心するのではなく、広報活動の継続も必要です。

分析課題からの対策

4.価格・関係性マーケティング戦略の策定ポイント

1.価格設定のポイント

(1)診療費と検査・治療への配慮

「あの歯科医院の診療費は高い」というクレームや評判は、自由診療ではなく保険診療で発生することもあります。
これは保険診療ならどこの診療所でも同じ、という患者側の思い込みがあり、実際は検査や処置内容によって違うことが周知されていないからです。
患者が持っている医療費の相場観を知り、その金額に合うような診療を行うか、または症状による検査を行う際に、検査方法と処置やその金額を事前説明し同意を得るかが必要です。
この保険診療の費用及び窓口負担金が、患者の相場観に合ったものであるかは患者が納得して支払った費用であれば、自由診療の価格に対する信頼感にもつながります。

価格戦略

(2)自由診療価格提示の3段階戦略

自由診療を行う患者の特徴として、提示した価格の中間を選択する傾向が多いようです。
3段階で価格を提示し、その中間価格の治療を選択してもらうことが少なくありません。

実施事例、3段階価格を応用したパンフレット事例

2.関係性マーケティング戦略

関係性マーケティング戦略とは、コミュニケーションの向上対策です。
ハート面の強化対策が中心であり、接遇の改善や予約の取り方の工夫、イベント開催などが挙げられます。

(1)来院動機の積極的理由を患者に印象づける

患者の来院理由は、「痛い」「詰め物が取れた」等の消極的理由がほとんどです。
自院に好印象を持って来院してもらうためには、患者とスタッフが直接接するインタラクティブ・マーケティングを学ぶ必要があります。

来院する積極的理由

(2)待ち時間対策

患者が歯科医院を敬遠する理由の一つに「待ち時間が長い」が挙げられます。
予約診療なのに待たされることも、不満理由としてよくみられます。
診療内容に合わせた予約の取り方のほか、診療中の歯科医師に診療時間を患者に判らないよう知らせるサインを決め通達する、急患は応急処置だけとする、待合で待たせずに治療ユニットに通す等の工夫が必要です。

待ち時間対策

3.院内イベント開催で来院を促す

季節に応じた院内イベントを工夫することで、来院頻度を上げることができます。
イベントの案内は、院内掲示のほか、ホームページ、メール、ツイッター、リコールはがきなどで伝えます。

イベントの開催

 

■参考資料
日本ビズアップセミナー「歯科医院の経営戦略の策定手順」
「歯科医飯野増患対策の進め方と指導方法」(講師 株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村泰久)
「競争時代に勝ち残る 歯科経営改善の進め方」(講師 康本歯科クリニック 院長 康本 征史)より

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