人と組織を変える組織開発のポイント

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人と組織を変える組織開発のポイント

  1. 組織開発の必要性と課題
  2. 組織開発のアプローチ手法
  3. 中小企業における組織変革のポイント
  4. 人材開発によって組織活性化に成功した事例

 


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1.組織開発の必要性と課題

中小企業を取り巻く環境は厳しさを増しており、このような環境変化の下で企業を成長・発展させることは容易なことではありません。
環境変化に対応し、自社を成長、発展させながら組織力を向上させるためには、大胆な組織変革が求められています。
今回は、組織を変革させるための組織開発の進め方について解説いたします。

1.組織開発の目的

組織開発が注目を集めるようになったのは、先行きが不透明な中で中小企業がさまざまな問題に対処していくためには、閉鎖的な組織から脱することのできる組織へ変革していかなければならないという認識が高まってきたことにあります。
組織開発論の第一人者であるウォリックは、組織開発の目的として、「組織の自己革新力を養う」ことを挙げています。
環境変化に適応し続け、生き残りを図るためには、自己変革に取り組み続ける力が必要とされています。

2.組織開発の定義

ウォリックは、組織開発を、「組織の健全さ、効果性、自己革新力を高めるために組織を理解し、発展させ、変革させていく計画的で協働的な過程である」と定義づけています。
つまり、組織開発はその過程において、組織が持つ潜在的な力を引き出す機能を持っており、人と人の関係性の変化や相互作用によって変革させていくという考え方です。
したがって、組織開発においては、まずは上司と部下、部署間などの人の関係性に問題があると捉え、その関係性の改善を図ります。

組織開発の定義

3.環境変化のスピードに対応するために急がれる組織開発

企業が掲げる経営ビジョンを実現するためには、組織開発が必要であるといわれています。
それを裏づけるように、組織が活性化している中小企業の多くは、経営者や幹部社員ばかりが目立つのではなく、組織として最大の力が引き出されています。
経営環境変化のスピードに対応するためには、個人プレーで業務を遂行するのではなく、社員一人ひとりが高いモチベーションを持ち、全員で同じ目標に向かっていく組織になっていることが必要です。
そのためには、常に情報や課題を共有し、組織全体の力を結集しなければなりません。

組織開発のねらい

4.組織開発は見えにくいソフト面に目を向ける

組織のハード面とソフト面は氷山の図で例えることができます。
氷山の海面上にはハード面、水面下にはソフト面として区分します。
ハード面は海面上にあるため見えやすく目が向きやすいですが、海面下のソフト面は見えにくいため、気づこうとしなければそこに潜む問題を見過ごしがちです。

氷山に例えた組織における諸要素

自社の業績を上げるためには、組織構造を変える、諸規則やルールを変える、人事制度を見直すなど、ハード面に着手することを優先にしがちですが、それだけで業績が上がるわけではありません。
業績が伸び悩んでいる部署があったときに、ソフト面にあたる人間的な側面にアプローチをすると、社員一人ひとりの意識や行動が見えてきます。
考え方、意識、および社内コミュニケーションなどに問題があると分かれば、そこに着目し、改善策を講じることが組織開発の第一歩となります。
つまり、職場内における人間的な部分のマネジメントが業績に大きく左右するといえます。

5.規模別に応じた組織開発の課題

経営者は、自社を成長させるために、人を育て、良い組織づくりを目指したいという思いは変わらないはずですが、自社の組織の状況によって取り組むべき課題は異なります。
例えば、社員数20~30人規模の企業であれば、一人ひとりに求められる役割は重く、社員の成長を図ることが最優先課題になっているといえるでしょう。
また、社員数が50名を超えてくると、個人的な教育にとどまらず、自社が目指す共通目標に向かって、良い組織文化を浸透・定着させる取り組みが必要となってきます。
自社の成熟度に応じて、組織開発における課題を認識することが必要です。

規模別に応じた組織開発における課題

2.組織開発のアプローチ手法

1.組織開発における4つのアプローチ手法

組織開発を図るために、以下の4つのアプローチを紹介します。
規模別に取り組むべきアプローチ方法は異なります。

組織開発における4つのアプローチ

(1)ヒューマンプロセス(人の内面)へのアプローチ

社員数20名前後の小規模企業は、社員一人ひとりが果たすべき役割は大変重要となります。
一人でも違った価値観を持っていたり、貢献意欲が低いと組織はまとまりません。
社員一人ひとりの考え方を知るためにも、まず意識調査や社長自らが面談を行い、自社への貢献意欲や仕事のモチベーションを確かめます。
社員間でそれらの内面の部分に差異が見られた場合には、チーム力を結集することを訴求するチームビルディング研修の実施などが必要です。

(2)人材マネジメントへのアプローチ

社員数が50名近くなると、個別に向き合う時間を確保することも難しくなっていきます。
しかし、自社がさらに成長するためには社員育成は欠かせません。
OJTなどの現場での指導のみならず、社員それぞれの役割に応じた階層別研修体系の構築、多様な人材を受け入れするための受け入れ体制の整備、さらには、社員のやる気を引き出す人事処遇制度づくりなど、人材育成の仕組みの構築が必要となります。

(3)技術・構造面へのアプローチ

社員数が100名に近づくと、生産性向上が課題となってきます。
現状の業務が職人肌のベテラン社員に依存するような属人的に業務が行われているものについては、業務効率化を図るため、非効率業務の削減、および業務プロセスを可視化(マニュアル作成など)させるなどにより生産性向上を図るための組織づくりを進めます。

(4)戦略面へのアプローチ

社員数が100名を超える状況になると、組織を一つにまとめるのが一層難しくなります。
この規模になると、社員一人ひとりへの個別指導には限界があります。
したがって、自社の存在価値を再定義し、理念や行動指針を浸透することを目的としたCI(コーポレート・アイデンティティ)活動により良い組織文化の定着を図ることが必要となります。
定着を図るために、自社の理念や行動指針をクレドカードとして社員に配布する方法も有効です。

2.協働型組織をつくり、人間的側面の問題への解決を図る

リーダーシップ研究の第一人者である、ロナルド・ハイフェッツは、世の中で起こる問題には、技術的な問題と人間的側面による問題(適応を要する問題)があると述べています。
技術的な問題とは、設備の故障やトラブル、開発技術面での改善課題などです。これらは、原因さえつかめれば解決することが可能なものといえます。
一方、人間的側面による問題は、社員一人ひとりの思考パターンや行動を変える必要があるものです。
これを解決するためには、内面の見えない部分に着目し、なぜそのような行動を取るのかを探ることが必要です。
前述した氷山の海面下に当たるものです。
ハイフェッツは、陥りやすい誤りは、「人間的側面の問題」に対して「技術的な問題」の解決策を当てはめて解決しようとすることであると指摘しています。
例えば、業績が低迷している状況において、人事制度に問題があると決めつけて、社員一人ひとりのモチベーションや行動に着目することなく、評価制度や昇給・賞与制度の見直しなど、人事制度改正に取り組み解決を図ろうというケースなどが挙げられます。
このような人間的側面の問題に対しては、「対話」できる組織、「協働化」組織をつくり解決を図るようなアプローチが必要であると述べています。

技術的問題と人間的側面の問題の違い、「対話」と「協働化」を重視する組織開発のポイント

3.組織変革を図るための8つの「プロセス」

組織開発の進め方は、「OD Map」(Tschudy,2006)というモデルが用いられて説明がなされることが多く、この「OD Map」では、組織開発の進め方として、以下の8つのフェーズを想定しています。組織開発は、計画的で協働的な過程であるとしており、決して経営者単独で実現できるものではなく、組織全体での取り組みが必要です。

組織開発の8つのステップ

最初の「《1》エントリーと契約」の段階では、組織開発の取り組みを実施していくことについて、組織開発実践者とクライアントが合意します。
「《2》データ収集」では、現状把握を行うために、実態調査、インタビュー、観察などによりデータを集め、「《3》データ分析」では、得られたデータを整理し、社員間の意識レベルの違い、組織の成熟度などをデータ化します。
「《4》フィードバック」は、データ分析結果のフィードバックも行いますが、重要なのは、当事者同士の対話の時間を確保することです。
この対話によって、組織開発における自社の課題を共有します。
「《5》アクション計画」、「《6》アクション実施」は、解決策を導き出した後、それをどのように取り組んでいくのかについて、合意をはかった上で実行につなげます。この段階で新たな制度、仕組み、およびルールが構築されていきます。
「《7》評価」、「《8》終結」は、アクション実施後の検証を行い、当初目標が達成されていればその取り組みは終結となります。
ただし、達成されない場合にはまた「《4》フィードバック」に戻り、さらなる取り組みを進めていきます。

3.中小企業における組織変革のポイント

1.組織を変えたいメンバーが集まり、組織変革チームを結成

組織の中には、自社を良くしたいと考えている社員は少数派であることが多く、その状態では、変化を望まない現状維持派に押されてしまいがちです。
人は変われと言われてもなかなか変わることができません。
自社を良くしたいという取り組みについても、自身がそれに共感、納得しなければ、表面上では反対の姿勢を示さなくとも心の中では抵抗し、変わろうとしません。
職場、組織を変えるためには、変化への推進力を高める取り組みが必要です。
これには、推進派がばらばらになるのでなく、「組織変革プロジェクト」など、結集できるチームをつくることが有効です。
その際のポイントは2点です。
一つは同じ志を持つ社員がメンバーとなること。
もう一つは、できるだけあらゆる部署からメンバーを集め、自社の中での小組織をつくることです。
このようなチームが成功するために、メンバーとなるのにふさわしい人物像は、以下の通りです。
絶対条件としては、メンバーに権限を有する人物を入れるか、もしくはチーム自体に権限が与えられることが必要です。

組織変革チームメンバーにふさわしい人物像、組織変革成功のポイント《1》

2.個業から協働化組織へシフトする

今の仕事は、業務の専門化、効率化重視などにより分業化が進んでいる上にITの普及などにより個業化の傾向が進んでいます。
今後は、働き方改革やテレワークが進むと一層その傾向が強くなると思われます。
個業のメリットとしては、コミュニケーションの機会の削減により、コスト削減の効果はある程度期待できます。
一方、デメリットは、チーム(組織)としての相乗効果が発揮されない、互いに関心が向かず信頼関係が構築されにくい、あるいはサポート体制が整わないなど、組織においてはデメリットのほうが大きいといえます。
個業化が浸透していると、仕事の仕方を変えることは難しいですが、これを協働型組織に変えるためには以下の取り組みが求められます。

協働型組織に変えるためのポイント

これらを実現するために、例えば営業職では、個人目標の設定でなくチーム単位の目標設定に変えることで、チームメンバーの経験、スキルによって役割分担を行い、チームとして効率的な営業体制を構築することができます。
新人~若手社員は、営業リスト整備、電話営業による一次営業および営業支援を行い、ベテラン社員は受注活動に特化するなどの体制ができればチームとしての最適解が見えてきます。
そのようになれば、おのずとチームとしてどのように活動するべきであるかというチームミーティングが行われるようになり、チーム内コミュニケーションが向上します。
また、チームとしての成果を追求するならば、新人~若手社員の育成の必要性も感じられるようになり、教育指導の機会も増えてきます。実施するミーティングにおいては、互いに本音を述べ合う「ガチ対話」で行われることが望まれます。

組織変革成功のポイント《2》

3.組織の上位2割が組織変革の推進役を担う

組織変革をもたらすためには、革新者、先駆者となるリーダーのけん引力が成功の鍵を握っています。
組織の上位2割相当の革新者、先駆者がリードし、下位層との溝(キャズム)を埋めるべく下位層をも巻き込んだ取り組みこそが組織変革が可能となるという考え方です。
キャズムを超える条件は、下位層にも役割分担やモチベーション向上策の実施、理念・ビジョンの浸透、および処遇制度を確立させることなどです。

マーケティング理論の応用、組織変革成功のポイント《3》

4.組織変革の推進者であるべき経営トップに求められる要件

活性化した組織をつくるためには、組織の構成員が納得できる目標やビジョンを掲げてそれを共有し、達成に向かって動機づけることが重要です。
その動機付けを行うのがトップの役割です。
このトップについていきたいと思われるリーダーになるための要素としては、《1》正直であること、《2》前向きであること、《3》人間的に魅力的であること、《4》高い専門性を発揮していることです。

活性化した組織像

4.人材開発によって組織活性化に成功した事例

1.プロジェクトを立ち上げ、社員のモチベーション向上につなげたA社

プロジェクトを立ち上げ、社員のモチベーション向上につなげたA社

ビルメンテナンス業のA社は、創業から20年ほど経過し、規模が拡大するにつれて職場の関係性が希薄になったことに起因する問題がいくつか生じていました。
そこで組織文化を見直し、魅力ある組織づくりを目指してプロジェクトを発足させて組織活性化に成果を上げた事例です。
そのプロジェクトは、以下のように進められました。

(1)プロジェクトの立ち上げ

プロジェクトを進めるプロジェクトリーダーを公募により決定。キックオフミーティングでは、「社員自身、魅力があると感じることのできる会社組織とは?」をテーマに掲げて、目的の共有を図りました。

(2)ワークショップの実施

プロジェクトメンバー約10名が協働してファシリテーションを行う体制をつくり、ワークショップを実施。その流れは以下の通りです。

《1》キックオフ

ファシリテーターの紹介、ワークショップの目的、グランドルールの合意。

ワークショップの実施

《2》チェックイン(メンバーの内面の確認)

参加者の状態を確認し、より深い相互理解のベースにするため、話し合いの始めと終わりに、全員が一言ずつ今の自分の状態、気持ちなどを発表。

ワークショップの実施

《3》ストーリーテリング(自社の歴史の振り返り)

経営者より創業からこれまでの歴史や印象的な出来事など、その時の経営者自身の思いとともに話していただき、その様子を動画に撮影。
ワークショップでは、この動画をプロジェクトメンバーに観てもらったうえでA社が今後、どのような会社を目指していくのかについて話し合いを実施。

ワークショップの実施

《4》ディスカバリーインタビュー(成功要因の確認)

新たな発見をすることを目的に2人1組でインタビューを実施。インタビューは、相手が「もっとも輝いた瞬間」について1人30分程の時間を取って行った。インタビュー終了後は、聴き手はインタビューから感じた話し手の成功要因や強みについてフィードバック。その後、話したことやフィードバック内容などの振り返りを通して、自分自身の強みを再確認。

ワークショップの実施

《5》グループダイアローグ(対話による共通理解)

理想を描き、「10年後に私たちはどういう会社でありたいか」「どうすれば魅力のある組織になれるのか」等に関する価値観と背景、理由などについて順にグループごとに対話し、全グループがその内容を発表。他のグループからフィードバックを受け、内容についてそれぞれ承認を得ます。

ワークショップの実施

《6》チェックアウト(振り返り)

最後にワークショップを振り返る時間をとった後、自分自身にとってどんな時間だったかを発表。

このようなプロジェクトを通じて、プロジェクトメンバーは、ワークショップから出てきたキーワードやその意味することを言語化し、経営者とのやりとりを繰り返しながらクレドカードとしてまとめました。
今回のワークショップ参加者による記述式のアンケート結果は、以下の通りとなっていますが、今回のプロジェクトで一定の成果を上げることができたといえます。

プロジェクトで一定の成果

2.株式公開を目指し、経営組織の強化を図ったB社

株式公開を目指し、経営組織の強化を図ったB社

B社は京都府相楽郡に本社を置く、ヨーグルトやマーガリンなどの使い捨て包装容器や、検査カップ、試験管などの医療機器のプラスチック製品を開発・製造しているメーカーです。
同社社長は株式公開を目標としていたものの、幹部メンバー(以下、メンバー)は株式公開に向けた具体的なイメージを持てておらず、経営基盤を強化していくことの自覚や責任感が薄いことを懸念しており、中小機構の支援を通じて組織改革を実行しました。
具体的には、社長を除くメンバーによって中期経営計画策定に取り組むことで、将来の会社を支えるべきメンバーの意識改革を図り、自社の経営課題をメンバーが中心となって改善・解決できるようになることを目指しました。
プロジェクトの推進体制は、次の経営を担う常務がプロジェクトリーダーとなり、それまでは社長が業務の詳細部分まで把握し、具体的に出される指示を社員が受け止めるだけという受け身体質を、メンバーの自主性に任せて自分たちで考え、決定していく方法で進めて、プロジェクトメンバーとなった各課の上長たちを引っ張っていきました。
完成した中期経営計画に基づき、利益計画及び上場計画へと進めることができたとともに、各メンバーが「上場の指針になった」「自分のやるべきことが分かった」と取り組みの成果を実感する意見がほとんどでした。
続いて、B社は製品の不良率が高い状態にあったため、不良率低減も課題となっており、引き続き中小機構の支援を受けながら、「5S活動」を実施。
この活動はPDCAを回す活動であり、メンバーは問題解決のプロセスそのものを体験的に学ぶこともねらいとしていました。
これらの活動を通じて、メンバーはこれまでよりも大局的な視点で自社を見るようになり、革新的成長に向けて、オンデマンド印刷成型や3D、IML等の新規事業のアイディアも豊富に提案されたことも大きな成果となりました。

これらの事例から組織を変えるためには先駆者、革新者となるべく社員が高いモチベーションを持ち、他のメンバーを牽引することで大きな成果につながることがわかります。
後継者問題に直面している中小企業にとって、幹部社員の養成は重要な課題となっていますので、自社の組織開発の参考にしていただければ幸いです。

 

■参考文献
 「組織変革のマネジメント」(松田陽一著 中央経済社)
 「組織開発の探求」(中原淳、中村和彦著 ダイヤモンド社)
 「マンガでやさしくわかる組織開発」(中村和彦著 日本能率協会マネジメントセンター)
 「中小機構」ホームページ

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