収益拡大の機会として普及 サブスクリプション型サービス導入のポイント

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収益拡大の機会として普及 サブスクリプション型サービス導入のポイント

  1. サブスクリプション型サービスとは
  2. サービスの類型と成功のポイント
  3. 新たなビジネスモデルの切り口
  4. サブスクリプション型サービスの導入事例

 


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1.サブスクリプション型サービスとは

近年のビジネスモデルとして、サブスクリプション型(提供する商品やサービスの数ではなく、利用期間に対して対価を支払う方式)のサービスがあらゆる業種において拡大普及し始めています。
背景には、消費者志向が変わってきたことが一因となっていますが、ネットフリックスなどの映像コンテンツを配信する新たな成功例が生まれ、メディア企業以外にも世界中でサブスクリプションサービスを導入している企業が増えています。
今回は、新たな収益拡大の可能性のあるサブスクリプション型サービスの概要について解説します。

サブスクリプション型サービスとは

サブスクリプション型サービスは、「新聞・雑誌などの定期購読」と共通する、顧客に継続的に課金するという定額制サービスと思われがちですが、最新の動向としてはAIを活用して顧客ニーズに応じた商品やサービスを提供し、時に料金が変動するビジネスモデルであるということです。
このサービスは、すでに大手から中小企業まで幅広い業種で導入されていることを考えると、自社でも導入の可否を検討する余地はあるといえます。
最近、トヨタ自動車が2019年を目処にサブスクリプション型サービス「KINTO」を開始すると発表したことが注目を浴びました。

サブスクリプション型サービスの定義、サブスクリプション形サービスのビジネスモデル

サブスクリプション型サービスが普及してきた背景

(1)顧客志向の変化

これまでの流通ルートは、「メーカー→流通チャネル→消費者」という川上から川下へ流れていくことが主流でしたが、このようなメーカー側から発信した販売方法では、消費者志向が多様化し、個別ニーズにあった商品やサービスの提供が難しくなってきました。
事業者が積極的にサブスクリプションに取り組む背景には、時代が多品種少量生産、モノからサービス・価値、体験重視などの消費者志向に変わってきたため、いかに消費者を自社のファン(=固定客)に結び付けるかが重要になっています。
近年の消費者は、モノの所有に固執しないシェアリングを好む傾向が強くなり、企業側にはこれからますますモノが売れなくなるという危機感があります。
また、サブスクリプション型サービス(以下、本サービス)が広がった要因としては、インターネットやスマホが各家庭に普及し、WEBで契約することが一般的になったという背景もあります。

消費活動の変化

(2)これまでのマーケティング手法が通用しなくなってきた

以前は、企業のゴールは製品をできるだけたくさん売ることでした。そのために重視されたマーケティング手法は「プッシュ」型と「プル」型の2つの手法です。
「プッシュ」とは流通チャネルに商品を流すことであり、競合他社より多く売るために販促活動などに資金や人員が注ぎ込まれました。
また、「プル」にも注力し、多くの顧客に来店してもらい自社製品・商品を買ってもらうために、宣伝を積極的に行ってきていた状況があります。
しかし、このような販売方法がだんだん通用しなくなったことも本サービスが普及してきた背景だといえます。

プッシュ型とプル型

発展の3つの段階

日本においては、本サービスは、本格的に普及し始めたばかりです。
そのために、あらゆる顧客ニーズに応じて柔軟なサービスを提供できている事業者はまだ少ないといえます。
今後、本サービスは、ますます発展することが予想されていますが、その進行具合は下記のように段階別に整理できます。
最上位の段階はAI(人工知能)を活用し、顧客ニーズに合った最適な商品やサービスや、新たな顧客ニーズを引き出すことができる新たな価値を提供できるようなものだといえます。

サブスクリプションの発展段階

2.サービスの類型と成功のポイント

事業者の分類

本サービス事業を行っている事業者は大きく5つに分類することができます。

事業者の分類

このうち、特に業績が伸びているのは、既存の事業と競合しないレンタル事業者やスタートアップ企業です。
本サービスはまだ目新しさもあり、顧客の関心も高まってきており、これまで関心のなかった階層や年齢層などの新規顧客の開拓につながっています。
さらには定額制であるため、企業側は安定収入源になっていることが大きいといえます。

サービスの類型

サービスの類型としては、次のようにあらゆるジャンルでこのサービスが提供されています。

サービスの類型

導入のメリット

(1)事業者側のメリット

事業者側からみると、本サービス導入には次のようなメリットがあります。
顧客と長期的に良好な関係を構築することで、継続的な利益が見込める点がサブスクリプション型サービスの最も大きなメリットと言えます。

事業者側のメリット

(2)ユーザー側のメリット

ユーザー側には、次のようなメリットがあります。
購入するよりも安価でサービスを利用でき、手間を省け、利便性が高いサービスを受けることが可能なことが最大のメリットといえます。

ユーザー側のメリット

導入成功のポイント

消費者にとっては「購入」と「レンタル」に加えて、サブスクリプションという選択肢が増えたことは大きなメリットであるといえます。
本サービスは、その商品、サービスを使うだけにとどまらず、さらなる価値(情報、特別感など)を提供することが多いのが特徴です。
例えば、ブランドバッグを取り扱う「ラクサス」は、単に定額制でブランドバックが使えるだけではなく、結婚式、パーティーの場に合うものを選んだり、自分の気分に合わせて選ぶことができます。
また、洋服を定額制で利用できる「エアークローゼット」は、スタイリストが選んだ服が届くため、洋服選びに悩まなくてもよいという価値を提供しています。
また、このサービスは高い顧客満足を実現するために、いろいろと工夫することが求められており、料金プランにバリエーションを持たせるなどのサービスを展開しています。
例えば、「おためしプラン」「基本プラン」「特別プラン」などのように選べることがポイントです。
また、海外出張などの理由で長期に利用できない場合には、一時的にサービス利用を休止できるようなプランをつけることも方法のひとつです。
本サービスが拡大している一方で撤退する事業者も多く、このような新しい価値をうまく消費者に提供できなかったことが撤退の一因になったといえます。
このサービスを導入、またはこれから導入を検討している事業者は、単に使ってもらうこと以外の価値を顧客に提供し、顧客との関係を長期継続させることができるかどうかが成功の鍵を握っているといえます。

サブスクリプション型サービスの成功のポイント

導入が難しい業者

メーカーや小売業者は、サブスクリプション型サービスを積極的に展開しにくいといわれています。
メーカーは、ほとんどのケースで量販店での販売で売り上げが成り立っています。
自社で本サービスを開始すると量販店の販売に影響を及ぼすため、社内で量販店を担当している営業部署から反発を受けてしまいます。
小売業者は、販売による売り上げを自ら奪ってしまうことにつながる可能性もあり、積極的な宣伝に至らない事業者も少なくありません。

3.新たなビジネスモデルの切り口

ビジネスモデルを変える発想を持つポイント

定額制サービスの導入にあたっては、単に既存サービス提供を定額にするという発想だけでは、成功は難しいといえます。
既存サービスの強みを生かしつつ、ビジネスモデルを変えることで新たな収益の機会が得られます。
ビジネスモデルを変化させるためのポイントは、以下の4点です。

ビジネスモデルを変化させる4つのポイント

顧客を変える

ターゲットにしている顧客を変えると新規顧客の開拓につながる可能性があります。
新規顧客を開拓するターゲットとしては、以下の層が考えられます。

新規顧客を開拓するターゲット

(1) は、例えばメガネは視力の悪い方のための道具ですが、ファッション性を追及したものであれば、メガネをかけたことのない人を新しい顧客に迎えることができます。
(2) の例として、介護サービスは介護が必要となった人が受けるサービスですが、サービス利用にあたって、料金を負担しているのは親族(子など)であるケースが多いといわれています。
よって、親族を対象にしたサービスを検討すれば、新たな顧客層につながるかもしれません。
(3) は、高級車を格安定額で利用できる例が挙げられます。
一般的に若年層は所得水準が低い人が多く、高級車に乗るのは憧れであった人にも、安い料金で利用できるようなシステムをつくれば、車を持たない若年層を新規顧客につなげることができるかもしれません。

商品・サービスを変える

顧客などの要素は変えずに、商品やサービスを変えるという発想です。
変えるためのキーワードは次の3つです。

商品・サービスを変える3つのキーワード

(1) は、必要以上のサービスを省き、安い料金で利用できることを検討することです。
代表的なサービスとしてはLCC(Low Cost Carrier:効率的な運営により低価格の運賃で運航サービスを提供する航空会社)やヘアカット専門店などがあげられます。
(2) は、基本的なパターンをベースにオリジナル性を出す方法です。
パターン化することでコスト管理がしやすいメリットがあるからです。
例えば、ユニクロがイージーオーダーの展開を始めましたが、提供される洋服が「安い」「品質が良い」だけでは、業績を伸ばすことが難しくなってきたことがこうした取り組みを始めた背景だといえます。
(3) は、他社にない魅力を追求し、差別化を図ることです。
例えば、お酒の定期配送を行っている通信販売がありますが、このようなサービスは既に行われているため、なかなか入手できない地酒を専門に取り扱う専門店になる方法などがあげられます。

場所を変える

販売する場所を変える考え方で、例えばレンタカーを利用したい場合に、以前は駅前などに店舗が限定されていたため、近所で借りることが難しいなどの欠点がありました。
しかし、最近ではガソリンスタンドと提携したり、駐車場を活用したカーシェアリングなどが普及してきており、これまでの固定概念(レンタカーは駅の近くの店舗まで行って借りる)に捉われない発想を持つことです。
また、ネット社会になっている今では、実店舗でなく仮想店舗を持つ事業者が大きく業績を伸ばしており、販売する場所を変えて成功した代表的な事例といえます。

時間を変える

営業時間帯を変えるだけで、顧客の流れが大きく変わることがあります。
コンビニエンスストアは、以前は深夜の営業や、ほぼ定価で販売している商品(しかもアイテム数は限定)しか取り扱っていない店舗が果たして成功するのかという声もありました。
今では深夜営業や24時間営業で売り上げを伸ばしています。
このケースは、顧客は価格や商品数よりも営業時間にニーズがあったという典型です。
一方、営業時間を週末に限定し、業績を伸ばしているスーパーもあります。
この業態のメリットは、比較的顧客の少ない平日に営業を行わないことで、固定費を大幅に削減できることです。
これらのポイントは、一つの要素に限らず組み合わせて考える方法もあります。
すべてを変えてしまうと既存ビジネスとは全く異なるビジネスになってしまい、顧客離れにつながる可能性があるため注意が必要です。
人は100%知らないものと、100%知っているものについては興味を持たないといわれていることから、一部を変えてみることも工夫の一つだといえます。

既成概念を変えてみる

体調が悪いときに受診しようと考えても、仕事が忙しくてすぐに病院に行けなかったり、心配なことがあるので医師に相談したい時などにネットで医師に相談対応できる定額サービスがあります。
「Doctors Me(ドクターズミー)」は、医師・管理栄養士といった医療専門家にインターネット上で健康や医療に関する相談ができるアプリケーションサービスを、月額300円(税抜)で提供しています。
医師が朝9時から夜24時までスタンバイしており、平均30分以内に回答がもらうことができ、どのような相談でも100%回答をもらうことが可能です。また1回の回答で分からなかった内容も、続けて納得するまで相談することもできます。
さらに、回答者を指名した指名相談プラン1回500円(税別)を受けるサービスも行っています。
発想の転換や既成概念に捉われない考え方を持つと、新たなビジネスチャンスが生まれるかも知れません。

4.サブスクリプション型サービスの導入事例

サブスクリプション型サービスは様々な業種で導入されています。
これまでの定額サービスを発展させたものから、新たに始めたサービスまで多種多様となっています。
以下に、導入事例をご紹介します。

音楽配信サービス「Spotify」

『Spotify(スポティファイ)』は、約4,000万曲の楽曲が月額980円で聴き放題になる定額音楽配信サービスで、有料・無料プランどちらでも音楽を楽しめます。
無料プランでは「シャッフル再生のみ」「数曲ごとに音声広告が入る」などの制限がありますが、利用期間の制限なく「全収録曲をフル尺」で聴き放題です。
一方でプレミアム登録をすれば、オンデマンド再生可能、広告なし、最高音質の設定といった機能が解放され、より快適に音楽を楽しめるようになります。
月額480円の学割プランや家族間で最大5人まで使える月額1,480円のファミリープランも用意されています。

音楽配信サービス「Spotify」

「新作新品」洋服の提供サービス「MECHAKARI」

洋服のサブスクリプション型サービスは、様々な事業者で行っていますが、「MECHAKARI(メチャカリ)」でレンタルできるのは全て「新作新品」です。
また、洋服の返却期間はなく、何度でも借りることが可能です。
さらに、気に入った洋服を一定期間(60日間)借り続ければ、自分のものにできる点が特徴です。
気に入った洋服以外は、買ってもあまり着ないという消費者のニーズに合致しています。

 「新作新品」洋服の提供サービス「MECHAKARI」

ワイシャツの提供+クリーニングサービス「YClean」

「YClean(ワイクリン)」でレンタルできるのは、1ヶ月分のワイシャツです。
このサービスを利用すると、自分でクリーニングする必要もなく、使い終わったら返却するだけのサービスです。
最も安価なプランではワイシャツの種類は選べませんが、クリーニングの煩わしさをなくすことを重要視している方には、ニーズに応えるサービスだといえます。

ワイシャツの提供+クリーニングサービス「YClean」

コンタクトレンズの定額サービス「エースコンタクト」

コンタクトレンズ販売の大手エースコンタクトは、コンタクトレンズの定額制サービスを行っています。
利用期間中であれば同じコンタクトレンズの再注文はもちろん、度数の変更までも行ってもらえることができ、割安でコンタクトを新品購入することが可能です。

コンタクトレンズの定額サービス「エースコンタクト」 

ラーメンを定額で食べられる「野郎ラーメン」

関東で展開されるラーメン店「野郎ラーメン」がラーメンのサブスクリプションサービスを行っています。
月額8,600円で、ラーメンを1日一杯無料で食べられます。
月に12杯食べれば元を取れる料金です。

ラーメンを定額で食べられる「野郎ラーメン」 

これらは、ほんの一例となっていますが、これまで定額制でサービスを提供することが考えられなかったものも含まれています。
安定顧客を確保し、収益拡大につなげるためのヒントとしてご活用ください。

 

■参考資料
『サブスクリプション』ティエン・ツォ、ゲイブ・ワイザート著 ダイヤモンド社
『ビジネスモデル2.0図鑑』近藤 哲朗著 KADOKAWA社
『儲けのしくみ』酒井 威津善著 自由国民社
『ダイヤモンドオンライン』週刊ダイヤモンド編集部

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