高齢化社会に対応した収入確保 歯科訪問診療の取り組み強化策

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

高齢化社会に対応した収入確保 歯科訪問診療の取り組み強化策

  1. 歯科訪問診療の実施状況
  2. 歯科訪問診療への取り組み
  3. 在宅療養支援歯科診療所の概要
  4. かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所とは

 


この記事をPDFでダウンロードする。

 

1.歯科訪問診療の実施状況

歯科医療は外来診療が中心となっており、患者の年齢別歯科受療率は70歳から74歳を上限とし、この年齢以降は急速に低下するという状況になっています。
そのため、訪問診療など新たな医業収入確保への取り組みが求められています。
厚生労働省も在宅診療へのシフトに力を入れていますが、在宅医療実施歯科診療所は18.2%にとどまっており、まだまだ進んでいないのが現状です。
実施件数では、在宅医療サービス実施診療所1箇所当たりの訪問歯科診療は、全国平均で1ヶ月間に12.6件です。
現状では、約20%の歯科診療所が毎月平均12件強の訪問診療を行っています。
この実施件数は、全要介護高齢者を対象とした月1回の定期的管理を中心とした在宅歯科医療サービスを想定した場合、充足率が3.6%にしかなっていません。
今後は、歯科訪問診療への取り組みが歯科医院経営のポイントになります。

1.歯科訪問診療の実施状況

居宅において歯科訪問診療を提供している歯科診療所の割合は、微増傾向にあります。
施設において歯科訪問診療を実施している歯科診療所は、調査を重ねるごとに増加しており、居宅で歯科訪問診療医療を提供している歯科診療所よりも多くなっています。
歯科診療所1か所当たりの歯科訪問診療の実施件数(各年9月分)は、調査を重ねるごとに増加しており、特に施設での増加が顕著となっています。

歯科訪問診療の実施状況

2.在宅医療の推進

平成30年の診療報酬改定では、地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化・連携の推進という観点から歯科訪問診療料の見直しとともに、歯科口腔機能管理を推進する内容となりました。

在宅歯科医療の推進

3.歯科訪問診療を実施している医療機関数

平成30年10月において、歯科訪問診療料を算定した15,052件の医療機関のうち、歯科訪問診療1のみを算定している医療機関は7,487件(49.7%)でした。
一方、歯科訪問診療1の算定がない医療機関は1,292件(8.6%)となっています。

歯科訪問診療を実施している医療機関数

4.歯科訪問診療の実施状況等

在宅療養支援歯科診療所以外の歯科診療所では、「直近1年間に歯科訪問診療等を実施していない」が31.1%、「これまでに歯科訪問診療を実施したことがない」が29.9%でした。
また、歯科訪問診療等を実施していない理由は、「人手または歯科訪問診療に当てる時間が確保できないから」が57.9%、「歯科訪問診療を実施するために必要な機器・機材がないから」が43.3%、「歯科訪問診療の依頼がないから(ニーズがあれば対応は可能)」が40.5%という結果を示しています。

歯科訪問診療の実施状況

2.歯科訪問診療への取り組み

政府は、加速する高齢社会に併せて増大する医療、介護費の対策として揚げた「健康・介護・医療等分野に係る基本的施策」において、医療保険・介護保険制度の持続のために様々な施策を発表しています。
歯科医療も、その方針に合わせて厚生労働省から「在宅歯科医療への推進」が発表され、取り組みが進んでいます。

1.歯科訪問診療時に必要な診療体制

在宅歯科診療を行っていて在宅患者を多く集めている歯科診療所には、大きく2つの特徴があります。
昼休みや短い時間で訪問診療をしている歯科診療所よりも、訪問歯科診療を中心に行っている歯科診療所の方に在宅患者が集まっています。
在宅医療では、患者ニーズが歯科医療だけでなく、在宅看護という視点での診療を求めていると思われます。

在宅患者ニーズに合わせた訪問歯科医療の診療体制

2.歯科訪問診療の周知方法

歯科訪問診療の周知方法には、「診療室や待合室、受付・会計窓口などの歯科診療所内にポスターを掲示する」「ホームページで告知する」「介護関係機関等へリーフレット等を置かせてもらう」が挙げられます。
その他、「地区歯科医師会支部へ働きかける」「地区のケアマネージャー等に紹介依頼を行う」等といった活動も必要です。
歯科訪問診療のきっかけは来院患者からの紹介(同居家族や知人友人への口コミ)が最も多いことから、まずは医院内での認知活動が重要です。

歯科訪問診療の周知方法

3.歯科訪問診療に必要な医療機器

在宅歯科診療には、訪問診療用に特別な医療機器等が必要です。
ポータブルのユニットやX線装置、タービン・エンジン等多種あります。

在宅歯科診療用の医療機器

4.他の医療機関との連携

歯科訪問診療を行うにあたり、他の医療機関との連携は必須です。歯科訪問診療の患者は医科の訪問診療も受診しているケースが多く、どのような急変にも対応できる体制づくりが必要です。
また、医療機関同士の連携から紹介もあるため、ただ連携するのではなく、情報の共有化を含めた医療機関との担当窓口や上部とのコミュニケーションを綿密に行うことが求められます。
連携先としては、「一般診療所」「病院」、次いで「他の歯科診療所」が挙げられます。

他の医療機関との連携状況

5.歯科訪問診療料の評価の見直し

令和元年10月の診療報酬改定において、歯科訪問診療に関する点数が同一建物に居住する患者数及び患者1人につき診療に要した時間について、評価の見直しが行われました。

歯科訪問診療料の評価の見直し

3.在宅療養支援歯科診療所の概要

2025年には、国民の約5人に1人(18.1%)を75歳以上の後期高齢者が占めると予測されています
後期高齢者の歯科治療の需要が、う蝕に対する形態回復から摂食嚥下障害への対応など口腔機能の維持・回復へと変化していくことや、高齢化が進行することにより、在宅患者への診療も増加することが予測できます。
そのために必要な医科医療機関や地域包括支援センター等との連携を図り、在宅または介護施設等における療養を歯科医療面から支援するのが在宅療養支援歯科診療所です。

1.在宅療養支援歯科診療所の見直し

令和2年4月に予定される診療報酬の改定においても、前回の改定の基本方針をより強化・推進するという方向性が示されています。
地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進がうたわれ、在宅支援歯科診療所の役割を明確化するとともに機能の充実をより促進するとされています。

在宅療養支援歯科診療所の役割

2.在宅療養支援歯科診療所の届出数の推移

在宅療養支援歯科診療所の届出数は年々増加していて、平成30年の調査では、在宅療養支援歯科診療所1の診療所数は10,655件、在宅療養支援歯科診療所2の診療所数は606件となっています。

在宅療養支援歯科診療所の届出医療機関数の推移

3.在宅療養支援歯科診療所の基準

在宅療養支援歯科診療所は、地方厚生局に届け出て認可される医療機関の施設基準の一つです。
自宅で療養する方が医療サービスを受けるにあたり、医師や病院を探したり様々な事業者と連絡を取り合ったりしなくてすむように、かかりつけ歯科医として一元的に療養管理する責任を負うのが、在宅療養支援歯科診療所の役割です。

在宅療養支援歯科診療所の基準

4.在宅療養支援歯科診療所の未届けの理由

在宅療養支援歯科診療所の未届け理由

「在宅療養支援歯科診療所1」の届出を行っていない理由について、「栄養サポートチーム等連携加算等の算定実績が不足しているため」が63.8%と最も多く、次いで「過去1年間に実施した歯科訪問診療の算定件数」が39.3%、「地域における多職種連携に係る会議への出席等の連携実績」が38.0%という結果が示されています。
この課題の克服が、歯科訪問診療への取り組み増加を図るポイントになります。

5.在宅歯科医療における現状及び課題

近年では、介護施設に対して歯科訪問診療を実施している歯科診療所は、居宅で歯科訪問診療医療を提供している歯科診療所を上回っています。
歯科訪問診療料の算定回数は全体的に増加傾向にあり、特に歯科訪問診療2及び3の割合が多くなっています。
平成30年度診療報酬改定において在宅療養支援歯科診療所の施設基準の見直しが行なわれ、令和2年3月31日までは経過措置期間となっています。

課題における論点

4.かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所とは

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所とは、決められた基準を満たすことで厚生労働省から認可を受けた地域完結型医療推進を行う歯科医療機関のことをいいます。
高齢化社会の進展や、歯科疾患罹患状況の変化に伴い、歯の形態の回復を主体としたこれまでの「治療中心型」の歯科治療だけではなく、全身的な疾患の状況などもふまえ、医療や介護等の関係機関と連携しつつ患者個々の状態に応じた口腔機能の維持・回復(獲得)をめざす「治療・管理・連携型」の歯科診療の必要性が増すと予想されています。
今後の患者層の将来像から、生涯を通じた歯科疾患の重症化を予防するため、平成28年度診療報酬改定で新設されたのが「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」です。

1.かかりつけ歯科医機能評価の充実

かかりつけ歯科医機能をより一層推進する観点から、平成30年診療報酬改定では、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の見直しや、かかりつけ医との情報共有・連携の評価が行われました。

かかりつけ歯科医機能評価の充実

2.かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所が選択される理由

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所に通院中の患者が当該歯科診療所を選んだ理由としては、「信頼している歯科医師がいるから」が最も多く、次いで「歯科医師や職員の感じがよいから」「かかりつけの歯科診療所だから」「むし歯や歯周病の定期的な管理をしてくれるから」が挙げられました。
かかりつけ歯科医やかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所としての専門性や医療機関との連携等の一般への浸透が、徐々に進んでいることがわかります。
また、医療機関としての患者サービス向上も重要なポイントだといえます。

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所を選択した理由

3.かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の基準

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所としての基準は、より専門性が高く、地方厚生局へ様々な施設基準を提出し、過去の臨床件数も求められています。
歯科訪問診療においても、自院での取り組み、もしくは在宅療養支援歯科診療所との連携が必要です。
また医科医療機関との連携も必要であり、保険医療機関との事前の連携体制が確保されていることが基準となっています。
患者にとって安全・安心な歯科医療環境提供のため、装置・器具等の整備が必要です。

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の基準

 

■参考資料
厚生労働省ホームページ:
中医協審議会 在宅医療(その1) について
中医協審議会 歯科医療について
平成30年度診療報酬改定の概要
令和2年度診療報酬改定の基本方針(案)
診療報酬の算定方法の一部を改正に伴う実施上の留意事項

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。