デフレ時代を勝ち抜く!中小企業に必要なコストダウンの進め方

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デフレ時代を勝ち抜く!中小企業に必要なコストダウンの進め方

  1. 経営者に必要な戦略的コストダウン
  2. 売上原価を見直す購買実務の留意点
  3. 社内で実現可能なコストダウンと改善手法
  4. 効果が見込めるコストダウン事例

 


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1.経営者に必要な戦略的コストダウン

1.中小企業を取り巻く環境

中小企業の景況は緩やかな改善傾向にあるといわれていますが、新規開業の停滞、生産性の伸び悩みに加えて、経営者の高齢化や人材不足の深刻化といった構造的な課題が進行しています。
また、デフレ時代が長引く昨今、以下の図の通り中小企業の売上高、生産性は伸び悩み、大企業との格差は年々広がっています。

売上高及び労働生産性の推移

5月30日に発表された2017年4月の有効求人倍率は、バブル期のピークだった1990年7月の1.46倍を上回り、1974年以来43年ぶりの高水準を記録しました。
しかし、中小企業の従業者数は減少しています。
その要因としては、大企業と中小企業の賃金水準の格差が大きいといわれています。
社員を確保するために給与水準の引き上げを図りつつ、必要利益を確保するためには、無駄なコストは徹底して削減することが必要です。

2.−コストダウンの進め方と留意ポイント

全社的に時間管理を徹底することで「業務のムダ」をなくすなど業務効率化を図り、これまで業務に費やしてきた時間を短縮すれば、残業の削減、ひいては生産性の向上が実現できます。
時間管理の徹底は、残業代の削減と同時に生産性の向上をもたらす企業にとって効果的なコストダウンといえます。
つまり、工夫、短縮、能率を上げることが時間管理によるコストダウンにつながります。
そのためには、以下の項目をチェックする必要があります。

コストダウンの進め方と留意ポイント

3.月次で経営指標を負う

コストダウンを行うには、現状と目標指標が明確にされていなければなりません。
つまり、スタート地点とゴール地点が曖昧では、効率的なコストダウンを進めることが難しいということです。
現状と目標指標を明確にしたうえで、コストダウンをどのように進めるかが経営手腕の見せ所です。
では、コストダウンの目標指標はどのように設定すればいいのでしょうか?
企業の利益は、「売上-売上原価-販売管理費」で求められます。
従って、売上原価や販売管理費を減らすことができれば利益の最大化が図れます。
この両者を削減する場合、コストダウンの目標指標として使える経営指標は以下の2つです。

コストダウンの目標指標として使える経営指標

現状と目標の数字が明確になれば、社員のコスト意識も高めることができます。
例えば、現状の売上原価率が40%、販売原価率が50%だった場合、目標をそれぞれ37%、47%に設定するとコストダウンの目標値はそれぞれ▲3%になります。
売上原価、経費のコストダウンは、以下のように様々な手法があります。

売上原価、経費のコストダウン手法

以上のように共通認識と共通目標を掲げることでコストダウンの環境が整います。
また、コストダウンには仕入や消耗品など、金額が見える部分から始める傾向が強いですが、実は労働効率(ヒト)のように、場合によっては金額が目に見えるコストダウンよりも数倍の効果を得られることがあります。
例えば、一人の社員が1時間に10個の商品を作るのと20個の商品を作るのでは、商品1個あたりの人件費が2倍も違う計算になります。
あるいは一人の社員が1時間に10個の商品を売るのと、20個の商品を売るのでは、上の例と同じく商品1個あたりの人件費が2倍も違う計算になります。

2.売上原価を見直す購買実務の留意点

1.コストの見える化により実態を把握する

コスト削減の最大の目的は利益を増加させることです。
利益を増加させるには、収益(売上)アップを図るか、経費削減(コストダウン)を行うかという2つの方法しかありません。
売上アップを実現させることは、不確定要素が多く、至難の業です。
一方、コストダウンは社内でコントロールできるものなので、努力と工夫次第で実現可能なものが多くあります。
そこで効果的なのがコストの見える化です。
コストの見える化とはコストを数値として見えるようにして把握し、改善を行っていくためにモニタリングしていくことです。

コストの見える化(購入品**の価格・数量 時系列分析の例)

過去と現在の購入価格の推移と変化の根拠を明確にすることは、コスト管理をする上で必要不可欠です。
また、価格の推移とともに購入量の変化も実態把握します。
時系列で購入価格に変化がある場合の要因と数量に適した価格かどうかのチェック機能も働かせる必要があります。
数量が増加しているにも関わらずコストが変わらない場合は、相対的に割高な可能性もあるため、特に注意を要します。

2.購買方法を体系化し最善の購買方法を実践する

購買は、従来のような「必要なモノの調達」から「利益を生み出す購買」への変革が求められています。
購買におけるコストダウンが求められている理由は、以下の通りです。

購買におけるコストダウンが求められている理由

企業では、特殊品と汎用品の両方を購入し、その上で適正な品質、コスト、納期を実現させる必要があります。
よってそれぞれの性質に応じた手法の活用が必要です。
購入するプロセスが同じであっても以下のようにポイントを押さえる必要があります。

購入ポイント

特殊品の場合、仕様決定とサプライヤーの選定を分離することがポイントで、汎用品の場合は、複数のサプライヤーに同じ条件を提示し、競合させることがポイントになります。
昔からの馴染みのサプライヤーだからといって遠慮する必要はありません。
経営に与えるインパクトが大きいのであれば競合させることも必要です。
また、「安かろう悪かろう」では全く意味はなく、結果、「安物買いの銭失い」では本末転倒です。
最低基準を設け、慎重かつ大胆に進める必要があります。

3.適切なサプライヤーの選定手法

購入に必要な条件が揃ったら適切なサプライヤーを選定します。
見積書の金額だけで判断せず、以下の選定基準によって総合的な妥当性の検討が必要です。
企業の活動においては、必要な商品、製品、材料などを適切な仕入れ先からタイムリーに購入することが求められます。
そして仕入れ先と商品などのQCD、すなわち品質(クオリティー)、価格(コスト)、納期(デリバリー)の交渉も行い、双方が合意に達すれば、注文書を発行し、商品などを仕入れることになります。

品質(クオリティー)、価格(コスト)、納期(デリバリー)

コストは、品質や納期と密接に結びついています。
例えば、同じ条件の見積依頼に対して、著しく安い見積もりが提出された場合、安い理由や品質や納期の要素で他のサプライヤーと異なっている部分の有無を確認する必要があります。
根拠のない魅力的な見積もりほどリスクが高いと考えるべきです。
どこか懸念がある場合は、全体バランスを見た上で、時には見積金額の高いサプライヤーへ発注する判断もあり得ます。

サプライヤー選定フロー

3.社内で実現可能なコストダウンと改善手法

1.逆算からコストダウン額を導き出す

現代は、発生したコストに利益を加えて販売価格を設定することは困難な時代です。
価格競争の激化によってコストが一旦確定してからコスト削減を実践するのではなく、市場価格に見合うコストの実現が必要不可欠です。
つまり、市場で販売できる売価から逆算して適正利益や管理費を除いた後に算出されるコストが「逆算するコスト」です。
以下は、目標となるコストダウン額の設定方法です。

目標となるコストダウン額の設定方法

市場価格から逆算した目標コストの設定によって、購入品価格は低く抑えられる傾向があります。
また、目標を達成するためには、以下の点に留意する必要があります。

目標を達成するために

「逆算するコスト」の実践により、企業全体でコストを改善しなければならない項目が特定され、このような試算を通じて、損益改善のボトルネックを排除する取り組みが可能になります。
また、目標からの逆算とは、厳しい対応を迫られる反面、対応すべきポイントの明確化によって関連部門からの協力を得やすいなどのメリットもあります。

2.自社に適した即効性のある改善策を実践する

コストダウンといっても、コストには様々な種類があります。
どのようにコスト削減に取り組めば良いかについて、項目別にコストダウン案を紹介します。

コストダウン案

コストダウンに対する社長と社員のモチベーションの高さは全く異なります。
社長は自社の利益を増やすことが重要な仕事なので、経費削減に対するモチベーションは非常に高いでしょうが、一方、社員にとっては、経費削減ができたからといって社員自らの利益に直結するわけではないため、社長と同等の経費削減への意識はないかも知れません。
つまり、この意識のギャップを理解したうえで経費削減プロジェクトを立ち上げないと、その経費削減の効果は全く異なったものになってしまいます。

3.経費削減プロジェクトの進め方

コストダウンを推進する改善活動は現状の問題点を発掘し、利益を生み出すための活動です。
また、コストダウンを推進し利益を創出するためには、全社一丸となって取り組む必要があります。
管理・改善の手法としては、複数の手法がありますが、ここでは、「5WHY(なぜなぜ分析)」を紹介します。
「なぜ?」を5回繰り返すうちにその真意を探ることができる方法です。
実際には、「なぜ」を5回繰り返す前に目指すべき方向性が明らかになるケースもあります。
コストダウンを徹底して取り組むために、この手法を全社員に修得させることも必要といえます。
下記事例は、原因を突き詰めて結論を導き出したものです。
初めの「なぜ」という問いかけでは、根本的な解決策につながることは少ないですが、「なぜ」を繰り返すことで、効果的な対応策を見出だすことが可能となります。

5WHY(なぜなぜ分析)の例

4.効果が見込めるコストダウン事例

1.新規サプライヤー開拓で仕入コストの低減を実現させたA社

(1)背景

A社は、従業員200名の油圧機器メーカーです。
大口顧客先より数ヶ月分の注文を一気に受けた半面、約30%の値引き要求を受けました。
この注文を受け、要求通りに納品できた場合、他の案件も受注できる条件付きとなっており、失注した場合、この大口顧客先からの1年分の注文を失うことになり、全体コストの約7割を占める仕入コストの低減が急務となりました。

(2)対応方法

仕入先である既存サプライヤーでは、値引き及び生産能力に問題があるため、新規サプライヤー開拓を加速し、競合によって価格低減を図ることになりました。
新規サプライヤーの場合、品質面や納入管理面で予期せぬ問題を発生させる可能性が高いため、新規サプライヤーの社内プロセスを十分確認した上で試作品や生産能力を把握することで新たな仕入れルートを確保しました。

(3)成果

大口顧客からの要求を引き金に新規のサプライヤーと既存サプライヤーを上手く織り交ぜながらコスト面で大きな効果を上げることができました。
また、長年の取引条件を見直すことでWin-Winの関係を構築することができることを社員も理解することができました。
以下は、コストダウンを実現するために必要なサプライヤーと価格交渉する際のポイントです。

価格交渉する際のポイント

2.EDIシステムを導入しコストダウンを実現したB社

(1)背景

B社は、従業員150名の衣類の卸売・小売業者です。
取引業者が多くなるにつれ、注文書、請求書、入出金などの事務処理が繁雑化し、ミスも増え、業務の効率化が必要な状況が続いていました。
また、毎月作成する注文書等の書類は300種類程あり、全てが人を介し、FAXや郵送で対応しており、大幅な人件費ロスを抱えている状況でした。

(2)対応方法

大量の取引量に対応すべく下記のITシステム(EDI:Electronic Data Interchange)を活用し、業務を効率化することで人件費及び時間コストの削減をすることを検討しました。

ITシステム(EDI:Electronic Data Interchange)

(3)成果

EDIの活用により用紙・印刷・郵送費用や仕分け・発送の人件費を削減することができ、業務工数を一気に短縮するとともにペーパーレス化が実現しました。結果、購買コスト及び人件費で年間約300万円のコストダウンが実現しました。
以下は、経済産業省による「情報処理実態調査」の結果です。
中小企業では、50%以上の企業がEDIを活用していることが分かります。

経済産業省による「情報処理実態調査」の結果

3.法人カードの導入により経理コストを削減したC社

(1)背景

C社は、従業員60名の通信サービス業者です。従業員が多くなるばかりではなく、事業運営に必要な購入品種が増えるにつれて、個人での立替払いや、企業からの仮払いが多くなりつつありました。
また、煩雑な経理事務にとらわれる時間が多く、経理部門の悩みの種となり、非常勤社員を雇い、給与計算や法定福利費の計算をしている状況でした。

(2)対応方法

法人名義で使用できるクレジットカード(以下、法人カードという)を作ることにより経理事務を大幅に削減し、業務効率を上げることを検討しました。

(3)成果

法人カードの作成により以下のメリットを享受することができました。

法人カード活用のメリット

まとめ

企業が利益を伸ばすためには、収益を上げるか、費用を下げるしか方法はありません。
つまりコストダウンは、売り上げを伸ばすことと同じくらい大切なことですが、軽視されがちな分野です。
またコストダウンを進めるために必要なことは、偏った部署だけが意識して進めるのではなく、全社一丸となって取り組み、その結果を全員が把握することで検証していくことが必要です。
自社のコスト削減に効果が上がることができれば幸いです。

 

■参考文献
「法人企業統計調査季報」(財務省)
「中小企業白書2016年版」(中小企業庁)
「調達・購買の基本とコスト削減がよ~くわかる本」牧野直哉 著(秀和システム)
「コストダウンは社長の仕事」吉村末男 著(現代書林)
「コスト削減サービス50選」ブレインワークス 編著(カナリアコミュニケーションズ)

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