歯科診療所の新たな展開 歯科・医科連携構築 ポイント

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歯科診療所の新たな展開 歯科・医科連携構築 ポイント

  1. 高まる歯科医師との連携ニーズ
  2. ネットワーク構築で病院との連携強化
  3. 連携で注目される合併症予防効果
  4. 歯科医師会主導で進めた歯科・医科連携事例

 


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1.高まる歯科医師との連携ニーズ

高齢化の進展にともない、医療財源のひっ迫から診療報酬の改定にも如実に変化が表れています。
医療費の包括化、後期高齢者制度の改定、在宅医療の取組の推進、政策そのものが超高齢社会への対応へと進んでいます。
現代の超高齢社会においては、医科と歯科が連携して高齢者に対する診療体制の構築が求められてきています。
本レポートでは、歯科による連携体制構築について紹介します。

1.高齢者の健康維持と口腔ケア

(1)高齢者における口腔内の健康の重要性

静岡県の歯科医師である米山武義先生の調査によると、口腔内の状態が高齢者の健康に大きく関係していることが判ってきています。
下記の表のとおり、口腔内のケアを行っているグループと行わなかったグループでは、発熱や肺炎の発生率に違いが出ています。

特別養護老人ホーム(全国11)の「発熱」「肺炎」発生率

上記の表からも、口腔内ケアが感染症等の予防効果があることが判ります。
愛知県がんセンターが行った調査では、口腔がん、食道がんの危険性が口腔ケアにより3割減少したとの報告もあります。

(2)医療との連携体制づくり

現状では、医療連携において診療報酬上「地域連携診療計画管理料」および「地域連携診療計画退院時指導料」が算定できる疾患は、大腿骨頚部骨折と脳卒中の2つです。
しかし、糖尿病やがんなど、歯科との連携が必要な疾患は多数あります。
したがって地域のニーズに対応して対象疾患を拡大し、積極的に連携を模索するべきでしょう。

在宅医療連携関連図表、これまでの在宅診療報酬関連における主な変更点

歯科界が予想している以上に、医療機関側からは連携に対する潜在的な需要があります。
連携に関わる診療報酬上の基盤整備も進みつつある今、歯科の方から医療との連携への取組みを進める必要があります。

2.医療機関との連携状況

中医協「H24診療報酬改定に係る特別調査の速報案」に、医療機関との連携状況についてのデータが示されています。
その中で歯科の医療機関との連携状況をみると、「病院歯科(歯科大学病院もしくは歯学部附属病院を除く)」が37.2%で最も多く、次いで「歯科大学病院もしくは歯学部附属病院」(28.3%)、「他の歯科診療所」(19.4%)、「口腔保健センター」(8.1%)となっています。
一方で、「いずれの医療機関とも連携していない」と回答した施設が24.4%あり、まだまだ歯科との連携は進んでいないのが実態です。
連携先の歯科の医療機関数の平均をみると、「他の歯科診療所」が1.8か所、「歯科大学病院もしくは歯学部附属病院」が1.2か所、「病院歯科(歯科大学病院もしくは歯学部附属病院を除く)」が1.3か所、「口腔保健センター」が1.1か所となっています。

医療機関との連携状況

2.ネットワーク構築で病院との連携強化

1.地域医療連携の実態を確認する

医療との連携を進める際には、自院の診療圏における地域医療計画や供給体制がどうなっているかを調査することから始めます。
地域によって策定している医療計画は異なり、医療の供給体制も様々です。実態を確認し、地域医療の問題点を明確にすることが重要です。
続いて、地域医療連携の構築に向け、多職種との意見や情報を交換できるネットワーク作りに着手します。

医療連携の実態調査項目

2.病院の歯科ニーズをつかむ

成功している歯科医院では、連携先との関係を基盤とし、情報収集を図った上で組織(病院)とのシステムを構築しているケースが多くみられます。
最大の連携先は病院であり、歯科との連携の主体となるのは医師または看護師です。
キーパーソンを通じて病院のニーズや内部情報を探ることは、歯科側の体制づくりの上では重要な情報になります。

 

連携方法の構築

連携体制構築には、介護施設や訪問看護ステーション、地域の在宅ケア団体、公的機関の窓口等、様々なネットワークづくりが重要です。
医療連携の企画・運営を担っているキーパーソンと進めることによって、信頼関係がさらに強化され、責任感も芽生え、連携への移行がスムーズになることが期待できます。

3.口腔ケアにおける地域連携モデルの検討

歯科による地域連携のモデルは、次のように整理できます。

歯科による地域連携のモデル

(1)入院前のケア

入院日数に余裕があり、歯科診療所に通院が出来ることが前提となりますが、入院前ケアの目的は、(1) 歯や口腔粘膜のトラブル(疼痛、出血など)発生の原因除去、(2) 病棟ケアを円滑に進めるための前準備に向けて口腔環境を整備することです。
入院前に口腔内の状況を説明し、時間を要する治療や技工物作成等は退院後に歯科診療所で行うべく患者から理解を得ておくことが、退院後ケアにつなげるためにも重要です。
ケアの必要性を説明し、退院後ケアを行う歯科医師(病院・歯科診療所)のネットワークが必要です。

(2)病棟におけるケア

短期の入院のなかでは、歯科治療はもとより、口腔機能訓練も効果は余り期待できません。
従って、急性期ケアはでVAP(人工呼吸器関連肺炎)、誤嚥性肺炎、口内炎など合併症の予防が主たる目的となります。
そして、これらの合併症に口腔ケアが有効であることの科学的根拠も収集されてきました。

急性期病院で想定される口腔ケアを要する例

回復期ケアでは、口腔機能の回復や肺炎の予防が主な目的です。

回復期病院での口腔ケア

ケアを行う病院スタッフ(主に看護師)の協力が必須です。患者には口腔ケアに関心の低い方が多く、口腔ケアの実施は看護師の対応次第です。
看護師の口腔ケアに対する意識や能力には個人差があります。
スキルアップなど歯科医師が全面的に支援する体制をつくることが重要です。

看護師との協力関係の構築

(3)退院後ケア

退院後は、在宅や施設などにおける地域での生活支援に移行し、歯科医院がこれに関わることになります。
退院時カンファレンスに歯科医師が参加する病院はほとんどなく、看護師、地域連携室、病院のMSW(医療ソーシャルワーカー)等、橋渡し役との連携が必要です。
主な目的は、退院時ケアでは口腔機能の回復や定期管理です。

退院時口腔ケアの目的

3.連携で注目される合併症予防の効果

歯科領域が原因となっている慢性疾患は、数多く報告されています。
例えば、歯周病と糖尿病、心臓疾患、歯科材料中の金属によるアレルギー疾患、自己免疫疾患、甲状腺機能低下、頻尿、白血病、不妊症、根管感染原因の関節リウマチ、多発性硬化症等です。
そこで、これらの疾患に関して医療連携をどう図るかが重要です。

1.歯周病と糖尿病との関係

(1)歯周病と糖尿病との密接な関わり

歯周病は糖尿病の合併症とされ、多くの糖尿病患者が重度の歯周病も併発しています。
糖尿病と歯周病は密接な関係にあり、糖尿病患者と糖尿病予備群にとって、歯周病のコントロールは食事運動療法とともに重要な健康管理です。

歯周病と糖尿病の関連

(2)糖尿病に対しての歯科・医科連携推進モデル

医師が歯周病の知識を持ち、十分な説明がなければ、患者は歯科診療所に受診することはありません。
歯科と医科が相互に情報交換し、協力する必要があります。

糖尿病に対しての歯科・医科連携推進モデル

2.がんと口腔内の健康の関係

がんと口腔合併症にも様々なかかわりがあるため、がん治療にも歯科医院との協力体制構築が必要です。

がん治療に伴う口腔合併症、静岡県立がんセンターと歯科医院との連携体制

3.その他の疾患による医療連携について

神奈川県の三崎保健所では、医科と歯科の相互協力により様々な連携が取れています。

その他の疾患による医療連携

4.歯科医師会主導で進めた歯科・医科連携事例

1.Y厚生年金病院とO歯科医師会の連携概要

全国での取り組み例として、Y厚生年金病院とO歯科医師会の連携「Y医科歯科連携システム」について、2013年8月NHK解説委員室で同歯科医師会前会長の山原幹正先生が解説していますので、その骨子をまとめました。

Y厚生年金病院の概要と歯科との医療連携状況、主な改善点、Y医科歯科連携システムの全体像

口腔内の問題別改善度

2.連携による具体的効果

(1)脳卒中患者とマウス・ピースの効果

マウス・ピースは、一般的には身体接触のある激しいスポーツなどの外傷予防に使われているものですが、これを脳卒中患者のリハビリに応用することで咬み合わせが安定し、身体のバランスが改善して歩行にも効果があることがわかってきました。

マウス・ピースによる歩行状態観察(脳卒中患者13人によるリハビリ時)

これらの患者の後遺症の程度と状態にもよりますが、マウス・ピースがリハビリに有効なものと推測できます。

(2)睡眠時無呼吸症候群とマウス・ピースでの治療効果

睡眠時無呼吸症候群(SAS)をマウス・ピースで治療するケースもあります。
口腔内の状態(あごの位置等)を固定させることで上気道を確保し、いびきや無呼吸の発生を防ぐ治療方法です。
マウス・ピースの作製は、SASについての知識と口腔内装置を作成し馴れている歯科医師に依頼することで、より高い効果が期待できます。

(3)リハビリ等医療との連携による更なる効果

最近では、がん治療時にも積極的に歯科治療、口腔ケアを行うことが好結果をもたらすことから、手術前後の口腔機能管理も健康保険制度に導入されました。
また口腔ケアのみならず、歯科治療と咀嚼、摂食・嚥下、音声言語機能など口腔機能の回復が、全身のリハビリに大きく寄与することも次第に明らかになってきています。

医療との連携の効果

Y医科歯科連携システムの成功理由は、歯科医師会という組織自体で在宅医療に取り組み、医療機関の協力と併せて、個人では難しい医療提供を組織でカバーする体制構築が出来たことです。
歯科医師会主体ではなくても、複数の歯科診療所が協力することで、医療との連携のシステム構築は可能になるはずです。

■参考文献及び参考資料
・NHK解説委員会 視点・論点「医科歯科連携で支える在宅医療」
大分県大鶴歯科医師会 前会長 山原 幹正先生 報告
静岡県 歯科医師 米山 武義先生 調査
・中医協 歯科医療特別調査報告H24
・公益財団法人8020推進財団「地域医療の新たなる展開」(医科歯科連携事例集)
・全国保健所長会「歯科・医科連携による歯周疾患アプローチに関する研究」
・医科歯科連携診療普及協会HP

 

 

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