企業の長期発展には 欠かせない!若手社員早期戦力化の進め方

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企業の長期発展には 欠かせない!若手社員早期戦力化の進め方

  1. 若手社員の特徴と定着率の実態
  2. 若手社員の早期戦力化を図るための育成方法
  3. 若手社員に自信をつけさせるための支援策
  4. 早期戦力化へ向けた取り組み事例

 


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1.若手社員の特徴と定着率の実態

若手社員の特徴

「ミレニアル世代」という若年層を表現した言葉を耳にされたことはあるでしょうか?最近の若手世代を表すキーワードともいえます。
この世代の若者は、例えば運動会の徒競走で手をつないでゴールするように、一芸に秀でた子供よりも無難な子供に育つような教育を受けています。
一方では、受験戦争に追われ、偏差値により優劣が決められてしまう競争も経験しており、失敗が許されないというプレッシャーも受けてきています。
この世代が育った当時は、経済が長く停滞していた時代でもあり、これらの結果、リスクを避け、失敗しない無難な選択肢を選ぶ傾向が見られます。
これらの時代背景の中で育ってきた若手社員は、以下のような特徴を持っています。

若手社員の特徴

その一方で、優れている面もあります。指示した仕事については確実に実行したり、積極的に発言することがなくとも、自分の考えはしっかり持っています。
さらには、IT ツールの発達など情報化社会の中で過ごしてきており、情報収集面においては、ベテラン社員よりも優れている人が大勢いると思われます。
このように、今の若手社員は、一方では上司から見ると物足りない面も持ち合わせているかも知れませんが、優れた面も数多く持っています。

若手社員の優れた面

2.高い離職率が示す会社に対する忠誠心の低下

厚生労働省が平成26年にまとめた「平成25年若年者雇用実態調査の概況」では、現在働いている15~34歳のうち、初めて勤務した会社をすでに辞めた人のうち、「3年未満」で辞めた人の割合は、男性62.8%、女性61.8%と、3年以上勤務した人の割合と比べると非常に高い割合となっています。
この結果から、今の若手社員は、勤めている会社を短い期間で辞めることに対してあまり抵抗感を持っておらず、会社に対する忠誠心は以前よりも低くなっています。
企業側としては、団塊世代の大量退職や業績回復などにより人材不足が顕著になっている現状において、若手社員の定着は重要な課題となっています。
若手社員の早期戦力化の前に、忠誠心に頼らない、定着化への対策も急がれています。

平成25年若年者雇用実態調査の概況(出典:厚生労働省)

3.特性を理解した早期戦力化の方向性

近年の若手社員の象徴的な特性を踏まえた上で、企業においては、収益環境の厳しさが増す中、一日でも早く若手社員を戦力化し、収益に貢献してもらえるような人材に育てていきたいところです。
本レポートにおいては、自社の若手社員を一刻も早く戦力化するための具体的ポイントを解説していきます。

2.若手社員の早期戦力化を図るための育成方法

若手社員の早期戦力化を図るためには、3つのステップで育成に取り組んでいくことが必要です。

若手社員の早期戦力化を図るための3つのステップ

1.企業理念・行動規準の徹底

若手社員には、自社の企業理念や行動基準を習得させることが重要です。
これが、社員育成の最も重要な部分になります。
企業理念は、その会社にとっての根源的な考え方です。
その企業に在籍している限り大切にする価値観や行動規範であり、緊急事態に遭遇した場合やマニュアルにない判断を求められたときの拠り所になるものですので、入社時のオリエンテーションでしっかりと伝え、理解させることが大切です。
また、自社で定めている基準行動を徹底的に教え込み、考えなくても自然と「言える」「行動できる」レベルまで叩き込む必要があります。
これが、若手社員育成の第一歩となります。

入社時に徹底的に教え込むべき項目

2.キャリアマップ、OJT計画にもとづく育成

若手育成で最も重要なのが、このステップです。
「早期に」「計画的に」育成を進めるには、成長のロードマップをしっかり作成し、本人に見せてやり、進捗チェック、指導を行うことがポイントとなります。
その役に立つものが、キャリアマップ、OJT計画になります。
キャリアマップとは、社内にある仕事の棚卸を行い、経験年数や等級と担当する職務や役割の関係を整理したものです。
そして、キャリアマップをベースとして、個人別のOJT計画を作成し、教育担当の先輩社員が、「教える」「やらせる」「チェックする」「追加指導する」「次のステップに進ませる」というサイクルを回していくことになります。
これが有効に機能すると、若手社員の育成スピードは飛躍的に早まります。
入社間もない時期に「守破離」の「守」をしっかり身につけさせてやることが、後々の成長に大きく影響するのです。

キャリアマップの例(一部抜粋)

OJT計画フォーマット(一部抜粋)

3.Off-JT(教育研修)による能力開発

OJTによる育成はとても重要で、若手育成の核となる部分ですが、OJTでは教え切れないビジネススキルもあります。
それを補完するのがOff-JT(教育研修)です。
Off-JTは、部門単位でなく、全社的な計画を立てて取り組んでいくことが必要です。

Off-JT計画の例(一部抜粋)

3.若手社員に自信をつけさせるための支援策

1.内省を促し、仕事を確実に覚えさせる

人の記憶は曖昧なものです。ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスの忘却曲線にもあるように、そもそも脳は忘れるようにできていると言われています。
この理論では、一度覚えたことを放置しておくと時間の経過とともに忘れてしまいますが、反復継続することで、習得の度合は維持し、向上していくことを実証したものです。
この結果から、若手社員が仕事を覚えていく課程において、反復継続させることによって理解を確実なものとし、自信をつけさせることができます。

エビングハウスの忘却曲線と復習の関係

具体的には、若手社員に指示を与えた後に、上司としては、以下の取り組みを実践させることが有効です。

仕事を確実に身につけさせるためのポイント

2.社内でのスピーチやプレゼンを経験させる

アメリカ国立訓練研究所の研究によって導き出された、学習定着率を表す「ラーニングピラミッド」というモデルがあります。
これは、人の経験や学習の過程を分類したもので、まず体験して、次に自ら参加して観察し、最終的に言葉やビジュアルで表すことができるようになるということを表しています。
いわゆる講義(座学)は5%、資料や書籍を読むことは10%、視聴覚が20%、実演によるデモンストレーションが30%、グループディスカッションが50%、実践による経験・体験・練習が75%、誰かに教えることが90%と、より能動的・主体性が必要なことになるほど学習定着率が高い=教育効果が高いと言える研究結果が出ています。

ラーニングピラミッド(出典:National Training Laboratories)

人に何かを教える場合は、自分の中で学習してきたノウハウを言語化し、相手に伝える必要があります。
つまり、人に教えたり、伝える訓練を繰り返すことで自分の頭の中が整理され話術も磨かれます。
又、相手に教える際には、わかりやすく伝える能力も求められるため、プレゼンテーション力やコミュニケーション力も向上するはずです。
若手社員を成長させるためには、「教える場」を設定することも効果的です。

若手社員が「教える場」となる活用場面

3.ピグマリオン効果で情熱と挑戦意欲をかきたてる

ピグマリオン効果とは、アメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタールによって提唱された「人間は期待された通りの成果を出す傾向がある」という概念です。
ある実験で、「成績の優秀な生徒達を集めたクラス」と「成績の悪い生徒達を集めたクラス」を作りました。
そこで、「成績の良い生徒のクラス」の担任は、「ここのクラスは、成績の悪い生徒のクラス」と生徒に告げ、「成績の悪い生徒のクラス」の担任は、「ここのクラスは、成績の良い生徒のクラス」と生徒に告げて、それぞれクラスを担当させるという実験です。
その結果、「もともと成績の良かった生徒達のクラス」の成績は下がり、「もともと成績の悪かった生徒達のクラス」の成績は、上がりました。
以上の事から期待と成果の相関関係について、「人は期待されれば期待された通りの成果を出す傾向がある」という結論が導かれました。
生徒たちは自分にかけられる期待を敏感に感じて「やる気」を出して勉強に励んだり、「やる気」を失ったりしていたわけです。
反対に、期待されないで「君はダメだ」と言われ続けていると、その言葉通りに成績が下がったり、能力が落ちてしまうことがあります。
これを「ゴーレム効果」と呼びます。

ゴーレム効果

つまり、ピグマリオン効果から生まれる心理的作用を上手く利用すると、若手社員の成長が促されます。
しかし、期待を寄せるだけでは、自己成長につながりません。
上司がしっかりと若手社員と向き合い、定期的に評価・面談するとともに、何に困っていて、どうしていきたいのかを把握することも必要です。

4.先輩社員がメンター・カウンセラーとしての役割を担う

若手社員は、仕事を行っていく上で、何度も壁にぶつかりながら成長していきます。
ときには、悩みを抱えながら仕事を行っている社員もいるはずです。
比較的年齢の近い先輩社員が若手社員とペアを組み、成長を促すための指導と合わせてフォローアップの面談の場を設けることも大切です。
面談を通じて、若手社員の目標や課題を共有化することができ、課題解決に向けた早期取り組みも可能になります。
ここで、先輩社員が面談するにあたり習得しておかなくてはならないのが「傾聴力」です。
傾聴とは、「技法でなく、姿勢である」という言葉がありますが、基本的な傾聴のポイントを押さえておくことも大切です。
傾聴のポイントは以下の5つの項目です。
また面談を行う場合には、時間を十分に取り、互いに落ち着いて話し合いができる場所を確保するなどの配慮も必要です。
まずは若手社員の話を聞いた上で、相談内容に対する先輩社員からの助言やアドバイスを贈ったり、激励の言葉をかけるのが効果的です。

面談時の傾聴における5つのポイント

4.早期戦力化へ向けた取り組み事例

1.メンター制度の導入で専門性の拡大を実現させたA社

A社は、石川県にある昭和31年に設立された合繊織物やスポーツウェア素材の製造会社(従業員223名)です。
同社では、「採用した以上は、できる限り社員が成長できるよう会社として支援を惜しまず、縁があって入社した以上は、できる限り定着して欲しい(同社社長)」と考えています。
こうした考え方のもと、同社は採用活動と社員育成に非常に力を入れており、以下の取り組みを通じて、内定辞退者の数や若手社員の離職率を大きく低下させるなどの成果を上げています。

メンター制度の導入で専門性の拡大を実現

2.キャリアマップを作成し能力開発を浸透させたB社

B社は、大阪府にある昭和35 年に設立された情報通信技術を提供する電気通信会社(従 業員72 名)です。
同社では、これまで社員の技術・技能を網羅的に把握する機会やツールがなく、技術・ 技能向上に向けた効果的な取り組み目標が立てにくい、という問題を抱えていました。
特に、若手社員の場合は業務経験が浅く、業務の全体像が本人に見えていないことが多 いため、目の前の仕事に集中するあまり、ステップアップに向けた取り組みにまで手が回 らないことが悩みの種でした。
そこで同社は、キャリアマップを作成し、職業能力評価シートを活用することで自己の 成長度合をチェックし、目標設定できる前向きな社内風土を築き上げることができました。

キャリアマップと職業能力評価シート

3.研修体系を構築しキャリア形成を築いているC社

C社は、山梨県にある昭和56年に設立されたソフトウェア開発を主要事業としたIT企業(従業員85名)です。
同社では、「人材こそ企業の資産」という理念のもと、一人ひとりが技能や人格を磨くことによりキャリアを形成し、社会に貢献することをモットーにしています。
以下は、同社の教育訓練体系図です。
常に最新の知識と高度な技術が顧客から要求されることもあり、その要求に応えながら、どのようなキャリア形成支援を行なっていくかを毎期検討、検証しながら取り組んでいます。

キャリア形成支援

まとめ

若手社員は、「価値ある仕事をしたい」「周囲や世の中に役に立ちたい」「成長したい」という欲求を少なからず持っています。
企業側が情熱と期待を持ち、若手社員の育成に当たっていけば、必ず早期戦力化が実現できるはずです。

 

■参考文献
『できない部下をデキる部下に変える7つのこと』(明日香出版社)
『困った部下の指導法が面白いほどわかる本』(中経出版)
『中小企業白書2015』(中小企業庁)
『中央職業能力開発協会ホームページ』

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