歯科疾患予防で新たな収益を確保 小児歯科取り組み強化のポイント

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歯科疾患予防で新たな収益を確保 小児歯科取り組み強化のポイント

  1. う蝕の現状と歯科口腔保健推進計画の概要
  2. 小児歯科専門医の取得による技術向上
  3. 小児在宅歯科医療への取り組み
  4. 小児歯科健診の状況と歯科検診への取り組み

 


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1.う蝕の現状と歯科口腔保健推進計画の概要

超高齢社会を迎えた現在、生涯にわたって歯と口腔の健康を保持していくためには、小児期からの歯科疾患の発症予防、治療による重症化対策は非常に重要です。
特に、むし歯は全国的に減少傾向にあり、若い世代が虫歯人口の減少に貢献しています。
小児歯科を行うことは、乳幼児や学齢期児童のためだけではなく、高齢化が進む将来において、すべての方の健康増進につながる取り組みです。

1.う蝕有病率の年次推移

5~9歳児、10~14歳児のう蝕有病率は大幅に減少していますが、25歳を超えると減少は見られず、54歳まで、ほぼ同じ割合で推移しています。
また、55歳以上になると増加傾向となり、75歳以上では大幅に増加しています。
5~9歳児が10%以下になっているのは、3歳児に対するフッ化物塗布、フッ化物入り歯磨剤の使用、甘味制限、1歳6か月児健診、3歳児健診などの取り組みが効果を発揮しているためです。
予防を中心とした小児歯科の取り組みは、学齢期、成人期、高齢期の口腔内の健康保持のために重要な位置づけとなっています。

う蝕有病率の年次推移(永久歯:5歳以上)

2.歯科口腔保健推進計画の概要

厚生労働省では、口腔の健康の保持・増進が、健康で質の高い生活を営む上で基礎的かつ重要な役割を果たしていることから、平成23年に「歯科口腔保健の推進に関する法律」を策定し、法整備の目的と国及び地方公共団体が講ずる施策と実施体制を整備しました。
これを受けて、平成24年、厚生労働大臣の告示により「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」が策定されました。
この中で、口腔機能の維持・向上における具体的数値目標が定められ、平成29年度に中間評価、令和4年度に最終評価を行うこととされています。

歯科口腔保健の推進に関する基本的事項

3.歯科疾患の予防における中間報告概要

平成30年に専門委員会から、歯科口腔保健の推進に関する基本的事項の中間報告がされました。
う蝕に関しては乳幼児期及び学齢期の状況は改善傾向とされていますが、いずれのライフステージでも、う蝕の有病率は高い水準にあるため、継続的な歯科疾患の予防に関する取り組みを検討しながら、フッ化物の継続的な応用等、すべての人々に効果的なう蝕予防策を推進する方針を打ち出しました。

歯科疾患の予防の概要についての中間報告

4.歯科口腔保健の数値目標と基本的事項の見直し

当初、平成24年に設定した目標は、平成30年に中間評価が行われ、達成状況について評価・分析が行われました。
それを受けて、一部目標数値を見直す提案がなされ、具体的には、下記の目標に取り組むことが決定しています。

生活の向上に向けた口腔機能の維持・向上における目標

2.小児歯科専門医の取得による技術向上

口腔内の健康保持が全身の健康増進に深く関わっていることが周知されつつありますが、超高齢社会を迎えたわが国で、国民が生涯にわたって歯と口腔の健康を保持していくためには、乳幼児期や学齢期の対策が重要です。
日本小児歯科学会では、小児歯科専門医制度を設け、小児の口腔内の健康保持に必要な、より高度な技術と知識習得のため、専門医の研修・育成しています。
小児歯科への取り組みに、小児歯科の専門医を取得することも重要な要素です。

1.小児歯科医師の現状と増加策

小児歯科医師には、小児歯科医療に対する情報や技術習得の手段が少ないのが実情で、個人で専門誌を集め、個人で各研修会を探して参加し、自己研鑽しているのが現状です。
専門的な知識習得や技術向上に寄与する小児歯科学会の会員も、小児歯科医の約10%です。
各学会での情報収集と研修受講等を行うということや、小児歯科専門医の資格習得で、専門性を高める方法があります。

小児歯科医の知識や技術向上への対策

2.小児歯科専門医の認定取得による知識と技術の向上

(1)小児歯科専門医制度とは

小児歯科専門医制度とは、小児歯科医療に関する専門的知識と技術、そして公共的使命と社会的責任を有する歯科医師を、日本小児歯科学会で専門医として認定しています。
日本小児歯科学会では、小児歯科専門医制度の中でこどもの全身の健康づくりに寄与する専門医を育成することにより、国民に信頼される小児歯科医療の充実を図っています。

小児歯科専門医制度

(2)小児歯科専門医の資格とは

日本小児歯科学会では、当初は認定医だけでしたが、今は専門医制度が制定され運用されています。
専門医は、それぞれ経験や研修(研修施設や研修内容、取得単位数による)、臨床経験年数、学会会員等の基準があります。
現在は新規での認定医申請は受け付けていませんが、以前に指定を受けた認定医の歯科医師が専門医とはならず、そのまま認定医として診療を続けています。
また、日本小児歯科学会では、認定医に代わる制度を新設する予定で準備しています。

小児歯科専門医の資格要件

(3)小児歯科専門医の資格習得後の研修体制

日本歯科学会では、専門医の資格習得後も生涯研修として様々な知識習得と技術研修を単位化して、単位習得を課しています。
小児歯科関連学会および研修会への参加と発表や小児歯科学分野の研究や症例の学術雑誌等への論文発表等を単位数獲得するために継続して行うことになります。

小児歯科専門医の生涯研修

3.小児在宅歯科医療への取り組み

少子高齢化が進んで出生数が減少している中で、先進国の中でも日本は低出生体重児が占める割合が高く、また、新生児の死亡率が少ないという状況です。
その結果、高度医療や在宅医療が必要な小児が増加しています。
また、在宅人工呼吸器管理を行っている小児を対象とした調査結果では、歯科受診歴がない患者が51.9%、1年以上受診を中断している患者も37%いました。
そのため、小児に対する歯科訪問診療のニーズが上がってきています。

1.低出生体重児の現状

全国の出生数は2005年以降100万人台で推移していましたが、2016年以降は90万人台に減少しています。
低出生体重児は1980年代には5.2%でしたが、2010年に9.6%となりそれ以降は9%代が続いています。
また、低出生体重児の死亡率の推移は検証できませんが、死亡率は7%台となっており、成長後も何らかの医療的ケアが必要な小児数は年々増加しています。

低出生体重児の推移、医療的ケア児数の推移

2.小児に対する歯科訪問診療のニーズ

在宅人工呼吸器管理を行っている小児を対象とした調査では、約半数の小児が、歯科受診歴がないと報告され、主訴(※)は口腔ケア、歯の萌出に関する問題、歯石沈着等多岐にわたっていました。
すべての患者に口腔清掃指導が必要で、その他接触機能療法や歯石除去が行われていました。
※主訴:患者が医師等に申し立てる症状のうちの主なもの

小児に対する歯科訪問診療のニーズ

3.多摩地域における小児在宅歯科医療に関する連携事例

高度医療の進歩に伴い、医療ケアが必要な子供は年々増加しています。
歯科としてもその受け入れ態勢の構築が求められています。
多摩地域では、その地域に居住する障害児、有病児の口腔の健康を守るため、地域歯科医師と基幹病院との連携システムを構築し、小児在宅歯科医療を支援する連携体制がとられています。

多摩地域における小児在宅歯科医療に関する連携事例

4.小児に対する歯科訪問診療の課題

小児に対する歯科訪問診療の実施件数はまだ少ないですが、0~4歳の乳幼児では増加傾向にあります。
在宅人工呼吸器管理を行っている小児では、約半数が口腔ケアを主訴とする患者が最も多くいます。
今後も、在宅医療を必要とする小児が増加すると考えられます。
口腔清掃指導が必要な小児患者がほとんどであり、必要に応じてスケーリングや摂食機能療法等が行われていますが、処置等の治療行為を行っているケースは少ないのが現状での課題となっています。
厚生労働省では、通院困難な小児に対する歯科訪問診療を充実する観点から、口腔衛生指導・管理や口腔機能管理に対する包括的な評価(施設基準)を検討しています。

4.小児歯科健診の状況と歯科検診への取り組み

小児歯科検診は、母子保健法により市町村が乳幼児健康診査(1歳6か月児検診・3歳児健診)を行う義務があると定めており、さらに必要に応じ、乳児もしくは幼児に対して、健康診査を行い、または健康診査を受けることを勧奨しなければならないとも定められています。
健全な歯・口腔の育成を目標に設定し、その実現を図るため、歯科疾患等に関する知識の普及啓発、食生活、発達の程度に応じた歯口清掃に係る歯科保健指導や、う蝕予防のための取組みとして、口腔内の定期検診が重要になってきます。
現在、CTを活用した健診や歯科ドックへの取り組みも始まっています。

1.「健康日本21」における歯科口腔の健康への取り組み

健康増進法では「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」が公表され、「二十一世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次))」を推進するとなっています。
歯・口腔の健康は摂食や心身の状態を良好に保つために重要であり、生活の質の向上にも大きく関係します。目標は、健全な口腔機能を生涯にわたり維持することができるよう、疾病予防の観点から、歯周病予防、う蝕予防及び歯の喪失防止に加え、口腔機能の維持及び向上等について設定されています。
この目標達成に向けて、予防歯科への取り組みが増加し、小児歯科では法定検診を含め、定期健診を行い、口腔内の健康保持に努めています。

2.乳幼児健康診査(1歳6か月健診・3歳児健診)について

母子保健法 第12条では、満1歳6か月を超え満2歳に達しない幼児と、満3歳を超え、満4歳に達しない幼児に対して、厚生労働省令の定めるところにより健康診査を行わなければならないとされています。
実際に検診の受診率は高く、厚生労働省平成25年調査では1歳6か月児検診では94.9%、3歳児検診では92.9%となっています。
妊婦を含め、乳幼児、幼児の健診事業は市町村や都道府県で実施されています。

市町村、都道府県等で行っている健診事業

3.予防歯科への取り組みと歯科検診のすすめ

都道府県や市町村、保健所等で行う小児歯科健診では、短時間で多数の小児を診ることになります。
対象者一人に対する時間は5分から10分前後で、検査機器を使わずに口腔内の視覚による検査が主になります。
法定の健診等は当然受診してもらい、その後の定期検診は、歯科医院で精度と専門性の高い歯科検査を行う事の重要性を知ってもらう必要があります。

歯科医院で行う定期検診・歯科検査のメリット・デメリット

4.歯科用CT検査の活用

予防歯科領域において、質の高い検査結果は患者理解も早く、予防に関する口腔内の保健指導の効果も上がります。
CTを活用した検査は説明だけでなく、患者の視覚へのアピールも明確で、歯科受診の効果が高まります。
また、検査後の歯科治療時においても、口腔内、顎骨内の細かいエリアでのナビゲーションシステムは、CT画像のデータを基にした治療方法の確立と治療計画の立案が容易になり、患者への説明に有効です。

歯科用CTの検査結果の活用法

5.特殊検査への取り組み:歯科ドック

医療機関で行っている人間ドックと同様に、口腔内の定期検診をより精密に行い、疾病の早期発見、リスク確認にそなえるという歯科ドックの受診が増加しています。
歯科ドックには、以下のような効果があります。

歯科ドックの効果

 

■参考資料
厚生労働省:平成31年歯科口腔保健の推進に関する最近の動向
平成30年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 低出生体重児指導マニュアル
在宅歯科医療について 中医協報告(平成29.1.11)
公益社団法人:日本小児歯科学会 小児歯科専門医ポスター
日本小児歯科学会 専門医制度規則 専門医制度規則細則
たましょう歯ネット:多摩小児在宅歯科医療連携ネット ホームページ tamashou-shika.com
福島県ホームページ:幼児歯科健康診査マニュアル

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