歯科スタッフの戦力化を図る院内教育システムの構築法

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歯科スタッフの戦力化を図る院内教育システムの構築法

  1. 院内教育システム構築の必要性
  2. スタッフ教育方針の明確化
  3. 教育時における指導ポイント
  4. キャリアアップ研修システムの構築法

 


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1.院内教育システム構築の必要性

歯科業界では、歯科衛生士、歯科助手、歯科医療事務等のスタッフが慢性的に不足しており、その確保は院長の一番の悩みとなっています。
また、土日診療や夜間診療という長時間の診察のため、スタッフ教育に人と時間を割くことができず、経験者を採用し、今持っているスキルで診療に参加させている医院も数多くあります。
ただ、スタッフが医院を退職する理由では、「新たなことに取り組んでみたい」「もっと経験値を高めたい」ということも上位に入っています。
こうしたスタッフに対し、今までと同様の業務だけを担当させていると、何故前職をやめてまでこの医院に来たのかとなり、また退職ということになりかねません。
院内教育システムを構築し、未経験者には経験を、経験者にはさらに能力向上となる育成を行うことが、院長の責務ともなります。

1.歯科衛生士、歯科助手の勤務状況

厚生労働省平成29年度の医療施設調査では、歯科診療所数が全国で68,609件(有床、無床合計)に対し、歯科衛生士(常勤、非常勤合計)が111,262.5人、歯科業務補助者(歯科助手等)70,226.5人となっており、この数値を基にすると、平均で1診療所に歯科衛生士が1.62人、歯科助手が1.02人在籍している計算です。
また、歯科衛生士の登録を行っている一般財団法人歯科医療振興財団の平成29年度の状況では、399,745人が登録されており、このうち登録者、勤務している方の比率は27.83%となっています。
診療ユニットの台数平均が2~3台であり、一日の診療時間が長いことを考えると、歯科衛生士1.6人は全く充足されない状況だといえます。

歯科診療所の医療従事者勤務状況調査

2.スタッフの能力向上に伴う波及効果

歯科衛生士がスキルアップしていくと、さまざまな効果が表れます。
例えば、能力の向上により、診療で良い結果が出て自信が付いてきたり、適切な治療ができることで仕事が楽しくなり、働く意欲が高まったりすることで、他のスタッフへ波及し、医院の雰囲気も明るく楽しくなります。
スタッフの定着率も高まり、増員や欠員時に応募者が多数来るという状況も起こります。
また、患者サービスの向上につながるため、増患対策という直接の手法を取らなくてもスタッフ教育が間接的に増患対策となっています。
つまり、スタッフの成長が医院の業績安定の大きな要素となるのです。

スタッフの成長による波及効果

3.スタッフのスキル分析の必要性

歯科衛生士は国家資格であり、習得している知識はほぼ同じはずですが、実際は出身学校のカリキュラムが異なるため、各人の能力も違っているのが実情です。
また、中途採用者でも、前職の医院の経営理念や診療方針、その指針による教育・指導によって大きく能力が違っています。
さらに歯科助手であれば、何をどこまで業務させるのかが医院ごとに異なるほか、歯科医師や歯科衛生士の業務を理解して、補助ができているかも違いがあります。
まずはスタッフの持っている能力の分析を行い、教育指導するポイントを把握する必要があります。

スタッフの能力分析のポイント

4.院内教育の種類と必要性

以前は、仕事は先輩や上司を見て覚えるものという考え方がありました。
しかしそれでは質の高い医療は身につかず、誰を見て覚えるのかで差が出てしまいます。
患者に安心できる医療を安定して提供するためには、院内教育が必要です。
正しい知識と技術の基本を身に付け、何故そうするのかという理由や根拠を理解することで、イレギュラーな事態が生じた場合にも臨機応変に対応ができます。
スタッフが統一された教育を受け、活用している医院が患者からより高い評価を受けることで経営が安定し、理想的な診療体制が構築できます。

院内研修の種類

2.スタッフ教育方針の明確化

スタッフ教育において必要なのは、教育方針の明確化です。
行ってもらう業務を教えるだけが教育ではありません。
院長の経営理念や診療方針についてレクチャーするという目的だけではなく、教育する対象者一人ひとりの教育方針を構築します。

1.教育方針の明確化

教育する対象者とその目的を明確にし、教育計画を立案します。

(1)対象者の明確化

対象者をどう選定するのかが第一段階です。
新卒者なのか、中途採用者、また既に勤務している方が対象なのかを決定する必要があります。
また、全員に行う教育研修なのか、対象とする1人だけなのかについてもはっきりさせましょう。

対象者の明確化

(2)教育が必要な理由

教育が必要な場合には、技術の不足、治療に対する業務手順や方法が統一されていない、接遇能力が低い、などが挙げられますが、この理由を明確にします。

教育が必要な理由

(3)目標の明確化

対象者には、教育を行うことでどのような姿を期待しているのか、どの能力を向上させて欲しいのかという目標を明示します。

目標の明確化

(4)教育する内容の明確化

目標を明確にしたら、次は教育方法を明示します。
セミナー形式でテキストによって教育するのか、臨床研修を行うのか、模擬診療で全体の流れや場面場面での研修を行うのか、臨床研修であれば何について行うのか、等を明確にします。

具体的教育方法の明確化

2.現時点でのスタッフの評価

教育方針の明確化に際して、スタッフ個々の能力を評価します。
能力の評価には、前職を含む臨床歴・経験年数を基準にすることが多いのですが、各院の考え方で、業務をどこまでさせていたかが違うため、同じ経験年数でも能力に差があることが多々みられます。

スタッフの評価

新規採用者については、本人に対する説明は必要ですが、当院での在職年数によって評価を行い、実力を把握した時点でランクを調整するのが良いと思います。

3.既存スタッフの指導者教育

全ての業務を院長が教えることはできません。
教育の現場は、診療後や休日に行うことより診療中の方が多いため、既存スタッフが教えるケースが多くなります。

◆業務ができるスタッフが良い指導者とは限らない

業務が素晴らしくできる方が、誰でも指導者になれる訳ではありません。
教え方指導は別物です。
スタッフの中には見ているだけでできるようになる人がいますが、その方がどんな手順で、何故こうするのか、その結果がどうなり、リスクは何があるのかまで全部を理解することはできません。
ただ業務ができるだけでは指導者として適格とはいえないのです。
指導者は、業務の目的とその理由、目的に基づいた適切で効果的な業務、その結果と抱えるリスクを知り、説明できるという能力が必要です。

4.教育現場の調整

院内教育が理想ではありますが、内容や日時によっては外部研修を受講させる必要もあります。
最新医療への取り組みや診療報酬の改定、新たな法律による基準制定、院長も研修するような臨床研修等であったり、診療時間や休日の都合で外部研修に頼らざるを得ない、という医院もあります。
あの講師から指導を受けたい、という講師の魅力・能力から、外部研修を受講するということもあります。
院内外の実施に関わらず、報告書を提出させ、成果を把握して、その後の業務に変化・影響があったかの目標達成度を確認する必要があります。

外部研修事例

3.教育時における指導ポイント

教育の目的と必要性については、院長が認識するだけでなく、スタッフにも明確にしなければなりません。
スタッフが「こういう理由で教育を受けるんだ」と理解していないと、教育を受けても聞き流すだけで身につきません。
また、指導時の伝え方ひとつで効果が違ってきます。
指導時には、様々な注意ポイントがあります。

1.指導時の注意ポイント

指導者は、スタッフに指導する際の言葉使いに注意する必要があります。
「以前も話したよ。」「何度目の指導だ?」「常識だろ。自分で考えろ。」という言葉は指導というより非難であり、教育指導を受ける本人にとっては、素直に聞きづらくなってしまいます。
また、指導の仕方や話し方、話す内容に具体的なものがなく、覚えられないということが原因になっているかもしれません。
さらに、何故そうしなければいけないかが判らないため、取り組みが甘くなったり、間違ったり、本人には「しなければならない」という当事者感が無いため、何とかなるだろうと考えてしまい、責任感を持てない状況になることがあります。

指導時に使ってはいけないキーワード

人格を否定する言葉や非難するだけでは、何も解決しません。
それどころか、相手も卑屈になり、指導者の言葉を素直に聞くことができなくなります。
できていないことを具体的に指示し、その原因は何かを明確に示します。
そのうえで、何故こうするのかという目的と理由を再度教え、どうしたらできるようになるかを伝えます。
できればその後、模擬診療による反復実習を行うことが理想です。

できない場合の指導の順序

2.評価の伝え方が能力開花に

指導者は、スタッフの教育・指導後の姿を見て評価を行うことが必要です。
今までの姿からどう変わったのか、逆に変わっていないかを評価して伝える必要があります。

教育・指導時の評価

この評価をどう伝えるかで、スタッフが伸びるか、意気消沈してしまうかに分かれてしまいます。
「やって見せ、させてみて、褒めましょう」という言葉がある通り、失敗を叱るより、褒めるポイントを見つけることも重要です。
評価を伝えるときは、優秀になるよう繰り返し研修を行い、標準では不足しているという現状を認識させて、高度な目標達成に向けて取り組む意欲を持たせましょう。

習慣化に至るポイント

3.スタッフの特徴に合わせた指導方法

スタッフには、マイナス思考、中途半端、能力不足、経験不足と様々な方がいます。
そのスタッフごとに指導方法や指導時の注意点が違います。
当人の考え方や受け取り方の傾向を考え、指導時に注意し教育・指導を行います。

スタッフ別傾向と注意点
スタッフの状況を見ながら教育・指導することがポイントです。
詰め込みすぎると、逆に自信を無くしたり、苦痛を感じさせたり、退職とならないような配慮が必要です。

4.キャリアアップ研修システムの構築法

歯科医療の世界は、文字通り日進月歩です。
また、患者から求められる対応マナーも年々変化・向上してきています。
入職して教えられていた基準が今では足りず、より高いレベルの対応が求められてきています。
基本の接遇や診療技術が向上していないと、より高度な自由診療への取り組みや、患者への情報提供、自由診療選択を勧めることもできません。

1.スタッフの意識改革研修

いきなりスタッフの研修を始めるといっても、スタッフ自身の自覚がなければ、拒否する気持ちが先に立つことが多くなります。
こうした心持ちの研修では身に付くはずもなく、とりあえず受講しただけで、患者への満足度向上にはつながりません。
院内ミーティングなどを通じて、スタッフの共感を得られるように進めます。

研修の手順(実践研修の他、理論や明確な効果、スタッフの意識への訴え掛け)

患者満足度向上は職場満足度の向上から始まる好循環となり、結果としてスタッフ自身に帰結するということを理解してもらい、いつまでに行うという目標を設定します。

2.キャリアアップ研修の段階

キャリアアップは、スタッフ個人に求めるのではなく、歯科診療所としての組織としてバックアップすることが必要です。

キャリアアップ

キャリアアップ体制は、医院が目標を与え、本人が自覚して取り組み、その行動を管理して結果の評価まで一貫して行うことが重要です。
本人に任せっぱなし、又は医院から強制でやらせるのでは、満足度向上にはつながりません。
スタッフ及び患者双方のためにも、コミュニケーションを取りながら進めることがポイントです。

3.新人歯科衛生士への教育

歯科衛生士の資格を得たばかりの新人は、最低限の知識は持っていますが、知識と技術がつながっておらず、即戦力とは言い難いのが事実です。
また、社会経験がないため、一般社会のルールそのものも習得していないことから、社会のルール、自院におけるルールを身に着け、実践できるように教育します。
また、なぜそのルールがあるのか、ルールを守ることによってどのような効果が期待できるのかなど、トータルで研修する必要があります。

新人歯科衛生士研修システム

4.歯科助手、受付への教育

歯科助手や受付・会計という医療資格を持たない職員は、医療法や守秘義務、個人情報保護法、医療安全管理、院内感染防止等の医療において特殊な法律や規則を知りません。
そのため、有資格者は同じ職場で働くスタッフに対し、法律や規則を教え遵守させることが義務だと捉える必要があります。
そして、「治療を受けたくない」と考える患者が、最初に接するのが受付です。
また、治療を長く待って、受けたくなかった治療が終わり、早く帰りたいと思いながら会計を待っているのは待合室です。
ここでの対応を誤ると、治療以前に不快感を持たれ、感情的になって、治療中の些細な出来事がクレームを招いてしまいかねません。
細かい配慮と注意を払うことが必要です。

応対のポイント

 

■参考資料
セミナー歯科医院を活性化させる「エクセレントな歯科スタッフ育成講座」より抜粋
講師:DBMコンサルティング取締役 向 玲子
クインテッセンス出版株式会社「歯科衛生士を院内で教育する仕組みづくり」濱田真理子 著

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