歯科医院の活性化を図る 患者様評価を高めるスタッフ育成法

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

歯科医院の活性化を図る 患者様評価を高めるスタッフ育成法

  1. スタッフ育成の目的と基本的考え方
  2. 新人スタッフはキャリアアップで戦力化を図る
  3. 中堅スタッフはコミュニケーション能力を高める
  4. スタッフリーダーは部下育成能力を向上させる

 


この記事をPDFでダウンロードする。

 

1.スタッフ育成の目的と基本的考え方

歯科医院の運営は院長の力だけでは成り立ちません。
歯科衛生士、歯科助手、受付等スタッフ全員で様々な課題に取組むことが重要です。
ただし、歯科衛生士や歯科助手の大半が女性である現状では、結婚、出産、配偶者の転勤等で長期間勤務される人が少なくなり、歯科医院経営者にとって良い人材確保と教育・育成が大きな課題となっています。
競合医院の増加は止まらず、差別化のための夜間診療や土日診療も常態化しています。
また、訪問歯科診療への取組みが増加し、介護分野に進出する歯科医院もめずらしくありません。
歯科医院としては、スタッフの教育・育成が今後の経営のカギだといえます。
今回は、組織力アップにつながるスタッフの育成方法を解説します。

1.スタッフ育成の目的

スタッフ育成の大きな目的は、患者からの評価を最大限に高めるため、組織全員の考え方を同じ方向に集約し、目的に向けた全員の能力と意欲を相乗的に高めることです。
診療に関する知識があっても、その知識を活かせる能力が必要です。
また、能力があっても実際に行うという意欲が無ければ意味はありません。
そして、行う際には効率や成果、影響等を考えることも重要です。
その後、行った結果を見つめ直し改善していくという、向上への取り組みサイクルが必要です。

患者からの評価を最大限に高める公式

歯科医院の現場では、「能力」「知識」「意欲」「考え方」をそれぞれ高めることにより相乗的に評価はあがります。恐いのは、マイナスの考え方をしていると、大きなマイナスの評価として現れてしまうことです。
院内の組織が上手く機能していないと顧客応対に支障が出ます。

評価につながる項目

2.歯科医院スタッフに求められる意欲と責任感

(1)スタッフに求められる2つの意欲

意欲には2つあり、そのひとつは、ここまではしないといけないという制限的意欲であり、「給料分を働く」「勤務時間内は働く」等の意欲をいい、チーフや新人によっても待遇や責任の大きさが違うので、制限的な意欲は変わります。
もう1つは「もっとこうしたい」と思う建設的な意欲です。
これには、共感・共鳴が求められ、そして相手に対する敬意の最高の表現は、自分自身が教養ある身だしなみ、言葉遣い、態度をとることのできる人間でいることです。

意欲の種類

(2)患者の健康を守る責任感

院長の診療理念は、虫歯の痛みや補綴物の不具合という症状でも、また相当進行した歯周病でも変わりません。
患者の健康を守る、という大前提の上での診療であり、その診療行為には責任が伴います。
院長だけでなく、歯科衛生士はもちろん、歯科助手や受付の全員が患者への診療に対し、責任を共同で持つことが重要です。

(3)スタッフに必要な3つの意識

歯科医療従事者として、持っていて欲しいと望む「意識」は3つあります。
一つは患者満足、もう一つは自己啓発、さらに経営感覚という意識です。
身体的・精神的に困っている患者に常に接しているという状況では、「診療に慣れる」ではなく、「診療に熟れる」という意識を持って欲しいものです。

3.スタッフ育成は階層別に実施

(1)スタッフ育成の組み立て方

スタッフに持っていて欲しい「意識」「能力」は黙っていて身に付くことはありません。
特に若いスタッフやパート職員に自発的行動を望むより、医院側の指導・教育によって習得させる必要があります。

(1) 院長の経営理念と診療方針の策定とスタッフ意識への浸透

すべての診療行為の根本は、院長が策定した経営理念と診療方針に基づいています。
習得した知識も能力も、意欲や考え方は経営理念に基づき、診療方針のもと実行されます。
スタッフ育成も経営理念や診療方針のもとに行われます。

(2) 歯科医院の教育サイクルと階層別教育メニューの策定

スタッフも新人と3年~7年くらいの経験者、リーダークラスと階層が分かれます。
それぞれのレベルに合わせた階層別の研修をサイクルで繰り返し行う必要があります。

歯科医院の教育サイクル(①~③を繰り返し、レベルアップを図る)

(3) リーダーとしての組織力アップするための研修

歯科医院経営には、院長だけでなくリーダーとなるスタッフの役割も重要です。
患者様評価を高めるためには、スタッフ全員が歯科医院運営に参加するような体制が必要です。
その体制構築のためには、スタッフ内のリーダーを育成することです。
ミーティング方式やコーチングといった手法をリーダーに習得してもらう必要があります。

(2)自己啓発の併用

スタッフの育成は、研修会や勉強会の開催だけでは不足しています。
本人から自主的に研修へ取組むことが重要となります。
研修会に参加せず、マニュアル本や研修会レジュメ等の精読から覚えられることには限りがありますが、本人の意欲的な取組みに対しては、歯科医院側でも最大にバックアップをする必要があります。

3.新人スタッフはキャリアアップで戦力化を図る

スタッフの育成方法は多種多様で、何を目的として選択するかが重要です。
未経験もしくは新卒者に対して歯科医療とは何かを教える基礎講座や、「患者」としてどう応対するかの接遇研修、中堅クラスの各専門業務の臨床研修、ベテランスタッフへの組織力アップや部下育成の研修会等、各種研修会があります。
また、コーチングといった教育手法やミーティングの活用、DISC理論等、研修手法も選択する必要があります。

1.早期戦力化の手順と経営理念・基準行動の徹底

若手職員の早期戦力化を図るためには、下記の3つのステップで育成に取り組んでいくことが必要です。
以下、このステップに基づいて、ポイントを解説します。

早期戦力化の手順と経営理念・基準行動の徹底

はじめに、若手職員には自院の経営理念や基準行動を習得させることが重要です。
これが、職員育成の柱になります。
経営理念は、診療所にとっての根源的な考え方です。
在籍している限り尊重すべき価値観や行動規範であり、緊急事態に遭遇した場合やマニュアルにない判断を求められたときの拠り所になるものですので、入職時のオリエンテーションで十分に伝え、理解させることが大切です。
また、自院で定めている基準行動を徹底的に教え込み、考えなくても自然と「言える」「行動できる」レベルまで叩き込む必要があります。
これが、若手職員育成の第一歩となります。

入職時に徹底すべき項目

2.現代の若者の特性

2000年以降に成人を迎える世代を「ミレニアル世代」といい、主に米国で使用されている世代区分になりますが、日本ではゆとり世代やさとり世代が該当します。
これらの時代背景の中で育ってきた若手職員は、以下のような特性を持っています。

現代の若者の特性

その一方で、優れている面もあります。
指示した仕事については確実に実行したり、積極的に発言することがなくとも、自分の考えはしっかり持っています。
さらには、ITツールの発達など情報化社会の中で過ごしてきており、情報収集面においては、ベテラン職員よりも優れている人が大勢いると思われます。

現代の若者の特性

3.課業一覧(キャリアマップ)を活用したOJT計画に基づく育成

若手育成で最も重要なのが、このステップです。
「早期に」「計画的に」育成を進めるには、成長のロードマップをしっかり作成し、本人に見せて、進捗チェックと指導を行うことが必要です。
ここで役立つものが、課業一覧(キャリアマップ)を活用したOJT計画です。
課業一覧(キャリアマップ)とは、院内にある仕事の棚卸を行い、経験年数や等級と担当する職務や役割の関係を整理したものです。
そして、課業一覧(キャリアマップ)をベースとして、個人別のOJT計画を作成し、教育担当の先輩職員が、「教える」「やらせる」「チェックする」「追加指導する」「次のステップに進ませる」というサイクルを回していくことになります。

OJT計画フォーマット(一部抜粋)

4.Off-JT(教育研修)による能力開発

OJTによる育成はとても重要で、若手育成の核となる部分ですが、OJTでは習得できないスキルもあります。
それを補完するのがOff-JT(教育研修)です。
Off-JTは、診療所全体で計画を立てて取り組んでいくことが必要です。

Off-JT計画の例

3.中堅スタッフはコミュニケーション能力を高める

勤務して3~7年位経過すると、その歯科医院で行う業務もすべて覚え、「慣れてしまう」ということが起こります。
毎日が同じことを繰り返すだけで新鮮味がなくなり、本人にとってもモチベーションが下がり、働く意欲の低下を招きます。
歯科医療という面から考えるといくらでも学ぶことがあり、また、自分の能力もまだ上を目指せる状態にもかかわらず、今の状態で業務が十分行えることで「慣れてしまう」のです。
院長としては、早期にその点に気づき、技術面だけでなく、精神面の育成研修を行う必要があります。

1.患者ニーズの把握と信頼獲得

中堅クラスのスタッフは「もう判っているだろう」と考え、患者応対やコミュニケーション等の研修は中途採用者や新人に対してしか行わない歯科医院は多くあります。
しかし、患者ニーズの変化やその地域や年齢層によって、患者が歯科医院に求めるものも変わっていきます。
中堅クラスにこそ、再度マーケティングに沿った意識の再確認となる研修を受講させることが求められます。

(1)患者ニーズの把握

歯科医院側が提供する医療技術と、患者が求める医療技術が同調していなければ、患者満足度の向上は図れません。
そのためには、患者が取り戻したい健康のレベルを聞き出し、それを理解することが必要です。
また、医療のプロとしての提案を判りやすく説明し、理解してもらうことができなければ、患者満足は生まれません。
情報を引き出し、また、提供する医療を理解してもらうという双方向のコミュニケーションが必要となります。

(2)患者や院内スタッフからの信頼獲得

患者やスタッフからの信頼は、院内経営の基礎となります。
患者との信頼関係を築くことは、かかりつけ歯科医となるために必要です。
また、院内スタッフと信頼関係を築くことは、目標を達成していくために不可欠です。
例えば、業務の中でミスをなくする努力をすることは重要ですが、もっと大切なことは、ミスが発生した時に適切なフォローを行うことです。
そのことが患者や院内スタッフからの信頼を得ることにつながります。

2.中堅スタッフに必要なコミュニケーション力

(1)コミュニケーション能力の高い人とは

コミュニケーションを取るのがうまい人というと、相手に情報を伝えるのがうまい人(交渉力や渉外力がある人)をイメージする方が多くいます。
しかし、コミュニケーションとは情報の発信と受信がそろって初めて成立するものです。
つまり、コミュニケーション能力が高い人とは、発信だけでなく、受信もうまい人ということになります。

コミュニケーション能力の高い人

コミュニケーションの最終目的は、ある種の等質性や共通性を持つことです。
他者から受け取った情報から相手の心理状態を理解・共感したりすること(他者理解)ができる人がコミュニケーション能力の高い人となります。

(2)満足度向上で患者をファン化

患者の満足度向上は、患者数の確保や紹介率の向上、また自費率アップにつながります。
患者をファン化していく基礎となるのは、患者情報をいかに引き出すか、そしていかに歯科医院側の情報提供を判りやすく患者に理解してもらえるかに尽きます。
この情報を引き出す、提供情報を理解してもらう、ということがコミュニケーション能力だといえます。

患者満足度向上につながる医療の提供とコミュニケーション能力

患者の心の中は、痛みや不快感、病気やケガに対する知識不足による不安感で占められています。
患者の望む治療を行うには、症状を正しく聞き出すことはもちろん、抱えている不安感や疑問、治療後の望む健康状態や生活までを、理解することが理想です。
コミュニケーション能力を高めることで、患者が望む治療と治療後の生活を提供することができるようになり、そしてそれが患者満足度向上につながります。

(3)患者満足度を高めるポイント

患者の気持ちを正しく理解しないまま治療を行うと、患者には不満が残ります。
まずはしっかり聴くことから始めるのが重要です。
しかし、患者の訴えをただ聞くだけではうまく対処することはできず、聴くテクニックも必要です。
患者が自分の状態をどのように理解しているかを把握するためにも「どのように聞くか、話をさせるか」が重要になります。

「聴く・話をさせる」ポイント

(4)患者が求めるコミュニケーション

患者への説明や、話を聞いてくれる等、患者としてはコミュニケーションへの要望が多くきかれます。
高い治療技術よりも説明や傾聴など、患者はコミュニケーション力を望んでいます。
院長やスタッフのコミュニケーション力は非常に重要なスキルといえます。

歯科医院に求める要望、患者が望むスタッフ像

4.スタッフリーダーは部下育成能力を向上させる

ベテランスタッフになると能力も知識もあり、その歯科医院の経営理念や診療方針も十分理解していると思われます。しかし、診療に関しては年々進化、技術が革新していきますので、常に研修は必要です。
ベテランスタッフには、部下・後輩の教育・育成のスキルと、組織としての体制づくりや機能するシステムづくりの能力を身に付けてもらう必要があります。
ミーティングや、コーチングを活用した育成法などを知り、ベテランスタッフが行うことができるよう指導していきます。

1.ミーティングによる部下育成のポイント

ミーティングが成功するには、院長も含め参加するスタッフの臨む姿勢と意識が重要です。
ただ参加するだけ、改善意識もなく聞いているだけでは、ミーティングの目的を達成できません。
目的を明確にし、参加意義を高めましょう。

ミーティングによる部下育成のポイント

医療の場合は100-1=0になることもあります。
それを防ぐ為にも報告・連絡・相談は必ず行いましょう。

アクシデント、インシデント

大事に至らなかった事例をオープンにすることが重要です。
ミスを隠さない組織作りを目指して、インシデントレポートをミーティングの材料として使用します。

2.コーチングによる育成法を知る

(1)コーチング育成シートの作成

コーチングによる育成方法を具体的に組み立てるために、まずコーチングアウトラインを作成します。
院長の理想像と現状との能力差を具体的に把握し、それをどのように縮めていくのかを検討する必要があります。

コーチング育成シート作成のプロセス

次にスタッフがレベルアップするための課題を抽出し、学習するための動機付けを行ったり、環境を整備します。

スタッフ育成のための環境整備

(2)学習する「課題」の形成

院長の役割の一つとして「課題確認」が有ります。
スタッフをどれだけ理想像に近づけられるかは、何が課題なのかを発見し、スタッフに期待する姿を示して、「課題」を認識させることです。

課題形成のポイント

 

■参考文献及び参考資料
「歯科医院経営を成功させる50の心理法則」 妹尾 榮聖 著 クインテッセンス出版株式会社 
「今すぐ医院に貢献できる 歯科衛生士の育て方」 加藤 久子 著 クインテッセンス出版株式会社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。