口腔ケア中断のリスクを解消 訪問歯科診療取組時の留意点

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

口腔ケア中断のリスクを解消 訪問歯科診療取組時の留意点

  1. 訪問歯科診療の実施状況
  2. 訪問歯科診療開始の準備と施設基準
  3. コロナ禍における訪問歯科診療時の注意点
  4. かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の基準等

 


この記事をPDFでダウンロードする。

 

1.訪問歯科診療の実施状況

長期化する新型コロナウイルス感染症により、在宅療養している患者数は、今後さらに増加することが予想されます。
このため、国は、地域医療を維持するために医療機関の連携を推進すべく、様々な検討を重ねています。
その中で、歯科医療に関しても施設や居宅への訪問歯科診療への要望が強まっています。
一方で、感染リスク回避のために訪問を中断・中止している医療機関も出てきています。
要介護者の治療が延期・保留となると、口腔衛生や口腔機能が低下し、誤嚥性肺炎等における緊急入院や緊急手術等の可能性が増加します。
口腔機能管理の面からも訪問歯科診療の重要性は高まっており、コロナ禍における予防対策を十分にとって、訪問歯科診療を実施することが求められています。

1.介護施設への訪問歯科診療の現状

新型コロナウイルスの影響から、介護施設側では人との接触を可能な限り減少させるため、緊急時以外の訪問歯科診療に対し、中断の申し入れを行う一方で、歯科医院側から介護施設側へ訪問歯科診療を中止したいと申し出るケースが増加しています。
東京保険医協会で実施した介護施設へのアンケートでは、施設側からの依頼により訪問歯科診療をすべて中止や一部中止した施設が81%で、その結果、口腔内で困ったこと、問題があったという利用者が93%であったと公表しました。
また、義歯が合わなくなった利用者も「少しいた」を含めると86%に上ります。

介護施設へのアンケート結果による訪問歯科診療の現状

2.訪問歯科診療の実施状況

これまでの訪問歯科診療の実施率をみると、1ヶ月間の在宅医療実施歯科医院は18.2%であり、都道府県別にみると最小11.0%(沖縄県)から最大35.7%(佐賀県)まで都道府県間に格差がみられます。
実施件数では、在宅医療サービス実施歯科医院1箇所当たりの訪問歯科診療の件数は、全国平均で1ヶ月間に12.6件となっています。
約20%の歯科医院が毎月平均12件強の訪問診療を行っているというのが現状です。
この実施件数は、全要介護高齢者を対象とした月1回の定期的管理を中心とした在宅歯科医療サービスを想定した場合、3.6%の充足率に過ぎません。
一方で介護保険における居宅療養管理指導では、歯科医師による実施を行っている診療所は全国平均で4.0%(最大値9.1%・最小値1.5%)、歯科衛生士による実施は2.7%(最大値8.7%・最小値0.9%)となっています。

訪問歯科診療の実施率

3.在宅療養患者の口腔内の問題点

在宅療養患者の口腔内の問題点には、義歯の不具合やむし歯に伴う歯の痛み、歯ぐきの腫れ、口内炎等があり、これらの多くは訪問歯科診療によって対応できます。
口腔内の不具合は食事意欲の低下につながるうえ、要介護となっている高齢者の口腔清掃状態の悪化は、誤嚥性肺炎の原因にもなります。
また咀嚼や嚥下の障害がみられることがあり、定期健診による機能低下の早期の発見と対応が必要です。
終末期においても最後まで口から食べる行為は、本人の生きる力を支援するものです。
要介護高齢者の歯科診療のニーズは、全要介護高齢者に対する定期的口腔ケア・食事支援、全要介護高齢者の少なくとも50%への歯科治療、全介護高齢者の約20%に対する摂食嚥下指導が必要と試算されています。

専門的口腔ケアが高齢者の健康や生活機能に与える効果

4.訪問歯科診療対象患者の条件と往診との違い

訪問歯科診療の対象患者の条件とは、歯科医師が個々の症例ごとに適正に判断することになりますが、基本的には疾病や傷病による通院困難者となります。
これは要介護状態区分のみに基づいて形式的には判断されません。
医科の外来診療を受けている患者でも、緊急の治療や検査の必要性があり、搬送された患者や家族等の搬送等の助けによる外来診療を受けている患者の場合は訪問歯科診療の対象患者になります。
また、往診と訪問歯科診療を同じ行為と思われている方がいますが、往診は突発的な疾患がおこり、すぐに病院等へ行けない事情がある場合や患者の元に赴いて応急的な診療や処置を行う事となっています。
訪問歯科診療は患者の求めに応じ、継続的計画的に患者の自宅を訪問して診療、処置、療養指導を行う事となっています。

2.訪問歯科診療開始の準備と施設基準

訪問歯科診療(施設・居宅)を実施した歯科医院数は14,927医院で、全体の歯科医院68,609件(2017年調査時の件数、2020年は68,327件)中の約21.8%です。
その内、居宅への訪問診療を実施した歯科医院は10,011件(約14.6%)、施設への訪問診療を実施した歯科診療所数は10,287件(約15.0%)で、訪問歯科衛生指導を実施した歯科医院数は5,151件(7.5%)となっています。年々増加していますが微増です。
また、歯科訪問診療を実施していない理由としては、人手または歯科訪問診療に充てる時間が確保できないからとか、歯科訪問診療を実施するために必要な機器・機材がないから、もしくは歯科訪問診療の依頼がないからということが多くを占めています。
他に訪問歯科診療への取り組むための基準を知らない、準備をどうしたら良いか判らない、という理由もありました。
訪問歯科を行うためには基準を知り、準備をしっかり行うことが必要です。

1.訪問歯科診療の認知活動

(1)既存患者への認知活動

訪問歯科診療の患者は、一般歯科のように待っていても来院しません。
まずは訪問歯科診療を始めたことを知って頂くことが必要です。
通院している患者に、院内にてお知らせを掲示するとともにホームページでのお知らせ、お医者さんガイドのような雑誌へ掲載して、徐々に認知度を高めていきます。

(2)介護事業所等への認知活動

ターゲットとなるのは近隣にある介護事業所等です。
介護事業所にいるケアマネージャーからの紹介で、増患につなげることが成功のパターンです。
既存の患者に担当のケアマネージャーがいれば、そこから紹介してもらう方法が最も効率が良いでしょう。
介護事業所といっても、入所系、通所系、訪問系といったさまざまなサービスの種類があるため、それぞれの特徴を学び、それに合った集患方法を構築していくことが必要です。
また、近隣の状況を知る方法の一つに地域包括センターを利用する方法があります。
地域包括センターとは、2005年の介護保険法で定められた施設で、地域全体の保健衛生、高齢者を中心とした介護、社会福祉全般をマネージメントしている施設です。ここで近隣事業所のリストを入手することができます。

主な介護事業所の種類

2.在宅医療を行うための施設基準

在宅医療を行い、診療報酬を受けるためには、通常の診療報酬の他、施設基準を提出し、様々な管理料や加算を受ける必要があります。

在宅医療を行うための施設基準

3.訪問診療を行うための医療機器と連携の重要性

在宅歯科診療には特別な医療機器等の準備が必要です。
主な医療機器を下記に整理しました。

在宅歯科診療用の医療機器

訪問歯科を行うにあたり、他の医療機関との連携は必須となります。
歯科訪問診療の患者は必ず医科の訪問診療も受診していて、どのような急変にも対応できる体制づくりが必要です。
また、医療機関同士の連携から患者の紹介も出てくるため、情報の共有化を含めた医療機関との担当窓口や上部とのコミュニケーションをしっかり取ることです。

3.コロナ禍における訪問歯科診療時の注意点

新型コロナウイルス感染症に対しては、新たな情報が開示されていますが、変異型ウイルス等も流行している現在、新たな感染防止対策も検討しなければなりません。
訪問歯科診療時には、患者の他、同居家族等への感染予防、およびスタッフの感染予防を考えて対処することが必要です。

1.訪問前の注意点

新型コロナウイルスに感染している患者が急速に増加し、感染経路も市中感染が広まっている状況を考えると、訪問診療を行う直前に施設全体や患者等、訪問歯科診療を行うスタッフの現状を確認する必要があります。

(1)職員の健康管理

スタッフの健康を守るため、また感染源とならないためにも、スタッフへの感染防止と健康管理は必要不可欠です。

職員の健康管理

(2)施設及び居宅の状況確認

施設に訪問する場合は、同施設内の患者と介護スタッフ、診療のない入居者の健康状態を確認します。
コロナ患者や家族はもちろん、濃厚接触した者(濃厚接触者基準とは違う)が居ないか、2週間以内の海外渡航歴のある方、帰国者の有無等を事前の電話連絡で確認します。

2.在宅患者への訪問口腔衛生指導についての注意点

訪問時前に患者及び家族の健康状態を確認する必要があります。同じく訪問するスタッフの健康状態も確認します。
あらかじめ消毒液に浸した清拭用のディスポタオルや同消毒液をスプレー容器に入れたものを用意し、患者回りの物品や寝具等、よく接触する部位には、アルコール等の滅菌・消毒剤による清拭で消毒を行います。
訪問時には、患者宅の洗面所で持参したハンドソープや消毒剤で手指衛生を行い、口腔ケア前に持参した消毒剤で手指衛生をしてから実施します。
口腔ケア後、使用したディスポタオルなどは2重にした密閉する袋等に入れて、戻った際には焼却破棄します。

訪問時の手順

3.PPE(個人防護具)の取り扱い時の注意点

呼吸器症状の出ている患者の診療にあたる場合は、当然ながら患者治療時には感染防止に対する最善の注意を図る必要があります。
PPE(個人防護具)の装着は、患者にとっては必要以上の対策に見えるかもしれませんが、新型コロナウイルスに感染してしまうと、医院の消毒やスタッフ全員の検査、自宅待機等の対策を取ることになり、最終的には長期休診になり、医院運営に大きな影響を与えます。
スタッフの感染防止、院内感染の防止にはPPEの準備は必要不可欠です。

個人防護具の取り扱い時の注意点

4.訪問歯科診療後の院内感染防止

訪問歯科診療後に歯科医院へ戻った時にも感染予防策の徹底が必要です。
院内感染を防止するため、標準予防策の他、訪問診療に使用した機材・機器や診療材料等の消毒を再度、徹底的に行いましょう。

標準予防策の徹底、訪問歯科診療機材・機器、診療材料等の消毒

4.かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の基準等

コロナ禍の中で実施された患者アンケートによると、治療中や定期健診を行っている患者でも約50%が、治療中断中の患者では約80%が歯科受診に不安を感じていると回答しています。
その中でも、かかりつけ歯科医がいるという患者の約45%が「不安無し」と回答し、理由は、「かかりつけ歯科医を信頼している」「機材や器具が衛生面で十分に配慮していると思う」ということが挙げられています。かかりつけ歯科医への信頼がコロナ禍での不安を軽減しているようです。

1.かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所が選択される理由

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所に通院中の患者が当該歯科診療所を選んだ理由は、「信頼している歯科医師がいるから」が最も多く、次いで「歯科医師や職員の感じがよいから」、「かかりつけの歯科診療所だから」でした。

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所を選んだ理由

2.かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の基準

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の基準とは、より専門性が高く、地方厚生局へ様々な施設基準を提出し、過去の臨床への件数があることです。歯科訪問診療に対しても、自院で取り組んでいるか、もしくは在宅療養支援歯科診療所との連携が必要です。
また、医科との連携も、保健医療機関との事前の連携体制が確保されていることが基準となっています。
患者にとって安全・安心な歯科医療環境提供のため装置・器具等の準備が必要です。

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の基準

3.電話等を用いた診療報酬上の取り扱いの見直し

厚生労働省では、新型コロナウイルスの感染が拡大し、医療機関の受診が困難になりつつあることから、時限的・特例的な対応として、「新型コロナウイルスの感染拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(2020年4月10日厚生労働省医政局歯科保健課)が発出されたことを踏まえ、当該事務連絡に関連する診療報酬の取扱いについて、以下の対応を検討しています。
患者にとって安全・安心な歯科医療環境提供のため装置・器具等の準備が必要です。

歯科診療における新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話等を用いた診療に 対する診療報酬上の臨時的な取り扱いについて

 

■参考資料
東京保険医協会:21.1実施アンケート報告
厚生労働省ホームページ:eヘルスネット 訪問歯科診療 資料提供 深井雅博氏
新型コロナウイルス感染症に伴う医療保険制度の対応について
厚生局ホームページ:かかりつけ歯科医機能の評価等実施状況調査
日本歯科衛生士部会ホームページ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。