困難な経営状況を打開する環境変化に対応した経営改善策

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困難な経営状況を打開する環境変化に対応した経営改善策

  1. 新型コロナウイルスが医療機関に与えた影響
  2. かかりつけ患者の重要性と医療需要の展望
  3. 診療所における経営改善対応策
  4. 診療科別の影響と今後の経営対応策


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1.新型コロナウイルスが医療機関に与えた影響

1.新型コロナウイルス感染症が医療現場に与えた影響

全世界で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症ですが、国内においては、感染者数が一時減少したことから、2020年5月25日に緊急事態宣言が全面的に解除されました。
しかしその影響と余波は大きく、全国の医療機関で外来・入院患者数の減少がみられ、医業経営は厳しい局面にあります。
その原因として、通院することで新型コロナウイルスに感染することを懸念した患者が受診を控えていること、新型コロナウイルスの院内感染を避けるために緊急ではない手術が延期されたこと、医療機関が新型コロナウイルスに対応するために、それ以外の疾患に対応する余裕がないことなどが考えられます。

新型コロナウイルス感染症への対応による現場への影響について

こうした厳しい経営環境をどのように乗り越えていけば良いのか、Withコロナで変わる医療提供サービスを再構築し、実行していくことが各医療機関では求められます。

2.新型コロナウイルス感染症影響下における医療機関の患者数の変化

厚生労働省が作成した診療種類別レセプト件数によれば、前年、前々年同月比でみると、4月以降、医科、歯科、調剤いずれにおいても件数が減少しています。

診療種類別レセプト件数

医科のうち入院・外来別レセプト件数の前年、前々年同月比でみると、入院、外来ともに減少していますが、外来の減少幅の方が大きいことがわかります。

医科のうち入院・外来別レセプト件数

医科のうち病院・診療所別レセプト件数の前年、前々年同月比でみると、3月以降、病院も診療所も減少しています。

医科のうち病院・診療所別レセプト件数

地域別のレセプト件数では、前年、前々年同月比でみると、3月以降は、特定警戒都道府県の方がその他の都道府県に比べて減少幅が大きいことがわかります。

地域別レセプト総件数

2.かかりつけ患者の重要性と医療需要の展望

1.かかりつけ患者を持つ重要性

患者の受療行動の変化や地域医療を取り巻く環境変化のもと、診療所が生き残っていくためには、様々な対応策を講じていく必要があります。
かかりつけ医として機能を果たしている診療所は、このような状況下においても比較的外来患者数は減少していません。
一方、薬等の処方が目的で来院される患者は来院しなくなる傾向があります。ある薬局では、花粉症薬が飛ぶように売れたという話もあります。
これは、患者が感染予防のため、受診を控え、市販薬を購入するという動きが顕著に表れた結果といえます。
今後の医業経営を考えていく上で、ただ目の前の患者を診て処方箋を出すだけでは足りず、医療機関に足を運びたいと患者に思わせる何かが必要となってきます。患者が来院するメリットをよく考え、自院の特色を出していくことがかかりつけ患者の確保に有効であると考えることができます。

かかりつけ医をもつ患者のメリット

患者が、上記のようなメリットを感じるための大きなポイントは、患者主体に物事を考え行動ができるかということです。
いくら腕が良い医師でも、自分のやりたい医療を優先していると患者からの信頼は得ることができません。
患者との関係が良好な診療所は、スタッフも含め高い意識で患者対応や感染対策に取り組んでいます。
医療はサービス業であるとの認識のもと、患者サービスを提供していくことが重要となります。
こうしたことから、日頃信頼関係を築いているかかりつけ医は患者の流出を最小限に留めておくことができるのです。

2.患者数の減少に備えた準備が必要

日本の人口は減少し、それに伴い医療需要が減少していくことを考慮しなければなりません。
2015年に経済産業省から公表された「将来の地域医療における保険者と企業のあり方に関する研究会報告書」では、外来医療需要は2025年にピークを迎え、その後減少に転じ、入院医療需要は2040年にピークを迎え、その後概ね横ばいで推移することが示されています。

全国の入院医療需要と外来医療需要

将来的な経営を考える上で、医療需要は減少していくことを考慮していかなければなりません。
患者減少時代に備えて、他院との差別化を図り、在宅医療への展開やかかりつけ医機能の強化など、打つべき手はしっかりと打っておくことが対策として必要となります。

3.オンライン診療は患者視点で考える

厚生労働省が行った電話診療・オンライン診療の実績の検証では、電話診療及びオンライン診療を活用した年齢階層別の受診者の割合では、0歳から10歳までの患者層が最も多いことが明らかとなりました。

年齢階層別の受診者の割合

この年齢層の患者は、親の意向のもと、オンライン診療等を利用した可能性が高く、感染を恐れての対応であると考えられます。
この年齢層の患者は、自分で症状を正確に伝えられない可能性があり、また、対面診療ではないことから正確な診断ができないという懸念があります。これらの懸念事項は、認知症状のある患者や障がいのある患者にも同じようなことが考えられます。
一方で、医療の効率化が進められ、オンライン診療が普及していくことは十分に考えられます。
こうしたリスクを考慮すると、かかりつけ医によるオンライン診療は、対面ではないものの患者のことをよく知った医師が診療を行うため、いくらかリスクを軽減することができます。また、患者にとってもかかりつけ医に診てもらう方が安心できると考えられます。
オンライン診療を行うに当たっては、患者視点で物事を考え、リスクを十分に考慮した上で対応していくことが求められます。

3.診療所における経営改善対応策

1.外来医療需要の減少を考慮し在宅医療へ

新型コロナウイルス感染症の影響下、外来患者が減少し、特に、自費の予防医療の患者が減少しています。
収入が減少している医療機関が多い中、在宅医療や訪問看護、訪問介護などに力を入れている医療機関は落ち込み幅が少ないようです。
また、外出自粛の影響で通院・通所のニーズが減少した一方で、訪問サービスの需要が増え、訪問看護や訪問介護などは4月の前年対比で増加している医療機関もあります。
今後、新型コロナウイルスの流行の波が再び訪れることにより、更なる経営状況の悪化が懸念される中、経営戦略の立て直しや組織の人員配置の再編などに取り組む必要性があります。
外来中心の診療体制で今後の経営が難しいと判断した場合は、在宅医療に力をいれるのも一つの方法です。

外来医療需要減少に伴う対応策の例

オンライン診療の初診の特例措置については、以下のとおりです。

オンライン診療の初診の特例措置(一部抜粋)

2.受診しやすい環境づくりに配慮

(1)薬の処方日数切れの患者に受診を促す

新型コロナウイルス感染症影響下で、新規患者が大きく減少する中、医療機関によってはかかりつけ患者は減少していない医療機関があると前述しました。
その背景には、かかりつけ患者に対する配慮をかかさず、来院を促している医療機関の努力があります。
ある医院では、予約日に来院しなかった、あるいは処方日数が切れる日に来院しなかった患者全員に翌日、医院の看護師が患者に電話で連絡しています。診療所から連絡のあった患者の多くが、再診するため診療所に足を運んでいます。
かかりつけ医は、かかりつけ患者に対する責任感を強く持ち、薬が切れても来院しなかった患者を気にかけて対応することで、信頼関係の構築と受診促進を実現しています。

(2)受診が不安な患者に配慮した多様な受診形態

来院することに対して不安を感じている患者に対して、複数の診療方法を設けている診療所があります。
例えば、患者の希望に応じて、診療所の脇に特設診療スペースを設け、そこで受診できる仕組みや、オンライン診療や電話診療を選択できるといった選択肢を提供することです。

患者の状態に応じた受診の一例

3.診療所における増患対策

本稿第2章で、かかりつけ患者を持つことは戦略上とても重要であることを紹介しましたが、かかりつけ患者を獲得するためには先ず来院してもらい、好印象を与える事が必要になります。
次に、どのようにして来院を促していけば良いかを紹介します。

(1)オンラインマーケティングの活用

スマートフォンの普及が進む中、オンラインマーケティングを活用して患者の目に触れる機会を増やし、増患を図ることは一つの方法です。
新規患者を増やすためには、オンラインマーケティングは重要な一手であると考えられます。

オンラインマーケティングの種類

(2)慢性疾患をもつ患者の初診時の対応を工夫

かかりつけ患者の獲得を考える上で、慢性疾患をもつ患者の健康維持に貢献できるかが重要であると捉え、経営戦略を練る必要があります。
ある診療所では、高血圧症の患者であっても、初診時には医師だけではなく看護師の問診も含めて、時間をかけて患者の話を聞くよう心がけています。
この例の様に、初診時の対応が重要であり、慢性疾患をもつ患者がかかりつけ患者になると、定期的な受診が見込まれ定期的な収入が期待できます。
こうしたかかりつけ患者を多く維持するためには、患者にとって有益な情報や診療サービス等の提供を継続して行い、地道に信頼関係を築いていくことが求められます。

4.診療科別の影響と今後の経営対応策

1.医科診療所の診療科別の患者数の変化

新型コロナウイルス感染症影響下において、診療科別にレセプト件数の前年、前々年同月比で見ると、3~5月は、全ての診療科において前年同月よりもレセプト件数が減少していることが明らかとなりました。
また、4月、5月は、いずれの診療科も減少していますが、小児科、耳鼻咽喉科、眼科の減少が顕著となっています。

医科診療所の診療科別レセプト件数

2.診療科別の影響と対策

診療科目によって新型コロナウイルス感染症で受けた影響はそれぞれです。
そこで、主要な診療科ごとの経営状況の傾向と対策について以下に紹介します。

内科、小児科、整形外科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科

 

■参考資料
厚生労働省:中央社会保険医療協議会総会 第464回資料
「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の
時限的・特例的な取扱いについて」 令和2年4月10日 事務連絡
経済産業省:将来の地域医療における保険者と企業のあり方に関する研究会報告書
MMPG:Clinic Bamboo 2020/7月号

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