保険診療の質向上と適正化を目指す個別指導・監査の実態と返還防止ポイント

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指導・監査の形態と選定基準

  1. 個別指導・監査の実施状況
  2. 指導・監査の形態と選定基準
  3. 組織的な対応が求められる個別指導対策
  4. 個別指導における具体的指摘事項

 


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1.個別指導・監査の実施状況

保健医療機関の指定を受けている歯科医院や保険医登録をしている歯科医師にとって、診療報酬請求に関する行政指導(以下「指導」)は、指導の結果やその後の手続(監査)によっては保険医登録取消しなどの重大処分につながるおそれがあるため、日ごろから注意しておかなければならない問題といえます。
指導の中でも特に診療報酬請求に疑義のある可能性が高いと思われている段階での手続である個別指導と、不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由がある場合に実施される監査では、ほとんどが診療報酬の返還という事態に発展します。
指導・監査の対象とならないことが一番ですが、このような制度がある以上、制度の構造をしっかりと押さえて、万が一指導の通知が来た場合に、対応できるように準備をしておくことが重要です。

1.厚生労働省 指導・監査等実態調査データ

(1)保険指定医療機関の個別指導・監査の状況

2018年度に個別指導を受けた保険医療機関等は4,724件(参考:前年度比107件増)で、内訳は、歯科1,332件(同18件増)、医科1,653件(同25件増)、薬局1,739件(同64件増)となっています。

2018年度保険医の指導実施状況

(2)保険医の指導・監査の状況

個別指導を受けた保険医等は1万4,680人(参考:前年度比3,826人増)で、内訳は、歯科医師2,993人(同1,190人増)、医師9,210人(同2,599人増)、薬剤師2,657人(同217人増)となっています。

2018年度保険医等の指導実施状況

(3)返還金額の状況

2018年度の診療報酬返還は、約87億4千万円であり、昨年実績を15億円上回っています。
また、指導による返還分が、約32億8千万円、適時調査による返還分が約49億3千万円、監査による返還分が約5億3千万円となっており、いずれも前年実績を上回っています。

2018年度の返還金額の状況

(4)保険医療機関の取消状況の推移

指導、適時調査、監査からの保険医療機関の取り消し件数は、以下の通りです。
歯科院は、例年20件前後の件数となっていましたが、2018年度は12件と、前年と比較して7件減少しています。

保険医療機関の取消件数の推移

(5)保険医等の取消状況の推移

歯科医師、医師、薬剤師の保険医等の取消状況の推移は、下記の表のとおりとなっており、歯科医師の取り消し件数は、例年10名以上となっています。

保険医の取り消し件数の推移

2.指導に関する根拠法令

指導に関する根拠法令は、健康保険法第73条(厚生労働大臣の指導)に明記されており、「保険医療機関及び保険薬局は療養の給付に関し、保険医及び保険薬剤師は健康保険の診療又は調剤に関し、厚生労働大臣の指導を受けなければならない。」と規定されています。
具体的には、中央社会保険医療協議会(中医協)において、診療側・支払側等による議論を経て決定され、平成7年12月保険局長通知(最終改正 平成20年9月)として公表された「指導大綱」の規定に基づき実施されています。

指導の根拠法令等

2.指導・監査の形態と選定基準

保険医療機関に対する指導等については、健康保険法第73条の規定に基づき実施されていますが、その詳細については、指導大綱、指導大綱実施要領等に定められています。
対象選定は、レセプト1件当たりの平均点数が一定割合を超えるかが基準となっています。

1.指導とは

保険医療機関が受ける「指導」とは、厚生労働省が保険医療機関と保険医に対して行う行政指導のことで、①集団指導、②集団的個別指導、③個別指導の3種類があり、新規開業の場合は別枠で指導が行われます。

指導の種類

2.保険医に対する指導・監査の形態

3種類の指導の内、個別指導はさらに、地方厚生局及び都道府県が主導する都道府県個別指導、厚生労働省が主導する共同指導、特定共同指導に分類されます。

保険医に対する指導等の形態

また、診療報酬の請求に不正が疑われる場合、出頭命令、立ち入り検査等を通じて確認することを「監査」といいます。
監査は、法令の規定に従って適正に実施されているかどうか、診療(調剤)報酬の請求が適正であるかどうかなどを出頭命令、立入検査等を通じて確認することを目的として実施されます。

指導・監査の流れ

3.集団的個別指導及び個別指導の選定基準

指導は、原則としてすべての保険医療機関等及び保険医等を対象としますが、効果的かつ効率的な指導を行う観点から、指導形態に応じて以下の基準に基づいて対象となる保険医療機関等又は保険医等の選定が行われます。

(1)集団的個別指導の対象

保険医療機関等の機能、診療科等を基準とする類型区分(歯科は1区分)に応じて、診療報酬明細書(レセプト)の1件当たりの平均点数が高い保険医療機関等を一定の場所に集めて講義形式等で行う指導のことです。

❶指導対象となる保険医療機関等とは

レセプト1件当たりの平均点数が次の都道府県の平均点数の一定の割合を超える歯科病院や歯科診療所が対象になります。

指導のポイント

❷使用する基礎データとは

社会保険診療報酬支払基金及び都道府県国民健康保険団体連合会で管理されている保険医療機関等ごとのデータを基礎としています。

❸算出に使用するレセプトの種類とは

社会保険、国民健康保険の一般分及び後期高齢者分を算出に使用しています。

❹レセプト1件当たりの平均点数の算出方法とは

累計区分(歯科は1区分)ごとに、保険医療機関等のレセプトの総点数をレセプトの総件数で除したものが平均点数となります。

(2)個別指導の対象

診療報酬請求等に関する情報提供があった場合、個別指導を実施したが改善が見られない場合、集団的個別指導を受けた保険医療機関等のうち、翌年度の実績においても、なお高点数保険医療機関等に該当(※)する場合等に、保険医療機関等を一定の場所に集める等して個別面談方式により行う指導を個別指導と言います。
また、個別指導の実施件数については、医科、歯科及び薬局ごとの類型区分(歯科は1区分)ごとに 全保険医療機関等の4%程度を実施することとしています。
※高点数保険医療機関等に該当する保険医療機関等:翌年度の実績において、集団的個別指導を受けたグループ内の保険医療機関等の数の上位より概ね半数以上である保険医療機関等を指す。

4.指導のポイント

保険医療機関や保険医が「保険診療」が妥当適切に行われているか、「診療報酬請求」が点数表に定められたとおりに適正に行われているか、診療録等に記載されているかがポイントになります。

指導のポイント

3.組織的な対応が求められる個別指導対策

平均点が高い医療機関(上位8%)がいきなり個別指導の対象となるケースが増えています。
そのため、適切な診療報酬請求の堅持はもちろんですが、毎月の査定状況などの把握と診療報酬請求業務の適正化に向けた取り組みは、組織的な対応が求められます。
自院の請求点数が他院と比べて高いのか、あるいは低いのかといった情報はチェックしておく必要があり、さらに過剰請求に陥っていないかを確認するために、請求点数の月次推移や、診療科別の日当点などの情報を的確に把握する必要があります。

1.個別指導時に用意するもの

個別指導時には持参する物が必要です。
これは、指導のための必要なものではありますが、普段から指導を受けないための予防として、日々注意しておくことが重要です。

個別指導時の持参物

2.個別指導対策

個別指導時に持参する物は、個別指導の実施日近くになってから用意するのではなく、通知が来てからすぐに準備しましょう。
治療に関する提供文書やX線写真といったものは手をつけられませんが、それ以外の帳簿や書類作成時には、他の書類と突合をし、診療後に修正や摘要を記載するなどのチェックを忘れないことが重要です。
日々の業務の中でその都度、修正や加筆等管理をしっかりするのが基本で、個別指導時にはチェックするだけ、というのが理想です。

患者ごとの来院日と窓口負担金、保険医療機関の現況、カルテの準備、対象患者の通知後の準備、コメントの記載

4.個別指導における具体的指摘事項

個別指導における主な指摘事項は、診療録等、医学管理等、在宅医療、検査、画像診断、リハビリテーション、歯周治療、処置等、手術、歯冠修復及び欠損補綴、診療報酬請求の11項目となっています。

2018年度 特定共同指導・共同指導(歯科)における主な指導事項

11項目から、主に歯科に関係する項目を抽出し、以下に整理しました。

診療録等の記載、医学管理、在宅医療、検査、画像診断、リハビリテーション、歯周治療、処置等、手術、歯冠修復及び欠損補綴、診療報酬請求

 

■参考資料
厚生労働省ホームページ:平成30年 個別指導の実施状況
スライド版保険診療理解の為に
個別指導の実態
個別指導の選定の概要
個別指導時の指摘事項中央社会保険医療協議会:議事録資料より

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