地域医療の確保と患者中心医療の実現 人生100年時代に向けた医療政策グランドデザイン

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地域医療の確保と患者中心医療の実現 人生100年時代に向けた医療政策グランドデザイン

  1. 医療を取り巻く環境と政策の方向性
  2. 地域医療の確保と医師の上限労働時間等
  3. 患者中心医療の実現に向けた取り組み


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1.医療を取り巻く環境と政策の方向性

1.人生100年時代の到来

政府は、これまでに人生100年時代が到来することを想定して、高齢者、子ども、子育て世代、さらには現役世代までを広く支えるため、年金、労働、医療、介護など、社会保障全般にわたる持続可能な改革を進めています。
人生100年時代が到来すると言われている背景には、医療技術の進歩や医療制度の充実、栄養状態や衛生環境の改善などがあげられます。
2016年現在の日本人の平均寿命は男性で81歳、女性87歳となっており、この平均寿命が年々延びることが予想され、2065年には、男性85歳、女性91歳となり、女性は90歳を超える見込みです。

平均寿命の推移と将来推計

また、2016年現在での100歳以上の高齢者が6.6万人ですが、2050年頃には、50万人を超える見通しで、人生100年時代と言われる根拠となり、平均寿命の延びに対する対応策が求められている状況です。

100歳以上高齢者の年次推移

2.医療を取り巻く課題

人生100年時代に向けては、地域包括ケアシステムの構築、地域共生社会の実現に向けた取り組みを進め、地域医療の基盤を維持していくことです。
そのためにクリアしなければならない課題として以下のことをあげています。

医療を取り巻く課題

3.後期高齢者の自己負担割合の見直し

現役並み所得者を除く75歳以上の後期高齢者医療の負担の仕組みが見直されます。
その背景には後期高齢者の医療費増加問題があり、2018年度の国民医療費は43.4兆円で、そのうち後期高齢者医療費分が16.4兆円であり、国民医療費全体の37.8%を占め、団塊の世代が後期高齢者となった時はさらに医療費が増加することが予測されます。

医療費の動向

後期高齢者の自己負担割合の見直しは、団塊の世代が後期高齢者となることで医療費がかさみ、現役世代の負担が大きくなることを避ける目的があり、団塊の世代が75歳以上になる2022年度初期までに実施する方針です。

後期高齢者の自己負担割合についての見直し

4.外来受診時の定額負担の対象拡大について議論

保険医療機関相互間の機能の分担及び業務の連携の更なる推進のため、2016年度から特定機能病院及び一般病床500床以上の地域医療支援病院を対象に紹介状なしで受診する場合の定額の徴収を責務とし、その後、2018年度改定において、対象となる病院を特定機能病院及び許可病床400床以上の地域医療支援病院に拡大しました。
また、次期改定ではさらに対象となる病院が、200床以上の地域医療支援病院に拡大する見込みです。

外来受診時の定額負担の概要

政府の全世代型社会保障検討会議がまとめた中間報告では、遅くとも2022年度の初めまでに定額負担の対象病院を病床数200床以上の一般病院に拡大するとしていますが、本年1月20日に開催された社会保障審議会医療部会では、対象病院を200床以上の一般病院に拡大することついて更なる議論が必要であるとの声が多く、今後が注目されます。

2.地域医療の確保と医師の上限労働時間等

1.地域間・診療科間の医師偏在対策

(1)地域間の医師偏在対策

医師の偏在対策については、都道府県が主体となり、二次医療圏ごとに医師偏在指標を算出し、算出した指標を基に医師多数区域・少数区域を設定し、都道府県が作成した医師確保計画に反映させた上で具体的な施策を講じます。
また、この医師確保計画は2020年度からスタートし、2024年度に計画を見直し、その後は3年毎に見直されます。
例として、東京都医師確保計画(案)をみると、医師数が多いとされている東京においても医師少数区域が3区域設定されています。

東京都内の二次保健医療圏における医師少数区域、医師多数区域の設定

具体的な解決方法としては、大学医学部の地域枠を〇人増員する、地域医療対策協議会で、医師多数区域のA医療圏から医師少数区域のB医療圏へ〇人の医師を派遣する調整を行う等の施策が講じられます。

都道府県による医師の配置調整のイメージ

(2)産科・小児科における医師偏在対策

周産期医療、小児医療は、医療計画上政策的に医療の確保を図るべきものとして位置づけられ、一方で産科・産婦人科、小児科の医師数は、医師全体に比べ増加割合が少なく、長時間労働となる傾向にあることから地域偏在に早急に対応する必要があります。
都道府県が主となり行う具体的な取り組み例は以下のとおりです。
ポイントは、医療提供体制を見直し集約化すること、産科・小児科の医師数を確保するために、働きやすい環境を整備すること、今後に向けて産科・小児科医師を増やす施策を講じることです。

産科・小児科における医師偏在対策 具体的な取り組み例

医師確保計画で、自院の置かれている医療圏について医師の過不足情報を確認することができます。
不足している地域では需要に供給が追い付いていないと考えられるため、自院の経営次第では一定の患者数が見込める可能性が高いと思われます。
一方、医師数が充足している地域では、他院との競争に負けない強い経営基盤が必要となります。

2.医師の時間外労働の上限規制と応召義務について

(1)医師の時間外労働の上限規制の構成

昨年取り纏められ、公表された「医師の働き方改革に関する検討会 報告書」では、医師の労働時間短縮・健康確保と必要な医療の確保の両立という観点から、医師の時間外労働規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等についての結論が示されました。
その中で、2024年4月から適用される時間外労働の上限として、A水準、B水準、C水準と区分され、それぞれの区分に応じた時間外労働の上限が設定されました。
なおB水準、C水準の適用については、都道府県が対象となる医療機関を特定することとしています。

時間外労働の上限規制の構成、医師の時間外労働規制について

(2)応召義務について

昨年12月に医師の応召義務についての基本的な考え方等について示されました。
その中で、労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等については、使用者と勤務医の労働関係法令上の問題であり応召義務の問題とはならず、診療を拒否したとしても応召義務違反にはなりません。
診療の求めに応じないことが正当化される場合の考え方として、最も重要なのは患者について緊急対応が必要であるか否かであり、その他、診療時間内か診療時間外か、患者と医療機関・医師の信頼関係を考慮要素としています。

緊急対応が必要な場合と緊急対応が不要な場合の整理

3.患者中心医療の実現に向けた取り組み

1.在宅医療推進に向けた取り組み

在宅医療の体制については、都道府県が策定する医療計画に、地域の実情を踏まえた課題や施策等を記載しています。
第7次医療計画における在宅医療の見直しにより、在宅医療の提供体制を着実に整備するにあたり実質的な数値目標を設定するため、原則記載する事項と、可能な限り記載する事項として以下の内容が追加されました。

数位目標と施策

下記は北海道医療計画の訪問診療の需要(推計)一覧表です(2020年1月26日現在)。
医療計画には、どこの地域に今後どれくらいの需要が見込まれるのかについて記載されていますので、将来の需要予測として参考になります。

訪問診療の需要(推計)

2.外来医療機能の情報可視化

外来患者数は、入院患者数と外来の患者数の合計の約8割で、そのうち無床診療所を受診する者が約6割を占めています。

外来・入院患者の施設別割合

現在の外来医療は、無床診療所の開設状況が都市部に偏っていること、診療所における診療科の専門分化が進んでいること、救急医療提供体制の構築等の医療機関間の連携の取り組みが、個々の医療機関の自主的な取り組みに委ねられていること等の状況にあります。
それを踏まえ、外来医療機能に関する情報の可視化、外来医療機能に関する協議の場の設置等の枠組みが必要とされ、また、医療法上、医療計画において外来医療に係る医療提供体制の確保に関する事項(以下、「外来医療計画」)が追加されることになりました。
この外来医療計画においても都道府県ごとに作成が義務付けられ、前述の医師確保計画と同様に2020年4月からスタートします。
外来医師多数区域では、今後新規開業希望者に対して、地域に必要とされる医療機能を担うよう求められるため、クリニック開設を予定している場合、該当する都道府県の外来医療計画を確認しておくことをおすすめします。

外来医療計画の全体像、外来医療計画の実効性を確保するための方策例

3.適切な遠隔診療の推進

遠隔診療に関する指針として、2018年3月に公表された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」があります。
この指針は、医師の働き方改革や医師の偏在問題を背景に更なる情報通信機器を用いた診療が期待される中、最低限遵守する事項及び推奨される事項並びにその考え方が示されています。
当該指針は今後のオンライン診療の普及、技術革新等の状況を踏まえ、定期的に内容を見直すことが予定されています。
尚、この指針は保険診療に限らず自由診療におけるオンライン診療についても適用されます。

オンライン診療の適切な実施に関する指針(一部抜粋)

診療報酬におけるオンライン診療は、対象となる疾患、実施方法等が限定されています。
2020年度診療報酬改定では、対象となる疾患に定期的に通院が必要な慢性頭痛患者が追加されるなど、一部改定が予定されています。
オンライン診療の保険適用範囲は、改定ごとに変更されることが考えられ、自院の診療や経営に影響を及ぼす可能性を含み、注目すべき事項だといえます。

オンライン診療料の主な算定要件

4.外来機能・かかりつけ医機能強化に向けて

医療は地域差を伴いながら、「担い手の減少」と「高齢化による需要増大」という二重の課題に直面していますが、こうした中でも、良質な医療を提供できる体制が必要です。
「病院完結型」の医療から、「地域完結型」の医療に変わりつつあり、身近なところで診療を受けられる「かかりつけ医」の普及が今後も不可欠となります。
一般的な外来受診はかかりつけ医機能を発揮する医療機関が担うことになり、このことが、患者の状態に合った質の高い医療の実現のみならず、限りある医療資源の有効な活用につながります。
自院においても患者から求められる医療機能を把握し、地域で連携を図りながら、かかりつけ医として選ばれ続け、患者の要望に応えることが安定経営に繋がると考えられます。

■参考資料
 内閣府:平成30年版高齢社会白書
 経済産業省:2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について
 首相官邸:全世代型社会保障検討会議資料
 厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会資料
 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会資料
 医師の働き方改革に関する検討会資料
 社会保障審議会医療部会資料
 東京都医師確保計画(案)
 北海道医療計画

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