診療所に関わる改定予測と戦略 2016年診療報酬改定の行方

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診療所に関わる改定予測と戦略 2016年診療報酬改定の行方

  1. 次期診療報酬改定の全体的動向
  2. 外来・在宅医療に関する改定の予測
  3. 「2025年モデル」を見据えた今後の診療所戦略

 


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1.次期診療報酬改定の全体的動向

1. 「骨太の方針」と次期改定に向けた考え方

(1)社会保障関係費の増加抑制が要求されている

本年6月に公表された「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太の方針2015)」において、政府は、2016年度からの3年間で高齢化に伴う社会保障費の伸びを約1兆5000億円(年平均:約5000億円)に抑制する方向性を示しています。
一方、2016年度予算概算要求では、社会保障費について、高齢化に伴う自然増相当分として6700億円までの増加を認めるとする基準が明らかになっており、これを受けて厚生労働省は、当該金額である6700億円の増額を求めました。
したがって、予算編成に際しては、社会保障費の年増加分目安である5000億円との差額1700億円の圧縮が課題となるため、次期診療報酬改定によってこの金額を捻出する、つまりマイナス改定とする方向性が要求されています。

2016年診療報酬改定に関する財務省の考え方

前回2014年診療報酬改定では、実質マイナス1.26%(消費増税対応分除く)という6年ぶりの引き下げとなりましたが、診療報酬本体のマイナス改定も求められており、次期改定においても全体の引き下げは避けられないとみられます。

(2)次期診療報酬改定で目指す方向性とは

全体改定率の引き下げが濃厚ではあるものの、2016年診療報酬改定は、過去2回の改定で新たに導入した評価の考え方や項目が多かったことから、その検証を行う必要もあるため、前回および前々回に比べると小幅な見直しにとどまると予想されています。
また、「2025年モデル」の実現に向けて、医療機能の分化を推進して主に急性期病床の削減を図りたい厚生労働省の示す方向性からは、次期改定におけるインセンティブによって、病院や病床の機能再編を促したいという意図がうかがわれます。
地域医療構想との整合性を図るうえでは、各地域ニーズに合致した「地域完結型の医療」を実現する病棟編成が、今後の医業経営安定の最大のカギとなるといえます。

2025年に向けた医療機能分化のイメージと都道府県別の各病床状況

2.次期改定の基本的視点と具体的方向性

次期診療報酬改定の方向性は、次のように基本的に前回改定を踏襲しています。
大きなポイントは、2015年度から各地域で策定がスタートした地域医療構想(ビジョン)との整合性で、改定を通じて病院・病床機能再編を促す仕組みです。

2016年度診療報酬改定の基本的視点と方向性の例 ~平成27年9月11日「第88回社会保障審議会医療保険部会」資料

このような基本的視点から、特に病床再編を促すために入院医療については次のような論点が集中的に議論されています。
診療所にとっても、連携先の病院との機能分化の観点で大きく関わる点でもあり、次期改定の全体像を把握しておく必要があります。

入院医療の論点~中医協総会資料より

2.外来・在宅医療に関する改定の予測

1.外来と診療所に係る評価

(1)外来医療の機能分化促進は継続

外来医療に関する前回改定においては、主治医機能の評価(地域包括診療料および同加算)が新設され、大病院の外来縮小を図るための紹介率・逆紹介率の基準が厳格化されるなどの改定が行われましたが、次期改定でも引き続き外来医療の機能分化と主治医機能強化を促す評価の見直しが実施されます。

外来医療における改定議論の要点

次期改定の大きな注目点として、外来機能分化を図るうえで、これまで以上に大病院の外来機能縮小を推進するため、紹介状なしに特定機能病院等の大病院を受診した場合には、選定療養として初再診時に患者から一定金額を徴収する「患者定額負担制度」の導入が決定しています。
これは、「医療保険制度改革関連法」に盛り込まれたことを受けたもので、連携する診療所にとっては外来患者増加の大きなチャンスといえるでしょう。
尚、厚生労働省が定める最低金額については、現行制度における特別料金の徴収状況を踏まえて、(1) 初診時:5000円、(2) 再診時1000円程度となる見込みであり、救急受診患者等については対象外となる方向です。

外来医療の機能分化・連携推進のイメージ

(2)主治医機能の強化施策~要件緩和の予測

前回改定で導入された地域包括診療料・加算については、全国的に算定届出が厚生労働省の期待ほどに伸びておらず、要件の緩和が見込まれています。
具体的な内容は検討が進められているところですが、上記図のように、算定対象となる疾患の拡大等が想定されています。
しかし、かかりつけ医としての定義からは、ひとりの患者について複数の医療機関が算定することは回避しなければならず、新たな要件が追加される可能性もあります。

地域包括診療料の要件に係るハードル~診療所の場合

(1) 算定対象疾患の拡大

中医協・診療報酬改定結果検証部会の調査によると、地域包括診療料の算定対象となる4疾患中2疾患以上を有する患者のうち、実際に本診療料を算定されていた患者は9%にとどまり、1割に満たないという結果が報告されました。
また、対象疾患の組み合わせとしては、(1)「高血圧+脂質異常症」の2疾患、次に(2)「高血圧+脂質異常症+糖尿病」の3疾患の順に多くなっています。
一方で、認知症の推計外来患者数は増加傾向にあり、厚生労働省からは、認知症対策としてかかりつけ医にも認知症に対する対応力を高める方向性が示されています(認知症施策推進総合戦略:新オレンジプラン)。
こうした背景もあり、認知症患者の場合、高血圧、糖尿病、脂質異常症以外の合併疾患を有するケースでも地域包括診療料・同加算の算定対象として評価する方向で検討が進められることとなりました。

主治医機能評価の対象疾患拡大へ~認知症患者のケース

(2) 小児に対する主治医機能も評価を検討

厚生労働省が実施する「患者調査」によると、高齢者と乳幼児で高い外来受療率を示しているという結果が出ました。
小児患者の場合は、重複受診(同一傷病名で複数医療機関を受診)が多く、また小児科を標榜する医療機関では、他診療科に比べて時間外・休日・深夜の対応が多い傾向にあるため、主治医機能の対象範囲を拡大して、慢性疾患を有する小児患者や、急性疾患の時間外対応などを行うケースについても評価する旨が提案されています。

小児科外来診療料との関係~小児科標榜医療機関の場合

2.在宅医療関連評価方法の見直し

在宅医療や訪問看護分野は、近年の改定で評価拡充の方向が維持されています。ただし、報酬体系の考え方や、効率性に着目した要件の見直しが行われます。

(1)在宅医療の現状と見直しの方向性

在宅医療については、患者の状態による医学的管理の難易度、診察時間の長短など要素から、疾患や状態に応じた報酬体系が導入される予定です。例えば、(1) 医療行為別の平均診療時間(人工呼吸器管理、がん末期の疼痛管理、創傷処置等)や、(2) 訪問看護対象患者の医療区分ごとの分布、などが中医協総会資料で示されており、これらをベースに疾患や状態が分類されるとみられます。

在宅医療をめぐる評価の課題に対応した見直し案

(2)「機能強化型」訪問看護ステーションに関する評価

訪問看護分野では、重症度・医療必要度が高い小児の利用者が増えている一方、対応するステーション数が少ないことから、小児訪問看護の評価をより手厚く評価するとしています。
また、前回改定で導入された「機能強化型」訪問看護ステーションについては、届出に地域差がみられており、これはターミナルケア療養費を算定したケースのみを看取り実績としている現状もあることから、看取り件数の要件を見直す方向で検討が進められています。

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3.「2025 年モデル」を見据えた今後の診療所戦略」

1.診療所にも関連するその他個別項目の改定の方向性

(1)その他の個別事項

医療機関の機能や規模を問わず、その他の個別項目に関しては次のような改定方針が示されています。

中医協が示す個別事項(その1~その3、その4)の改定方針

(2)精神医療をめぐる改定の方向性

精神医療については、個別項目【その2】の中で改定方針が示されています。
前回改定を踏襲し、長期入院患者数や病床数の適正化に向けた地域移行の促進と併せて、「かかりつけ医」として主治医機能の発揮を通じて、近年の課題となっている薬物依存患者や、抗精神病薬の多剤処方解消への取り組みを促す改定が予定されています。

中医協が示す個別事項(その2:精神医療)の改定方針

2.診療所がとるべき経営戦略

診療報酬改定では、国や厚生労働省が重視する分野に手厚い評価をしており、また政策誘導として評価の見直しや要件の緩和・厳格化が行われていることは否めません。
しかし、改定が重ねられ、政策の軌道修正や変更によって点数が変動するからといって、何も手当をしないままでは今後も安定した診療所経営を確保することは難しくなります。
2025年に向かっては、自院の機能を正確に見極め、とるべき戦略を策定し、実践していくことが求められています。

(1)診療所の戦略策定ポイント

「かかりつけ医」のさらなる普及を図る施策が今後も継続すると見込まれ、患者の状態や価値観も踏まえて、適切な医療を円滑に受けられるサポート機能を発揮することが求められます。

診療所の戦略策定ポイント

診療所の立地により、診療日時を工夫して設定しているケースは珍しくありません。
住宅地やオフィス街など、昼間・夜間人口の分布によって、弾力的な診療時間を検討することも今後の検討課題となります。
また、患者アンケート調査によるニーズ把握は、定期的に実施していくことが必要です。単に満足・不満足項目を把握するだけではなく、改善の効果測定や職員のモチベーションアップにも活用することができます。
専門性のアピールも重要です。
大病院への紹介につなげるためにも、「かかりつけ医」としての機能を果たしながら、新規患者の来院を促す働きかけとして広報ツールを活用するなど、積極的な地域への情報発信を継続することが求められます。

(2)患者定額負担制導入で外来患者獲得を強化

外来の機能分化を図るため、紹介状を持たずに大病院(特定機能病院・500床以上の地域医療支援病院)を外来受診した患者に対し、一定金額の支払いを求める定額負担(患者定額負担制度)によって、大病院の外来受診抑制はさらに進むと予想されます。
そのため、外来医療を担う役割を果たす診療所としては、これら病院との連携を強化し、「自院を受診して紹介状が発行されると定額負担金は支払う必要がない」こと、さらには「診療所から紹介状を発行してもらった場合よりも自己負担額(*)が高い」等について、積極的に地域に発信するなど、紹介患者の割合を増やしていくことが必要です。
(*)自己負担額は最低額を5000円程度として設定される見込み
ただし、定額負担を求めない患者・ケースが次のように示されており、これらに該当する患者は定額負担の対象外となることは確認しておきましょう。

定額負担を求めない患者・ケースの例~厚生労働省が示すもの

専門性のアピールとともに重要になるのは、「かかりつけ医」としての関わり方を日常から強めておくことです。
現在は主治医機能の評価に直接関わる疾患がなくても、急性疾患での受診時など地域住民と接する機会は少なくないので、大病院の受診を迷って相談を受けるケースも想定し、「かかりつけの診療所」としての関係づくりを日ごろから留意しておくことが必要です。

(3)在宅医療へ取り組みの新たな選択肢

外来応需を行わない在宅医療専門診療所の開設は、フリーアクセスを原則とする健康保険法との兼ね合いで、その位置づけが「現在の在宅医療提供を補完する」ものとして、条件付きで認められることになるようです。
しかし、在宅医療への取り組みのうえで、新たな選択肢として挙げられることは間違いありません。
こうした現状を踏まえ、在宅医療専門診療所については、施設基準や報酬体系の検討が進められていますが、その要件として「提供地域」「対象患者」「被保険者への周知」「医療機関の管理体制」「随時の相談体制(例:連絡を担う事務職員の常駐等)」「緊急時の対応体制(24時間365日・入院手配が可能な連携体制等)」などが定められる方向となっています。
厚生労働省による調査(NDBデータ等)からは、現在、在宅医療にほぼ専念しているといえる「訪問診療を中心に診療を行っている診療所」の状況が明らかとなり、対象とする患者について次のような特性が把握できました。

訪問診療中心の診療所の特性~(出典)中医協・診療報酬改定検証部会資料

外来診療を行う「かかりつけ医」が訪問診療を行うケースよりも、訪問診療を中心にすると、人的・物的双方から効率的な診療所運営が行えると推測できますが、仮に在宅療養支援診療所が在宅医療専門診療所となる場合には、診療報酬上で点数区分が設定されると考えられる「同一建物居住者」「要介護度」「看取り件数」の各割合は、大きな分岐点となります。
自院が在宅医療支援に特化することを検討する際には、対象患者の選定は重要な要素となります。地域の在宅医療提供体制に関して十分な情報を得たうえで、選択をすることが求められます。

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