安心安全な歯科医療の提供を目指して 医療事故の実態と発生予防策

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安心安全な歯科医療の提供を目指して 医療事故の実態と発生予防策

  1. 医療事故及び医療過誤の実態
  2. 医療事故発生時の対応と予防策
  3. 歯科医院における医療安全管理指針
  4. 医療事故事例の分析と改善策

 


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1.医療事故及び医療過誤の実態

歯科医院経営において医療安全を確保することは、質の高い医療サービスを提供する上での最重要課題です。
医療現場に安全性が十分確保されなければ、患者の医療に対する不安を払拭できません。
歯科診療は個々の患者に対して行う不確定要素の多い行為です。医療事故の多くは、ある意味、避けることのできない不可抗力的な偶発事故ともいえます。
事前に起こるかもしれない可能性のある事象を患者に充分説明し、同意を得て行えばトラブルになることは少なくなります。
医療事故を拭い隠すことなく情報を公開し、充分説明した上で、それでも不可抗力で起こってしまったものに対しては誠心誠意対処して、次から医療事故予防の最善の策をとらなければいけません。
重要なことは、医療事故の実情を把握し、医療事故を起こさないための予防策と医療事故を起こした場合の対応策を構築することです。

1.近年の歯科医療事故数と内容

厚生労働省は、平成16年に医療法施行規則で医療事故情報報告システムを構築し、平成27年に医療事故調査制度を施行させました。
医療事故報告をまとめ、内容について分析し、その対策を構築するために行っており、報告件数は年々増加しています。
医療機関は医療事故を起こした際、医療御事故調査・支援センターに報告しなければならない、と法律で決められています。
歯科医療事故報告では、過去2年間いずれも100件近くの事故が報告されています。

歯科医療事故報告件数、2020年歯科医療事故報告の詳細

この医療事故報告は、報告義務医療機関が275病院(平成26年6月30日現在)と参加登録申請医療機関となっており、すべての医療機関が対象とはなっていません。
実際の歯科医療事故はこの数倍あると思われます。
裁判所の資料によると歯科の裁判件数は、平成25年78件、平成26年は89件、平成27年は87件となっており、裁判までいかない医療事故を含めると相当数あると思われます。

2.医療事故情報収集等事業

厚生労働省では、医療事故の発生予防・再発防止のため、厚生労働大臣の登録を受けた「登録分析機関」において、医療機関等から幅広く事故等事案に関する情報を収集し、これらを総合的に分析した上で、その結果を医療機関等に広く情報提供しています。
現在は、公益財団法人日本医療機能評価機構が事業を運営しており、報告された事例を分析し、報告書(4回/年)や年報、医療安全情報(1回/月)を作成し、報告された事例と共にホームページで公開しています。
また、事例の報告の質を高めていくことを目的として、参加医療機関を対象に、医療事故分析手法を学ぶ演習を中心とした研修会を開催しています。

医療事故情報収集等事業 公益財団法人日本医療機能評価機構

3.医療事故調査制度

医療事故調査制度とは、死亡または死産の医療事故が発生した場合に、当該医療機関が院内調査を行い、その調査結果を第三者機関である医療事故調査・支援センターに報告すると、同センターが収集された医療事故情報の分析等を行って再発防止を図るという、医療事故に対応する一連の仕組みのことです。
改正医療法に基づく制度であり、2015年10月から施行されました。歯科医療も本制度の適用対象です。
制度の目的は、医療の安全確保のため、医療事故の再発防止に取り組むことにあり、医療従事者個人の責任追及を目的とはしていません。

医療法第6条の10第1項

2.医療事故発生時の対応と予防策

医療事故や医療過誤、クレームが発生した場合、患者に対する適切な対応が重要です。
医療事故の内容によっては、医師賠償責任の対象とならずに、当事者間での解決になってしまうことがあります。
また、和解が難航する場合には、歯科医師会、弁護士等に相談し、対応していくことになります。
医療事故が発生した場合の対応と発生予防・再発防止を促進するためには、今以上にインフォームドコンセントの徹底と患者への治療面・精神面での配慮、治療技術の研鑚等がポイントです。

1.医療事故発生による紛争が起こった場合の対応策

(1)医療事故による患者クレーム発生時の対応

医療事故が発生し、患者やその家族からクレームを告げられたり、紛争となった場合、その原因によって様々な対応策が考えられます。
医療側での不注意やミスによる事故なのか、起こりうる可能性があった治療だったのか、接遇や説明不足によるものだったのか等々、原因によって対応策が変わってきます。
ただ、誠意をもって対応に当たること、一人では対応しないこと、他の患者がいる場合には別室で対応する、示談や和解に持っていくために原因にかかわらずお金で解決しようとはしないこと等がポイントです。

患者クレーム発生時の対応

(2)医事紛争が起こった場合の対応

医事紛争となった場合にも、原因と紛争内容によって対応が分かれます。
訴えられたり、実際に裁判となった場合、前述のようにクレームとなった場合等、様々です。

医事紛争が起こった場合の対応

2.医事紛争を起こさないための予防策

医事紛争を予防するためには、診療時や患者とのコミュニケーション等で起こりえる様々な事故やミス、トラブルの発生の事例などを検討して、自院で実施可能なプログラムを作成することをお勧めします。
これらの情報は、スタッフミーティング等で共有します。

医事紛争予防策

3.診療契約による医事紛争予防策

歯科治療の上で、特に紛争になりやすいのが自由診療です。
インプラント等の高額な自由診療では、診療についての契約を行うことが多いのですが、そうでない場合では、患者からの口頭での了承のみで治療を行うことが多々見られます。
同様に一般診療でも診療契約を行い、万が一の医事紛争への予防をお勧めします。

厚労省通達「療養の給付と直接関係ないサービス等の取り扱いについて」、厚労省通達からみた自由診療契約のポイント

3.歯科医院における医療安全管理指針

医療法改正によって、歯科医院では医療安全や院内感染防止に対する指針とマニュアルを作成し、毎年スタッフへの研修が義務付けられています。
しかし、実際に指針とマニュアルに沿って歯科診療や研修を実施している歯科医院はどれくらいあるでしょうか。
医療事故を予防するためには、医療安全、院内感染防止への取組みとスタッフへの周知が重要です。

医療事故防止マニュアルの各項目

(1)自己管理

医療事故防止は、歯科医師とスタッフの自己管理から始まります。

自己管理について

(2)診療業務

診療業務では、準備や指示への対応、器具機材、診療等、注意点が多々あります。

診療業務について

(3)患者対応

患者への接遇能力の向上は、患者対応において重要な要素です。

患者対応について

(4)誤飲、誤嚥

歯科治療の場合、誤飲や誤嚥に関しては常に気を配る必要があります。

誤飲、誤嚥について

(5)観血処置、局所麻酔

観血処置や局所麻酔については、患者容態の確認や患者からの聞き取りによって、歯科医師やスタッフの観察能力によることが多い対応です。常に患者容態の把握は必要ですが、特に麻酔については、取扱いも患者観察能力の向上への研修も必要になります。
また、緊急対応策の取組みを行うことも、重要な防止策になります。

観血処置、局所麻酔について

(6)スタッフへの予防対策:針刺し事故対策

対患者だけではなく、歯科医師やスタッフの針刺し事故対策も必要です。

針刺し事故対策

(7)その他

備品や診療材料、医薬品の保管方法や患者やスタッフの動線にも注意が必要です。

その他の注意点

4.医療事故事例の分析と改善策

公益財団法人 日本医療機能評価機構の報告書から誤飲・誤嚥した事例と部位の取り違えに関連した事例から分析を行い、改善策が報告されています。

1.誤飲・誤嚥した事例分析

公益財団法人 日本医療機能評価機構では、歯科治療中に発生した事例のうち、異物を誤飲・誤嚥した事例について分析しています。

誤飲・誤嚥した事例分析

2.部位の取り違えに関連した事例

公益財団法人 日本医療機能評価機構の報告書では、歯科診療の際の部位間違いに関連した事例が報告され、「共有すべき事項」「再発・類似事例の発生状況」として取り上げられ、事例の概要や改善策等を取りまとめました。

部位の取り違えに関連した事例

3.診断の際の左右取り違えの場面と主な背景

「診断」の事例は、歯科医師が治療すべき歯を診断する際に記載する際に左右を取り違えた事例と、左右を取り違えた状況でエックス線画像を読影した事例です。

診断の際の左右取り違えの場面と主な背景

 

■参考資料
厚生労働省:医療安全対策、院内感染防止対策について
医療安全防止策 指針とマニュアル
医療事故報告システム
公益財団法人 日本医療機能評価機構:歯科医療事故事例

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