働きやすい職場づくりで人材確保・定着につなげる健康経営の実践ポイント

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働きやすい職場づくりで人材確保・定着につなげる健康経営の実践ポイント

  1. 採用活動の強化が急務となっている中小企業
  2. 経済産業省が推奨している「健康経営」
  3. 健康経営優良法人認定取得のポイント
  4. 健康経営を実践している企業の事例

 


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目次

1.採用活動の強化が急務となっている中小企業

人材確保が困難になっている昨今、中小企業の人材確保、定着に向けた取り組みが急務となっています。
自社の成長は、人材採用の成否に左右されるといっても過言ではありません。
今回は、職場環境の整備等により企業価値を高めることのできる健康経営に着目し、人材確保・定着につながるポイントを解説します。

人材確保のために、中小企業が目指すべき「ホワイト企業」化

人材不足によって、中小企業の経営や職場環境に与える影響を示したものが下記のグラフです。
人材不足がもたらす経営への影響として「特に影響はない」と回答した企業はごくわずかであり、ほぼ全ての中小企業が人材不足によって経営へ大きな影響を及ぼすと回答しています。

中小企業の人材不足による経営への影響

人材確保、定着への取り組みを強化し、待遇や福利厚生を充実させ、離職率が低いことなどが評価されている企業を「ホワイト企業」と呼ばれることがありますが、中小企業は、このような「ホワイト企業」を目指すことが望まれます。

ホワイト企業の5つの特徴

《1》離職率が低い

ホワイト企業の特徴として挙げられるのは、まず離職率の低さです。
離職率が低くなると、社員一人ひとりの役割を高めることができ、業績向上に大きく寄与します。
離職率が高い理由は必ずありますので、その改善に取り組むことが必要です。

《2》職場環境が整備され福利厚生が充実

社員の満足度を高めるために福利厚生の充実は欠かせません。
働き方改革への対応が求められている昨今において、産前産後休暇や育児休暇の充実など、社員のライフステージに応じた休暇制度がある企業は、特に女性社員から高い支持を得られます。

《3》時間外労働が少ない

ホワイト企業といわれる企業の多くは、時間外労働は減少、あるいは減少させるために、非効率業務の削減や見直しなど、業務効率化への取り組みを継続して行っています。

《4》社員の年齢層に偏りがない

中小企業では、団塊の世代の退職後、技術やノウハウの継承がうまくいかず、トラブルが増加したという話はよく聞かれます。
自社の技術やノウハウをスムーズに伝承するためには、社員の年齢層が均等になるよう、新卒者の採用活動を継続して行っています。

《5》社員の健康づくりを支援している

社員の健康づくりが、自社の生産性向上や社員の定着に寄与するために、健康サポートへの取り組みを積極的に行っています。

中小企業が新卒者の採用活動に力を入れなければならない理由

積極的な人材採用活動は、自社に活力を与えます。
中小企業は、上記のとおり年齢層のバランスを取るためにも、特に新卒採用活動には力を入れる必要があります。
新卒者の採用によるメリットとしては、他社での経験がないために、凝り固まった既成概念をあまり持っておらず、自社のやり方に素直に応じてくれ、自社のビジョン・方針を浸透させやすいことが挙げられます。
一方、中途採用の場合には、経験や高い能力を有していても価値観の違いから、すれ違いが生じ、社風に合わなければ、最悪の場合には早期退職を招くリスクを抱えています。
また、新卒が入社することで、社内の活気が高まり、既存社員のやる気が再燃されたり、指導する立場を担う先輩社員が部下への指導を通じて自身の成長が期待されます。

人材確保・定着につなげるダイバーシティ経営への取り組み

(1)ダイバーシティ経営の取り組み強化の必要性

少子・高齢化により労働力人口が減少している中で、中小企業が人材を確保するためには、多様な人材の受け入れを可能にするダイバーシティ経営を行うことが必要となっています。
ダイバーシティ経営を行う上で重要となるのが、職場内での理解とサポート体制の構築です。
社員同士が働き方の多様性を認め合い、協力する体制構築が必要となります。
そのために、社員一人ひとりを大事にするという経営者の姿勢も重要といえます。

ダイバーシティ経営とは、ダイバーシティ経営における多様性への対応

(2)高スペック人材を登用するためのダイバーシティ

高学歴で高い技術や能力を持っている人の中に、非正社員としての雇用を望むケースが増えています。
これらの人材は、正社員雇用でなくとも、自社の業績向上に貢献できる社員となり得るため、業務専心専門職型社員、勤務時間優先型社員などの雇用形態を導入することで、彼らの能力を自社に活かすことができます。

2.経済産業省が推奨している「健康経営」

健康経営の推奨効果

(1)健康管理を戦略的に実績する「健康経営」

健康経営とは、「社員の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と定義づけされています。
企業が社員の健康保持・増進に取り組むことは、社員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらすとともに、その取り組みが評価されると、人材確保にも良い影響をもたらします。

健康経営の推進による効果

(2)健康経営の実践に向けた体系

健康経営を経営課題として戦略的に実践するためには、組織マネジメントの一環として、健康経営を体系的に理解し、その実践手法を検討する必要があります。
健康経営の実践には、健康経営の取り組みが経営基盤から現場の施策までの様々なレベルで連動・連携していることが重要であり、これは「《1》経営理念・方針」、「《2》組織体制」、「《3》制度・施策実行」、「《4》評価改善」の取り組みに大別されます。
これらの4つの取り組みの基礎として「⑤法令遵守・リスクマネジメント」が実践されます。

健康経営の実践に向けた体系図

(3)健康経営の実践による投資効果

ジョンソンアンドジョンソンでは、すでに75年前に作成された「Our Credo」において、全世界のグループ会社の従業員およびその家族の健康や幸福を大事にすることを表明しています。
同社の調査報告書において、健康経営への取り組みよる投資効果が報告されていますが、その報告書によると、健康経営への1ドルの投資(人件費、設備投資、システム開発等)がそのリターンとして3ドルの効果(生産性の工場、医療コストの削減、モチベーションの向上等)が生み出されたとしています。

ジョンソアンドジョンソンの健康経営への投資効果

人材採用に影響を及ぼす健康経営への取り組み

経済産業省は、平成28年度に就活生及び就職を控えた学生を持つ親に対して、健康経営の認知度及び就職先に望む勤務条件等についてアンケートを実施しています。
就活生は「福利厚生の充実度」・「従業員の健康や働き方への配慮」との回答が4割を超え、親では「従業員の健康や働き方への配慮」・「雇用の安定」が4割以上を占める結果となりました。
「従業員の健康や働き方への配慮」は、就活生・親双方で特に高い回答率となっていることから、企業の健康経営への取り組みが人材採用に大きく影響を及ぼしていることがわかります。

健康経営の効果(健康経営と労働市場の関係性)

自社の評価を高める健康経営優良法人認定制度

健康経営優良法人認定制度とは、地域の健康課題に即した取り組みや日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する制度です。
健康経営に取り組む優良な法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価を受けることができる環境を整備することを目標としています。
本制度では、規模の大きい企業や医療法人等を対象とした「大規模法人部門」と、中小規模の企業や医療法人等を対象とした「中小規模法人部門」の2つの部門により、それぞれ「健康経営優良法人」を認定しています。

3.健康経営優良法人認定取得のポイント

健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定基準

経済産業省は、従業員の健康管理を戦略的に取り組んでいる法人が社会的に評価される環境を整備することを目的として、平成28年度に「健康経営優良法人認定制度」を創設しています。
本制度を運営する日本健康会議では、2019年2月に「健康経営優良法人2019」として、大規模法人部門821法人、中小規模法人部門2,503法人を認定しています。
その認定を受けるための中小規模法人部門の2020年基準は下記の通りです。

認証デザイン、健康経営優良法人2020(中小規模法人部門)の認定基準、中小規模法人部門の要件

健康経営の申請から認定までの流れ(中小規模法人部門)

(1)2019年(令和元年)健康経営優良法人の認定手続き

2019年(令和元年)健康経営優良法人の認定手続き

(2)スケジュール

スケジュール

健康経営優良法人に対する優遇措置

健康経営優良法人認定制度や、協会けんぽの健康宣言事業と連動した自治体による表彰制度、地銀、信金等による低利融資など、「企業による従業員の健康増進に係る取り組み」に対し、インセンティブを付与する自治体、金融機関等が増加しています。

健康経営優良法人に対する優遇措置、優遇措置を行っている金融機関・団体・自治体等

4.健康経営を実践している企業の事例

社員全員で楽しみながら続けられる健康経営を推進

社員全員で楽しみながら続けられる健康経営を推進

(1)健康経営に取り組むきっかけ

2015年から従業員の健康管理に取り組んでいますが、その3年ほど前に、女性従業員ががんを患ったことをきっかけに、従業員の予防検診等に積極的に取り組み、健康管理を強化。
社員が健康でいきいきと働く職場環境を整えることが、急病者の抑制や人材定着、企業業績につながると考えたことが健康経営に取り組んだきっかけとなっています。

(2)健康経営の推進体制

健康経営の推進体制

(3)取り組みのポイント

《1》地域の理解を得ながら適切な働き方を実現

    • 2017年4月には、従業員のより働きやすい職場環境を整えるため、各事業所の事業内容に合せて100通り以上のシフトを制定。
    • 2018年4月からは、1時間単位で有給休暇を取得することを可能としました。
      これにより有給休暇の取得推進にもつながり、自身の通院や趣味・習い事などの自由な時間を充てることで私生活を充実する事が出来ています。
    • 男性従業員が育児・介護に積極的に参加出来るように、育児・介護休暇取得にも取り組んでいます。
      子や孫のための休暇を制定し、保育園や学校行事にも参加しやすくなりました。

《2》「みんなで思いやり・配慮ルール」で受診勧奨

  • 大腸がんの検診を、従業員全員が会社負担で受診しています。
    また、乳がん・子宮がん検診は各自治体で受けるように勧奨しています。
    任意検診は、検診休暇を利用し、出勤扱いとしています。
  • 費用負担等は、明文化した「みんなで思いやり・配慮ルール」に基づき運用しています。
    各従業員の配慮で、時間を調整し、問題なく健診・検診を受診しています。

《3》「禁煙バトン」の実施

  • 社内の隔離されたスペースに喫煙場所を設置して完全分煙を実施。
    自社独自の禁煙方式「禁煙バトンの取り組み(バトンを持った人が禁煙スタートを社内で宣言。
    禁煙成功で、次の人へバトンを渡すリレー方式)」を実施し、4人が禁煙に成功。

(4)健康経営による効果・メリット

《1》販売促進につながった

各方面から取材を受け、広報誌や冊子に自社の取り組みが掲載された事で、地元の取引先企業から相談を受ける機会が増加。自社の健康経営の取り組みを紹介したり、働き方改革の提案を行う機会が増えたことで、当社が販売するオフィス用品の販売促進に繋がった。

《2》就職希望者が増加

健康経営優良法人に認定されたことがきっかけとなり、地元出身の学生からの就職希望者が増加。

積極的な対話や他社との交流を通じて取り組みを推進

積極的な対話や他社との交流を通じて取り組みを推進

(1)健康経営に取り組むきっかけ

従業員の健康管理に注目し、平成12年より月に2回、全従業員で2キロ歩きながら道路上のごみを拾う運動を続けています。
当社が所属している全国土木建築国民健康保険組合からこの運動は健康経営の取り組みに当てはまると教えてもらい、同組合の健康宣言事業に参加を勧められたのが、健康経営へ取り組みを開始したきっかけとなっています。

(2)健康経営の推進体制

健康経営の推進体制

(3)取り組みのポイント

《1》楽しみながら健康な食生活を学ぶ取り組み

  • 全従業員が集まる社内会議後に開催しているおやつタイムで、健康な食生活に関して学んでいます。
    例えば、塩分過多が健康に与える悪影響や茶の健康成分についての勉強会、ヘルシー昼食の試食などを行っています。

《2》健診受診率100%の実現と受診勧奨の工夫

  • 定期健康診断において、腫瘍マーカーのオプション検診(3,000円程度)も会社負担で実施。
    要再検査・精密検査となった従業員は、再検査の受診のために有休を取得。

《3》連続休暇の取得、ノー残業デーを設定

  • 連続休暇や誕生日前後で取得できるアニバーサリー休暇制度をつくり、全員が取得。
  • 月に1回、ノー残業デーの設定により残業時間が削減。
    この取り組みは浸透し、従業員が自主的に定時帰宅するようになり、早帰りの意識が根付いてきています。

(4)健康経営による効果・メリット

《1》求職者が増加

求職者が、就業説明が入った封筒に健康経営優良法人のロゴマークが掲載されていたのを見て、入社に興味を示す人が増加してきました。

《2》自社の認知度がアップ

健康経営の取り組みとして、地域でのゴミ拾いや食生活の勉強会を積極的に進めていることが地元テレビに取り上げられ自社の認知度が高まっています。
その他、健康経営優良法人に認定されていない同業者や取引先から、健康経営優良法人について聞かれることが増加しました。

以上のような企業の事例から、健康経営の取り組みは自社のイメージアップにつながり、人材確保、定着および社員のモチベーションアップなどの効果が期待できます。
また、この取り組みは職場環境を見直すきっかけにもなりますので、自社の労働環境整備を課題としている企業においては、ぜひ検討したい事項といえるでしょう。

 

■参考文献
 「健康経営実務必携」 (稲田耕平、阿藤通明、坂野祐輔著 日本法令)
 「人材戦略がすべてを解決する」 (小山昇著 株式会社KADOKAWA)
 「健康経営優良法人取り組み事例集」 (経済産業省 商務・サービスグループ
ヘルスケア産業課)
 企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~
(経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課)

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