人材不足に対応した脱日本型一括 中小企業の 採用力強化

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人材不足に対応した脱日本型一括 中小企業の 採用力強化

  1. 危機に直面している中小企業の新卒採用の実態
  2. 採用力強化につながる企画および広報活動
  3. 確実に採用につなげる選考と内定者フォロー
  4. 良質な人材確保と定着につなげた成功事例

 


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1.危機に直面している中小企業の新卒採用の実態

長年叫ばれてきた、少子高齢化や労働人口の減少が遂に表面化し、多くの企業が人手不足の深刻さを実感しているのではないでしょうか。
そのような中、学生数の減少が引き起こす「新卒採用の2021年問題」に輪をかけて、学生の「超大手志向型」就職活動により大手企業に人材が集中することで、中小企業の人材確保がさらに困難になる危機的な状況が生まれています。
今回は、この厳しい採用環境下で、費用も人手も大手企業よりかけられない中小企業が、人材獲得競争に生き残るための適切な採用活動=最適なマッチングのポイントについて解説します。

1.採用活動に危機的な状況をもたらしている労働人口の減少

(1)総人口と労働人口の減少

日本の人口推計では、2013年の1億2,730万人が、今から28年後の2048年に人口が1億人に、2110年には半数以下に減少します。
また、労働人口は、2010年には約6,730万人いたものが、2030年には約6,170万人と約560万人減少する見込みであり、危機的な状況であることが実感できます。

総人口と労働人口の減少

(2)22歳人口(新卒人口)の減少

いわゆる「新卒人口」にあたる22歳の人口ですが、2000年代を通じて減少傾向で推移したあと、2010年代には横ばいが続きました。
これは、人口規模の大きい団塊ジュニア世代の女性が出産期を迎えたためです。
しかし、2021年には122万8,000人と、前年より1万6,000人減る見込みで、その後減少は続き、2030年には110万9,000人と、2020年より13万5,000人も減少します。

22歳人口(新卒人口)の減少

2.中小企業の採用活動に大きな影響を及ぼしている学生の「超大手志向」

現在の新卒採用は、学生優位の売り手市場のため、楽観的な学生が多く、「大手企業への憧れ」、「大手企業なら給与・福利厚生がしっかりしている」といった理由で、就職活動開始当初、大手企業の選考にしか参加しない学生が増加しています。
しかしその実態は、大手企業から内定をもらう一部の優秀な学生と、大手志向の流れに乗っただけの大半の「無内定」の学生に分かれます。
売り手市場のはずがなぜこのようなことになるかというと、多くの学生が志望する大手企業(社員5,000人以上)は、求人倍率0.37倍の激戦状態であることがその理由です。

中小企業の採用活動に大きな影響を及ぼしている学生の「超大手志向」

大企業①の選考に参加した約14万人のうち、特に優秀な約5万人が内定を獲得し、その他約9万人もの学生が無内定状態となります。
こうした大企業は、経団連の倫理憲章を遵守する企業が多く、この9万人の学生が選考の合否を知るのは、大学4年の8月1日に選考が開始されてからとなります。
卒業まで数か月を切っている上、大手企業以外の企業研究をしていない状態で、就活の土俵に残ることになります。
中小企業の求人総数約46.3万人に対し、希望者数が約4.7万人、上記企業研究不足の9万人を足しても13.7万人と中小企業の求人総数の1/3にも満たないのが現状です。
さらに、先述の新卒人口が2030年、わずか10年後には約13万人減少するわけですから、どれほど窮地に追い込まれるか想像に難くありません。
仮に、最初大手企業の選考に参加した約9万人の中から学生を採用できたとしても、学生側の企業研究不足が入社後のミスマッチを招き、早期離職につながりやすいことは言うまでもありません。

3.採用ルールの変遷

採用ルールの変遷

日本型採用、すなわち新卒一括採用は、財閥を中心として1985年にスタートしました。
その後、1997年に経団連が、民間企業の採用活動を適正化する為に「倫理憲章」を定めました。
2016年度卒業の新卒採用からは、就職活動の学業への支障を懸念し、就職活動の解禁を「大学3年生の10月1日」から「大学3年生の3月1日」に変更し、選考の開始も「大学4年生の8月1日以降」となりました。
このことにより、学生が企業研究をする時間が減り、売り手市場による楽観視も相まって、「超大手志向の就活」に拍車がかかり、企業理解の乏しい学生が、大手企業の選考開始(大学4年生の8月、卒業まであと数ヶ月)以降でなければ、次の中小企業の選考に進めない、または内定承諾ができない事態に陥りました。
こうした事態を踏まえ、2018年、経団連が2021年春入社の学生から、『就活ルール』を廃止すると表明しました。
それ以降は政府主導で現行ルールが維持される見込みですが、すでに従来のような新卒一括採用の流れが変わってきています。
こうした採用環境、今の学生の現状を踏まえ、自社にあった採用策=最適なマッチングが喫緊の課題と言えます。

4.通年採用の重要性

一般的に、通年採用といえば、1年を通して選考の入口(タイミング)が用意されていることを言います。
食品メーカーの大手企業、N社が実施していることは有名です。
選考のタイミングが常にあり、同N社では一度落選しても何度でも受験(学生が成長)することが可能です。
しかし、このような方法を取れるのは、人材に余力のある大手企業にしかできません。
重要なのは、自社が求める人材がいつ活動しているかを見極め、「いつ」・「何回」・「どの規模」で選考の入口を用意するかです。
具体的には第3章で触れますが、最適なマッチングのためには、インターンシップ(水面下の広報・選考活動)~広報活動(表向き)~選考活動×「複数回」~内定フォローが必要です。
これだけの活動をしなければ、さきほどの売手市場×超大手志向を乗り切ることはできないと言っても過言ではありません。
最適なマッチング=「適切な見極め」×「高い理解度」×「高い志望度」のため、採用の企画から綿密に見直し、経費と人員を必要なことに投下することが重要となります。

2.採用力強化につながる企画および広報活動

1.採用企画の見直し

採用企画の見直し

前章で解説した通り、劣悪な新卒採用環境に加え、「大手企業のようにかけられる資金も労力も無い」と、半ば新卒採用の成功を諦めている中小企業の経営者は多いと思います。
では、日本でどれだけの企業が新卒採用を成功させることができているでしょうか。
内定者に対する満足状況を、質と量(人数)で示しています。「質・量ともに満足」という回答は全体の約3割にとどまっています。
実に7割の企業が、質か量のどちらか、もしくはその両方に満足できていません。
また、採用活動を振り返り、「とても厳しい」が33.7%、「やや厳しい」が49.2%と、合計が実に8割を越え、反対に「やさしい」と答えた企業は約1%しかありません。
このことからも、資金も人手も充足している大手企業でさえ、自身の新卒採用活動をやさしいと感じている企業は無いと言えます。
そうした状況の中新卒採用活動で成功を収めた中小企業の話を耳にしますが、そうした企業は、資金と人手をかけるところを見直すことで、成功を収めています。
新卒採用活動の成功とは、最適なマッチング=「適切な見極め」×「高い理解度」×「高い志望度」にあると言えます。
最適なマッチングとは、「欲しい人材」が、「入社後活躍し続けること」です。
そのためには、高い企業理解度の上に、高い志望度を持って入社するかが非常に重要なポイントとなります。
ここから先の解決策は、このポイントを念頭におきながら見て頂きたいと思います。
実際に新卒採用を見直す際の手順は次の通りです。

見直しの手順イメージ

点検項目は一例ですが、企画において特に重要なポイントは下記の2点です。

①新卒採用活動のPDCAサイクルを回す

毎年、活動結果をデータ化し、振り返りを行い、次の新卒採用活動に活かしている。
※各フェーズの接触人数、各取り組みに対する結果と費用は明確か。
※どの時点で接触したどの学生が内定までつながっているか、逃しているか。

②求める人材要件は明確か

特に①、活動結果がきちんとデータで残されており、振り返りに使用できている企業は少ないと考えます。
事後に個人別データを突合できるように記録を残しつつ、忙しく難しい採用活動を乗り越えることは至難の業です。
しかし、新卒採用が給与・教育費・税金を含めると1人当たり約3億円の先行投資であることを考えれば、これは必須と言えます。

2.広報活動の見直し~費用をおさえて、効果倍増

広報活動の見直しは、最適なマッチングの成否に非常に大きく関わります。
広報が的確な企業は、母集団の確保(欲しい人材との接点)と、内定者の入社確度が高い企業です。
広報活動の見直しにおいて、特に重要なポイントは、次の2点です。

広報活動の見直し~費用をおさえて、効果倍増

①ネットで自社を1分以内に検索できるか

社名を使わずに、ネットの検索エンジンで自社を検索してみてください。1分以内に自社にたどり着くことはできるでしょうか。
学生の大半は、空き時間にスマホで企業を検索します。
有名な大手企業であれば、その業界に興味を持つ学生が社名を使って検索が可能ですが、中小企業が社名で検索されることは少ないでしょう。
もしヒットしない場合、キーワードとなり得るワードを、自社のHPに掲載するだけで解決可能ですから、無駄な経費を使わずに学生に調べてもらうきっかけを作ることができます。

②ミスマッチを起こしにくい情報を提供できているか

前章で説明した通り、ただでさえ学生は企業研究期間が短い中で入社先を決めていきます。
そのため、どれだけ実態に近い、必要な情報を提供できるかが重要となります。

就業型インターンシップ、リクルーター制

3.確実に採用につなげる選考と内定者フォロー

1.選考活動の見直し

選考活動は、最適なマッチング=「適切な見極め」×「高い理解度」×「高い志望度」を実現するために非常に重要な活動です。
下記、選考活動のポイントをひとつでも多く実践してください。

選考活動の見直し

①選考の入口は複数用意する

選考の入り口は、自社が求める人材がどの時期に活動しているかで決まります。
最低限必要なのは、下記のタイミングです。

選考の入口は複数用意する

上記以外に、営業職に多い体育会系の学生が自社の求める人材要件に当てはまるのであれば、スポーツ系の部活に本気で取り組んで就活開始が遅れた学生と接触するため、9月に説明会、10月には選考を行う必要があります。
また、マッチングできる学生が多い時期に複数選考の機会を用意することも検討します。

②書類選考は大目に見る

書類選考は、是非大目に見てください。
なぜなら、最適なマッチングをするための最良な方法は、その学生と会うことだからです。
現在では、書類選考ではよほどのことが無い限り落とさず、面接するという企業もでてきています。
ただし、募集職種にもよります。
記者の募集であれば、書類内容や誤字脱字、自のきれいさなども重要になりますが、募集が営業職であればどうでしょうか。
書類作成は苦手でも、面接で会ってみてコミュニケーションが取れるなら、入社後、契約を取れるコミュニケーション力を育てるより、書類作成を教える方が労力は少なく済みます。
道内流通業会のある大手企業では、1回の選考入口で数百名の書類応募の中、1人も落とさずに面接をし、書類からは魅力を感じられなかったものの、面接で会って印象が変わり、採用(マッチング)に至ったケースがあります。

③面接は見極めと情報提供の場とする

面接は最適なマッチングにおいて非常に重要なフェーズとなります。
なぜなら、学生を見極めるチャンスと、企業を広報する場所となるためです。
現在の売り手市場では、学生も企業を面接しています。
これは、逆に自社の情報を正確に伝えて、最適なマッチングをできるチャンスであると言えます。
先述の通り、企業研究期間が短く、大手企業ばかり調べている学生に、より深く個々が気にしていることを伝えることができます。
この大事な局面では、以下のポイントに注意して取り組んでください。

見極めの場、情報提供の場

④就職活動の強制終了は厳禁

内定者には、最後まで他企業の選考に参加してもらってください。
最適なマッチング=適切な見極め×高い理解度×高い志望度を考えると、選考に参加することで、懸命に企業を調べますし、その企業の社員(面接官)にも会うことができ、最も理解度が高まります。
他企業の理解を進めることで、自社の理解度が相対的に高まります。
それでもなお、考え抜いて自社を選んだ学生は、志望度(確度)の高い内定者となります。
ただし、選考で密に関わるとその場限りの志望度が高まるケースも散見されるため、下記の注意点を必ず厳守しましょう。

就職活動の強制終了は厳禁

これらを厳守し意図を理解させると、他社選考状況について報告しづらく、場合によってはウソをついてしまうということもなくなり、正確な情報を入手できます。また学生は企業に対し、誠実さを感じてくれます。

2.内定フォローの見直し

的確なマッチングが出来ていれば、そう簡単に内定辞退はおきません。
辞退があっても、前項の条件を守っていれば、もともとその確度のもろさは予見できるはずです。
ただ、学生はまだ仕事をしたことがありません。
例えインターンシップで就業体験ができても、それはほんの一部です。
これだけでは、他企業の強いアプローチなど含め、学生が揺れてしまう可能性もあります。
それを防止する意味でも、次の取り組みは行ってください。

内定フォローの見直し
これまで、採用力強化のための企画~広報~選考~内定フォローの見直しについて記述してきましたが、重要なのは最適なマッチング=「適切な見極め」×「高い理解度」×「高い志望度」の実現です。
これを実現するには、採用担当者が「できる人」であるべきことも、ご理解いただけると思います。

4.良質な人材確保と定着につなげた成功事例

成功事例~インターンシップの見直しで優秀層へのアプローチに成功したA社

成功事例~インターンシップの見直しで優秀層へのアプローチに成功したA社

2016年卒の就職活動スケジュール大幅変更に伴い、学生、企業、就職情報社の動きが大きく変わることを鑑み、2015年卒の採用活動から、優秀層に効果的にアプローチする方法を模索していました。
そこでA社は、インターンシップに積極的に参加する学生をターゲットにすることとしました。

A社の取り組みとポイント

結果、自社の全母集団500~700人規模、毎年20~40人採用の内、インターン経由の母集団が80人規模、10人に内定を出すことができました。
また、インターンシップ経由の内定者は、前章までで説明の通り、「高い理解度」×「高い志望度」のため、入社確度が高く、内定者10名中、辞退は1名のみでした。
入社後の定着についても、職業体験型プログラムの導入により、学生がイメージだけで憧れやすい「商品開発」や「マーケティング」の職種に対し、入社前後のギャップが少なくなり、離職率はインターン経由の入社者は3年間0%となりました(インターン非参加者の離職率は約3割)。
さらに、北海道のインターンプログラム人気ランキングNO.1(就職情報社調べ)を獲得し、翌年から学生の口コミで参加人数が1.5倍に上がりました。

最後に、A社は、インターンシップに費用と労力を割くため、就職情報社の合同説明会への出展を1開催取りやめています。
総人数は集まるが、なかなか採用まで至らない合同説明会への出展をやめることで、約100万円の費用を捻出できました。
母集団を減らすことは採用活動において脅威となりますが、A社は毎年学生のデータを蓄積し、どのタイミング(イベント)で接触した学生が、どういう傾向を持ち、内定までつながったかを丁寧に分析し、今回の結論に至ることができました。毎年のPDCAサイクルを疎かにしなかったことが今回の功績を生んだと言えます。

A社の取り組みのまとめ

この取り組みにより、費用を掛けず(むしろカットし)、優秀層への接触、確度の高い内定者を生み出すことに成功しました。

成功事例~学生に他企業の選考を薦めることで定着率を上げたB社

成功事例~学生に他企業の選考を薦めることで定着率を上げたB社

3年以内の離職率が高い原因は、入社前後のギャップにありました。
これは、就活スケジュールの変更と大手志向型による学生の企業研究不足はもちろんのこと、企業側の情報提供不足、情報提供内容にも問題があります。そこで、B社は下記の内容を実践しました。

B社の取り組みとポイント

①については、自社の内定を出した後1~2週間以内に承諾期限を設けてしまうと、これから受けたい企業や選考中の企業でも結果が出ないかもしれません。
結果が出ないうちに決めてしまえば、入社後何かの壁にぶつかったとき、または学生時代の知人と会社のことを比べた時に、「あのとき受けておけば良かった」という後悔の念が生まれるのは想像に難くありません。
前章でも述べた通り、学生に最後まで選考を続けてもらう一番の効果は、企業理解度が高まることにあります。
その上で学生本人が決断して入社する場合、滅多なことではミスマッチが起きず、仮に起きても、自分で十分に悩んで決断したという思いから、簡単には離職につながらないはずです。それでも離職が起きる場合は、社内の別の部分に課題があると言えます。
②、③は、学生に企業の実態を伝えることが目的です。
学生に提示する課題は「B社の企業年表作成」や「新規事業の考案」など自社に対する理解につながるものを、リクルーターは社内の実情をやりがいと共に伝えることで、ミスマッチを防ぐ役割があります。

成果

A社、B社ともに特筆すべき点は、大きな費用をかけずにミスマッチ・入社前後のギャップを無くしたことです。
新卒採用力強化=適切なマッチングは、新卒人口の減少や定年延長による企業の老化現象、及びミスマッチによる若年層の流出に歯止めをかけることにつながり、企業が存続する上で非常に重要なテーマとなります。本レポートが、本当の意味でのマッチングによる新卒採用における人材確保、中小企業の繁栄につながりましたら幸いです。

 

■参考文献
『なぜ、あの中小企業ばかりに優秀な人材が集まるのか?』 日刊工業新聞社
『売り手市場時代の人材獲得競争を生き残る!』 つた書房
『後継社長のための会社を変える「新卒採用」』 株式会社クロスメディア・パブリッシング
『日本一学生が集まる中小企業の秘密』 株式会社徳間書店

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