- 厚生労働省による「受療行動調査」の概要
- 患者が重視する項目からみた強化ポイント
- 外来患者の満足度向上に必要な取り組み
1.厚生労働省による「受療行動調査」の概要
1.患者が受診するまでのニーズと心情を知ることが重要
医療機関を受診しようとする場合、患者は症状や自身の希望に応じて関連する情報を入手し、自分や家族が最も適当だと考える病院や診療所に足を運ぶものです。
また、その入手方法は、広告や看板、電話帳、家族・知人からの紹介、インターネット等と多岐にわたりますが、医療機関は自院に関する情報について、正確にわかりやすく伝えることが求められています。
そのため、来院動機や患者の期待、さらに患者が受診先を選択する際にはどのような点を重視しているのかを把握していると、患者にとって有益な情報を自院から発信することで、受診先として選ばれる機会の強化が期待できます。
厚生労働省は、「医療広告ガイドライン」で医療機関側が発信できる情報を定めている一方で、受診に際する患者の行動や想いを把握することにより、患者中心の医療の実現に向けて、適切な医療政策を打ち立てていく方針のもとで、患者自身を対象とする調査を実施しています。
この調査の結果は、受診に際する患者の心情やニーズを明らかにするものだといえます。
そのため医療機関は、この結果を自院のマーケティングに活用して、患者が求めている情報の提供や、患者が満足、あるいは不満を感じる項目を積極的に強化・改善する取り組みへと具体化することが可能です。
2.厚生労働省「受療行動調査」の目的と調査事項
平成27年8月、厚生労働省は「平成26年受療行動調査の概況」を発表しました。
これは、平成8年以降3年ごとに実施している調査であり、今回は全国の病院のうち無作為抽出した一般病院(488施設)を利用する患者を対象として行われました。
同日に公表されたのは、本調査の概況として基本集計の結果をとりまとめたものであり、数値は確定数ではない(*概数)ものの、「患者が何を重視して受診を決定しているのか」、また「実際に受療した患者については、病院に対する満足度はどの程度なのか」等を知ることができます。
(*)概数:病院報告(平成26年10月分概数)の外来患者延数と在院患者数を用いて在院患者数を用いて全国推計を行ったもの。確定数は年齢構成で推計を行う。
(1)受療行動調査の目的と沿革
(1) 調査の目的
厚生労働省は、受療行動調査に関して、全国の医療施設を利用する患者について、受療の状況や受けた医療に対する満足度等を調査することにより、患者の医療に対する認識や行動を明らかにし、今後の医療行政の基礎資料を得ることを目的として挙げています。
(2) 調査の沿革
厚労省が実施する医療に関する統計調査として、平成7年3月に有識者からなる「医療統計のあり方に関する検討会」において、医療の利用者側である患者側から情報を把握するための新規調査の導入が提言されました。
その後、同年6月には「医療統計改善検討調査」として試験調査を行い、調査の信頼性、妥当性が確認されたのち、翌平成8年3月の厚生統計協議会における「受療行動調査の実施計画」についての諮問答申に基づき、同年10月第1回目の調査を実施し、その後、「医療施設静態調査」および「患者調査」とあわせて、3年周期で実施することとなりました。
今回の調査で、第7回を数えます。
(2)調査の対象と調査事項
全国の病院のうち無作為抽出した一般病院(488施設)を利用した患者(外来・入院)を対象として行われました。
ただし、往診・訪問診療等を受けている在宅患者は調査対象から除いており、外来患者については、通常の外来診療時間内に来院した患者に限っています。
今回の調査票(配布数)は、195,155枚(回収数:154,456枚・回収率:79.1%)、概況に用いた有効回答数は152,988枚に上りました。
調査事項としては、外来・入院別に調査票を準備し、その項目は次のようなものです。
これらの項目からは、患者が来院して診察・治療・検査等を受け、または療養する中で、どのような状況に置かれており、それが個々の患者の満足・不満足にどう影響したかを把握することができます。
さらに、患者の期待やニーズに応えるためには、こうした調査結果を活用し、マーケティング活動に展開することが重要です。
3.患者の期待と不満事由を理解し、自院に活かす
受療行動調査は、様々な規模や機能の病院を利用する患者を対象として実施されているものですが、診療所を受診する患者のニーズや期待度を把握することにも活用できます。
例えば、調査事項の中には、受診の動機に関する項目やセカンドオピニオン関連の項目が含まれており、近隣病院の連携先として地域医療を支える診療所が果たしてほしいという患者の期待を知ることにつながります。
さらに、受療の状況に応じ、患者が医療機関に対して不満を感じた場合の行動に関する設問などは、その調査結果から自院の現状を検証する視点にもなるはずです。
尚、受療行動調査においては、対象施設の病院を病床規模や機能により下記のとおり区分して、定義しています。
それぞれの規模・機能から果たす役割が異なるため、受診患者が抱く期待や満足度も違うものとなっています。
今回の調査は、上記に区分される種別の病院を利用した患者を対象としたものですが、受診する患者の満足度は、医療機関の規模や機能に関わらず、持っていた「期待」と受けた治療に対する「納得度」で定まります。
したがって、患者のニーズの実態を把握するため、この調査結果を有意義に活用する機会として、調査結果概要を紹介します。
2.患者が重視する項目からみた強化ポイント
1.受診先を選ぶ際に患者は何を重視するか
患者は、医療機関の受診先を選ぶにあたって何らかの理由があることがほとんどです。受療行動調査では、患者の来院動機を把握するために項目を設定し、結果を得ています。
(1)受診した医療機関を選んだ理由
「病院を選んだ理由がある」という回答のうち、その選んだ理由として挙げた項目をみると、外来・入院ともに「医師による紹介」(35.6%、53.3%)が最上位となりました。
次いで外来は「交通の便がよい」(27.6%)、「専門性が高い医療を提供している」(24.0%)となりました。
この結果は入院についても同様であり、「交通の便がよい」(25.3%)、僅差で「専門性が高い医療を提供している」(25.1%)が挙げられています(「病院を選んだ理由がある」という回答数を100とした割合)。
これらの結果から、体調の変化や不安を持って近隣の診療所を受診したのちに、紹介を受けて病院を受診したケースが多いことが推測できます。
また、「交通の便がよい」という結果が2番目に挙げられていることからも、入院先であっても外来受診を継続しやすい医療機関であるという点が重視されていると考えられます。
専門性が高い医療への関心が高いことも含めて、初期受診が多い診療所としては、連携先となる医療機関のネットワーク構築が受診患者増加へのキーワードであると改めて確認できる結果となっています。
(2)受診先の選択時に重視したもの
前回平成23年度調査では、病院を選んだ理由の中で「重視したものがある」と回答したケースについて、重視した理由をみると、外来は「自宅や職場・学校に近い」(15.7%)、入院は「医師による紹介」(19.2%)を挙げています(「最も重視」「2番目に重視」「3番目に重視」を3ポイントから順に重みづけし、総合ポイントに対する割合を算出)。
2.患者はインターネットで情報収集する
今回の調査では項目に挙げられていなかったものの、前回の調査項目のうち、病院を選択する際の情報源をみると、「医療機関の相談窓口」が外来(26.0%)、入院(42.4%)とも最も多く、次いで「病院が発信するインターネットの情報」(外来13.2%、入院10.6%)、「病院の看板やパンフレットなどの広告」が外来11.9%、入院8.8%となっています(「その他」を除く)。
医療機関の情報提供については、近年患者側の選択に有意義な内容を公表することが重視されており、平成19年4月から「医療機能情報提供制度(医療情報ネット)」がスタートしています。
厚生労働省は、医療情報ネットを確認すれば、診療科目、診療日、診療時間や対応可能な疾患治療内容等の医療機関の詳細がわかるとしていますが、患者側は実際の受診時に、それ以外の情報を求めているといえるため、これらニーズに応える情報提供が増患に重要な要素だと捉えるべきです。
3.患者と連携先を引きつける情報発信とコミュニケーションを目指す
今回の受療行動調査で把握できたのは、患者が受診先を選ぶ際には、自分が信頼できる医師からの紹介を重視する傾向があることです。
前回実施の平成23年度調査では、特に外来受診の場合に「自宅や職場から近いこと」を挙げた患者が多かったことを考えると、患者の意識にも変化がみられています。
しかし、利用交通機関を含む通院の利便性、自分が希望する治療が提供されているか等の情報は依然として重要であり、こうした情報は医療機関の相談窓口のほか、医療機関が発信するインターネット情報で提供されている内容を検索し、入手しているケースが多いのが現状です。
つまり、患者にとってより有益な情報をインターネットで発信できれば、自院の診療圏内の患者が外来受診先を検討する際に、他院に比べて優位性が増すことが期待できます。
さらに、外来・入院ともに「医師からの紹介」という項目が多く挙げられていたことから、「地域医療のゲートキーパー」としての役割を果たす診療所としては、その役割強化に向けて、地域の医療機関・医師との「顔を合わせるコミュニケーション」を図る時間をできるだけ持ち、連携先からの紹介患者を獲得する機会を確保することが必要です。
3.外来患者の満足度向上に必要な取り組み
1.待ち時間と診察時間の長さ
患者満足度調査やアンケート調査を実施すると、不満を感じる項目として必ず上位に挙げられるのは、外来患者の待ち時間の長さです。
平成26年度受療行動調査において、外来患者の診察までの待ち時間及び診察時間をみると、待ち時間は「15分未満」が最も多く25.0%、さらに「15分~30分未満」が24.0%となっています。
診察時間では、「3分から10分未満」が51.2%と半数以上を占め、患者が来院してから診察を終えるまでにかかる時間は、平均40~50分であることがわかります。
しかし、待ち時間には、受付から診察までの待ち時間のほか、診察・治療が終わってから会計までの時間、また院内処方で薬剤が渡されるまでの時間なども含まれますが、外来患者が最も長く感じるのは診察までの待ち時間だといわれます。
一方で診察時間については、業務多忙のために患者にとって十分な時間を確保できず、待ち時間の長さと併せて不満要因になる傾向があるため、待ち時間の苦痛を軽減することによって、患者の不満を軽減することが重要です。
2.外来患者ニーズに応える取り組みとは
(1)患者は概ね半数が全体的に満足している
外来患者のうち、受診した病院を全体として「満足」しているという回答は57.9%(前回49.7%)、一方「不満」と回答した者は4.9%(同4.4%)を示しました。
本調査が始まった平成8年以降の推移は下記のとおりであり、その概ね半数程度が「満足」と回答しています。
今回の調査では、平成20年調査に次いで「満足」という回答が高い割合を示す結果となりました。
(2)スタッフの対応は患者の期待に応えられている
外来患者が満足を得ている項目を病院種類別にみると、規模の小さい病院であるほど各項目の満足度が高くなっています。
そのうち、「医師以外のスタッフによる対応」は、病院の種類に関わらず最も高い満足度を示しており、医療サービスが人の手により提供されていることからも、期待に応える対応内容であることが重視されていることがわかります。
3.外来患者の満足を高め、不満を解消する取り組みへ
外来患者全体における項目別の満足度のうち、「満足」の割合が最も多いのは「診察時のプライバシー保護の対応」で39.5%ですが、これは医療機関として当然求められる項目です。
一方で、「診察までの待ち時間」や「診察時間」については、いずれも「不満」とする回答が上位となりました。
患者のニーズに応えていくためには、満足を得ている分野を強化するとともに、不満を示している項目を改善する必要があります。
今回の調査結果を踏まえ、自院で患者アンケート調査を実施するなど、多くの患者や潜在的患者が抱いている期待や懸念される不満を把握し、必要な情報を提供する取り組みを含め、増患につなげる改善を工夫することが求められています。
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