中小企業における SDGs経営 実践のポイント

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中小企業における SDGs経営 実践のポイント

  1. 中小企業にとってのSDGs経営とは
  2. SDGs経営の導入ステップ
  3. SDGs経営導入に向けた検討のポイント
  4. 中小企業におけるSDGs経営導入事例

 


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1.中小企業にとってのSDGs経営とは

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2015年9月の国連サミットにおいて、世界193カ国が産官学民などのステークホルダーとともに同意した「2030年アジェンダ」に掲載されている世界共通の目標となっています。
2030年のSDGs達成に向けて、国、自治体、企業、各種団体および個人レベルで様々な取り組みが行われています。
今回は、まだ取り組みレベルに温度差が見られる中小企業におけるSDGs経営の実践ポイントについて解説します。

1.中小企業におけるSDGs経営への取り組みと効果

(1)中小企業の経営者におけるSDGsへの意識

SDGsと聞いて、自社と関わりのあるテーマとして捉えている中小企業の経営者の方はあまり多くないと思われます。
その理由として、SDGsへの取り組みは、地球全体での環境問題や、開発途上国における貧困問題など世界的な課題に対応することであり、これらの大きなテーマは、国や大企業レベルで行うものと考えられているからです。
そのため、「中小企業があえて取り組むメリットも必要性もない」と考えている中小企業経営者の方は多いのではないでしょうか。

(2)中小企業でもすでにSDGsへ貢献していることがある

SDGsには、明確な認定基準があったり、誰かに認証されたりするものでもありません。
取り組んだからといっても、直ちに利益が生じるわけでもありません。
SDGsへの取り組みとは、世の中に様々ある社会課題―少子高齢化、ゴミ問題、食料自給率、後継者不足、空き家問題、ジェンダー問題、異常気象などに事業活動を通して解決を図ることです。
実は、中小企業こそ三方良しの精神で、顧客、地域社会および自社がそれぞれより良くなるという経営を意識していることが多く、知らず知らずのうちに既にSDGsへの貢献を自社事業の中で行っていることが多いのではないでしょうか。
このようなことから、SDGsへの取り組みは決して特別なものではなく身近なものといえます。

(3)SDGs経営の導入効果

中小企業にとってメリットの大きいSDGs経営に取り組む必要性をまとめると、以下のとおりです。

中小企業におけるSDGs経営導入効果、SDGsの市場規模

2.SDGs経営への対応の必要性

(1)顧客意識の変化への対応

世間でのSDGsへの認知度や関心度合いが高まるにつれて、顧客の視点も変わってきています。
これまでのようにより安い製品・サービスを求めている顧客は存在しますが、近年では「SDGsに即した製品・サービスを購入、利用し社会貢献の一端を担いたい」という顧客も増えてきました。
具体的には、ロングライフ製品、使い切りでなく繰り返し使用できる製品、エコ素材製品および適正価格の製品などへの関心が高まりつつあります。
欧米ではすでに、同等の製品の場合には「SDGs配慮型の製品やサービスの方がより販売量が多く、利益貢献度も高い」といった状況があり、日本においても、今後SDGs教育を受けてきた学生や若者が中心となる消費者世代になるにつれて、このような変化がより顕著になってくるものと考えられます。

エシカル消費(倫理的消費)への関心度

(2)取引先拡大の機会を活かす

取引先、特に大手企業からSDGs経営への取り組みを要求されるケースが増えてきています。
とりわけ企業間取引においてその重要性は増しています。
大手企業は、取引企業に対し、SDGsに関連した環境や地域貢献の取り組みなどを確認したり、厳しいところでは、CO2削減目標数値をアンケートとして求めたりする場合もあります。
大手企業との取引を継続するために必要という見方だけではなく、むしろ大手企業との取引を拡大、開始させるためにもSDGsを活用する視点を持つことが重要となっています。
すでに中小企業でもSDGsへの取り組みが進んでいることが、以下のデータからもうかがえます。

中小企業におけるSDGsの取り組み状況

2.SDGs経営の導入ステップ

1.5つのステップで導入を進める

STEP1:全社員レベルでSDGsを理解する

まずは、全社員がSDGsを理解することが最初のステップです。
SDGsが導入された背景や、目標1から17までのゴールとはどのような項目で構成されているのか、さらに17のゴールごとに具体的な目標が示されている169のターゲットは何かなど、概要を掴むことが第一歩です。
ただし、全てを暗記する必要はありません。詳しい内容は、STEP2以降で徐々に理解を深めていけば結構です。
この段階ではSDGsに関する入門書やマンガ本を使っての勉強会を実施するなどで、大まかな部分を捉えることができれば十分です。
ポイントは、社内で共有を図ることであり、できるだけ全社員が同じ場で学ぶことです。
(オンライン形式でも可)

STEP2:既にSDGsに貢献している取り組みを探す

自社の活動で概にSDGsに貢献している取り組みを探します。
自社で提供する製品やサービスなどが、直にSDGsに貢献していればわかりやすいと思いますが、そのような直接的なものだけでなく、職場環境改善や働き方改革への対応、および様々な地域交流などの取り組みも含めて探します。

自社において既にSDGsに貢献している例

既存事業の中での取り組みから探し出して、自社にとってより重要なテーマ、関連が深いテーマをピックアップしていきます。
これは、「後付けマッピング」ともいわれ、自社の取り組みがSDGsのどの項目に関連するか、該当するかを整理することができます。
取り上げられた現状のSDGsへの取り組みをベースにして、新たに出来ること、やりたいことを検討していきます。

SDGs

STEP3:SDGs目標を設定し、具体的な活動に落とし込む

SDGs経営を導入・実践するためには、具体的な目標が必要です。
目標が設定されないと達成ゴールが不明確となり、実行内容の検証もできないからです。

バックキャスティングのイメージ

SDGs経営の取り組みにおける目標は、大局的な視点から設定することが望ましいといえます。
大局的とは、「ありたい未来」を描くことです。
「ありたい未来」とのギャップを埋めていく努力を行うことが、新しい「技術」「製品」「サービス」「価値」などを創出することにつながるからです。
ありたい未来から逆算して具体的な活動を考える発想を、バックキャスティングといいます。
バックキャスティング思考は、創造的破壊を生みだすアプローチ方法であり、革新的なアイデアが期待できます。

STEP4:SDGs目標達成に向けて行動を開始する

SDGs目標達成に向けた行動を開始するには、経営者のリーダーシップが重要です。
SDGs推進担当部署(もしくはチーム)任せになってしまうと、全社員の参画意識が低くなってしまい、SDGs目標の達成は困難となってしまう可能性が高くなるため、経営者自らの強い意志の表明と行動が必要となります。
まずは社内研修や、ホームページへのSDGsへの取り組みを掲載するほか、目に見えるツール類の整備を行ったりすることで、社内全体の意識を醸成することが重要です。

STEP5:取り組み内容を積極的に情報発信する

中小企業においては、上場企業のような開示義務的な報告とコミュニケーションではなく、様々な機会獲得のための企業PRとして報告とコミュニケーションを活用しましょう。
情報発信のポイントは、自社が本気でSDGs経営を実践しているのかを伝えるために、結果だけではなく活動状況についても積極的に発信していくことです。
積極的に情報発信することによって、売上増加のみならず地域でのパートナーシップ強化や人材採用につながっていくことが期待できます。

取り組み内容を積極的に情報発信

2.ステップを着実に進めるためのポイント

SDGs経営の導入を通じて、自社がどのようにSDGsに貢献しているかを理解することができれば、働きがいやエンゲージメントにつながることが期待できます。
既にSDGs経営を実践している企業では、社内での勉強会やワークショップを通してSDGsへの理解を深め、自社がどのような貢献を果たしているのかを再認識できる場を設けています。
さらに、「2030年までに目指すべき長期的なSDGs目標」を策定して全社員へ示すことで、自社が進む方向性を全社的に共有することも可能になります。
SDGs経営を行うにあたり、「全員参加」の雰囲気を生み出すのは経営者次第といえます。

3.パートナーシップを組み、新たな事業を創出する

SDGs経営を理解することにより、環境問題や社会的な問題に対して、自社の経営資源からどのような貢献ができるかを考えることは、課題解決型の新たな事業や、商品、サービスが生まれるきっかけになります。
この課題解決に取り組みやすいのは中小企業ともいえます。
なぜなら中小企業は現場に密着し、直面している問題を把握して、その解決のためにどのような手段があるのかを常に考えて取り組むことができる機動力を持っているからです。
さらに自社単独だけでなく、パートナーシップを強化することによって、より大きな課題の解決のために新たな価値を提供できる事業につながることも期待できます。

3.SDGs経営導入に向けた検討のポイント

1.SDGs経営戦略に社員を巻き込む

SDGsの視点に基づくと、2030年の理想の姿から経営戦略を構想する、バックキャスティングを取り入れることで長期展望を持った戦略立案が可能になります。
若年層ほど自社の組織や仕事が社会にどのように関わっているか、貢献しているかについての関心が高くなっています。
自社がSDGs目標の達成に向けて、これまでどのように貢献しているか、またさらにどのように貢献できるのかについて、社員からのボトムアップによる経営戦略づくりにつながります。
社員自身が自社のSDGs経営戦略の策定に取り組むことにより、自社へのロイヤリティ向上にもつながります。

経営戦略策定における検討の視点

2.生産性向上への取り組み

中小企業は、社会的責任を果たすための取り組みにおいて、経営や事業そのもので取り組んでいくことが期待されています。
中でも、目標8「働きがいも経済成長も」と目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の2項目は、あらゆる業種・業態で関わる項目となっています。
目標8では、働きがいのある仕事や、同一労働同一賃金などが掲げられており、社員の適正な働き方の観点から業務フローの効率化・改善を検討することにつなげられます。
目標9では、イノベーションの促進や、環境に配慮した技術の向上の観点からのアプローチが可能になります。
目標12「つくる責任・つかう責任」においては、天然資源の利用や食品廃棄についての対応が必要とされています。
直結する業種以外にも、生産コストの削減や業務フローの効率化への取り組みを通じて、生産要素の投入をより効率的・効果的にすることは、「つくる責任・つかう責任」に貢献するものと考えることができます。
生産性向上を図るにあたり、各種助成金制度(IT導入補助金等)がありますので、対象事業者であれば活用も検討できます。

【参考】IT導入補助金2022サイト

生産性向上における検討の視点

3.人材確保および定着への取り組み

働きがいや働きやすさを検討する目標が目標8「働きがいも経済成長も」です。
その中でも、最初に出てくる項目に「一人当たりの経済成長率」が掲げられています。
前項にも重なりますが、社員の生産性を高めるための働きやすさ・働きがいを検討することが重要であり、取り組みの結果、社員の定着にもつながることが期待できます。
中小企業では、今後ますます人材不足が危惧されており、離職防止の観点からも職場環境改善は重要となっています。
また、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」では、男女間の平等への対応が課題となっている組織は、どのように改善していくのかを検討することが必要とされます。
決して、男女間・ジェンダー問題だけではなく、障がいや国籍の違いなど、さまざまな違いを受け入れることは、「誰ひとり取り残さない」というSDGsの基本精神にも合致します。

人材確保・定着における検討の視点

4.新製品・新サービス開発への取り組み

SDGs目標の達成においては、民間企業の「創造性」と「イノベーション」の発揮こそが重要といわれます。
2030年に向けて、自社でいかに創意工夫することができるかが問われており、その中にこそさまざまなビジネスチャンスがあるといえます。
自社で提供している製品やサービスが社会をより良くする、社会問題を解決する、社会に貢献するという考え方がより重要になっていきます。
中小企業では、自社の事業エリア内における社会問題の解決という視点で考えると、いろいろな課題が見えてくるはずです。
そのため、新製品・新サービスについても、仕様やスペックのみならず、社会における位置付けについて説明することで受け入れられやすくなります。

新製品・新サービス開発における検討の視点

5.既存市場開拓への取り組み

SDGsは、そのテーマごとに多くの市場があるといわれています。
日本においては、「ローカルSDGs」といわれるように、地域における持続可能性を実現するための取り組みが注目されています。
まずは、地域において自社製品やサービスの市場拡大が期待できるかどうかを検討することが必要です。
自社の製品やサービスを売り込むためのパンフレットではなく、「ともに社会問題を解決してSDGs目標を達成しましょう」という視点での企画書は、多くの組織にとって受け入れやすいものであり、新市場に対しては、共に創る「共創」の考え方を訴求することがポイントです。
このような対応は、特に自治体や教育機関などを対象にした場合に有用です。
特に自治体を巻き込むことができると、地域への影響力が大きいことから、市場拡大につながることも期待できます。

既存市場開拓における検討の視点

4.中小企業におけるSDGs経営導入事例

環境に配慮したビジネスを展開している 株式会社大川印刷

株式会社大川印刷は、FSC森林認証紙や石油系溶剤0%インキの使用、針金を使わない製本等、環境負荷低減に特化した「環境印刷」に取り組んでいる企業です。
同社がSDGsに取り組むきっかけは1993年に遡ります。
もともと環境経営に関心があり、まず工場の環境対策に着手しました。
その後、社会起業家との出会いから「印刷を通じて社会貢献する」視点に気付き、2004年に「ソーシャルプリンティングカンパニー」というビジョンを掲げ、違法伐採による紙でないことを証明する「FSC森林認証紙」や、石油系溶剤を全く含まないノンVOC(揮発性有機化合物)インクの使用を始めました。
SDGsを経営に取り入れたのは2017年春で、「国内外の社会課題が整理され、大企業が次々と導入している。
必ず世の中の潮流となり、ビジネスチャンスにつながる」と判断し、これまでの取り組みをSDGsの各目標に関連付けるとともに、それまでの社内の横串組織を全廃し、SDGsを推進するプロジェクトチームを発足させました。
このプロジェクトチームは「課外活動」ではなく、勤務時間内に行う「本業」と明確に位置づけられています。
SDGsへの取り組みを通じて「社員の意識が変化した」ことも成果として表れました。
このほか全社的には、留め金を樹脂から紙に変えた世界初の卓上カレンダーや、在留外国人向けの「4カ国版お薬手帳」、SDGsを学べる「SDGs手帳」などを商品化しました。
これらの取り組みの結果、2018年に持続可能な調達に関心の高い上場企業4社や外資系企業、官庁、大使館など約50件の新規顧客を獲得し、政府が主催する「ジャパンSDGsアワード」の第2回SDGsパートナーシップ賞(特別賞)の受賞につながりました。
2019年度には、本社屋上に太陽光発電パネルを設置、自社工場の消費電力の約20%を発電し、残り約80%の電力を青森県横浜町の風力発電の電力に切り替え、太陽光と風力の電力を使用する、再生可能エネルギー100%となっています。

SDGs が達成された社会への貢献を目指す 株式会社セイバン

株式会社セイバンは、1919年創業の老舗ランドセルメーカーです。
成長期の子どもの姿勢をサポートする独自の設計や、軽くて型崩れしない丈夫な素材、そして長年受け継がれた職人技によるこだわりのものづくりで、同社の「天使のはねランドセル」は2003年発売当初から現在も人気の商品です。
同社ウェブサイトの「SDGsへの取り組み」というページには、素材や生産工程の見直しから環境負荷を軽減した工場設備に至るまで、様々な活動が紹介されています。
同社がSDGs経営への取り組みを本格的に始めたのは2020年からと比較的最近です。
大阪・関西万博2025の開催が決定していますが、SDGsが達成された社会を目指すことが標榜されており、同社社長は企業レベルでもSDGsに取り組む必要性を感じ、2020年1月に「SDGsに取り組んでいく」と方針を示しました。
当初は、役員をはじめ社員の認識が「SDGsとは何か?」というレベルからのスタートでしたが、「マンガでわかるSDGs」(株式会社PHPエディターズ・グループ出版 2019年)を全社員へ配布したり、勉強会を開催し、「SDGs経営の取り組みは、自社の利益として戻ってくるサイクルである」「自社には必要である」という認識を培っていきました。
同時に、既存事業を棚卸しして、SDGsのどのゴールに該当するかマッピングする作業を始めました。
既存事業がSDGsとどう繋がるか整理することでSDGsが身近なものとなりました。
ランドセル業界では性別によるカテゴリー分けが一般的ですが、性別から入らずに商品陳列を行うなど、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」へのチャレンジを行っています。
また、購入後6年間の修理保証があり、子どもの安全や地球環境への配慮が、目標12「つくる責任 つかう責任」に該当しています。
このような同社の取り組みは、「SDGsネイティブ」と呼ばれる若者世代からの反響が大きく、新卒採用において学生からSDGsに関連する質問を受けることが多くなっており、人材採用の面でも効果が表れてきています。

同社におけるSDGs経営の成果

SDGs経営を実践することによって、自社のみならず利害関係者に多くのメリットをもたらします。
これからの自社におけるSDGs経営導入のきっかけとなれば幸いです。

 

■参考文献
『SDGsがよくわかる本』(松原 恭司郎著 秀和システム)
『小さな会社のSDGs実践の教科書』(青柳 仁士著 翔泳社)
『社長のためのSDGs実践経営』(岡 春庭、中島 達朗、岡 裕美共著 マネジメント社)
『中小企業のためのSDGs活用ガイドブック』(中小機構)
『J-Net21』(中小機構サイト)
『SDGs経営ガイド』(経済産業省)

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