- 診療報酬改定で強化される医科・歯科連携
- かかりつけ歯科医の機能と役割の明確化
- 入院患者に対する口腔ケア等の効果
- 周術期等の口腔機能管理の充実と連携強化
1.診療報酬改定で強化される医科・歯科連携
令和4年度の診療報酬改定の基本方針や改定率が発表され、個別の点数も固まりつつあります。
過去の診療報酬改定において、平成26年度の基本方針では、在宅医療や周術期口腔機能管理の充実等、正常な口腔機能の維持・成長を促すための対応(小児期)、口腔機能の維持・向上を図るための対応等が重点化され、在宅かかりつけ歯科診療所や医療機関相互の連携、周術期における口腔機能管理についての向上が求められてきました。
その後の改定においても、継続して地域包括システムの推進と医療機能の分化・強化、連携に関する視点やかかりつけ歯科医の評価の見直し、口腔疾患の重症化予防・口腔機能低下への対応等の基本的視点や方向性は変わっておらず、地域包括ケアシステムの実現に向けて進んでいます。
1.令和4年度診療報酬改定率
令和4年度診療報酬の改定率は診療報酬本体ではプラス0.43%です。各科の改定率は、医科がプラス0.26%、歯科がプラス0.29%、調剤がプラス0.08%になっており、その一方で薬価はマイナス1.35%、材料価格はマイナス0.02%の改定となりました。
2.令和4年度診療報酬改定の基本方針
令和4年度の診療報酬改定にあたっての基本認識は、新興感染症等にも対応できる医療提供体制の構築など、医療を取り巻く課題への対応や健康寿命の延伸、人生100年時代に向けた「全世代型社会保障」の実現、患者・国民に身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現、社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和とされ、社会保障の機能強化と持続可能性の確保を通じて、安心な暮らしを実現し、成長と分配の好循環の創出に貢献するという視点も重要と表記されています。
3.かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機能の評価
(1)かかりつけ歯科医の機能の評価
歯科医療機関を受診する患者像が多様化する中、地域の関係者との連携体制を確保しつつ、口腔疾患の重症化予防や口腔機能の維持・向上のため、継続的な口腔管理・指導が行われるよう、かかりつけ歯科医の機能を評価するように進んでいます。
(2)質の高い在宅医療・訪問看護の確保
中長期的には在宅医療の需要が大幅に増加することが見込まれる中、在宅医療を担う医療機関と市町村・医師会等との連携及び医療・介護の切れ目のない、地域の実情に応じた提供体制の構築等を推進し、効率的・効果的で質の高い訪問診療、訪問看護、歯科訪問診療、訪問薬剤管理指導等の提供体制を確保できるように進めています。
また、かかりつけ医機能を担う医療機関が地域の医療機関と連携して実施する在宅医療の取り組みを推進するとともに、外来医療から在宅医療への円滑な移行にあたって必要となる連携を推進し、医科歯科ともに情報の共有を行い、協力体制を構築していきます。
(3)地域包括ケアシステムの推進のための取り組み
医療機関間や医療機関と薬局等との連携、医科歯科連携、医療介護連携、栄養指導、その他の地域の保健・福祉・教育・行政等の関係機関との連携も含め、地域包括ケアシステムの推進のための医師、歯科医師、薬剤師、看護師、管理栄養士等による多職種連携・協働の取り組み等を推進していくことになります。
2.かかりつけ歯科医の機能と役割の明確化
厚生労働省では、かかりつけ歯科医の機能の充実と役割について、あるべき歯科医師像を表し、かかりつけ歯科医機能の評価を行うようにしています。
また、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の施設基準を策定し、う蝕や歯周病の重症化予防に関する継続的や管理実績を要件として診療報酬上で評価を行っています。
1.あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割
厚生労働省では、あるべき歯科医師像とかかりつけ歯科医の機能・役割について、住民・患者ニーズへのきめ細やかな対応や切れ目ない提供体制の確保、他職種との連携という3つの機能を上げています。
2.かかりつけ歯科医機能評価の充実
かかりつけ歯科医機能をより一層推進する観点から、様々な評価を行い、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所への取り組みや、かかりつけ医との情報共有・連携を推進していくようにしています。
3.かかりつけ歯科医機能型歯科診療所
厚生労働省としては、過去の診療報酬改定において、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所としての診療報酬上の評価の見直しを行い、この歯科診療所への取り組みを今回の診療報酬改定においても継続して推進しています。
3.入院患者に対する口腔ケア等の効果
厚生労働省は2024年を展望し、誰もがより長く元気に活躍できる社会への実現を目指す
「健康寿命延伸プラン」を掲げています。
その中で、口腔の健康と全身への健康は深い関係を有していることから、歯科口腔保健の充実、入院患者等への口腔機能管理等の医科歯科連携に加え、介護・障害福祉関係機関との連携を含む歯科保健医療提供体制の強化を推進しています。
1.口腔ケア等による効果
要介護者に対する口腔ケアによる肺炎発症率を2年間で比較すると約8%も下がったという報告や、消化器外科や心臓血管外科の入院患者に対する口腔機能の管理を行うことによって在院日数の削減効果が10%以上ある事例が報告されています。
2.病院における歯科関連標榜科数及び割合の推移
平成26年の調査では、病院において歯科を標榜しているのは1,291件で約24%、歯科口腔外科を標榜しているのは921件で約20%、矯正歯科を標榜しているのは145件、小児歯科を標榜しているのは156件で約11.8%となっています。
3.口腔ケア等による合併症への効果
口腔ケアを実施することによって、創部感染、肺炎、縫合不全、イレウス(腸閉塞)等、いずれも合併症発生率低下に寄与しています。
※「口腔ケア未実施群」は「口腔清拭等の従来から広く行われているいわゆる口腔ケア」のみを実施した群をいい、「口腔ケア実施群」は歯科専門職により計画、実施された専門的な口腔機能管理を行った群をいう。
4.口腔ケア等による入院日数削減の効果
口腔ケアを実施することによって、胃がんや食道がん等の各種がん患者や心臓病への入院患者の入院日数の削減効果も明確です。
4.周術期等の口腔機能管理の充実と連携強化
今後の医科・歯科医療連携は、患者からの歯科治療への需要増加や、医療機関からの連携の要望等を踏まえ、さらに高齢化社会への対応においても重要な役割を担います。
地域包括ケアシステムの構築や周術期の口腔機能管理の取り組みは新たな歯科医院の形を示しています。
1.周術期等の口腔機能管理の充実と推進
地域包括システムの構築と医療機能の分化・強化・連携の推進から、周術期等の口腔機能管理の充実を図る必要があります。
診療報酬での評価やその見直しを進めることで、取り組みを始める歯科医院の増加を推進しています。
2.栄養サポートチーム連携加算
栄養サポートチーム連携加算は1と2に分かれており、1は他の保険医療機関に入院中の患者、2は介護保険施設に入所している患者が対象です。
例えば1は、患者の入院している他の保険医療機関の栄養サポートチーム、摂食嚥下チーム等の多職種からなるチームの構成員としてカンファレンス及び回診等に参加し、それらの結果に基づいて管理計画を策定した場合に算定するものです。
歯科標榜病院の約64%で栄養サポートチームがあり、そのうち歯科医師は約45%において、関与しています。
また、栄養サポート(歯科医師連携加算)医科点数の算定がある病院は、栄養サポートチーム全体の約23%にとどまっています。
今後、歯科医師の積極的参加が求められています。
3.病院が歯科医院に期待すること
歯科標榜の無い病院を対象とした調査では、今後近隣の歯科医療機関との医科歯科連携をすることによって期待したい項目は、摂食機能療法や口腔機能管理、肺炎等の予防、栄養サポートの割合が高いという結果が出ました。
医師と歯科医師は医師法及び歯科医師法に規定されるように、本来は指示関係では無いですが、チーム医療や医科歯科連携という切り口で、これまで以上に連携を進めていくことが重要になります。
■参考資料
厚生労働省:令和4年度診療報酬改定について(概要)
中医協R3.2.19 歯科医療提供体制等に関する検討会より
歯科医療提供体制に関する検討会資料より
保険局医療課調べより
歯科医師の資質向上等に関する検討会資料より
医療施設資料より
社会保障審議会医療保険部会 委員提出資料より
中医協 総会 資料より
病院における医科歯科連携に関する調査より