自社の経営効率改善、生産性向上に繋げる中小企業におけるAIの活用事例

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自社の経営効率改善、生産性向上に繋げる中小企業におけるAIの活用事例

  1. AI進化の歴史と最近の動向
  2. AIの進化で変わってきたビジネスや社会生活
  3. 中小企業におけるAI活用の効果
  4. AIの活用による業務改善及び生産性向上事例

 


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1.AI進化の歴史と最近の動向

ここ数年、AI(人工知能)の進化が目覚ましく、大手企業やITベンチャー企業ではその導入・活用が進められています。
一方で、一部の中小企業においても営業力の強化や管理業務工数の低減など、既にAIの活用による成果が見られます。
AIの概要をご理解いただき、中小企業での活用事例等をご参考に、自社の経営改善のヒントにご活用ください。

また注目を集めているAI (人工知能)

プロの棋士に勝った事例や、医師がわからなかった病名の発見などの輝かしい話題から、クレープやビールの新製品の開発まで、人工知能(AI)の活躍が話題になることが増えています。
従来の技術では人間を超える性能を発揮するまでには至りませんでしたが、研究開発は進み、現在の人工知能は第三のブームに突入したといわれています。
人工知能は、自ら学習を重ねて高度に成長していくことにより劇的に進化し、人間の能力を超え、技術革新スピードが爆発的に加速する『シンギュラリティ』(技術的特異点)を起こします。
これにより、人間の仕事の相当数を人工知能が奪うと言われているなど、私たちの生活を根本から変える可能性がある事から、今AIが大変な注目を集めています。

機械が奪う職業・仕事ランキング

繰り返されたAIブームと冬の時代

前項にあったチェスや将棋のほか、医師に代わって行われている患者の画像診察に限らず、車の自動運転では政府が実用化を認めているなど、ここ最近になって話題になる技術の根幹を支えるAIですが、その歴史は長く、既に2回のブームとその後の冬の時代を超えて現代に至っています。

AI進化の歴史

AI進化のカギとなる「ディープラーニング」と「シンギュラリティ」

AIとともにディープラーニングという言葉を耳にすることも多くなってきました。
これは、人間の脳をモデルとした情報処理システムの事を意味しており、大量のデータをこのシステムに与えると、人間の脳が行うように、自らデータを選び、判断を下すことができるような過程を意味しています。
一方で、昨今、人工知能の進化と共に注目されているシンギュラリティとは、前述のとおり技術的特異点を意味します。
コンピュータ技術や生命科学などの進歩、発展によって2045年ごろに技術的な特異点が生じ、これまでの世界とはまったく異なる、不連続な世界がやってくるといわれているのです。
この世界の到来は、ソフトバンクの孫正義氏が兼ねてから提唱してきたこともあり、現在、特に注目を集めています。

シンギュラリティの概念

また、2016年11月4日の日本経済新聞では、一面トップで「未知との遭遇 人類の飛躍か 試練か」と題された記事が掲載され、「2045年、人工知能(AI)が人知を超える『シンギュラリティ(技術的特異点)』を迎える。
荒唐無稽な話ではない。
人の心までに入り込み始めたAIが社会や国家、経済を揺さぶり、歴史を変える。
人類に飛躍か試練か。
世界はその日に向けて走り出した。」というテーマのもと、発明家で米グーグル在籍のレイ・カーツワイル氏が、人間の知能を超えるシンギュラリティが2045年に到来すると予言しています。
AIが自らAIを作り始めたり、人の脳をコンピュータに再現したりすることが考えられる」と紹介しています。
30年も先のことなど分からないと思うかもしれませんが、シンギュラリティの前に、大きな社会変動が起こることが予測されています。

2.AIの進化で変わってきたビジネスや社会生活

人工知能の社会への応用

前述のシンギュラリティによる私たちへの影響を懸念する声がある一方で、人工知能技術による生活の進化に向けた取り組みが各所で進められています。
ここでは、総務省の「次世代人工知能推進戦略」報告書から、その一部を分野別に紹介します。

(1) ビジネス分野

人工知能技術は、Web、SNS等の情報を活用したマーケティングのみならず、科学技術文献等も用いたイノベーション支援等をも可能としています。
さらには脳活動情報や表情等から人の感情を把握し、商品の改良や消費者へのレコメンドに役立て、快適な消費活動を促進していきます。

ビジネス分野における人工知能活用イメージ

(2) 医療・ヘルスケア分野

個人のバイタルデータや遺伝子情報、ライフログ等のビッグデータによって、個人に適した医療やヘルスケアを提供することで、病気を未然に防ぎ、健康寿命の延伸や医療費の低減に効果があることが明らかになりつつあります。
さらにそのような分析に基づいて、従来、医師の経験や高度な技術が必要とされた手術等から、人工知能技術とICTによる名医の知識と技術が共有化された高度な医療サービスを普及させることができます。
最高峰の医療技術を効率的に習得、あるいはロボット等に実装することにより、誰でもどこでもそれらの医療を受けることが期待されています。

医療・ヘルスケアにおける人工知能活用イメージ

このように、集積された医療ビッグデータに基づいて多様な分析が行えるようになることが期待されている一方で、外科手術等の人の技量が必要な分野においては、レセプトデータ等の活用だけでは不十分です。
外科手術等の高度医療においても活用できるような人工知能技術の更なる研究が期待されています。

(3) 介護・福祉分野

介護・福祉分野における労働力不足を補うために、ロボットの活用による介護業務の支援や介護・福祉サービス利用者とのコミュニケーションを可能にします。

介護・福祉分野における人工知能活用イメージ

(4) 教育分野

様々なデータに人工知能技術を適用し、生徒一人一人に合わせた教育を実施する手段が提供され、さらに将来的には、生徒一人一人に向けてパーソナライズされた”家庭教師”ロボットが教育の一定の範囲を担います。
ライフログや脳活動情報を活用することにより、学習すべき内容を抽出し、個人に適した方法で効率的に学習が可能な環境を構築できます。
これにより生徒本人の能力を最大限に引き出すことができるようになるとともに、教員のスキルが向上し、より効果的に高度な指導を行うことができるようになっていきます。

教育分野における人工知能活用イメージ

ある分野において成功しているとされる人材(モデルとなる人材)が、これまで受けてきた教育や社会経験、それらに紐付く脳活動情報等に基づき、今後その分野で成功する可能性がある人材(類似する人材)を抽出するというシステムの構築が進められています。
また、そのモデル人材の構築のために必要となる重要な経験を抽出し、教育現場で活用できるようになることのほか、脳活動から本人のもつ資質を抽出し、能力を最大限に引き出せる方向性をアドバイスすることで、本人の可能性を効率的に拡大することが期待されています。
加えて、これに基づいて企業が人材の配置を検討することにより、適した場所で能力を最大限に発揮することが可能となります。

3.中小企業におけるAI活用の効果

前章で説明したように社会的な変化が起こっている一方で、中小企業の現場では「AIの実用化はまだまだ先の話ではないか」「世間で騒がれているのは分かるが、仕事にどう結び付けるかのイメージがわかない」と考えている方も多くいらっしゃると思います。
しかし、中小企業においても下記のような場面においては、AI活用による経営改善効果が十分に期待できます。

バックオフィス業務の軽減

有名なAIツールのひとつにクラウド会計ソフトがあります。クラウド会計ソフトは、中小企業のバックオフィス業務の負担を軽減することを目的に作られており、AI技術を活用した自動仕分け機能による勘定科目の自動提案や、自動消し込み機能、不良債権の探知検知機能や不正データの検知機能などが搭載されています。
また、経営分析ソフトのSHARESは、自社の会計データをアップロードすることにより、同業種の企業と比較し、助成金の申請や融資に関する提案などのサービスも行われています。

人工知能を使った経営分析エンジン「SHARES」

営業活動の強化

顧客リストの作成からアポイントメントの獲得、訪問とクロージングまでを営業マンそれぞれが担当するという従来の手法では、営業担当によって各々の営業プロセス分野の得意分野が異なるため、契約に至るまでにかなり長い時間とコストがかかっていました。
また、営業担当同士での情報共有も行われておらず、ノウハウも蓄積されないため非効率なものとなっているのが実態と思われます。
一方で、米国型の営業活動は、(1) マーケティング、(2) インサイドセールス(電話やeメール、DM等を用いたセールス手法)、(3) 訪問・クロージングの3つに分業されており、情報を共有しながら効率よく業務が行われています。
このような営業効率の格差を埋めるべく、株式会社WEICではクラウド型の営業支援システム「SALES BASE(セールスベース)」の提供を開始しています。
同システムでは、約400万件の企業情報を有する独自のデータベースをもとに、AIを活用することで制度の高い見込み顧客を抽出し、同社のコールセンターからその見込み顧客のニーズ情報の収集を行い、新規アポイントを確保し、クライアント企業の営業担当のスケジュールに反映させるところまでもサポートしています。

AIとクラウド・コンピューティングを活用した営業支援サービス「SALES BASE」

マーケティング分析精度の向上

自社のマーケティング分析を行う上で、今や欠かすことのできない、webサイトのアクセス分析があります。
ここで紹介する「AIアナリスト」は、アナリティクスのデータを基に自動でwebサイトを分析し、サイト改善の提案までを無料で受けることができます。
Google社が提供している Google Analytics(アナリティクス)は、「サイト訪問者の数」や「1ページ当たりの訪問数」「訪問者がどこからやってきたのか」など、サイトへのアクセスに関するさまざまなデータについて詳しく分析することができます。
Googleアカウントを取得すれば基本的には無料で利用することが可能で、上場企業のうち約6割以上がGoogle Analyticsを導入しているという調査結果が出ているように、高い分析効果が期待できるツールといえます。

Google Analytics

4.AIの活用による業務改善及び生産性向上事例

すでに中小企業を対象に、AIを活用したシステムサービスが多数開発されている一方で、大企業でもなく、ハイテクIT企業でもない中小企業がAIを活用した業務改善や生産性向上を図っている事例について紹介します。

画像認識機能によるレジ装置(ベーカリーショップ)

システム開発企業である株式会社ブレインでは、画像認識機能によるレジ装置を開発し、現在では全国のパン屋等で導入が進められています。
客が複数のパンを載せたトレーをレジ横のカメラ下に置くと、このシステムがパンの画像認識を行い、パンの種類を個別に判断し、それぞれの価格と数量から購入金額を算出する仕組みとなっています。

パンの画像認識

人員不足やレジ担当スタッフの教育コストを課題視している店舗でも、このシステムを導入することで、パンの種類を覚えていない新人や日本での勤務経験が浅い外国人スタッフでもレジを担当することができるようになりました。
また、レジ会計に掛かる工数そのものも低減されたことから店舗の生産性向上や顧客の会計待ちによるストレス軽減も実現しています。

クラウド型の顧客おもてなしサービス(ラーメン店)

ラーメン店の「鶏ポタTHANK」では、来店客全員の顔を覚えることを目的として、AIとロボットを活用した「クラウド型”顧客おもてなしサービス”」を導入しました。
本サービスは、日本マイクロソフト株式会社と株式会社ヘッドウォータースが提供するロボットがスタッフの代わりに客の顔を覚えるというシステムになっています。
同店では、客が予め専用のモバイルアプリに顔登録を行い、店頭で食券を購入する際に、コミュニケーションロボット「SOTA(ソータ)」に顔を見せることで、顔認証により来店回数に応じたトッピングをサービスする内容となっています。

コミュニケーションロボットの活用

これらの様に、既に中小企業においてもAIの導入・活用が進められています。
現状では、大手企業やAI開発ベンチャー企業がAI活用の担い手となっていますが、一方で、他社が開発したAIを上手に自社の業務に応用している事例も見られます。
今後はますます需要が増え、学習済みのAIやプラットフォームはコストの低下が予想されます。
自社にとって使い勝手が良く、手ごろな価格のAIを活用できるよう、今から情報収集などの準備が必要といえます。

 

■参考文献
落合陽一『これからの世界をつくる仲間たちへ』小学館
松尾豊『人工知能は人間を超えるか』KADOKAWA
Michael Osborne『雇用の未来』オックスフォード大学
『次世代人工知能推進戦略』総務省
月刊事業構想2017年4月号

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