療養病床の転換先として創設 新類型「介護医療院」の行方

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療養病床の転換先として創設 新類型「介護医療院」の行方

  1. 迫る介護療養病床廃止と新施設類型の創設
  2. 新たな施設類型「介護医療院」の概要
  3. 医療機関の実態に基づいたタイプ別選択肢
  4. 今後の高齢者医療に期待される将来像


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1.迫る介護療養病床廃止と新施設類型の創設

1.医療費抑制を目的とした介護療養病床廃止と受け皿の整備

(1)介護療養病床の廃止と新たな施設類型の創設

介護療養病床は、利用者の8割以上が後期高齢者であることから、社会保障費が膨らむ一因とされており、これまで廃止に向けた議論が続けられてきましたが、廃止期限を6年延長したものの、平成29年度末での廃止が決定しました。

入所者の年齢構成~介護療養型医療施設(診療所)は75歳以上が約90%

廃止に伴い、現在介護療養病床等に入院する患者の受け皿となる新たな類型が必要となることから、平成28年6月から、厚生労働省の「療養病床の在り方等に関する検討会」や社会保障審議会「療養病床のあり方等に関する特別部会」で、平成30年度以降の新たな受け皿施設や移行計画について、様々な議論が交わされてきました。

新たな選択肢の整理案

こうした議論を経て、本年5月26日、「地域包括ケアシステム強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」が成立し、新たな施設類型として「介護医療院」が創設されました。
介護医療院は平成30年4月1日からスタートしますが、転換する際の重要なポイントである明確な施設基準や介護報酬額・加算項目等については、平成30年1月末に開催予定の介護給付金分科会で決定される見込みです。
これにより、廃止が決定している介護療養病床を有する医療機関は、病床転換先として具体的な選択を決定できない現状が続いていましたが、多くの医療機関が、介護医療院への移行を検討し始めています。

療養病床数の推移

(2)医療・介護提供体制の一体的な整備へ

療養病床の転換を促すうえで、当初の療養病床削減目標が「医療区分1」の患者が社会的入院に該当するという前提で設定されたことから、「医療ニーズの低い患者は退院、または在宅療養への移行、もしくは介護サービス提供施設へ」という考え方があったことが窺われます。
また、こうした患者の受け皿整備の議論において、在宅医療の推進が重点政策として打ち出された背景のひとつといえます。
近年進められている地域包括ケアシステムの構築と併せて、単なる療養病床削減だけではなく、特に高齢患者を念頭に置いた個々の医療ニーズに対応できる受け皿の整備は、医療と介護が地域ネットワークの中で十分な機能を発揮できるものにならなければ、現在療養病床を運営する医療機関が選択する施設類型になりえないという意見も示されています。
そのため、療養病床再編の帰結として、老健施設などへの転換を促進する従来の方針が修正され、新類型創設へ舵が切られたという経緯があります。

2.様々な医療・介護ニーズを踏まえた新制度創設

現在の療養病床は、医療療養病床と平成29年度末に廃止が決定している介護療養病床の2種類ですが、療養病床入院患者の医療・介護ニーズは様々であり、その受け皿は現在の病床が果たしている医療と介護の両機能を満たす施設類型とすることが提案されました。
その背景には、これらの入院患者像(医療療養病床は25:1)として、要介護者や高齢者が多く、一定の医療提供が必要であるも、長い平均在院日数と多数の死亡退院が特徴として挙げられたことがあります。
こうした意見を踏まえ、社会保障審議会「療養病床のあり方等に関する特別部会」における議論の積み重ねにより、新類型「介護医療院」の創設に至りました。

療養病床と介護サービス提供施設の現状

2.新たな施設類型「介護医療院」の概要

1.新施設類型「介護医療院」の機能

(1)介護医療院の2つのタイプ

社会保障審議会「療養病床のあり方等に関する特別部会」の提言により、「地域包括ケアシステム強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」の成立をもって創設された介護医療院には、医療機能の大きく分けて2つのタイプがあります。
介護医療院は、病院や診療所と区別された新類型であり、医療の必要性が比較的高い方が利用する(1) 医療機能を内包した施設系サービス、そして、医療を外から提供する(2) 居住スペースと医療機関併設タイプ、の2種類が設けられました。
さらに(1) のなかでも、主な利用者として(Ⅰ)容体急変リスクのある医療必要度の高い利用者、(Ⅱ)医療の必要性は多様ながら(Ⅰ)に比べて容体が比較的安定した利用者、をそれぞれ想定した2つのパターンが示されました。

「介護医療院」の概要

(1) ・(2) とも、基本的に介護保険制度が適用される施設ですが、(2) の併設医療機関が提供する医療サービスについては、当該医療機関は医療法上の位置づけであり、医療保険が適用されます。
この場合、医療機関は居住スペースの利用者に対し、訪問診療を行う形となります。
尚、介護医療院は、従来の医療機関とは区別されているため、新設する場合には「介護医療院」という名称を付けることが求められています。
ただし、当面は介護療養病床からの転換によって設置されるケースが想定されており、その場合には「○○病院」「△△クリニック」という名称を引き続き使用することができます。

介護医療院創設検討におけるサービスモデル案

(2)慢性期の医療・介護ニーズへの対応

新類型である介護医療院は、現在医療・介護の各機能の要件や次期診療報酬・介護報酬同時改定を控えた報酬水準の検討が進められています。
今回の新類型創設にあたっては、長期療養にふさわしい「住まい」としての機能と、日常的で継続的な医学管理や看取り・ターミナルケアを実施できる機能の双方を兼ね備えたものとすることが念頭に置かれていました。
実際には、現行の介護療養病床の人員配置や特定施設入居者介護の考え方を踏襲したサービスモデルが示されたため、介護療養病床がこれまで果たしてきた機能をある程度維持しながら、慢性期でも状態が変化する高齢患者の医療・介護ニーズに対応することが可能になると期待されます。

2.各タイプの特徴と期待される役割

介護医療院は、患者像に合わせて柔軟な人員配置、財源設定が可能となるように各タイプのサービスモデルを提示しました。
基本的には、医療区分1を中心とする長期の医療・介護サービスが必要な患者を対象とし、その医療必要度や容体の安定性などによって、施設が提供する医療・介護サービスの内容や期待される役割が異なっています。

(1)介護療養病床相当の施設系サービス

医療の必要性が比較的高く、容体が急変するリスクがある利用者を想定しています。

(2)老健施設相当以上の施設系サービス

容体が比較的安定している利用者を想定しており、(1)よりも「住まい」としての機能を重視するサービスモデルだといえます。

老健施設相当以上の施設系サービス

(3)医療併設型サービス

医療機関併設型は、療養病棟入院基本料25:1を算定するなど、主に慢性期医療を提供している病院が、医療機能の集約化等によって、療養病床20:1や診療所に転換し、空いたスペースを居住スペースに活用するパターンなどを想定しています。

医療併設型サービス

3.医療機関の実態に基づいたタイプ別選択肢

1.介護医療院への転換検討ポイント

(1)介護療養病床からの転換に向く施設系サービス

医療機能を内包した施設系サービスのうち、容体急変リスクを有する利用者が主体となる介護療養型タイプは、日常的・継続的な医学管理や24時間の看取り・ターミナルケア、夜間・休日対応を含む当直又はオンコール体制の整備が示され、医療ニーズへの対応が求められています。
これらは介護療養病床のなかでも、2015年介護報酬改定で新設された「療養機能強化型A・B」の機能と重なるもので、その他の介護療養病床と平均要介護度に大きな差がみられない(機能強化型4.5/その他4.3)一方で、経管栄養や喀痰吸引など日常的・継続的な医学管理を要する利用者が多い現状からも、機能強化型のサービス提供が期待されていることがわかります。

現在受けている治療の割合(複数回答)

現行の療養機能強化型が果たしている医療ニーズの高い高齢者の受け皿として、介護医療院への転換パターン検討では、介護療養型がより具体的な選択肢になるといえます。

(2)現在の運営状況から転換を検討すべき老健施設型サービス

介護療養病床廃止の議論の過程では、介護療養型医療施設は介護療養型老人保健施設への移行を念頭において、報酬などでの政策的誘導が検討されていました。
この老健施設型の施設系サービスは、現行の介護療養型老人保健施設の機能と同様のものが求められていることから、介護療養病床からの転換には、現在の施設運営状況を鑑みて検討が必要になると思われます。
具体的には、医療ニーズへの対応だけではなく、「住まい」としての機能強化が重要になることから、多くの介護療養病床では、療養環境に関する整備が求められると予想されます。
そのため、既存の施設状況を見極め、これらの基準を満たす整備が可能かどうかも検討ポイントの一つに挙げられます。

老健施設型サービスへの転換検討時の課題~療養環境面

また、慢性医療を提供する医療法人のなかでは、介護療養病床だけでなく法人グループ内で老健を含む複数の施設を運営しているケースも少なくないはずです。
介護医療院への転換については、施設単体での検討だけではなく、法人全体で地域マーケットの検証を行い、新類型を含む介護ニーズへの対応バランスを判断する必要があります。

2.医療外付け型タイプの可能性と今後

医療機関が併設する医療外付け型タイプについては、介護療養病床だけではなく、一般病院や診療所からの参入も想定されます。
また、介護療養型病院を医療保険適用の療養病棟入院基本料1(20:1)算定病院や診療所に転換するケースも選択肢となります。
機能分化や経営の効率化を図るうえで、病床のダウンサイジングや有床診療所の無床化を決断した場合、空いたスペースを居住スペースとして確保し、医療機関は外付けで医療サービスを提供することで、新類型施設を運営する選択肢を検討することは可能です。居住スペースの施設基準上、医師の配置は不要となりますが、看護・介護職員は必要です。
このような負担軽減のメリットがある一方で、医療外付け型タイプについては、特に医療サービス提供の面で様々な懸念が指摘されています。

医療外付け型タイプに対する懸念~特別部会での指摘等

介護医療院の特徴として、第一に介護と医療双方の機能を果たす施設類型であることが挙げられます。
現在慢性期医療を提供する医療機関にとって、医療外付け型タイプを病床転換先として選択するには、自院の地域における役割を正確に把握することが重要です。
特に、医療外付け型タイプは、在宅療養に不安を持つ高齢患者からのニーズが高いと思われることから、必要に応じ、在宅移行へのサポート体制整備などの検討が必要です。

4.今後の高齢者医療に期待される将来像

1.介護医療院の創設がもたらす影響

(1)療養病床から生じる新たなサービス必要量の受け皿

平成29年度末で廃止となる介護療養病床、および経過措置が終了する療養病棟入院基本料2(25:1)は、病床転換への期限が迫っています。
介護医療院の創設により、当初方針の柱であった病床数の大幅削減ではなく、療養病床の受け皿としての機能を提示したことで、今後新たなサービスの必要量を把握し、診療報酬および介護報酬の決定や、在宅医療や介護の受け皿の整備目標の設定、療養病床の基準病床の算定(在宅医療等対応数の算出)に活用するとしています。
そのため、介護医療院等への転換見込み量は、医療計画の終期である平成35年度時点のものを算定しています。

療養病床から介護医療院等へ転換する見込み量の把握イメージ

転換見込み量は、都道府県と市町村の連携の下で調査を実施(調査すべき事項等は、国が例示)し、把握した数を活用します。
ただし、介護療養病床については、経過措置期間が平成35年度末とされていることを踏まえ、同32年度時点については調査により把握した数、同35年度時点については全数に相当する数を下限として、転換する見込み量を設定する方針が示されています。
既存の療養病床の転換選択肢としては、新類型の介護医療院だけではなく、療養病棟入院基本料1(20:1)の算定病床、もしくは在宅医療への資源集中、現行の介護保険適用施設なども挙げられます。
介護医療院の創設により、介護保険適用施設のベッド数が実質的に大きな減少とならないのであれば、厚生労働省が目指す社会保障費の削減に必ずしも資するものにはならない可能性も課題として指摘されているところです。

(2)療養病床の転換意向の現状

介護療養病床の経過措置延長等が決定されていなかった時期ではありますが、平成29年度末に廃止もしくは経過措置終了期限を迎える療養病床を有する医療法人に対し、静岡県が実施した転換意向に関する調査結果は次のとおりです。

静岡県が実施した転換意向調査

ここからは、現行の医療療養病床25:1は同20:1を目指す医療機関が多く、介護療養病床からの転換は、まだ方向性を決断できていない状況が窺われます。その背景には、政策動向の不透明さが理由として挙げられているようです。
本年、介護医療院創設が決定した以降では、新たな選択肢をどのようにとらえ、自院の現状を踏まえた判断が求められています。

2.新類型転換を検討する医療機関が目指す方向性

(1)地域包括ケアシステムを意識した戦略

2025年問題が迫り、国が推進する地域包括ケアシステムを機能させるためには、介護医療院で想定される医療・介護ニーズに対応できる高齢者医療や慢性期医療を提供することが求められます。
2025年までの最後の同時改定となる診療報酬・介護報酬改定が来年に予定されていますが、在宅医療重視の評価体系の見直しも検討されており、介護医療院の評価を含めて、政策動向には今後も注視する必要があります。

地域包括ケアシステムを意識した戦略

(2)自院ポジショニングの再認識

転換時期が迫っていたとしても、医療機関としては自院の診療圏を中心とする地域において、どのような役割をいかに担っていくかを検討する必要があります。
現在の療養病床「医療区分1」の患者のうち、7割は在宅等に復帰・移行する前提で各都道府県の地域医療構想を策定していますが、地域によって実情は異なるはずです。
自院の地域ニーズの正確な状況を把握し、またこれまで勝ち得た患者・利用者からの信頼を踏まえて、必要な役割と位置づけを示し、介護医療院を含めて様々な選択肢を検討することが重要です。

自院ポジショニングの再認識

 

■参考文献
厚生労働省「療養病床の在り方等に関する検討会」
厚生労働省「療養病床・慢性期医療の在り方の検討に向けて~サービス提供体制の新たな選択肢の整理案について~に関する参考資料」

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