「かかりつけ医」が果たす役割、患者申出療養の概要と混合診療の行方

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「かかりつけ医」が果たす役割、患者申出療養の概要と混合診療の行方

  1. 混合診療の認容から「患者申出療養」の創設へ
  2. 新設される「患者申出療養」の概要
  3. 「患者申出療養」の影響とかかりつけ医の役割

 


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1.混合診療の認容から「患者申出療養」の創設へ

1.制度創設の背景~保険外併用療養費制度と混合診療との関連

新たな保険外併用療養費制度の仕組みである「患者申出療養」が、来年4月にスタートします。
これは、現在の保険外併用療養費制度のなかの評価療養で実施されている「先進医療」を拡大し、患者ニーズが高まっているさまざまな先進的医療を迅速に受けられるようにすることを目的とするものです。

(1)先進医療は混合診療を例外的に認容

混合診療とは、公的保険が適用される保険診療と患者が自己負担で受ける保険適用外の自由診療を組み合わせたもので、日本では原則として禁止されています。
しかしこの例外として、医療技術の高度化や医療に対する国民ニーズの多様化に対応するため、公的な医療保険としてのサービスの水準を確保しつつ、患者の選択(患者の負担)による保険適用外の追加が認められており、これが保険外併用療養費制度です。
例えば、その安全性や有効性の観点から、保険診療としては認められていない治療法(陽子線治療や重粒子線治療など)をまず先進医療として認定し、こうした先進医療については、本来禁止されている混合診療を例外的に認めるというものです。

混合診療禁止の例外~保険外併用療養(先進医療)

(2)保険外併用療養費制度が抱える問題

健康保険で認められていない治療を実行する場合、患者は保険外治療の費用だけでなく、その他の検査や入院代など保険診療の費用(保険で認められている検査・治療法等)も含めて全額負担しなければなりません。
したがって、高額の患者負担が強いられることになり、治療を断念せざるを得ないケースが問題とされていました。

保険外併用療養費と患者負担の関係

保険外併用療養費は、健康保険から給付される部分の費用であり、患者負担部分は保険外併用療養費制度の「特別の料金」といいます《上記(1)》。
それに対して、保険外併用療養費の対象外のものは混合診療に該当するため、療養の給付分を含めてすべてが患者負担となります《同(2)》。
これは、混合診療を禁止している理由のひとつとして、「安全性や効果が確認されない限り、医療保険や公費を使わない」という原則があるからです。

混合診療に関する厚労省の基本的な考え方

このように、混合診療と同様、無制限に導入はできないものの、一定のルールのもとに認めようとする仕組みが保険外併用療養なのです。

2.現在の保険外併用療養費制度とその課題

現在の保険外併用療養費の構成

「評価療養」とは、主として医療の高度化に対応するもので、現在は保険診療としては認められていない医療であって、安全性や有効性、普及性などが確認されれば将来的に保険導入を検討すべき医療技術をいいます。
特に先進医療は、陽子線治療など現在108項目が承認されており、そのうち毎年数例が保険診療の対象となっています。
一方「選定療養」は、主として医療ニーズの多様化に対応するもので、保険診療の水準を超えるサービスとして、患者自らの希望により受ける医療をいいます。

保険外併用療養費の実施内容(抜粋)

(2)保険外併用療養費制度の課題

保険外併用療養制度の導入から8年が経過しますが、先進医療や薬価承認外薬品の保険診療への組み入れなどについては、以下のような問題点が指摘されています。

保険外併用療養費制度の課題

患者のニーズに適切に応えられない等の点から、混合診療のあり方や保険外併用療養費等における患者の選択権、医師の裁量権の制約といった問題が挙げられていたのです。

2.新設される「患者申出療養」の概要

1.「患者申出療養」創設までの経緯

(1)新たな保険外併用療養費制度としての位置づけ

患者申出療養は、保険外併用療養費制度の問題点を解消するため、国民皆保険制度の維持を前提に、現行の評価療養では必ずしもそのニーズに応えられない患者の救済を目的としています。
そのため、保険外併用療養費制度のなかに患者の切実な希望に応えられるような新たな仕組みを創設しようというものです。
2014年6月に閣議決定された『「日本再興戦略」改訂2014』において、患者申出療養は、このうち3つのアクションプランのひとつとして、国民の健康寿命の延伸を目指す新たな施策に位置づけられています。

 

「日本再興戦略」改訂2014の概要

(2)「患者申出療養」創設に伴う法改正

患者申出療養は、患者が最先端の医療技術などを希望した場合に、安全性・有効性等を確認したうえで、新規の技術等について申請し、保険外の診療と保険診療との併用を認めるかどうかの結論を出す仕組みです。
したがって、健康保険法の改正等により法的な枠組みが整えられ(改正健康保険法第63第2項第4号ほか)、来年4月から施行されます。

健康保険法(平成28年4月施行)※下線部が改正法による追加部分

2.患者申出療養の申請手順

(1)患者が利用する際の申請手続き

制度利用の大まかな流れは、以下のとおりです。

制度利用の大まかな流れ

また患者申出療養として前例のある技術については、その前例を取り扱った臨床研究中核病院が「患者に身近な医療機関で実施できるかどうか」を審査し(原則2週間)、その上で当該「身近な医療機関」での実施が可能となるケースもあります。

患者申出療養として医療を実施する流れ~2つのケース

(2)申請を受ける臨床研究中核病院の指定

申請先となる臨床研修中核病院については、社会保障審議会医療部会で審議され、現在は予算事業のなかで15病院を選定しています。
臨床研究中核病院はその役割から、大きく2つに分けられています。
それは、ヒトに新規薬物や機器を投与・使用する臨床研究を世界に先駆けて行う「早期・探索的臨床試験拠点」と、臨床研究の質を向上させるため、国際水準(ICH−GCP)の臨床研究や医師主導治験の中心的役割を担う「臨床研究品質確保体制整備病院」です。

(1) 早期・探索的臨床試験拠点(5病院)

・特定機能病院、国立高度専門医療研究センター、またはこれらに準じる病院
・がん、脳・心血管疾患等の重点疾患分野において、治験、臨床研究に精通する医師がいる
・夜間、休日を含め、重篤な有害事象に迅速に対応できる体制を有している

早期・探索的臨床試験拠点(5病院)

(2) 臨床研究品質確保体制整備病院(10病院)

・適切な研究計画を企画・立案し、国際水準に準拠して臨床研究を実施でき、中核病院としてほかの医療機関が実施する臨床研究を支援できる機能などを有する。

臨床研究品質確保体制整備病院(10病院)

これらの臨床研究中核病院では、患者からの「新規技術」に関する相談に対応する体制構築しておく必要があるため、厚労省は、(1) 相談窓口の設置、(2) マニュアルの整備や研修の実施、(3) 情報共有の体制整備、(4) 国へ報告する仕組み、などを例示しています。
また、相談窓口がいくつもあると患者に分かりにくいなどの点で、今後さらに専門的な窓口の整備などが求められています。

3.「患者申出療養」の影響とかかりつけ医の役割

1.患者申出療養に対する期待と懸念

(1)患者申出療養がもたらすメリット

患者申出療養が開始されることによって、がんなどの難治性の疾病を抱える患者やその家族にとっては、これまでの保険診療の枠の中で限定されてきた「治療の選択肢」が増えることになり、多くの高度な医療が受けられるようになります。
また、日本の医薬品・医療産業にとっては、最新の医薬品などの有効性や安全性のエビデンスが確立され、健康保険の適用を評価する足掛かりとなるため、医療技術の向上と発展に繋がるとされています。

患者申出療養のメリット

さらに、保険対象外の診療の拡大が、先進医療などに対応した民間医療保険の普及を後押しすることで、公的医療費や社会保障費などの医療費抑制の効果が期待できます。

(2)患者申出療養に懸念されるデメリット

患者申出療養制度は健康保険の範囲外の診療であるため、「金銭的にゆとりのある人だけ高度な医療を受けることができ、それ以外の金銭的に苦しい人は、現行の健康保険範囲内の医療しか選択できない」状況を招く可能性があります。
つまり、患者や家族の収入によって受けられる医療に「差」が生じ、人命や健康が金銭的な問題に左右されかねません。
これにより我が国の保険制度の特徴であるフリーアクセス(誰でも・どこでも・いつでも医療を受けられる仕組み)と国民皆保険制度が空洞化し、医療制度の崩壊につながることが懸念されます。
また、安全性に関するエビデンスが裏付けされていない治療法などが、インターネットなどで簡単に情報を収集することが可能となったことから、患者が自己判断に基づき安易な選択をしてしまうリスクも増えてきます。
さらにそうした患者に対して、利益を優先する医療機関が混合診療に便乗した医療サービスを展開することも考えられるため、医療事故や健康被害の多発につながる可能性も指摘されます。
加えて、先進医療に対応した民間医療保険の普及により、過剰な医療利用による混合診療の例外的な実施数が増加し、公的医療費や社会保障費が逆に拡大してしまうというリスクがあります。

患者申出療養制度のデメリット

2.かかりつけ医にも求められる制度等の理解

困難な病気と向き合っている患者の「かかりつけ医」として診療所が関わる場合には、患者申出療養に関する十分な情報と知識を備え、理解を深めておく必要があります。

(1)患者対応の徹底

患者申出療養の手続きは、患者の申出を受けた「かかりつけ医」のアドバイスが起点となります。
したがって、制度のメリットやデメリットだけでなく、この制度に関する十分な理解のもと、患者やその家族にわかりやすく説明し、同意を得ることが重要なポイントとなります。
そのためには、図表やパンフレットなどを国や臨床研究中核病院から取り寄せたり、自院で資料を作成したりするなどの工夫が求められます。
また、先進医療の観点から、現行の保険外併用療養費制度や承認先医療機関の情報も併せて説明できるように体制を整備しなければなりません。

(2)未承認医薬品情報の収集と適切な提供

現在欧米で承認されている医薬品のうち、国内未承認医薬品は200品目あります。
この未承認医薬品の中では、2009年4月に欧米で承認されたものが最も古い医薬品となっています。
つまり、欧米で承認されてから既に5年が経過しているにもかかわらず、日本ではまだ承認に至っていないわけですから、こうした医薬品の中でがんに有効なものの使用に関するニーズが患者や家族から寄せられることは、十分推測できます。
そのため、かかりつけ医としての診療所は、データベースなどを活用して、ドラッグラグ(新薬が実際に患者に使用できるようになるまでの時間差や遅延)の状況や必要な情報を、適切に患者・家族に提供する準備をしておく必要があります。

(3)有効性及び安全性についての理解

患者申出療養は、患者からの申請により開始されますが、初期の段階で当該療養に関して患者からの相談に応じるとともに、患者が求める療養の有効性や安全性について理解・納得したうえで申出を行うための支援をすること、及びかかりつけ医の協力義務について規定しています。
したがって当該療養がどこで実施されているのか、過去に実績のある療養なのかどうか、その場合の有効性や安全性はどうか、等の基本的な情報の提供に対しては、かかりつけ医である診療所が対応しなければなりません。

3.制度運用におけるかかりつけ医の役割

(1)患者からの申出に関する対応

かかりつけ医は、患者申出療養において、保険外の最先端医療技術を保険診療と併用することについて本人の希望を確認し、申出療養の適用に向け申請を補助します。
そしてその後は、かかりつけ医として、安全性や有効性を実施医療機関と協働してフォローする役割があります。

かかりつけ医として当初必要となる患者対応事項

(2)実施医療機関の情報提供

かかりつけ医の役割のうち、的確な情報提供は重要なもののひとつです。初めて治療を実施するものか、既に実施されているのか、その場合どこで実施されているのかといった情報は、厚労省からの情報提供がベースとなりますが、どこの医療機関で、どの程度の実績があるのか、医療費はどれくらいになるのか、そして何よりも重要な有効性と安全性に関する詳細な情報提供にも対応しなければなりません。

実施医療機関からの提供情報の把握

(3)実施医療機関と協働するフォローアップ

かかりつけ医本来の役割には、病気の治療のほか、診察や健康診断などによって患者の健康を守りながら、専門外の病気や高度医療が必要な場合には、患者情報を添えて適切な医療機関に紹介し、以後協働してフォローを行うというものがあります。
つまり患者が今までどんな病気で、どんな薬を飲んでいたか、日常的な所見や各種の検査データなどの提供も含めた実施医療機関との連携を重要視しており、紹介状に記載されている範囲にとどまる診療情報提供といえるでしょう。
一方、患者申出療養が開始されると、かかりつけ医にも実施医療機関からの情報提供に基づくフォローアップが求められます。
例えば、血中濃度データなどの共有によって計画的な治療管理の状況を把握したうえで、フォローを継続する必要があります。

実施医療機関と協働するフォローアップ

かかりつけ医として、診療所が患者申出療養に関わる場合は、実施医療機関との情報提供・共有が大きな要素となりますから、十分な知識を備え、理解しておくことが重要です。

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