次世代通信規格が企業経営を変える! 5Gテクノロジーの概要と活用事例

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次世代通信規格が企業経営を変える! 5Gテクノロジーの概要と活用事例

  1. 次世代通信規格「5G」の概要
  2. 産業別の経済効果と活用法
  3. 5Gテクノロジーの課題とリスク
  4. 5Gを導入している企業の事例

 


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1.次世代通信規格「5G」の概要

昨今、大きな注目を集めている次世代のモバイル通信方式「5G(ファイブジー)」は、最大20Gbpsもの大容量通信に加えてネットワーク遅延が少なく、多数の機器を同時に接続できるという特徴から、モバイルネットワークをスマートフォンのためのものから社会インフラを支える存在へと変えようとしています。
その5Gが普及することによる、企業経営に与える影響と変化、5Gを活用したビジネスモデルの事例を本レポートで解説します。

1.通信規格の歴史と進化

5Gとは、現行の「第4世代(4G)」の最大100倍の速さの次世代通信規格のことを指します。
毎秒10ギガ(ギガは10億)ビットの最高速度はアナログ方式であった1980年代の第1世代の100万倍です。
例をあげると2時間の映画を3秒でダウンロードできることになります。
モバイルの通信規格はこれまで、第1世代(1G)から第4世代(4G)まで変化しています。
5Gは文字通り、「第5世代」の通信規格であることを表しています。
これらの通信規格は約10年ごとに世代を大きく変えていますが、その理由は携帯電話自体の進化による利用スタイルの変化、それに伴うデータ通信量の増大が大きく影響しています。

通信技術の進化

(1)第1世代(1G)アナログ携帯電話時代

最初の携帯電話は、日本、米国、欧州の地域別に技術開発が進められ、アナログ無線技術の地域別仕様が策定されて商用化されました。
この「アナログ無線技術のモバイルネットワーク」が第1世代(1G)です。
1990年代になると、無線技術のデジタル化が進み、デジタル無線技術を用いたモバイルネットワークが標準化されてサービス提供が始まりました。

(2)第2世代(2G)デジタル化とデータ通信

第2世代(2G)は、デジタル無線による携帯電話システムです。
無線技術がデジタルになることで、データ通信サービスの提供が容易になりました。
メールをはじめとする携帯データ通信の利用が本格化しました。
国内では、1999年にNTTドコモがiモードを開始し、各種の情報提供やインターネットメールを携帯電話で使えるようになり、携帯データ通信の利用が一気に広がりました。

(3)第3世代(3G)初の世界標準

3Gでは、初めて世界標準の規格に統一されました。
1G、2Gも地域ごとに別々の技術で商用サービスが始まったので、当時の携帯電話は地域限定のものでした。
よって、今日のように1台の携帯電話を持ち歩いて世界中で使うことはできませんでした。
この問題を解決するために、国際連合の専門機関であるITU(国際電気通信連合)が標準化を進めたのが3Gです。
その特徴は「初めての国際標準」の他にもう一つあります。
それは継続的かつ急激な高速化が実施されたことです。
3Gの当初の開発目標だった2Mbpsという最大データ速度は2000年代に入って軽々とクリアされ、10M~20Mbpsクラスの高速化技術が実用化されるようになりました。

(4)第4世代(4G)スマートフォンと高速化

4Gは、3Gを経て、技術的な特徴から二つに分かれました。
一つは3Gの技術をベースに高速化する方法で3.5Gと呼ばれました。
もう一つはさらなる高速化のために4G向けの新技術を先取りした高速化技術「LTE(Long Term Evolution)」です。
ユーザー目線で4Gを位置付けると、4Gは「スマートフォンのためのモバイルネットワーク技術」であり、活用シーンに適した技術開発が始まりました。

2.5Gの特徴

これまで1Gから4Gに至るまで、通信速度の向上が進んできました。
5Gもより高速化を実現するものですが、それだけでなく「多数同時接続」「超低遅延」といった特徴を持っています。

5Gの特徴

4Gまでが基本的に人と人とのコミュニケーションを行うためのツールとして発展してきたのに対し、5Gはあらゆるモノ・人などが繋がるIoT時代の新たなコミュニケーションツールとしての役割を果たすことになります。
「多数同時接続」とは、基地局1台から同時に接続できる端末を従来に比べて飛躍的に増やせることです。
例えば、これまでは自宅でPCやスマートフォンなど数個程度の接続だったものが、5Gにより100個程度の機器やセンサーを同時にネットに接続することができるようになります。
例えば倉庫に保管された多数の物品の位置や中身の把握、また、災害時に大勢の避難者にウェアラブル端末を着けて健康状態を遠隔で確認する、といった用途への活用が見込まれます。
「超低遅延」とは、通信ネットワークにおける遅延、即ちタイムラグを極めて小さく抑えられることです。
例えば、自動運転のように高い安全性が求められるものにおいては、リアルタイムでの通信が必要です。
また、ロボットの遠隔制御や遠隔医療といった分野においても超低遅延の効果が発現できます。
このように、5Gは来るべきIoT時代の重要な基盤となるものです。
その実現により、コミュニケーションのあり方の変化、そして新たなビジネスの進展に繋がることが期待されます。

高速通信、超低遅延、多数同時接続を可能にする5G

2.産業別の経済効果と活用法

1.産業別経済効果の試算

大手通信各社は5Gを巡り、様々な業種と連携して新たな業務用途を掘り起こそうと取り組んでいます。
これらが狙い通り順調に広がると、個人のスマートフォン利用が主体であった4Gまでとは桁違いの経済効果が見込めるといわれており、その金額は47兆円に達する可能性があります。
総務省が「電波政策2020懇談会」の参考資料で試算した、日本国内の製造や交通、医療など10種類の産業別にみる5Gの経済効果は以下のとおりです。

産業別経済効果の試算

経済効果で最も大きいのが交通分野です。
渋滞や交通事故の低減、自動運転の普及による運転時間の有効活用などを合わせて21兆円の経済効果を見込んでいます。
製造業・オフィス関連では、IoTやビッグデータの活用促進により工場業務の効率化、事務機器の保守サポートの削減などが進むと13兆4,000億円、医療・健康・介護分野では、IoTを活用して疾病リスクを見える化し、発症を予防するサービスが立ち上がれば生活習慣病が減少し、医療費が1兆円程度抑制されるとして5兆5,000億円程度と、これらを含む各分野の経済効果を足し合わせると46兆8,000億円になります。
ここに含まれていないエンターテインメント業界なども加えれば、50兆円に手が届く可能性もありそうです。

2.交通、移動、物流分野における5Gの活用

低遅延という特長を持つ5Gを活用することで、リアルタイムでの車の制御が可能となり、「隊列走行」「完全自動運転」の実現が期待されています。
総務省によると、自動運転による運転時間の有効活用、交通事故・渋滞の低減、カーシェアリングの普及の経済効果は合計で21兆円にのぼると予想されています。
自動運転車は、車両に搭載されたセンサーやAI(人工知能)により周囲の状況を検知・解析し、アクセルやブレーキ、ハンドル操作などを制御しますが、安全性をより高めるため、周囲を走行する他の車両やインフラ、ダイナミックマップ、さまざまな情報が蓄積されたサーバーなどと常時通信し、相互に情報を送受信します。

5Gを活用した自動走行システムの定義と実現が見込まれる技術

3.工場、製造分野における5Gの活用

人手不足や熟練工の減少といった問題に直面する製造現場で、「デジタル化」の動きが広がっています。
IoTにより工場内の各設備の稼働状況を可視化し、故障などの予兆を検知し、さらに最適制御まで実現することで、生産性を向上させる取り組みが進んでいます。
製造業でIoT化が進む背景にあるのは人手不足です。
そのため、導入が期待されるのはロボット制御や、画像認識による品質検査の自動化など、生産性を大幅に高めるアプリケーションです。

製造業の5G・IoT利用

4.医療分野における5Gの活用

近年、遠隔医療には追い風が吹いています。
各社、医療機関において5Gを使った医療分野での研究開発が進められており、すでにいくつか実証実験が行われているのは「遠隔医療」への活用です。
NTTドコモは、へき地においても都市部総合病院相当の高度医療を提供し、都市部と地方の間の医療格差をなくすことを目的として和歌山県、和歌山県立医科大学の協力のもと、5Gによる高精細映像伝送を活用した遠隔診療サービスの高度化に関する実証試験を実施しています。

医療分野の実証試験事例

3.5Gテクノロジーの課題とリスク

1.5Gテクノロジー普及における課題

5Gの課題としては以下の4点があげられています。
第1に個人の需要を開拓できるか、第2に高周波技術を端末に低コストで搭載できるか、第3に投資に見合う経済効果が確実に得られるか、第4に世界中で同じ周波数が使えるか、です。

5Gの導入・普及に向けた4つの課題

(1)個人で大容量を使う用途を開拓すること

第1の課題は、個人ユーザーが毎秒10ギガビットもの超高速通信を生かせる用途を見いだせるかです。
携帯電話大手は「用途の開拓こそ重要課題」として、多くのユーザー企業に声をかけ、5Gの使い方を探る実証実験に力を入れています。
自動車や警備、エンターテインメント産業、製造業などがその一例です。
一方で超高速通信を必要とする個人の活用シーンがまだ描けていない現状があります。
例えば4K映像の配信サービスは毎秒25メガ~80メガビットの帯域で十分で、4G(LTE)で既に提供されています。
3Gは「iモード」「写メール」などのヒットサービスがデータ通信の需要を生み出し、4Gはスマートフォンや動画サービスが高速通信への需要をさらに引き上げました。5Gで同じような個人向けの「コンテンツサービス」が現れるかは未知数です。

(2)5G技術を端末に搭載できるか

2番目の課題は、28ギガヘルツ帯など新たな周波数を使うことに伴うものです。
5Gの基地局は都市部に密に設置される見通しですが、電波が届きにくい特性は不利に働きます。
高周波を増幅する半導体、通信端末に搭載するアンテナや半導体に求められる技術は、従来と大きく異なります。
これらを小型化・低価格化する研究開発は急速に進んでいますが、まだ発展途上です。
5G対応の通信端末は高価かつ大型となり、販売が伸び悩む恐れがあります。

(3)投資に見合う経済効果が見込めるか

第3の課題は、投資に見合う経済効果を呼び起こせるかです。
5Gで基地局を整備すると、設置箇所は大幅に増える見通しです。
その対策として、通信機器メーカーは基地局を低コストで整備できる技術開発を進めています。
NTTドコモは「携帯電話の設備投資は技術革新などにより緩やかに減っている。
5Gでも投資を急増させず整備できる」とみています。
ただし5Gへの投資を継続するには、着実な普及が必要といえます。

(4)国際的に活用できるか

第4の課題は、5Gの周波数は国ごとに割り当てが異なる可能性があり、国際ローミングの障壁になる懸念があります。
5Gで当初使われる周波数は、2019年の国際会議で確定する見通しです。

2.5Gに潜むリスク

5Gの普及で予想される負の側面にも目配りをしておく必要があります。
高速で低遅延、多数同時接続が可能になる5Gは生活の利便性を高める一方、気をつけるべき点もあります。
以下ではその3つのリスクについて解説します。

5Gに潜む3つのリスク、セキュリティーリスク、プライバシーリスク、電磁波リスク

4.5Gを導入している企業の事例

1.完全無人タクシーの実用化(DeNA)

(1)無人タクシーの概要

IT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)は日産自動車と連携し、2015年から完全無人タクシー「(イージーライド)」の開発を進めています。
2019年3月に2度目の実証実験を実施しました。
アプリで配車依頼をすると指定場所に車両が到着します。車に貼られたQRコードにスマートフォンをかざすとドアが開き、車内の「Goボタン」を押すと出発します。乗車中は車内モニターにお勧め観光情報が流れるなど、目的地に着いて降車するまで、人を介さずに自動で案内します。
操作方法を説明する人が居ないため最初は戸惑いそうですが、スマートフォンの小さな画面から正確に情報を伝えるのは、ゲーム事業で培ったDeNAの得意領域です。

(2)5Gを活用して管制に転送

無人車両の商用化には、遠隔監視体制が必須となります。
実験では車内の乗客の様子を、管制センターで複数台同時に遠隔監視しました。
要望次第では、モニターに映し出されたオペレーターと会話ができる「おしゃべりボタン」のような、遠隔対話機能も検討するようです。
こうした機能では、車両と管制センターの間で迅速に映像データを伝送する必要があり、5Gはそこに欠かせない技術になります。
DeNAはEasy Ride以外にも、タクシー配車アプリ「MOV」を展開し、タクシーの運行管理システムを開発しました。
将来的には自動運転車両をタクシー事業以外の宅配などのサービスへの拡大を検討しています。

Easy Rideサービス

2.災害時における社会インフラの迅速かつ安全な復旧対応を実現

KDDI株式会社、株式会社大林組、日本電気株式会社は、2018年12月3日から2018年12月14日まで大阪府茨木市にて建設中の安威川ダムの施工エリアの一部で、5Gを活用した2台の建設機械(以下建機)を遠隔操作により連携させる作業(以下本実証試験)を実施し、成功しました。災害時において社会インフラの迅速な復旧が急務である一方、土砂崩れなどの2次災害のリスクがあるため、作業現場の安全を確保する観点から建機を遠隔で操作する遠隔操作システムの活用が期待されています。
本実証試験では、5Gの高速、大容量および低遅延通信の特長を活用し、2台の異なる建機(バックホーとクローラーダンプ)を遠隔操作により連携させて土砂を運搬することに成功しました。
各建機には、前方に2Kカメラを3台、全天球カメラを1台搭載し、計8台のカメラ映像と音声情報を5Gでリアルタイムに伝送することで、搭乗操作と同等の操作性を提供できることを確認しました。

遠隔操作による作業実験

さらに、国内で初めて対話型の音声制御システムをICT施工の現場に導入し、音声のみで5Gを搭載した建機を遠隔操作することに成功しました。
これにより、一人のオペレーターで2台の建機を同時に操作することが可能となり、熟練した建設従事者の不足を補ってさらなる作業効率の向上に寄与できることを実証しました。

3.5Gの活用で高度化する置き薬モデル

富山の置き薬モデルの商売は、ICTを活用することでますます発展しています。
例えば、コカ・コーラボトラーズジャパンは、2018年11月に、小規模オフィス向けの飲料販売サービス「Coke mini」を開始しました。(図1)
ペットボトルを格納できる小型冷蔵庫をオフィスに設置し、QRコードを記載した商品リストも置きます。
利用者は自分のスマートフォンで購入する商品のQRコードを読み取り、「LINE Pay」もしくは「楽天ペイ」で支払う仕組みです。
この方法では、単に事業機会を逃さないだけではなく、補充品を運ぶときに必要な数だけ納入できる、売れ行きをリアルタイムで把握できるといったメリットもあります。

ICTで進化した富山の置き薬商法を展開する「Coke mini」運用の仕組み

超多数接続という特長を持つ5Gを活用したIoTを応用すれば、より多くの商品を対象にした、より細かくタイムリーな対応ができるようになることになります。
商品を入れた箱や棚にセンサーを取り付けたり、一つひとつの商品にRFIDタグを付けて商品の消費状況を把握すれば、地域の各家庭やオフィスでの利用状況を一括把握できます。
こうした方法は、小売店舗や工場での在庫管理にも活用できます。
例えば、コンビニエンスストアで売っているアイスクリームは、売り場の保冷庫にしか在庫がありません。
余分な設備を設置しなくてもよくするためです。
IoTを活用した富山の置き薬モデルでの在庫補充をすれば、より効率的な在庫補充ができるようになります。
工場でも製品の原料や部品を一定量だけみなし納入し、5Gで倉庫や棚の高精細な画像を送り、そこから分かる消費状況に応じてジャスト・イン・タイムで納入すれば、最小限の在庫に抑えることができます。
こうした部品の流通手法は、市場動向に応じて生産品目が頻繁に変わる多品種生産ラインで特に効果を発揮することでしょう。

 

■参考文献
『日本経済新聞』
『週刊ダイヤモンド 2019年 3/23 号』(株式会社ダイヤモンド社)
『週刊東洋経済 2019年5/25号』(東洋経済新報社)
『インプレス標準教科書シリーズ 5G教科書 ―LTE/ IoTから5Gまで』(インプレス)
『すべてわかる5G大全 2017』(日経BPマーケティング)

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