ダイバーシティ経営の一翼を担う!高齢社員の戦力化推進のポイント

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ダイバーシティ経営の一翼を担う!高齢社員の戦力化推進のポイント

  1. 高齢社会の進展と戦力化の必要性
  2. 定年引上げ、継続雇用延長の進め方
  3. 65歳超雇用推進助成金の活用
  4. 高齢者の戦力化を推進している企業の事例

 


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1.高齢社会の進展と戦力化の必要性

新たなステージに突入した高年齢者雇用

高齢化が進む日本では、全人口に占める65歳以上人口の割合は上昇を続けており、平成28年には27.3%、平成72年(2060年)には39.9%と4割近くに達する見込みです。
少子化の進展も伴い、中長期的には労働力人口の減少が見込まれることから、高年齢者が長年培った知識・経験を十分に活かし、意欲と能力のある限り社会の支え手として活躍し続けることのできる社会の構築が求められています。
今回は、労働力不足の中で、高齢社員を自社の戦力として活用するためのポイントについて解説します。

高齢世代人口の比率

『平成29年「高年齢者の雇用状況」集計結果』(厚生労働省)によると、希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は76.6%となっています。
一方で、高年齢者の側は、7割近くが65歳を超えても働きたいと答えています。
高年齢者雇用は、雇用確保から戦力化のステージに入っています。
60歳以降も企業にとって頼りになる戦力として活躍し、さらに、65歳以降も意欲と能力のある限り活躍し続けることができる社会とすることが求められているといえます。

定年制度・継続雇用制度の現状

平成28年の「高年齢者雇用状況報告」(厚生労働省)によると、定年年齢としては60歳が最も多く、企業全体の78.7%を占めています。
これに対し、65歳定年の企業は14.9%、65歳を超える定年年齢を定めている企業は1.1%、定年制度はないという企業は2.7%にすぎず、これらを合わせても18.7%にとどまることから、定年年齢の引上げには積極的には取り組まれていないのが現状です。

定年制の割合

66歳以上の希望者全員を対象とした継続雇用制度を定めている企業は4.7%ありますが、これに66歳以上の定年を定めている企業と定年制度なしの企業を加えても、働くことを希望する者全員が66歳以上まで働ける仕組みのある企業は8.5%、希望者全員が65歳を超えて働ける仕組みのある企業は、かなり限られています。

65歳を超えて働ける企業の割合

現在の日本は人手不足基調が続いており、労働力人口が減少していくなか、高年齢者が有する知識・ノウハウが不可欠な分野も数多くあります。
また、平成37年(2025年)までに年金の支給開始年齢が段階的に65歳に引き上げられ、働く側にとっても、「働かなければいけない時代」を迎えたといえます。
企業側は、働き手のニーズに応えた雇用制度を早急に検討する必要があります。

定年引き上げか再雇用制度のままかの選択肢を検討

定年を引き上げるべきか、再雇用制度のまま継続するかを悩まれている経営者も多いはずです。
今後の企業経営のため、メリットとデメリットを比較しながら検討することが求められます。
一般的な例の比較表は次のとおりです。

メリットとデメリットと比較

定年引き上げにはメリットもありますが、組織の若返りの遅れ、人件費負担、人事制度全体の見直しの必要性などの諸問題も抱えています。
企業に対しては、概に65歳までの雇用確保措置を講ずることが求められており、雇用する以上、戦力化は必要です。
定年引き上げは、60歳から65歳までの社員を戦力化する強力な手段です。
「いずれ導入するのであれば、企業イメージなどもあり、他の企業よりも早く導入しよう。」「同業他社よりも人材確保面で優位に立とう。」と考える企業も多数あります。

2.定年引き上げ、継続雇用延長の進め方

定年引き上げ、継続雇用延長を進める手順

高年齢者を戦力化するためには、自社における現状把握とともに基本方針を決定する必要があります。
その後、自社にあった人事制度の構築と運用のほか、定期的な点検が求められます。
以下は、定年引き上げ、継続雇用延長を進める手順の例です。

定年引き上げ、継続雇用延長を進める手順

定年引上げの場合は、「2.制度検討・設計」段階の「制度、施策を設計」、「各職場、職種で業務内容を具体的に決定」、「3.実施」段階の「高齢社員への役割の明示」、「高齢社員の評価・面談」が特に重要です。
とりわけ、高齢社員の役割が変わり、それに伴って賃金が変わる場合は、役割の明示や評価・面談に加え、各種施策を丁寧に行うことが必要です。

現状把握する際のポイントと推進体制の整備

高年齢者雇用に関して、自社で把握すべきことは、大きく分けると以下の3つです。
制度面、ソフト面、および検討のベースとなる実態を体系的に整理することで、自社の基本方針に結びつけることが可能になります。

現状把握する際のポイントと推進体制の整備

現状を把握し、課題が見えてきたら、次は経営トップがこれらをしっかり理解し、解決に向けた取組みに関与していくことが必要です。
トップ・経営層の本気度によって、高年齢者を戦力化できるかどうかが決まります。
トップ・経営層の理解と関与のもと、自社が高年齢者雇用に取り組む目的とあるべき姿を明確にすることが必要です。
また、高年齢者雇用を積極的に進めるためには、高年齢者が「戦力」として必要であることを社員全体に理解してもらわなければなりません。
さらに、取組みを進めていくためには、人事部門などと現場がともに問題意識を共有・検討し、意見を吸い上げ、周知などを進めやすくするための体制が望まれます。
こうした手順を踏んで準備ができたところで、企業としての基本的な方向性を決めることになります。

定年制度や定年引き上げ方についての検討手法

定年年齢を引き上げる場合、どのような定年制度にするのか、また、引上げ方はどうするのかについて検討する必要があります。
特に、定年引き上げによって引き続き社員の身分を継続する60歳以降の社員の役割・処遇については、コストにも関わるため、分析が必要です。
定年引き上げにあたって検討すべき事項のうち、主なものを以下に示します。

定年引き上げにあたって検討すべき事項

戦力となってもらうためには、これまでの経験を活かせる職務に就いてもらうのが一番ですが、具体的に期待する役割としては、プレーヤーとしての業務面での貢献の他、管理職のサポート役、知識・技能・ノウハウの伝承など、いくつかのパターンが考えられます。
職場や業務の性格、高齢社員の人数によっても違ってくると考えられます。
また、賃金は、企業にとっても、社員にとっても、大きな関心事です。
企業側の立場としては、賃金を払う以上、それに見合った役割を果たしてもらうことが必要です。
一方、社員側からみれば、モチベーションを維持して働くためには、期待される役割や就業自由度(労働時間、異動)、成果を求める度合いなど、働きに見合った賃金が必要です。
そのためには、働きに対して公正な評価を行い、賃金制度を企業と社員の双方にとって納得できるものとすることが重要です。

3.65歳超雇用推進助成金の活用

3種類ある65歳超雇用推進助成金

本助成金は、大きく分けて以下の3種類です。
そのうち「65歳超雇用推進助成金」は、「ニッポン一億総活躍プラン」を受け、将来的に継続雇用年齢や定年年齢の引上げを進めていく必要があることから、65歳以上となる定年年齢の引き上げや65歳以降の継続雇用延長を行う企業に対する支援のために設立された助成金です。

65歳超雇用推進助成金

65歳までの安定した雇用確保措置は、既に大部分の法人で導入済みです。
しかしながら、2017年1月の雇用保険法改正により、65歳以降の新規採用においても要件を満たす限り一般被保険者とされ、一部から75歳以上を高年齢者として再定義する提言もあるように、時代は確実に「65歳超現役社会」を迎えようとしています。
これからの意欲ある高齢労働力を積極的に雇用していくため、助成金の活用も検討すべきです。

支給申請までの流れ

(1)はじめに

65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)は、労働協約または就業規則による65歳以上への定年の引き上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかの制度を実施した事業主に対して助成されます。
ただし、1事業主(企業単位)1回限りとなります。

支給申請までの流れ

(2)事前に確認すべきこと

本助成金制度を活用するにあたり、以下の4点を確認する必要があります。

事前に確認すべきこと

(3)定年の引上げ等の実施

就業規則等により、前述(1)のいずれかの制度を実施し、就業規則を労働基準監督署へ届け出る必要があります。
また就業規則により定年の引上げ等を実施する場合は、「専門家等に就業規則の改正を委託し、経費を支出した」こと、または「労働協約により定年の引上げ等の制度を締結する場合はコンサルタントに相談し、経費を支出した」ことが条件になっています。

(4)申請の手続き

助成金の支給を受けようとする事業主は、支給申請書に必要書類を添えて、制度の実施日の翌日から起算して2ヶ月以内に、各都道府県の独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構支部高齢・障害者業務課に提出します。

65歳超雇用推進助成金

(5)受給額

「対象被保険者数」及び「定年等を引上げる年数」に応じて、以下の額を受給することができます。

受給額

本助成金は、国の助成金であり、国が定める他の助成金同様、「支給申請日の前日から過去1年間に、労働関係法令の違反を行った事業主」が受給できない等、一定のルールがあります。
支給要件及び申請方法を詳しく説明した「支給申請の手引き」及び「申請様式」は、機構ホームページからダウンロードできます。支給申請の手引きを確認の上、申請して下さい。

4.高齢者の戦力化を推進している企業の事例

定年廃止により、中途採用市場での優秀な人材を確保

定年廃止により、中途採用市場での優秀な人材を確保

同社は、金属製品を製造している従業員約200名の企業です。
製造業としては平均年齢39.4歳と比較的若く、定年を廃止することにより、中途採用市場での優秀な人員確保も実現しています。
自ら退職年齢を決めさせることにより、自律的なキャリア形成を促しているのが特徴です。
賃金は、「年齢給+勤続年数給+役職給」で構成され、定年制の廃止に伴い、年功型賃金を見直し、年齢と勤続年数で決まる「基本給」の他、職能と職階で決まる「役職給」により、年収総額が決まるような賃金体系としています。
また、年齢給は59歳をピークに逓減させ、評価制度の導入による処遇への反映も実施しています。
60歳以上の社員については「高年齢者雇用」と捉えるのではなく、「第2ステージの人材活用」と捉え、定年廃止により以下の効果が生まれています。

定年廃止の効果

弾力的な勤務体制により、高齢社員の要望に沿った働き方を実現

弾力的な勤務体制により、高齢社員の要望に沿った働き方を実現

同社は、お好み焼きをメインとした飲食サービス業を営む従業員約250人の企業です。
定年制廃止以前から実質的にエイジフリーでしたが、さらに進んで2012年に定年を廃止しました。
高齢社員に安心して働いてもらえるよう、弾力的な勤務体制やワークシェアリングなどにより、高齢社員の要望に沿った働き方を実現しています。
また、お好み焼機材のレンタル業、銭湯事業を開始するなど、高齢社員の新しい職域を開発したことにより高年齢者の戦力化の幅を広げています。
賃金は、正社員、パートタイマーとも時給制で、各種手当(日曜祝日手当、遅番手当、連続勤務手当、健康手当など)も同じように支給され、同一労働同一賃金が定着しています。
さらに、本部主導で評価制度(接客態度や責任感を重視)も実施され、賞与に反映されています。
また、高年齢者の戦力化に向けて以下の運用が実践されています。

高年齢者の戦力化に向けての運用

生涯現役をテーマに安全、健康、快適な職場環境づくりを推進

生涯現役をテーマに安全、健康、快適な職場環境づくりを推進

同社は、高機能性樹脂フィルムの打抜き加工や光学系高機能フィルムの加工、販売をメインとする従業員41人の中小企業です。
同社では長い間新卒者を採用できず、中途採用の募集をしても応募が少ないなど、慢性的な人材不足が続いていました。
そのため、定年を70歳に引き上げるとともに、高年齢者の採用に積極的に取り組みました。
その結果、50歳代後半から60歳代の者を新たに採用することができ、50歳代後半で入社した従業員は、採用後10年近く経過しましたが、今では監督職として部下の指導にあたっています。
賃金は、全社員同じ賃金テーブルで運用され、評価制度も導入し、部門長を含む役員5名で評価を行っており、結果は昇給および昇格、賞与に反映されています。
運用上では、次のような工夫に取り組みました。

運用上の工夫

高齢社員の戦力化は、若手社員の戦力化同様に企業にとって重要なテーマです。
企業によって置かれている状況、抱えている課題は様々ですが、自社の人事制度の構築の参考になれば幸いです。

 

■参考文献
『平成29年版高齢社会白書』内閣府
『平成29年労働力調査』総務省
『平成28年・29年「高年齢者の雇用状況」集計結果』厚生労働省
『エルダー2017年5月号』独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
『65歳超雇用推進マニュアル』厚生労働省

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