業務の効率化・自動化を実現する保健医療分野におけるAI活用の動向と事例

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

業務の効率化・自動化を実現する保健医療分野におけるAI活用の動向と事例

  1. 新型コロナウイルスで変わる患者意識
  2. 保健医療分野のAI活用に向けた国の動向
  3. スマートフォン、AI活用によるサービス向上事例


この記事をPDFでダウンロードする。

 

1.新型コロナウイルスで変わる患者意識

1.新型コロナウイルス感染症拡大による生活と意識の変化

(1)新型コロナウイルス感染症への不安と国の外出自粛要請による影響

公益社団法人日本医師会「第7回日本の医療に関する意識調査」によると、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の蔓延により82.1%の国民が生活の不安を感じ、96.8%が外出自粛要請に従っていました。
また、強制的な外出禁止や休業などが必要と考える人の割合が93.6%にのぼり、新型コロナが患者に与えた影響として、外出自粛による受診控えが起こり、今も少なからず続いていることが考えられます。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大による生活の不安、国の外出自粛要請に従ったか(左)、強制的な外出禁止・休業は必要と思うか(右)

(2)生活全般における意識の変化

外出の減少により精神的不調やストレスを感じるようになった人は35.6%で、約4割にのぼります。
運動不足によって体の不調を感じる人は20.7%でした。
また、新型コロナの感染拡大をきっかけに感染症やワクチンなど医学への関心が高まったことや、医療・保険の重要性を感じたと回答した方、自身の健康意識が高まったと回答した方が一定数おり、医療・健康に対する患者の考え方が変化してきたといえます。
このことから、生活様式の変化による患者の心身機能、健康への影響に対応する医療が必要とされていることがわかります。

新型コロナの感染拡大による生活全般における意識の変化

(3)医療機関受診への不安

医療機関の受診が不安と回答した割合は69.3%にのぼり、患者が医療機関受診に対する不安が高まっていることがわかります。
また、男女別、年齢層別にみると、70歳未満の年齢層では男性より女性のほうが不安と感じている人が多い傾向がみられました。

医療機関の待合室などで感染症に感染する不安、医療機関の待合室などで感染症に感染する不安 -男女別・年齢別

こうした調査結果から、医療機関は、受診に不安を抱える患者に対して、どのようにして医療サービスを提供していくかを、真剣に考えていかなければならない時代に入ったといえます。

2.受診形態の変化とオンライン診療の今後について

(1)受診形態の変化

本年4月~5月で受診の必要があった人のうち、対面での受診を控えた人の割合は14.6%で、そのうち約半数は慢性疾患などの定期受診の患者という結果になりました。
慢性疾患などの患者には、定期的に受診する必要のある方もいますので、対面診療での不安を軽減するような取組が必要となります。

受診の形態の変化

(2)今後のオンライン診療のあり方について

こうした新型コロナの影響を踏まえ、政府は安全性と信頼性をベースに、初診も含めオンライン診療は原則解禁することを検討しています。
オンライン診療の安全性と信頼性については、オンライン診療を行うことによる患者の利便性等のメリットと、対面診療を行わないことによる疾患の見逃し・重症化のリスクや、患者と医療機関の感染やトラブルのリスク等を総合的に考慮するとしています。

2.保健医療分野のAI活用に向けた国の動向

1.保健医療分野におけるAI開発の方向性

厚生労働省では、平成29年6月に「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」を開催し、①我が国における医療技術の強みの発揮、②我が国の保健医療分野の課題の解決(医療情報の増大、医師の偏在等)の両面から、特にAI開発を進めるべき領域を「重点6領域」(具体的には、ゲノム医療、画像診断支援、診断・治療支援、医薬品開発、介護・認知症、手術支援)として選定し、これらの領域を中心とした研究開発支援や必要な制度設計等を進めてきました。

健康・医療介護・福祉分野においてAIの開発・利活用が期待できる領域

 

保健医療分野におけるAI活用によって期待されること

一方、諸外国におけるAI開発は急速に進んでおり、スピード感を持って課題や対応策について早急に検討する必要が生じています。
厚生労働省では、AI開発及び利活用促進に向けて幅広い視点から議論を行い、自国にて取り組むべき事項を検討することを目的に、「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」を平成30年7月に設置して今後の方向性を議論しています。

2.AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システムの実現に向けて

(1)AIホスピタルの概要

近年、医療が高度化・先進化・多様化・個別化されたことにより医療関係者と患者や家族間だけでなく、先端研究者と医療関係者間に大きな知識・情報格差が生じています。
また、最先端の診断や治療法を医療現場へ普及するにあたり、技術の標準化やデータ解釈などについて厳格な規定が必要となっています。
さらに、高度化に伴って、医療従事者の負担が過度に増えていることが社会問題化しています。
そこで、国家プロジェクトである内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)では、医療分野における課題を解決し、今後の医療を支えるために科学技術の活用が不可欠であるとして、「AIホスピタルによる高度診断・治療システム」の開発、社会実装に向けて研究が進められています。

近未来のAIホスピタル、本プロジェクトの各テーマ

 

診療時音声情報のAIによる文章化、AIによる患者や家族への説明の補助

(2)AIホスピタル実現による期待される効果

本プロジェクトの成果によって、個々人の遺伝的、身体的、生活的特性等の多様性を考慮した適切かつ低侵襲の治療法・治療薬を提示することが可能(最終的に患者が選択)となり、治療効果の低い治療薬、治療法を回避できるだけでなく、患者の早期の社会復帰にもつながり、これに関わる医療費の抑制と労働力の確保が想定されています。
また、AI技術を応用した血液等の超精密検査等による診断は、がん等疾患の早期発見、再発の超早期診断、治療効果の高精度な把握に応用可能と期待されています。
がん分野における経済的効果としては、治癒率の向上(5年生存率の10%の向上)と高額な医療費の削減(年間数千億円)につながると期待されています。

3.スマートフォン、AI活用によるサービス向上事例

事例1|スマートフォンを使った音声入力カルテ(ワークシェアリングサービス)

(1)ワークシェアリングサービス開発の背景と目的等

単に音声認識でテキスト化するだけでなく、入力した情報をリアルタイムで共有できるため「AI音声認識ワークシェアリングサービス」と位置付けています。
昨今、医療機関での人材不足や業務負担増が大きな社会問題となっており、医療現場での働き方改革の模索が続けられています。
そのような状況のなか、株式会社アドバンスト・メディアでは、AI音声認識とスマートフォンを活用することでスムーズな情報入力を行い、現場の業務負担軽減とスムーズな情報収集・活用を行うことを目的とした、ワークシェアリングサービスをA病院と共同開発しました。

サービス概要、サービス概要イメージ

(2)A病院における導入の背景と導入効果

共同開発を行ったA病院のリハビリテーション科における導入の背景と導入効果は以下のとおりです。
クリニックにおいてもカルテの音声入力は、業務時間の短縮に繋がります。

A病院における導入の背景と導入効果、A病院における導入効果例

(1)AI問診サービス開発の背景と目的等

これまで、医療の現場では、問診やカルテ記載業務の業務負担や問診に関連した若手医師の臨床教育、看護師の適正配置等に関する課題が発生していましたが、Ubie株式会社はこうした課題を解決することを目的としてAI問診サービスを開発しました。

主な機能、具体的な使い方、画面イメージ

(2)AI問診サービスの導入実績・効果等

現在、AI問診サービスは一般内科の外来や救急時間外ウォークインなどで導入されています。
現状、内科全般を推奨していますが、今後は全診療科目に対応する予定です。
導入施設は、診療所から大病院まで200施設超の利用実績があります。

AI問診サービスの導入効果、クリニック向けAI問診ユビーの特長

少子高齢化による労働力人口の減少や新型コロナへの対応は喫緊の課題となっています。
自院においても、こうした課題に対しては、患者目線で受けたいサービス・満足できるサービスを心がけて取り組む必要があります。

 

■参考資料
公益社団法人 日本医師会:第7回 日本の医療に関する意識調査
厚生労働省:令和元年度少子高齢社会等調査検討事業 報告書
保健医療分野AI開発加速コンソーシアム議論の整理と今後の方向性
今後のデータヘルス改革の進め方について(概要)
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所:戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム研究開発計画
AmiVoice iNote、AI問診ユビー

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。