職員の健康確保と就業環境改善を図る勤務間 インターバル制度の概要と運用方法

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職員の健康確保と就業環境改善を図る勤務間 インターバル制度の概要と運用方法

  1. 勤務間インターバル制度の概要
  2. 導入・運用に向けた取組の全体像と制度設計
  3. 勤務間インターバル制度導入と運用方法


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1.勤務間インターバル制度の概要

1.2勤務間インターバル制度が注目される背景

(1)長時間労働への対応

厚生労働省から、「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」が公表されました(令和2年3月30日)。
勤務間インターバル制度は、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保する仕組みです。
勤務間インターバル制度が注目される背景には、長時間労働に起因する健康被害が増加し、長時間労働を是正する必要性があると、社会全体で認識されたことが挙げられます。
長時間労働を原因とする健康被害等が社会問題化したことを受け、2019年4月から(中小企業は2020年4月から)働き方改革関連法で「時間外労働の上限規制」が新たに設けられ、1か月及び1年の時間外労働の時間に上限が設定されました。

時間外労働の上限規制(※医師は適用猶予)
また、職員が健康な生活を送るために必要なインターバル時間を確保するため、勤務と次の勤務の間隔を一定時間空ける勤務間インターバル制度が導入されました。
長時間労働となった場合でも、翌日の勤務開始時刻を調整することで、一定の休息時間を確保することができます。

(2)ワーク・ライフ・バランスの確保

医療機関においては、業務の繁忙期、あるいは、夜勤、交替勤務制といった勤務形態によって、終業時刻から次の始業時刻まで十分な休息時間がとれない場合があります。
勤務間インターバル制度は、労働者が十分な睡眠時間や生活時間を確保し、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることができる職場づくりを可能とする制度です。

2.勤務間インターバル制度の概要

2018年6月29日に成立した「働き方改革関連法」に基づき労働時間等設定改善法が改正され、前日の終業時刻から翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することが事業主の努力義務として規定されました(2019年4月1日施行)。
それに伴い、厚生労働省は本年3月に勤務間インターバル制度導入の参考として「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」を公表しています。

今回は、以降、このマニュアルを参考に勤務間インターバル制度の概要を紹介します。
前述のとおり勤務間インターバル制度は、勤務終了後から一定時間以上のインターバル時間を設けることで、職員の生活時間や睡眠時間を確保しようとするものです。
勤務間インターバル制度を導入した場合、以下のような働き方が考えられます。

例:11時間の休息時間を確保するために始業時刻を後ろ倒しにする場合

このほか、インターバル時間を確保するため、ある時刻以降の残業を禁止し、次の始業時刻以前の勤務を認めないこととする方法も考えられます。
また、変形労働時間制においては、勤務時間を柔軟に設定することができるので、勤務間インターバル制度を併用することにより、十分なインターバル時間の確保が可能となります。

3.勤務間インターバル制度の導入効果

勤務間インターバル制度の導入により、職員がインターバル時間を確保できるようになれば次のような効果が期待できます。

勤務間インターバル制度導入効果

(1)職員の健康の維持・向上とサービスの質向上

睡眠時間の重要性を明らかにした米国の研究があります。
この研究では、被験者を一晩の睡眠時間が4時間、6時間、8時間のグループに分け、14日間実験室に宿泊させて反応を検査しています。
同時に3日間徹夜させるグループにも同様の反応検査を実施します。
この反応検査は、ランダムに提示される刺激に対して、0.5秒以上かかって反応した遅延反応数の経日変化をグループごとに観察したものです。
下図は、横軸が実験日、縦軸が反応検査で0.5秒以上かかった遅延反応数を示しています。
毎日少しずつでも睡眠不足が続くと、睡眠負債が積み重なって疲労が慢性化していきます。
やがて徹夜したのと同じ状態になると、判断能力や反応が鈍くなり、仕事にも支障をきたすことになります。
この検査結果から、良いパフォーマンスを生み出すためには、毎日十分な睡眠時間(勤務間インターバル)を取ることが重要であるとわかります。

慢性的な睡眠不足とパフォーマンス低下の関係

また、勤務間インターバル制度の導入により、職員は「仕事に集中する時間」と「プライベートに集中する時間」のメリハリをつけることができるようになるので、職員の仕事への集中度を高めることができます。
仕事への集中度が高まることは、サービスの質向上へとつながります。

(2)職員の確保と定着

労働力人口が減少するなか、人材の確保・定着は、医療機関にとって重要な経営課題になっています。
インターバル時間を確保することにより、職員はその時間を「自分のためにつかう時間」、「家族や友人等と過ごす時間」等に充てることができ、ワーク・ライフ・バランスの充実が図られます。
ワーク・ライフ・バランスを実現できる職場は職員にとって働きやすく魅力的な職場となり、人材の確保・定着につながります。

3.勤務間インターバル制度導入に向けた就業規則

勤務間インターバル制度を導入する場合には、以下のような就業規則の規定が考えられます。

休息時間と翌所定労働時間が重複する部分を労働とみなす場合、始業時刻を繰り下げる場合、災害その他避けることができない場合に対応するため例外を設ける場合

2.導入・運用に向けた取組の全体像と制度設計

1.勤務間インターバル制度導入の全体像

医院が勤務間インターバル制度を導入し、運用するための具体的な取組は、以下の図に示すように、労使間の話し合いを土台とし、そのうえで4つのフェーズに沿ってPDCAサイクルを回しながら進めることが重要です。

勤務間インターバル制度の導入・運用に向けた取組の全体像

2.PDCAサイクルの土台となる労使間の話し合い

職員が抱える事情や企業経営の実態を踏まえた制度を設計し、それを円滑に運用していくためには、PDCAサイクルの各フェーズにおいて労使間で十分に話し合うことが必要であり、それを勤務間インターバル制度の導入・運用の土台として位置付けることが重要です。

3.勤務間インターバル制度の導入の検討

(1)労働時間等に関わる現状の把握と課題の抽出

制度導入に向けた具体的な検討を始める前に、次表に示した点について現状を把握することが必要です。
先ずは就業規則等で定められている労働時間に関する規定を改めて確認します。
その上で労働時間(時間外労働や休日労働の有無や長さを含む)、通勤時間等を把握し、インターバル時間が十分に取れているのか、十分に取れていないとすれば、どのような職員がどのような理由でどの程度取れていないのかを確認します。

把握すべき労働時間等に関わる現状と課題

(2)導入目的の明確化

現状を踏まえて、具体的な導入目的を設定します。
例えば、特定の職員に課題があれば、その原因を踏まえたうえで「健康管理」の目的を設定することが考えられます。
あるいは「長時間労働の是正」、「ワーク・ライフ・バランスの充実」といった目的も考えられます。
導入目的は労使間で共有することが大切です。

(3)導入に対する経営者のコミットメント強化

勤務間インターバル制度を円滑に導入し、定着させるには、職員、管理職の双方が制度の意義を理解し、納得して受け入れることが必要です。
そのためには、制度の推進にあたる者が制度の意義と内容について丁寧に説明することが望まれ、それとともに経営層が制度の実施に積極的に関与する姿勢を明確にすることが重要です。
具体的には、経営者が職員に対して積極的にメッセージを発信する等して「医院全体で制度の円滑な運用に取り組む」という強い姿勢をみせることが何より効果的です。

4.勤務間インターバル制度の設計

(1)制度の詳細を決定

勤務間インターバル制度導入に向けた事前準備が整ったら、具体的な制度設計に入ります。
先ずは、制度内容を検討します。
主な検討項目は以下のとおりです。
各項目の検討を進めるうえでは、制度導入の検討で把握した労働時間等に関わる現状と課題を踏まえながら、労使間で十分に話し合うことが求められます。

勤務間インターバル制度を設計する際の検討項目

①適用対象の設定

勤務間インターバル制度の適用対象となる職員の範囲を設定します。
勤務間インターバル制度は、職員の健康維持・向上に資する制度であるため、全ての職員を対象とすることが基本です。
「働き方が異なる」、「勤務形態・時間等に関する他制度の適用状況が異なる」等の事情により対象職員を限定する場合は、理由を明確にし、理解を得るようにします。

②インターバル時間数の設定

労働時間等に関わる現状と課題を踏まえながら、労使間の話し合いにより定めます。
勤務間インターバル制度の目的を踏まえると、インターバル時間数は一律とすることが基本です。
ただし、「働き方が異なる」、「勤務形態・時間等に関する他制度の適用状況が異なる」等の実情を踏まえ、特定の職員に対して異なるインターバル時間数を設定することも考えられます。
その際には、異なるインターバル時間数を適用する理由を明確にし、職員の理解を得るようにします。

③インターバル時間を確保することによって、翌日の所定勤務開始時刻を超えてしまう場合の取扱いの設定

インターバル時間と翌日の所定労働時間が重複する部分を働いたものとみなす場合の例

④インターバル時間を確保できないことが認められるケースの設定

緊急事態・トラブルへの対応等の特別な事情により、やむを得ず定められたインターバル時間を確保できないケースを予め定めておきます。

適用除外となる業務等(例)

⑤インターバル時間の確保に関する手続きの検討

インターバル時間の確保に伴って翌日の勤務開始時刻を繰り下げる場合や適用除外となるケースが発生した場合など、予め申請手続きの方法について定めておきます。

⑥インターバル時間を確保できなかった場合の対応方法の検討

インターバル時間を確保できなかった場合の対応方法を定めておくことが必要です。

インターバル時間を確保できなかった場合の対応・措置(例)

⑦労働時間管理方法の見直し

制度の導入を機に、労働時間管理方法の見直しを行い、職員と管理職の双方が労働時間の実態を正しく把握できる仕組を整えます。
例えば、インターバル時間を確保できていない職員に対して、メール等で通告することも一つの方法です。

(2)規定の整備

制度設計後は、その根拠となる規定を整備することが必要です。
勤務間インターバル制度が確実に機能するためには、制度の明文化が望まれます。
具体的には、就業規則の改訂等により、勤務間インターバル制度を社内の「制度」として位置付ける必要があります。
具体的な記載例は本稿1章4ページの就業規則例を参考にしてください。
就業規則を作成・変更する際に、職員の代表から意見を聴取することを義務付けています(労働基準法第90条)。
制度の設計にとどまらず、就業規則の変更においても、労使間での話し合いは不可欠です。
また、就業規則については、勤務間インターバル制度の開始前までに所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。

3.勤務間インターバル制度導入と運用方法

1.勤務間インターバル制度の導入と運用

(1)院内への周知

勤務間インターバル制度を導入し、円滑に運用していくためには、現場の管理職や職員の理解と協力が不可欠であり、導入の意義やインターバル時間を確保するための工夫、留意点等について事前に周知することが必要です。
勤務間インターバル制度の周知は、制度導入時に限られるものではありません。
労働基準法(第15条第1項、施行規則第5条)では、使用者は労働契約の締結に際して、労働者に労働条件を明示しなければならないとされています。
また、労働契約法(第4条第1項)では、労働基準法の労働契約の締結時より広く、労働契約締結前の説明等の場面や、労働契約が締結又は変更されて継続している間の各場面において、使用者は労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとされています。
勤務間インターバル制度は、労働条件の1つです。その内容等について、継続的に周知することが重要です。

(2)患者や取引先への説明

勤務間インターバル制度の円滑な運用のためには、院内関係者のみならず、患者や取引先からも理解を得ることが重要です。
職員が制度の意義を理解しても、患者からの依頼が続けばインターバル時間を確保することは難しくなります。
患者・取引先に対して制度の趣旨や内容を説明し、制度導入に伴い配慮してほしいことを伝える等の対応が必要です。
また、制度導入により、サービスの質や内容が低下するのではないか、トラブルが生じた際はインターバル時間の確保を理由に迅速に対応してもらえないのではないか等と不安を感じる患者がいるかもしれません。
これらの不安や懸念を解消するためには、以下のような対応例を参考にしつつ、患者に丁寧に説明します。

制度導入を伝えた際に想定される反応と対応(例)

(3)インターバル時間を確保しやすい環境づくり

インターバル時間の確保に向けて、管理職には職員の勤務実態を定期的に把握するとともに、日ごろからコミュニケーションを密にとりながら、必要に応じて業務計画や業務量等の調整を行うことが求められます。
また、職員も、働き方や休み方、生産性向上に対する意識を高めていくことが必要です。
インターバル時間を確保しやすい環境としていくための工夫として、以下のようなことが挙げられます。

インターバル時間の確保に向けた工夫

2.制度内容・運用方法の見直し

(1)制度の効果検証、課題等の洗い出し

制度導入から一定期間が経過したら、労働時間の管理方法やインターバル時間の確保状況はもちろんのこと、導入目的に基づき期待していた効果が表れているか等を検証し、課題等を洗い出します。
これらは制度導入後、定期的に行うことが望まれます。
その際には、職員や管理職を対象にアンケート調査やヒアリング調査を行い、「隠れた課題」がないかを確認することも重要です。

制度の効果検証、課題等の洗い出し(例)

(2)制度の効果検証、課題等の洗い出し

課題が明らかになった場合には、制度内容・運用方法の見直しを行います。
見直すべき項目に応じて適宜「フェーズ2」あるいは「フェーズ3」の各ステップに戻る等、PDCAサイクルを回しながら進めていきます。

3.制度導入にあたって活用できる支援策

勤務間インターバル制度を導入する中小企業・小規模事業者に対する国の支援策の1つに、助成金制度があります。2020年度予算の成立が前提になりますが、「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」(時間外労働等改善助成金より改称)をご紹介します。
本助成金は、2020年度予算の成立が前提のため、今後変更される可能性があります。
助成金の概要については、厚生労働省のホームページに掲載されますので、最新の支給要件等を確認して下さい。

◆厚生労働省ホームページ 時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)

働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)の概要

医療機関においては、インフルエンザ等が流行する季節や日頃から患者数が多い場合、勤務間インターバルが短くなることが考えられます。
こうした事態に備え、勤務間インターバルを制度として採用し、現状の課題に対して早期に取り組むことや、ルール等を整備しておくことで、業務の効率化が図れる可能性があり、職場環境が良くなれば職員の定着・確保に繋がり経営上のメリットも大きくなります。

 

■参考資料
厚生労働省:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説
働き方改革 ~一億総活躍社会の実現に向けて~
勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル
時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)

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