- 次世代医療基盤法の概要
- 医療情報提供の流れと必要な手続き
- 医療機関における医療情報提供上の留意点
- 医療情報の利活用と医療情報提供通知例
1.次世代医療基盤法の概要
1.次世代医療基盤法の概要
医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律(以下:次世代医療基盤法)は、国全体でのデータ利活用基盤の構築に向けた取組の一環として、医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関し、匿名加工医療情報作成事業を行う者の認定、医療情報及び匿名加工医療情報等の取扱いに関する規制等を定めることにより、健康・医療に関する先端的研究開発及び新産業創出を促進して、健康長寿社会の形成を目的としています。
医療情報については、現在、全国規模で利活用が可能なのは、診療行為の実施情報(インプット)である診療報酬明細書(レセプト)データが基本であり、診療行為の実施結果(アウトカム)に関するデータの利活用は、十分に進んでいない状況です。
また、2017年5月30日に施行された個人情報保護法の改正により、病歴などを含む患者の医療情報は要配慮個人情報に指定され、いわゆるオプトアウトによる第三者提供が禁止されました。
このような実態を考慮し、医療情報の利活用促進のため、次世代医療基盤法は本年4月27日に閣議決定され、5月11日に施行されました。
2.基本方針の概要と匿名加工医療情報
(1)基本方針の概要
次世代医療基盤法において、医療情報の提供は医療情報取扱事業者の任意とし、また、患者も医療情報の提供を拒否することができます。
医療機関においては、患者に対して最初の受診時に医療情報提供の通知を書面で行うことを基本としており、いつでも医療情報の提供停止を求められること等を周知させることが必要となります。
(2)匿名加工医療情報の定義
匿名加工医療情報とは、特定の個人を識別することができないように医療情報を加工して得られる個人に関する情報で、当該医療情報を復元することができないようにしたものをいいます。
2.医療情報提供の流れと必要な手続き
1.医療情報提供の流れと費用
(1)医療情報提供の流れ
次世代医療基盤法の施行により、医療機関等は、予め患者に通知しても本人が提供を拒否しない場合、認定匿名加工医療情報作成事業者(以下:認定事業者)に対して任意に医療情報を提供することができるようになりました。
また、認定事業者に提供された医療情報は匿名加工し、匿名加工医療情報として、行政や製薬会社、研究機関等に提供できるようになりました。
(2)費用の負担
医療情報提供に伴う費用については、以下のような流れとなり、認定事業者の情報の収集加工提供に要する費用は情報の利活用者への転嫁を基本としています。
2.医療情報提供に必要な手続き
医療情報取扱事業者となる医療機関等が認定事業者に医療情報を提供するためには、あらかじめ下記の内容の書面を本人に通知するとともに主務大臣に届け出ることが必要です。
また、ガイドラインでは、上記表の(5)の受付方法について、具体的な事例として以下の4つの方法を挙げています。
なお、通知には上記事項に加え、医療情報の提供停止を求めることによって診療等において不利益を被ることがない旨も併せて記載することが適切としています。
3.医療機関における医療情報提供上の留意点
1.医療情報提供の停止対応
(1)医療情報提供の停止
次世代医療基盤法では、オプトアウト(患者本人が拒否しなければ同意したとみなす)により、医療情報を提供することができます。
ただし、情報を提供する医療機関は、患者の最初の受診時に医師や看護師が医療情報提供について、書面による通知と説明が求められます。
また、患者本人等から医療情報の提供停止の求めがあれば、下記の事項を記載した書面を交付しなければなりません。
(2)医療情報提供の停止に伴う書類の保存期間等
医療情報を取り扱う医療機関は、医療情報の提供停止の求めを行った者に対して交付した書面の写し又は提供した電磁的記録について、提供した日から3年間保存しなければなりません。
また、認定事業者は、医療機関等から医療情報の提供を受ける際に医療情報取得の経緯等を確認することとなっています。
2.医療情報の提供に係る記録の作成等
(1)医療情報提供に係る記録の作成
医療機関が医療情報を認定事業者に提出したときは、下記のような内容の記録を、医療情報の授受の都度、速やかに作成しなければなりません。
ただし、認定事業者に対して医療情報を継続的に若しくは反復して提供したとき、又は医療情報を継続的に若しくは反復して提供することが確実と見込まれるときは、記録を一括して作成することも認められています。
また、確実と見込まれるときの例としては、継続的に又は反復して医療情報を授受することを内容とする基本契約を締結することであり、この場合は、当該基本契約書をもって記録とすることができます。
(2)記載事項の省略等
記載事項については、医療機関の記録作業の負担を軽減することも考慮されています。
例えば、実際に提供した医療情報自体、またはその写しに、医療情報の提供を行う際の記録事項である(3) 識別される本人、(4) 医療情報の項目が含まれていれば、その項目について記録したものとしています。
また、同一「本人」の医療情報の提供に関し、既に作成した記録(現に保存しているものに限る。)に記録された①提供年月日、(2) 提供先の認定事業者、(3) 識別される本人、(4) 医療情報の項目とその内容が同一であるものについては、当該事項の記録の作成を省略することができます。
(3)記録の保存期間
医療情報を認定事業者に提供する医療機関は、作成した記録を一定期間保存することが必要となります。
具体的には次の表のとおりです。
3.医療機関に対する主な罰則規定
次世代医療基盤法では、医療情報の取扱いなどについて罰則規定を設けています。
医療機関に係る主な罰則規定は以下のとおりです。
4.医療情報の利活用と医療情報提供通知例
1.医療情報の利活用
政府は、次世代医療基盤法により収集される医療情報を活用して、医療分野の研究開発等が進むことにより、患者や国民全体にメリットが還元されるとしています。
例えば、医療情報の利活用により、医療機関を跨ぐ分析が可能となります。
異なる医療機関の情報を統合、評価し、糖尿病と歯周病のように異なる診療科の関連が明らかになり、糖尿病患者に対する歯周病治療が行われることで、健康状態が向上する可能性があります。
また、診療支援ソフトの開発が進めば、人工知能を活用して画像データを分析し、医師の診断から治療までを支援することが見込まれています。
2.医療情報提供通知書面のひな形活用
首相官邸ホームページの健康・医療戦略推進本部では、医療機関等から患者の方々にあらかじめ行う通知書面の例(ひな形)を掲示しています。
このひな形を活用することで、書面の作成時間やコストを削減することができます。
平成30年8月29日現在、認定事業者に認定された事業者はありませんが、今後、国の政策として医療情報の利活用が促進されていきます。
医療機関にとって、今から準備できることは、(1) 来院された患者さんに渡す書面の作成や説明の方法、(2) 医療情報提供の停止を患者等に周知させる手段や、(3) 提供に関する相談窓口等、を予め決めておくことです。
■参考文献
『医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律』(平成29年法律第28号)『健康・医療戦略室 資料より』内閣官邸