歯科医院のスタッフ意欲喚起 人事評価制度構築のポイント

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歯科医院のスタッフ意欲喚起 人事評価制度構築のポイント

  1. 人事評価制度の必要性
  2. 制度構築の基本型
  3. スタッフを成長させる評価ツール例
  4. 人事・評価面接の進め方

 


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1.人事評価制度の必要性

歯科業界では、従来からの慢性的な歯科衛生士不足のうえ、歯科助手や受付の応募も少なくなっています。
そのため、経験があり教育をしっかり受けたスタッフを雇用できず、未経験者や新卒者を雇用するしかない、という歯科医院も見受けられます。
戦力であるスタッフの退職防止と新規雇用者の能力向上のためには、働きやすく、やりがいのある職場環境の整備と待遇面の改善をする必要があります。
待遇改善はただ給与額をアップするのではなく、頑張って結果を出しているスタッフには、適正に賞与や昇給、役職就任等につながる人事評価制度を構築し、目標を与えてスタッフの「仕事」への取組み意欲の強化を図ることが求められます。
また、未経験等のスタッフには、業務への取組みをどうすると評価してもらえるのかを伝え、優秀なスタッフに育成することが必要です。

1.人事評価とは

人事評価の目的は、賃金や賞与の金額を決めるためだけではありません。
すべての職員が優秀者(ハイパフォーマー)になるように、スタッフの業務遂行における「業績」「能力」「情意(やる気・態度)」を、一定の方法に従って雇用者・管理者が評価し、指導育成することが目的です。

人事評価の目的

2.スタッフを動機付けする人事施策

歯科医院のスタッフの特徴として、やさしく丁寧である反面、保守的な考え方の人もみられます。
また、少人数で休みがとりにくいなど、クリニックの労働環境が良好といえないなかで、新しい取組みや医療サービス以外の業務を行おうとする場合には、拒否反応を示されるケースもあります。
そのため、例えば増患のマーケティングを行うと、診療補助以外の業務負担増により、不満が高まってしまうという懸念があります。
この問題を解決するためには、マーケティングの業務へ積極的に取り組むことに対して、動機付けができる人事施策が必要です。

動機付ができる人事施策の必要性

3.業務取組みへの欲求を喚起する考え方

(1)欲求の5段階

アメリカの心理学者アブラハム・マズローは、人間の欲求を5段階で理論化しています。
人間の欲求は最下層にある生理的欲求から次第に上位への欲求に高度化すると定義づけ、下位の欲求は欠乏を充足したいという「欠乏動機」であり、上位の欲求は満たされれば満たされるほど一層欲求が高まる「成長動機」となります。
そして、高次の欲求は、満たされなくても下位の欲求に戻ることはありません。

マズローの5段階欲求

スタッフに、マーケティング業務等に積極的に取り組ませるためには、生理的欲求や安全性の欲求はもちろんのこと、所属と愛の欲求を満たす必要があります。朝礼や会議の場で、取り組みの必要性について、院長の考えを示しましょう。

(2)X理論とY理論

「X理論・Y理論」とは、アメリカの心理・経営学者ダグラス・マクレガーによって提唱された人間観・動機づけにかかわる2つの対立的な理論のことです。
マクレガーはY理論にもとづく施策を展開し、高次の欲求に対する動機づけを行うほうが、組織目標の達成、モラル維持のために効果的だとしています。

マクレガーのX 理論とY 理論

(3)衛生要因と動機付け要因

この理論は、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した仕事における満足と不満足を引き起こす要因に関するもので、人が仕事に満足感を感じる要因と不満足を感じる要因は、全く別物だという考え方です。

ハーズバーグの衛生要因と動機付け要因

つまり、人事評価制度により欲求を喚起し、意欲的に業務取り組む動機付けを行うことが、組織の目標達成のために重要な要素であるということです。

2.制度構築の基本型

スタッフに業務へ意欲をもって取り組んでもらうためには、人事評価制度の内容が各人にとって判りやすく、適正だと自覚できるものであることがポイントです。
評価項目が具体的にはっきりしており、評価基準も公平で、どのような評価をしたかの透明性が求められます。
つまり評価対象者が納得できる内容になっている必要があります。

1.人事評価の3原則

スタッフの納得性の高い人事評価制度の構築には、評価の透明性、公平性、納得性の確保が求められます。

人事評価の3原則

2.人事評価項目の構成

人事評価項目は、できるだけ客観的な評価のため、分析評価指標が開発されています。
業務に対する意欲ややる気の評価としての情意評価、保有しているだけでなく実際に業務で発揮している能力の評価としての能力評価、目標に対する達成度の評価としての業務評価があります。

人事評価項目

3.能力評価とは

能力評価とは、発揮能力主義による評価方法が主流となっています。
それぞれの能力が業務で発揮して初めて評価されます。

能力評価の視点

4.業績評価とは

適切な業績評価は、医院への貢献度を評価する指標です。
歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、受付・会計とその職種ごとに数値目標を作成し、達成状況を管理する必要がありますが、問題は職種ごとの数値目標と評価が、スタッフ全員に公平と感じられるかどうかという点です。

貢献度評価の手順(評価委員会の合議で検討を行う)、貢献度の項目(それぞれの細目の達成度を数値化して機械的に算定することは避ける)

5.総合評価の機能

評価者と院長で構成する評価委員会を組織します。
評価委員会では、情意評価と能力評価、業績評価の確認と評価の理由を説明してもらいます。
各評価者の意見を聞き、その評価をもって、評価委員会合議の上で総合評価を行います。
総合評価は、人事・評価面接時に使用します。
特に成果主義賞与制度を採用している歯科医院では、賞与決定の根拠となります。

6.成果主義賞与制度

(1)動機付け要因としての賞与

成果主義賞与制度は、年齢や経験、能力により通常の賞与と医院への貢献度や目標達成度による報償としての金額を合算する制度です。
業務への取り組み意欲を持たせる動機付け要因として有効な制度です。
増額されると嬉しく感じ満足しますが、減額しても大きな不満までは抱かれません。
また、動機付け要因としての性格のほか、経営業績に応じてある程度人件費を変動させることができる賞与の支給方法です。

成果主義賞与制度(正式名称:業績連動型成果主義賞与制度)

一方、業績が悪いからといって賞与をゼロにはできません。
歯科医院全体の経営業績の向上に貢献したスタッフに報いるという考え方をし、支給原資が少ない中で、特に頑張ったスタッフに厚く報います。

(2)賞与支給額への反映方法の例

通常の賞与は基本給に月数を掛けて算出します。
人事評価を実施した場合は、通常の月数に、評価結果に応じて加算額を決定します。
加算額は、総合評価のS~Dの5段階に微調整をしたプラス・マイナスの基準を歯科医院の基準で設定します。

賞与の加算額設定例

※C以下の評価の減額はしないようにします。C評価をつけられたスタッフが退職してしまうことがあるからです。
逆に、大きなクレームを起こしたスタッフや、勤務態度が不良なスタッフは、C評価やD評価をつけて減額します。
賃金の減額は労働基準法で最大1割までと決められているため、賞与の中で人事評価として減額するほうが実施しやすいからです。

3.スタッフを成長させる評価ツール例

情意評価表、能力評価表、業績評価表の3つの視点から総合評価を行います。
総合評価結果は、人事評価面接時にフィードバックしますから、各評価基準を明確にする必要があります。

1.情意評価表

情意評価(意欲)は規律性、責任制、協調性、積極性の4つの項目で評価します。
選ばれた評価者は、特別良くできている時は◎、良くできている時は○、不足が感じられる時は△と評価していきます。
×は本人が委縮することを避けるため付けません。
院長は、評価者の評価と合わせてS.A.B.C.Dと5段階で評価します。

情意評価表の記入例

2.能力評価表

能力評価は職務遂行能力の評価であり、給与等級格付けの基礎資料にもなります。
能力評価の項目は、知識、技能、コミュニケーション能力、判断力、業務遂行能力、管理能力となります。
各人に不足している能力に対し、次回までに向上できるような目標設定を行ないます。

能力評価表例、評価対象者の確認事項例

3.業績評価表

適切な業績評価は、医院への貢献度を評価する指標です。
歯科衛生士の業績評価では、担当患者数、リコール率などの目標値を設定します。
日ごろの勤務態度や実績などを見ながら評価委員会で一人ずつ採点していきます。
このとき、スタッフ間のバランスも考慮しますが、当然ながら貢献度、達成度の高いスタッフが高評価になります。

業績評価表

医院経営への貢献度は10点満点で評価し、目標達成度はS.A.B.C.Dで評価をします。
全体を勘案して、業績総合評価もS.A.B.C.Dで評価します。

4.総合評価表

各評価者からの評価を踏まえ、院長が評価者全員の合議の上で総合評価を行います。
特段の成績にはS、良いならA、普通ならB、低いならC、かなり低いならDとし、プラス・マイナスで微調整します。

総合評価表

4.人事・評価面接の進め方

多くの歯科医院では事務長がいないことが多いため、人事評価は、歯科衛生士の主任等を選定し評価させ、総合評価を評価者と先生の評価委員会が行います。
評価後に、評価委員会メンバーで評価面接を行います。
この評価面接がスタッフの業務への取組みへの意欲向上と能力アップとなる重要なポイントとなります。

1.人事面接と評価面接

(1)人事面接とは

人事面接とは、経営者である院長がスタッフと行う面接です。
年に一度、30分程度の時間をかけてスタッフ1人の個人面談を行います。
日頃のスタッフミーティングや朝礼などでは聞けない現場での改善提案や、不満などを聞き出します。
面接を通して、スタッフからの改善提案を採用したり、不満などを解消することにより意欲を向上させる効果があります。

人事面接のポイント

(2)評価面接とは

評価面接とは、院長と院長が選任した評価者がスタッフと行う面接のことです。
面接時には、情意評価、能力評価、業績評価の結果を伝え、よくできているところ、努力が必要なところをフィードバックします。
そのうえで、今後特に強化して欲しい項目を明示し、半年後の目標を話し合います。
評価面接は、評価に対する納得性を高め、モチベーションを高める効果があります。

評価面接のポイント

2.人事・評価面接時のポジション

人事・評価面接では、座るポジションが重要です。
院長や評価者は向かい合わせにならないように座ります。
多くの人数に向かい合うと圧迫感を抱き、評価対象者であるスタッフが委縮してしまいます。
一言一言にも強迫観念をおぼえたり、評価が押し付けられたように感じてしまいます。
お互いのコミュニケーションをより良くとるために、ポジションには配慮が必要です。

面接のポジションと面接手法

3.人事・評価面接の進め方

人事・評価面接の進め方としては、院長と評価者(主任歯科衛生士等)の2名と評価対象者とで、評価内容が他のスタッフに聞かれないような個室で行います。
評価表の結果について伝えた後、院長の総合評価結果を伝えます。
その後は、今後の半年間で強化して欲しい項目、新たに取り組んで欲しい項目について指示し、半年後の目標について話し合います。
最後に、医院、院長、上司に対しての要望や希望を話してもらいます。
評価後となるため、気おくれしている可能性もあるため、院長は話しやすい環境を作ってあげることが必要です。

人事・評価面接の進め方とポイント

人事・評価面接の一番の目的は、評価者からの評価を知ってもらい、改善や新たな取り組みへの意欲向上です。
叱ったり、叱責することではありません。
当人評価と評価者の評価とは乖離していることが多くみられます。
第三者からの視点は患者からの視点に近く、自分の能力が他人にはどう映っているかを把握してもらう良いチャンスです。
業務能力の向上や報酬(給与、賞与、昇給、昇進等)につながる人事評価の項目に気づいてもらい、今後の取り組みへの欲求を掘り起こすことができます。
不足している能力を向上させるための次期の目標を設定し、積極的に取り組む姿勢を持たせることが評価委員会の役割です。

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