働き方改革の推進と質の高い医療を実現 2020年診療報酬改定の概要

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働き方改革の推進と質の高い医療を実現 2020年診療報酬改定の概要

  1. 次期診療報酬改定の基本的方向性
  2. 外来・在宅医療に関する改定のポイント
  3. 入院医療に関する改定のポイント
  4. 精神医療その他診療所に関わる改定のポイント


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1.次期診療報酬改定の基本的方向性

1.2020年診療報酬改定の方向性

(1)2020年度診療報酬は、前回に続き全体マイナス改定へ

次期診療報酬改定の改定率は、診療報酬本体部分が0.55%引き上げられた一方で、薬価、材料価格の引き下げの影響により、全体改定率は0.46%のマイナス改定となりました。
前回改定と同様に、全体改定率は引き下げられましたが、本体部分のプラス改定は今回で7回連続(2019年改定を含むと8回連続)となりました。
また、2020年度改定は、2018年改定(診療報酬と介護報酬の同時改定)の取組みが更に推進されるよう、引き続き適切な評価に取り組むとともに、医師等の働き方改革の推進や、
患者・国民にとって身近であり、安心・安全で質の高い医療を実現するための取組を進めつつ、効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続性の向上を図ることが重要であるとの認識のもとに行われます。

2018年度診療報酬 改定率等

(2)次期改定にあたっての基本認識

次期診療報酬改定に向けた議論の経緯を踏まえ、改定にあたっては次の4点が基本認識として示されました。

2020年度診療報酬改定の基本認識

2.次期改定の基本的視点と具体的方向性

(1)基本的視点と具体的方向性

次期診療報酬改定では、次のような基本的視点と具体的方向性を明示しています。

2020年度診療報酬改定の基本的視点と具体的方向性

(2)将来を見据えた課題

次期診療報酬改定の基本方針の中では、将来を見据えた課題として以下のことをあげており、今後の政策の方向性が窺えます。

将来を見据えた課題

2.外来・在宅医療に関する改定のポイント

1.外来医療の機能分化の推進

紹介状なしで一定規模以上の病院を受診した際の定額負担の見直しが行われ、対象となる医療機関が拡大される見通しとなり、特定機能病院に加え新たに200床以上の地域医療支援病院(一般病床200床未満を除く)が対象となります。

紹介状なしの大病院受診時の定額負担の対象範囲の拡大

また、紹介率や逆紹介率の低い病院を紹介状なしで受診した患者に対する初・再診料減算に係る医療機関の対象範囲を定額負担の対象範囲と同様に、特定機能病院及び200床以上の地域医療支援病院(一般病床200床未満を除く)に拡大します。

紹介率・逆紹介率の低い大病院の初診料等について(現行)

さらに、全世代型社会保障検討会議がまとめた中間報告では、遅くとも2022年度初めまでに定額負担の対象病院を病床数200床以上の一般病院に拡大するとしていますが、本年1月20日に開催された社会保障審議会医療部会では、対象病院を200床以上の一般病院に拡大することについて更なる議論が必要であるとの声が多く、今後が注目されます。

2.情報通信機器を用いた診療等における要件・評価の見直し

(1)オンライン診療料の変更点

オンライン診療料の算定要件について、事前の対面診療の期間を6か月間から3か月間に見直すなど、対象となる疾患、実施方法の変更が予定されています。
今後もオンライン診療の保険適用範囲は、改定ごとに変更されることが考えられ、自院の診療や経営に影響を及ぼす可能性を含んでおり注目すべき事項だといえます。

オンライン診療料の主な算定要件

(2)かかりつけ医と連携した遠隔医療を評価

近隣の医療機関では診断が困難な疾患に対して、かかりつけ医のもとで、事前の十分な情報共有の上で遠隔地の医師が情報通信機器を用いた診療を行う場合について新たな評価を行うこととし、「遠隔連携診療料」が新設されました。

遠隔連携診療料の算定要、遠隔連携診療料の施設基準

3.医療機関における質の高い訪問看護を評価

医療機関からの訪問看護について、より手厚い訪問看護提供体制を評価する観点から、訪問看護に係る一定の実績要件を満たす場合について、新たな評価を行うこととし、「訪問看護・指導体制充実加算」が新設されました。

訪問看護・指導体制充実加算の算定要件と施設基準

3.入院医療に関する改定のポイント

1.地域の救急医療体制を評価

政府は、2020年改定の重点課題として「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」を掲げており、地域医療で過酷な労働実態が見られる「救急医療実績の極めて高い病院」を対象として評価を充実させ、医療提供を継続できるよう医療機関をサポートする動きが見られます。
そして、地域医療の確保を図る観点から、過酷な勤務環境となっている地域の救急医療体制における重要な機能を担う医療機関について評価を行うこととし、「地域医療体制確保加算」を新設しました。
当該加算の施設基準として、病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に資する体制を整備していることが示されています。

地域医療体制確保加算の算定要件と施設基準

2.地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料の見直し

地域包括ケア病棟は2014年診療報酬改定で評価されるようになってから算定医療機関が増加してきた経緯があります。
その理由の一つに点数設定が高いことが挙げられますが、特に大病院の入棟元が自院の急性期病棟が多く、本来の役割が果たせていない現状がありました。
こうした現状を踏まえ、急性期治療を経過した患者や、在宅で療養を行っている患者を受け入れる役割が偏りなく発揮されるよう、地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料について要件が見直されます。
また、地域における医療機関間の機能分化・連携を適切に進める観点から、4月以降、許可病床数が400床以上の保険医療機関については、地域包括ケア病棟入院料を届け出ることができなくなります。

地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料の主な変更点 経過措置:令和2年9月30日まで、地域包括ケア病棟入院料1の施設基準        経過措置:令和2年9月30日まで

3.回復期リハビリテーション病棟入院料の見直し

回復期リハビリテーション病棟における実績要件について、アウトカムを適切に反映させるとともに、栄養管理の充実を図る観点から、回復期リハビリテーション病棟入院料について要件を見直します。
主な変更点については以下の通りとなります。

回復期リハビリテーション病棟入院料の主な変更点

4.精神医療その他診療所に関わる改定のポイント

1.精神病棟における退院時支援連携を新たに評価

精神病棟からの退院支援については、現状でも評価は行われていましたが、退院先の医療機関と共同で支援する評価はありませんでした。
2020年改定では、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を推進する観点から、精神病棟における退院時の多職種・多機関による共同指導等について新たな評価を行います。

精神科退院時共同指導料の主な算定要件

2.小児かかりつけ診療料の対象患者拡大

小児に対する継続的な診療をより一層推進する観点から、小児かかりつけ診療料について対象となる患者等の要件を見直します。

小児かかりつけ診療料の概要

3.有床診療所入院基本料等の見直し

有床診療所は緊急時の患者対応や在宅・介護施設等への受け渡し、がん患者等の終末期医療などで地域医療としての機能を担っており、地域包括ケアシステム推進のため大きな役割を果たしています。
こうした有床診療所が地域において担う役割を踏まえ、病院からの早期退院患者の在宅・介護施設への受け渡し機能や、終末期医療を担う機能等を更に推進する観点から、有床診療所入院基本料の加算について要件及び評価を見直します。

有床診療所入院基本料等の主な変更点

2020年改定は、人生100年時代を見据えた全世代型社会保障の構築を念頭に、身近で安心、安全で質の高い医療を実現し、制度の持続可能性にも配慮した内容となっています。
また、2024年4月から適用される「医師の時間外労働の上限規制」に向けた改定となり、働き方改革の観点からも重要な改定であるといえます。
外来医療については、更なる医療機関の役割分担を図る見直しとなり、クリニック経営においては、今後もかかりつけ医機能の強化が求められます。

 

■参考資料
診療報酬改定セミナー「2020年診療報酬改定の概要と病医院経営対応」テキスト(講師:(株)エム・アール・シー 代表取締役 石上登喜男氏)
厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会資料

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