- 平成28年診療行為別統計の全体概況とポイント
- 医科診療~入院と入院外医療における傾向
- 診療所と病院の結果比較
- 医薬分業と後発品使用は順調に拡大へ
1.平成28年診療行為別統計の全体概況とポイント/h1>
1.平成28年社会医療診療行為別統計の結果概況
(1)社会医療診療行為別統計の目的と活用
厚生労働省は本年7月25日、「平成28年社会医療診療行為別統計」の結果を公表しました。
「社会医療診療行為別統計」とは、医療の給付の受給者に係る診療行為の内容、傷病の状況、調剤行為の内容、薬剤の使用状況等を明らかにし、医療保険行政に必要な基礎資料を得ることを目的に、毎年作成し公表されています。
社会保険診療報酬支払基金支部、国民健康保険団体連合会に提出され、平成28年6月審査分として審査決定されたレセプト(医科診療と歯科診療の診療報酬明細書及び保険薬局の調剤報酬明細書)のうち、「レセプト情報・特定健診等情報データベース(以下、NDB)」に蓄積されている全数を集計の対象としています。
NDBに蓄積された全数を集計対象とした統計は前回27年に続いて2回目であり、ビッグデータとしてのNDBを活用したことで、より医療機関の各診療行為の実態を表しているものになっているといえます。
また、28年は診療報酬改定が行われた年度でもあり、統計結果は次期診療報酬改定に向けた議論の資料とされるため、結果の分析によって、次期改定の方向性がみえることとなります。
今回は、次のとおり集計されたレセプトのうち、歯科を除く医科および薬剤に関わる内容を解説します。
(2)近年の診療行為別統計の結果推移
過去5年間の統計結果の推移は、次のとおりです。
今回の結果をみると、「初・再診」の伸びが大きく、これは前回の診療報酬改定で再診後の緊急入院における評価が充実したためと考えられます。
2.平成28年診療行為別統計結果の全体的傾向
平成28年は診療報酬改定が実施された年であったため、前回改定の影響度をみるうえでも重要なエビデンスでありますが、その結果を踏まえ、次期改定に向けた議論資料として活用されることとなっています。
今回公表の資料は、同28年6月審査分(5月診療分)として決定されたレセプトであり、前回改定実施後の実態を把握できるものです。
結果の概要は次のとおりですが、主に明らかとなったのは、(1) 医科入院1件当たりは前年比1.4%増、(2) 医科入院外1件当たりは前年比0.8%増、(3) 薬局1件当たりは前年比3.0%減、(4) 後発医薬品使用状況(薬剤種類数に占める割合)は前年比5.9ポイント増の60.4%、という状況です。
次章より、各行為の傾向と分析結果を個別に紹介します。
2.医科診療~入院と入院外医療における傾向
1.医科入院の状況
医科の入院における1件当たり点数は50,965.6点で、前年に比べ727.8点(1.4%)増加し、1日当たり点数は3,276.8点で、前年に比べ86.2点(2.7%)増加している状況です。
また、診療行為別にみると、「入院料等」1,202.7点(構成割合36.7%)が最も高く、次いで「診断群分類による包括評価等」1,009.6点(同30.8%)、「手術」535.4点(同16.3%)の順となっています。
1件当たり日数は15.55日で、前年と比較すると0.19日減少しています。
1件当たりの日数については減少がみられますが、ここ8年ほどの間は増減が繰り返されている状況でもあり、全体的には減少の傾向にあるといえます。
在院日数の短縮に向けては、診療報酬改定による政策的誘導のほか、様々な施策が実施されていますが、これらの成果が反映されたものと推測されます。
厚生労働省は、「診断群分類による包括評価等」の構成割合が大きいのは、DPC対象病院数が増加したためで、DPCに包括されない診療行為が減少していることが要因と分析しています。
2.医科入院外診療行為の状況
(1)医科入院外診療行為の状況
医療の必要性が比較的高く、医科の入院外における1件当たり点数は1,319.8点で、前年に比べ10.2点(0.8%)増加しています。
1日当たり点数は844.6点で、前年に比べ17.2点(2.1%)増加しています。
さらに、診療行為別にみると、「検査」153.0点(構成割合18.1%)が最も高く、次いで「投薬」141.7点(同16.8%)、「初・再診」130.2点(同15.4%)の順となっています。
また、1件当たり日数は1.56日で、前年に比べ0.02日減少していることから、厚生労働省としては、前回診療報酬改定の影響は、入院ほど明確なものではないとみています。
いずれの診療行為でも大きな増減はみられないものの、前回診療報酬改定によるインパクトが低めであったということであり、これらの結果を資料として、次期改定では見直しの方向性が示される可能性もあります。
3.診療所と病院の結果比較
1.診療所と病院の診療行為別統計結果の比較
(1)入院における比較
医科入院における1件当たり点数は、病院52,825.8点、診療所(有床診療所)18,955.8点で、病院のほうが2.8倍高い状況となっています。
1日当たり点数は、病院3,319.1点、診療所2,014.3点で、病院を種類別にみると、「特定機能病院」6,602.8点が最も高く、「精神科病院」1,328.3点が最も低くなっています。
また、「療養病床を有する病院」と「一般病院」で診療行為別の構成割合を比べると「療養病床を有する病院」で「入院料等」「リハビリテーション」の割合が高くなっている状況です。
尚、1件当たり日数は、病院15.92日、診療所(有床診療所)9.41日で、病院について種類別にみると、「療養病床を有する病院」21.22日、「一般病院」11.83日という結果でした。
(2)入院外における比較
医科の入院外における1件当たり点数は、病院2,182.6点、診療所1,030.4点となっています。
また、1日当たり点数は、病院1,425.0点、診療所655.2点で、病院を種類別にみると、「特定機能病院」2,378.4点が最も高く、「精神科病院」879.7点が最も低くなっています。
診療行為別の構成割合をみると、診療所は病院と比べて、「初・再診」「医学管理等」の割合が高い一方で、「画像診断」「注射」の割合は低くなっています。
1件当たり日数を比較すると、病院1.53日、診療所1.57日となっています。
2.後期高齢者医療の状況
地域包括ケアシステムのゲートキーパーとしての役割を果たす診療所は、高齢患者の受診も多く、後期高齢者医療の状況を把握することも重要です。
(1)一般医療と高齢者医療の比較~入院医療
0歳から74歳までの一般医療と、75歳以上の後期高齢者医療を比較してみると、医科入院における1件当たり点数は、一般医療49,069.9点、後期高齢者医療52,974.9点となっています。
また、1件当たり日数では一般医療13.03日、後期高齢者医療18.23日で、後期高齢者医療のほうが長いという結果でした。
1日当たり点数は、一般医療3,765.4点、後期高齢者医療2,906.5点で一般医療が高く、年齢階級別では「0~14歳」5,687.9点が最も高く、次いで「65~74歳」3,711.3点となっており、「75歳以上」2,932.9点が最も低い状況です。
そして診療行為別の構成割合をみると、後期高齢者医療は、一般医療と比べ「入院料等」の割合が高く、「手術」「診断群分類による包括評価等」の割合は低いことが判明しました。
(2)年齢階級別の状況~入院外医療
外来・検査等を中心とする入院外において年齢階級別にみると、1件当たり点数は「75歳以上」が1,594.8点で最も高く、年齢階級が下がるにつれて低くなっており、「0~14歳」は792.9点で「75歳以上」の半分という結果でした。
一方、1日当たり点数は「65~74歳」が974.7点で最も高く、「40~64歳」「75歳以上」「15~39歳」の順で続いて、「0~14歳」は538.8点で最も少ない状況でした。
また、1件当たり日数は「15~39歳」が1.35日と最も短くなり、年齢階級が上がるに伴って長くなっています。
4.医薬分業と後発品使用は順調に拡大へ
1.本統計結果にみる薬剤・処方の状況
今回の社会医療診療行為別統計の結果をみると、医科入院は1.4%増(1件当たり:前年比)、入院外は0.8%増(同)となった一方で、調剤点数だけは3.0%減少(同)しています。
これは、薬価の引き下げと後発医薬品の使用促進によるものと、厚生労働省は説明していますが、医薬分業の拡大によって、診療所開業医などの処方医と調剤薬局との連携が進み、それぞれが本来の責務を果たせる体制が整いつつあるともいえるでしょう。
(1)院外処方率の状況
医科の入院外における院外処方率は、総数で73.9%となっており、前年に比べ1.2ポイント上昇しています。
平成24年からの過去4年間をみると、同年が総数で65.8%であった頃から着実に医薬分業が進んでおり、病院・診療所別にみると、病院が77.5%、診療所72.8%となっており、それぞれ前年から1.2ポイント上昇しています。
(2)薬剤の使用状況
医科総点数に薬局調剤分を合算した点数に対する薬剤料の割合は、入院は9.1%(前年比0.9ポイント減)で、入院外は40.7%(前年比0.4ポイント減)という状況でした。
そのうち、「投薬」または「注射」で使用された薬剤料の割合は、入院が8.3%、入院外は39.1%となっています。
また、レセプト1件当たりの使用薬剤の種類数をみると、院内処方3.48種類、院外処方は3.78種類となりました。
年齢階級別にみると、「75歳以上」が院内・院外処方ともに最も多く、高齢になるほど使用医薬品の種類が多くなる傾向が認められます。
2.次期診療報酬改定の方向性を早めにつかむ
(1)後発医薬品をめぐる状況
薬剤点数に占める後発医薬品の点数の割合は、総数14.5%、入院は10.7%、院内処方で13.5%、院外処方14.9%となっています。
また、薬剤種類数に占める後発医薬品の種類数の割合をみると、総数60.4%(前年比5.9ポイント増)、入院57.2%(同5.2ポイント増)、院内処方(入院外)54.1%(同3.7ポイント増)、院外処方(薬局調剤)62.4%(同6.5ポイント増)となっており、院外処方の割合が高くなっています。
近年の診療報酬改定においては、社会保障費の圧縮の一環として、後発医薬品の使用を促す評価への見直しが進められていますが、こうした施策の結果として、後発品使用割合が6割を超える状況となったといえるでしょう。
次期改定以降においても、同様の施策は継続することを前提として、今後の処方体制を準備していく必要があります。
尚、後発医薬品の薬効分類別薬剤点数について構成割合をみると、入院では「抗生物質製剤」21.4%、院内処方・院外処方いずれも「循環器官用薬」(26.1%、25.9%)が最も多くなっています。
(2)次期診療報酬改定に向けて
今回の診療行為別統計の結果から、前回診療報酬改定の影響や項目別のインパクト、政策の実効性などが分析・検証され、次期改定の方向性を決定づける議論の資料になります。
介護報酬との同時改定でもある次期診療報酬改定に向けた準備として、各診療行為の状況、近年の推移を把握しておくことも重要です。
■参考文献
厚生労働省「平成28年(2016)社会医療診療行為別統計の概況」平成29年7月25日
社会保険研究所「社会保険旬報」(No.2684 2017.8.11号)