- 2018年度診療報酬改定による影響ポイント
- 入院は医療需要予測による病棟再編・統合へ
- 外来は在宅医療の取り組み強化で増収に
- 医療と介護の連携強化に手厚い評価
1.2018年診療報酬改定による影響ポイント
1.2025年を見据えた医療の実現と入院基本料の再編
2018年度は、診療報酬・介護報酬の同時改定のほか、障害福祉サービス等の報酬改定も行われたことにより、医療および介護を一体としたサービスとしてとらえ、その連携の強化と質を備えた量の提供に対して、より高く評価する内容となりました。
今次診療報酬改定では、少子高齢化のさらなる進展を見据え、次のような4点を柱として、主に入院医療を中心とする見直しが実施されており、全体では1.19%引き下げられたものの、本体改定率はプラス0.55%(薬価等を除く)となっています。
各科ごとにみると、医科0.63%、歯科0.69%、調剤0.19%がそれぞれ引き上げとなった一方で、薬価はマイナス1.65%、医療材料マイナス0.09%というマイナス改定となりました。
主要な改定項目のうち入院医療では、(1) 基本的な医療の評価部分、(2) 診療実績に応じた段階的な評価部分、の2つの評価体系に再編・統合され、新たな評価体系となる入院料は、(1) 急性期医療、(2) 急性期医療~長期療養、(3) 長期療養の3つに大別されています。
入院医療を提供する医療機関にとっては、自院の機能と地域における役割および人的資源を鑑み、新たに算定する入院基本料を選択する必要に迫られています。
2.在宅医療・訪問看護を推進する評価の新設
前述の4つの柱のひとつである「かかりつけ医機能の強化」に関しては、在宅医療の推進をより確実なものとするため、地域包括診療加算等における24時間対応や医師配置基準の要件が緩和されるとともに、かかりつけ医機能に係る診療報酬を届け出ている医療機関については、初診時における評価として「機能強化加算(80点)」が新設されました。
そして、在宅医療をさらに進めるため、複数の疾病等をもつ在宅療養患者に対して、複数の医療機関による訪問診療が可能となる在宅患者訪問診療料1が新設され、他の医療機関の依頼を受けて訪問診療を行った場合、830点(同一建物居住者以外)もしくは178点(同一建物居住者)が算定できるようになっています(月1回まで)。
また、在宅療養支援診療所(在支診)以外の診療所が、連携医療機関等と協働して24時間の往診と連絡体制を確保したうえで訪問診療を行う場合、在宅時医学総合管理料(在総管)と施設入居時等医学総合管理料(施設総管)の加算(継続診療加算)216点(/1月)を新設したことによって、在支診を届け出ていない診療所であっても、在宅医療に注力する取り組みを評価することで、収入増が見込める状況となっています。
一方、在総管・施設総管で月2回以上訪問した場合の評価は100点引き下げ、また月1回の場合は20点(在支診・在支病)もしくは50点(在支診・在支病以外)引き上げられており、より多くの患者へ訪問診療が行われることを意図した改定となりました。
この結果、在宅医療を幅広く担う診療所・病院に対する評価が拡大されたため、地域で在宅による療養生活を送る患者に対し、より多くコンタクトできる機会を獲得する活動が重要になったといえます。
なお、併設する介護施設等への訪問診療は、訪問と外来の中間的な診療形態である点を踏まえ、在宅患者訪問診療料2(/1日)144点を新設しており(患者1人につき週3回を限度)、趣旨を逸脱する医療サービス提供を防止するとともに、必要な診療を行う医療機関については相応の評価をする改定となっています。
3.オンライン診療料の新設などで負担軽減へ
今次改定において注目された新設のひとつは、オンライン診療料(70点/1月)です。
算定要件としては、「特定疾患療養管理料や生活習慣病管理料、地域包括診療料などを算定している初診以外」で、かつ「初診から6カ月以上を経過した患者(初診から6カ月は毎月同一の医師による対面診療を行っている場合に限る)」(*)というものとなりましたが、実際の運用に関しては検証が続けられているところでもあり、今後の運用方法については精緻化が進むと予想されています。(*)連続する3カ月は算定不可
このほか、オンライン医学管理料、在宅時医学総合管理料オンライン在宅管理料、精神科在宅患者支援管理料精神科オンライン在宅管理料(各100点/1月)が新設された一方、これまでオンライン診療で算定されていた電話等再診は、定期的な医学管理を前提として行われる場合は算定できない旨が明確化されました。
ICTを活用した診療の方向性は、今次改定における評価の動向を鑑み、自院の患者分析を行うなどして、情報通信機器の整備やセキュリティの確保など、算定に向けた具体的取り組みに着手する必要があります。
また、介護報酬改定においても、訪問看護、定期巡回、随時対応型訪問介護看護、看護小規模多機能型居宅介護のターミナルケア加算の算定要件として、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」などの内容を踏まえて、利用者本人の意思決定を支援し、尊重するとともに、医療・介護職が連携して対応することとなりました。
医療機関としては、同ガイドラインが人生の最終段階を迎えた患者や家族と、医師をはじめとする医療従事者が、患者にとって最善の医療とケアを作り上げるための流れを示し、患者の意思決定を尊重することを重要視するものと認識し、従来ターミナルケアに取り組んできた診療所・病院だけではなく、自院における「看取り」を想定したケアのあり方を明確化することが求められる改定になったといえます。
2.入院は医療需要予測による病棟再編・統合へ
1.急性期は今後の地域の医療需要を踏まえた対応が必要
今次改定により、入院医療については病床機能の見直しが迫られています。
急性期機能をもつ病院は、地域の急性期需要を検証し、病床利用率が低い場合には一般病床の一部を地域包括ケア病棟へ転換し、地域包括ケアシステムへの貢献と収入増を図ることが一つの手段として考えられます。
ただし、200床未満の病院に限られるため、病床数の削減が必要になるケースもあり、自院が地域から求められている機能を的確に把握することが必要です。
一方、地域包括ケア病棟の入院料1の点数が見直され、同入院料を算定することにより病床を有効活用できることで、収入増が期待できます。
また、他医療機関や介護事業所との連携は必要で、患者紹介のルート構築も重要です。
(参考)日経ヘルスケア 2018年5月号
2.地域包括ケア病棟における収入比較シミュレーション
A病院(90床:地域包括ケア病棟45床、療養病床1)を事例に、地域包括ケア病棟の年間収入比較シミュレーションを実施しました。
今次改定より、地域包括ケア病棟入院料が180点引き上げられたことにより、約27,7000千円の増収となります。
また、改定前の救急・在宅等支援病床初期加算(150点)が、急性期患者支援病床初期加算(150点)と急性期患者支援病床初期加算(300点)に分けられたことから、約7,000千円の増収となり、結果として年間約34,800千円の増収が見込めることとなりました。
前述のとおり、地域包括ケア病棟入院料1は、許可病床数が200床未満でなければ算定できません。
よって、全国的に許可病床を200床未満に減床し、同入院料と算定可能とする動きが加速すると予測されます。
3.慢性期では介護医療院への転換も視野に検討
介護医療院への転換については、転換支援策の一環として移行定着支援加算が創設されたため、これを一定期間算定することができます。
また、介護医療院はⅠ型に比べⅡ型で人員要件等が緩和されており、療養病床の一部を介護医療院に転換し、余剰人員を他の病棟に集中させることで効率的な人員配置が可能となります。
B病院のデータを基に、介護療養病棟14床を介護医療院Ⅰに移行した場合のシミュレーションを行うと、経口移行加算、認知症専門ケア加算(Ⅱ)、1年間算定可能な移行定着支援加算により、年間約745万円の増収が見込まれるという結果となりました。(2017年4月から12月までの9ヶ月実績を基に単位数を計算し、1カ月換算)
3.外来は在宅医療の取り組み強化で増収に
1.かかりつけ医機能・在宅医療を促進する改定内容
(1)初診料の機能強化加算が新設
今回の改定では、機能強化加算(80点)の新設が注目されています。
これは、かかりつけ医機能の評価として、診療所と200床未満の病院で算定が可能となっています。
算定要件は、以下のとおりとなっており、かかりつけ医機能に係る診療報酬を届け出ている医療機関において、専門医療機関への受診の要否の判断等を含め、初診時における診療機能を評価する観点から導入されたものです。
(2)地域包括診療料・地域包括診療加算が引き上げ
厚生労働省は、在宅療養支援診療所以外の医療機関の訪問診療(裾野の拡大)が必要である一方、かかりつけ医機能の一部として在宅医療を提供するには24時間体制の確保が負担となっていることを課題とし、要件を緩和するとともに重点配分がなされました。
かかりつけ医機能を推進する観点から、24時間対応や医師配置基準の緩和と在宅への移行実績を評価しています。
(3)地域包括診療料・地域包括診療加算シミュレーション
今回、新たに設定された点数について、シミュレーションを実施しました。
地域包括診療料・同加算を算定していない診療所が、地域包括診療加算1を新規算定した場合、収益は下記のように変動します。
地域包括診療料の対象患者数を1日あたり30人、地域包括診療加算の対象患者数を同10人、月間の診療日数を20日のC診療所をモデルとしています。
その結果、月当たり532千円の増収が見込めることとなりました。
報酬単価のアップと新設された初診料機能強化加算が増収の要因だといえます。
2.オンライン診療の概要と実施スケジュール
(1)オンライン診療の概要
今次改定からオンライン診療は、保険適用となります。
一方で、対象者や算定要件については制限が多く、算定の対象は、長期的な医学的管理が必要とされる慢性疾患の患者に限られているため、今後は対象患者の拡大や算定要件の緩和が期待されています。
また、オンライン診療料の届出を行っていて、一定の要件を満たすことで、新設されたオンライン医学管理料(月1回/100点)やオンライン在宅管理料(月1回/100点)の算定が可能となります。
(2)オンライン診療の実施モデル
オンライン診療料の算定には、連続して6ヶ月以上対面診療で特定疾患管理料などを算定することが必要なため、1月から治療を開始している場合、6月までは従来の対面診療を行わなければなりません。
オンライン診療は3ヶ月連続して行うことができないため、3ヶ月目は対面診療となります。
なお、オンライン診療料を算定する患者に対する診療であっても、オンライン診療の診療計画に含まれていない疾患については、対面診療を行う必要があります。
4.医療と介護の連携強化に手厚い評価
1.医療と介護の連携の促進
(1)ターミナルケアに関する報酬の要件変更
患者や家族の意向に沿った看取りを推進するため、今回の改定では訪問診療や訪問看護におけるターミナルケアにおいて「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」等を踏まえた対応を要件として追加し、評価することとなっています。
同ガイドラインは、人生の最終段階を迎えた本人・家族等と医師をはじめとする医療・介護従事者が、最善の医療・ケアを作り上げるプロセスを示しています。
ターミナルケア加算の要件として、このガイドライン等の内容を踏まえ、利用者本人と話し合いを行い、利用者本人の意思決定を基本に、他の医療及び介護関係者との連携の上、対応することが追加されました。
診療報酬改定における対応においては、在宅医療・訪問看護のターミナルケア関連の報酬が、下記のとおりすべて500点のアップとなっています。
(2)特別養護老人ホーム等の入所者に対する医療サービス評価の見直し
特別養護老人ホーム等の入所者に対する、ターミナルケアを含む訪問診療・訪問看護の提供等の評価を充実しています。
改定前は、特別養護老人ホームで看取り加算を算定していると、協力医療機関や訪問看護ステーションが訪問診や訪問看護を実施しても、在宅ターミナルケア加算や訪問看護ターミナルケア療養費は算定できませんでしたが、診療報酬改定により、これらの加算等が算定できるようになっています。
さらに、訪問看護ターミナルケア療養費については、特別養護老人ホームが看取り介護加算を算定しているかどうかによって区分され、改定前の1区分から2区分となっています。
今回の改定により、他職種、他事業所と連携したターミナルケアが重要性を増したといえます。
(3)リハビリテーションに係る情報共有の推進とその他の連携
リハビリテーション総合計画評価料について見直しが行われ、医療機関から介護保険のリハビリテーション事業所への移行が見込まれる患者を対象とするリハビリテーション総合計画評価料2(240点)が新設されています。
また、新しい共通様式を使用して医療機関から介護保険のリハビリテーション事業所に情報提供した場合に算定できるリハビリテーション計画提供料1(275点)を新設し、医療・介護の円滑な情報提供や共有、効果的なリハビリテーションの実現を推進し、医療機関の協力を促すかたちとなっています。
また、介護サービスを提供している有床診療所について入院基本料の要件緩和が行われています。
さらに、上記の有床診療所について、高齢者等に対する入院受入れに係る加算として、介護連携加算1(192点)と介護連携加算2(38点)を新設しています。
2018年の同時改定は、地域包括ケアシステムを推進するための評価体系が色濃く出た改定です。
複数の事業所が日常的に連携して情報交換を行い、サポートしていくという体制を構築し、地域に貢献できる医療や介護を提供していくことが求められています。
2.訪問診療の主治医とケアマネージャーの連携強化
診療報酬では、在宅時医学総合管理料と在宅がん医療総合診療料の要件として、末期の悪性腫瘍の患者に予測される病状の変化等について、主治医がケアマネージャーに対し情報提供を行うことを追加しています。
一方、介護報酬では末期の悪性腫瘍のターミナルケアマネジメント加算(400単位/月)が新設されるなど、居宅介護支援事業所と主治医や居宅サービス事業者の連携に対する報酬上の評価がされており、今後更なる連携強化が求められています。
※2018年5月12日開催 日本医業経営コンサルタント協会北海道支部研修会
「診療報酬・介護報酬改定後の医療機関の対応」(講師:(株)MMオフィス 代表取締役 工藤高氏)の講演要旨および配布レジュメをベースとし、一部を再構成して作成したものです。
掲載の図表については、出典を明記したものを除き、全て本セミナーレジュメに使用、または一部加工しています。