- NDBオープンデータの概要
- 外来・在宅医療における地域の傾向
- 地域にみる診療所入院の状況
- NDBオープンデータの利活用と今後の展開
1.NDBオープンデータの概要
1.NDB オープンデータ作成の経緯
(1)NDB の概要
レセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database:以下、NDB)は、成20年4月から施行されている「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、医療費適正化計画の作成、実施及び評価のための調査や分析などに用いるデータベースとして、レセプト情報及び特定健診・特定保健指導情報を格納し、構築しているものです。
NDB の格納データ(平成30年3月末現在)は、レセプトデータが約148 億1,000 万件(平成21年4月~同29年12月診療分)で、特定健診・保健指導データについては、約2億2,600万件(平成20年度~同28年度実施分)となっています。
(2)NDBオープンデータ作成と公表の背景
NDBに格納されているデータは、非常に機密性の高い情報も含まれており、データを利用できるのは、厚生労働省内の他部局・他課室、関係省庁・自治体、研究開発独立行政法人、大学、保険者中央団体、公益法人、国から研究費用を補助されている者等の一部の機関等に限定されています。
厚生労働省は、「レセプト情報等の提供に関するワーキンググループ」を設置し、レセプト情報等の民間提供に関する方向性等について検討を行い、汎用性が高く様々なニーズに一定程度応えうる基礎的な集計表を作成し、公表していくことが適当であるとして、平成28年10月に第1回目のNDBオープンデータを公表しています。
NDBオープンデータの公表対象は、医科入院外レセプト、医科入院レセプト、DPCレセプト、調剤レセプト、歯科レセプト、及び特定検診としています。NDBオープンデータは、NDBからレセプト情報と特定検診情報を抽出して基礎的な集計表を作成し、誰でも自由に利用できるように公表されています。
2.第3回NDBオープンデータの概要
(1)第3回NDBオープンデータの概要
厚生労働省は、平成29年9月19日に第2回目、そして同30年8月28日に第3回目となるNDBオープンデータを公表しています。
「医科診療行為」では、医科入院/入院外レセプト及びDPCレセプトの情報を元に、厚生労働省告示の点数表で区分された各診療行為について、「都道府県別」及び「性・年齢別」の集計を行っています。
(2)公表された第3回NDB オープンデータ
医科の公表データは基本診療料をはじめ、大きく分けて14の医療診療行為(都道府県別/性年齢別)と5種類のクロス集計表(都道府県別/性年齢別)を掲載しています。
次章からは、このうち基本診療料と、在宅医療で最も算定回数が多かった在宅患者訪問診療料の詳細をみていきます。
2.外来・在宅医療における地域の傾向
1.都道府県別にみる初診料の傾向
都道府県別に外来の初診料の算定回数をみると、東京都が最も多い32,192,098回で、最も少ないのが鳥取県の1,145,742回となっています。
また、総務省統計局による人口推計(平成28年10月1日現在、以下:人口推計)を元に、1年間に1人が受ける平均の初診料の算定回数を割り出したところ、最も多いのは東京都の2.36回で、最も少ないのは秋田県で1.64回という結果となりました。
分析結果の傾向としては、北海道と東北地方では相対的に少なく、九州と四国では1人当たりの算定回数が多いことがわかりました。
2.在宅患者訪問診療料にかかる地域の状況
在宅医療のうち、最も算定回数が多かった在宅患者訪問診療料の算定回数を都道府県別にみると、東京都が一番多く2,323,224回で、最も少ないのは山梨県の53,728回となっています。
また、人口推計から、1年間に1人が受ける平均の在宅患者訪問診療料の算定回数を割り出したところ、最も多いのは島根県で0.20回、一方算定回数が最も少ないのは沖縄県の0.05回という結果となりました。
島根県の算定回数が多い理由としては、全国でも高齢化率(平成28年10月1日現在33.1%:全国第3位)が高く、また、地域医療の状況として医師の偏在問題があるためと考えられます。
一方で沖縄県の算定回数が低い理由は、健康で長寿であること、また在宅医療サービス実施施設が少なかったことが要因の一つとして考えられます。
3.都道府県別、初・再診料と在宅患者訪問診療料算定回数
各都道府県の人口と初・再診料、在宅患者訪問診療料を整理した一覧表は次のとおりです。NDBオープンデータを活用して、各都道府県の人口で割ると一人当たりの平均算定回数が算出できます。
他の医療診療行為も同じように割り出し、分析が可能です。
※人口は、総務省統計局による人口推計(平成28年10月1日現在)による
3.地域にみる診療所入院の状況
1.都道府県別にみる有床診療所入院基本料の傾向
都道府県別の有床診療所入院基本料の算定回数をみると、福岡県が一番多く862,131回、最も少ないのが奈良県で30,589回となっています。
また、人口推計により、1年間に1人が受ける平均の有床診療所入院基本料の算定回数を割り出したところ、最も多いのは鹿児島県で0.47回、一方最も少ないのは奈良県で0.02回という結果となりました。
分析結果の結果、沖縄を除く九州、四国地方では相対的に多く、奈良、京都、大阪、滋賀等は同基本料の算定回数が少ない傾向がみられました。
また、前年度と比較すると、有床診療所が減少してきていることもあり、全体の算定回数は約47万7千回減少しています。
2.入院での検査と画像診断の概要
(1)「血液化学検査」算定回数結果概要
検査に関わる診療行為のうち、最も算定回数が多いのは「血液化学検査」で、その回数は706,520,989回となっています。
「血液化学検査」を年齢と性別に分けて算定回数をみると、男性は、10歳以上から算定回数が徐々に増え続け、75~79歳をピークに減少しています。
また、女性も同じように10歳以上から増加しており、80~84歳をピークに減少しています。
(2)「写真診断」算定回数結果概要
画像診断に関わる診療行為のうち、算定回数が最も多いのは「写真診断」で、その算定回数は32,878,099回となっています。
「写真診断」を年齢と性別に分けて算定回数をみると、男性は、10歳以上から算定回数が徐々に増え続け、75~79歳をピークに減少しています。
一方、女性も同様の増加傾向を示すも、80~84歳をピークとして減少に転じています。
3.都道府県別、入院基本料等算定回数実績
下の表は、各都道府県の人口と入院基本料等算定回数を一覧表にまとめたものです。
血液化学検査と写真診断の算定回数を人口で割ると、どちらも北海道が一番多い結果となりました。
【血液化学検査7.86回(全国平均5.57)、写真診断0.37回(全国平均0.26)】
※人口は、総務省統計局による人口推計(平成28年10月1日現在)による。
4.NDBオープンデータの利活用と今後の展開
1.NDBデータの利活用の現状と今後の展開
(1)NDBデータの利活用の現状
厚生労働省は、NDBデータを活用した事例を公表しています。
研究利用の事例の一つとして、脳梗塞患者のt-PA治療(*)の実態について分析し、都道府県ごとのt-PA投与率を調べ、地域格差等の分析を実施しています。
その結果、t-PA投与率は年々上昇しているものの、都道府県間で投与率に大きな格差があることが明らかとなりました。
(*)t-PA治療とは血栓を溶かす薬を使用し、脳への血液の流れを早期に回復させて障害から救う療法。
(2)NDBデータの今後の展開
現在、医療・介護データ等の解析基盤に関する有識者会議等では、NDBと介護データベース(以下:介護DB)で保有する情報について、連結解析を可能とする仕組みについて議論されています。
双方のデータベースの連結解析によって、地域包括ケアシステムの構築や、効果的・効率的で質の高い医療・介護の推進等に寄与する医療・介護を通じた分析に資することが期待されています。
現在は、NDBと介護DB双方の匿名化に用いる情報項目や識別子の生成方法が異なり、連結解析を行うことはできません。
その対応策として、医療保険及び介護保険の両制度のレセプト等で共通して収集している情報項目(氏名、生年月日、性別)を基に共通の識別子を生成、連結キーとして活用し、連結解析を可能とすることが検討されています。
また、NDB及び介護DBの第三者提供についても議論されており、第三者提供の開始に際しては、両データベースに精通した有識者による試行運用と、それを通じた課題の精査を行うべきとされています。
政府は、NDBと介護DBの連結解析の運用について、2020年度を目途に開始する予定です。
その間に、全国がん登録DB等他の公的データベースとの関係整理における検討や、NDB・介護DBにおいて匿名での連結解析を可能にすること等を進めていく予定となっています。
2.NDBオープンデータの今後の展開と活用方法
(1)NDBオープンデータの今後の展開
厚生労働省の「レセプト情報等の提供に関する有識者会議」では、現在、都道府県単位で集計されているNDBオープンデータについて、二次医療圏毎での集計について議論されています。
都道府県別の集計を二次医療圏別の集計に変更した場合、作成する集計値が約7倍に増加することを踏まえ(二次医療圏数:344)、集計対象項目を少数に限定した上で二次医療圏別の集計を試行し、その結果に基づき今後の対応を検討することとしています。
(2)NDBオープンデータの活用方法
NDBオープンデータは、医薬品の購入・使用量等の情報収集に有用な情報となっています。
NDBオープンデータを利用することで、自院の地域(都道府県)における医薬品の使用品目や処方数量等を把握することができ、使用されている医薬品の採用品目を検討して、自院において必要な医薬品購入計画の作成に活用可能です。
また、人口推計に照らし合わせて分析することにより、地域における医療診療行為の実態や、地域医療特性等を把握することができます。
さらに、NDBオープンデータの活用により、診療報酬改定の影響等もみることができます。
例えば、第2回のNDBオープンデータ(平成27年4月~平成28年3月診療分)と第3回のNDBオープンデータ(平成28年4月~平成29年3月診療分)を診療行為別に照らし合わせてみると、改定による診療行為の差異を比較できます。
そのほか、NDBオープンデータを活用して今後の事業・経営計画等の参考とすることもできます。
厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所で行っている「日本の地域別将来推計人口」とNDBオープンデータを照らし合わせることにより、将来の診療行為別の医療需要予測に活用することも可能です。
■参考文献
厚生労働省 第4回データヘルス改革推進本部 資料
厚生労働省 第5回医療・介護データ等の解析基盤に関する有識者会議
「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)及び介護保険総合データベース(介護DB)の連結について」
厚生労働省 第1回NDBオープンデータ/第2回NDBオープンデータ/第3回NDBオープンデータ
厚生労働省 第42回レセプト情報等の提供に関する有識者会議 資料
総務省統計局による人口推計